第15話 〜伝説の『選手』と『オーラ』と『お姫様抱っこ』〜
昨日のウズヒの涙は既に皆へ伝わっていた。おそらく電話をした時に未来が気付いたのだろう。そしてそれを皆に言った…と。
泣いていた事を言ってしまったのを責めるつもりは無い。ウチのクラスにそれを馬鹿にするような人はいないし、いたとしてもボクが絶対に許さない。昨日彼女と約束したようにね。
しかしそんなボクの心配も杞憂だったみたい。彼女の涙によって、皆からは凄いオーラが出ている。
それはもう、周りから観たクラスが遠ざかっていく位の勢いらしい(他人事みたいだけど、自分達ではわからないのでしょうがない)。
そのままの状態で男女混合のテニスに突入した我がクラス…いや、友情という名の船に乗った史上最高の軍団は快進撃を続けている。
ボクは男子のシングルスに出ていて、賢と未来が男女混合ダブルスに出場。ウズヒは…女子のシングルスに出場する予定だったが、『とても出られる状態ではありません』と棗さんからのドクターストップをもらってしまったので応援にまわっている。
そのドクターストップによって皆のオーラが更に大きくなり、5月にしては暑すぎる空気の読めないお天道様も逃げ出したくなるような覇気を醸し出している。
しかし、どうせそんな覇気をむきだしにしていていても圧倒的な力の差が埋まることは無い。…とボクはそう思っていたんだけど……
「ゲームセット!! ウォンバイ 天領! カウント2―1!」
勝っちゃいましたよ…。しかも相手は去年のインターハイベスト8入りした猛者。
この結果をオーラの力とするべきか、この世の理不尽とするか、はたまた誰かさんの都合に合わせただけなのか……。
ま、まぁ何にしても勝ちは勝ちだからね。後3回勝てば優勝出来る位置までは上り詰めた。
「綺羅君おめでとう♪ 次の準々決勝も頑張ってね!」
「ありがとう。でも、皆の応援のお陰で勝てたようなものだよ」
「私の応援じゃないの……? 『君の応援のお陰で勝てたよ。この勝利は二人の愛の結晶だね。』くらい言って欲しかったな……」
「……え、ええっ!? ご、ごめん!!…ってなんでそうなるの!? 公衆の面前だよ!?」
思わず謝っちゃったじゃん!!
「ハハハッ♪ ゴメンゴメン。でも言って欲しかったのは本当だよ? 私だって傷付いた乙女なんだから……」
「……フゥ。もう騙されないよ? ホントに傷付いた乙女は口許をピクピクさせながら悲しんだりしません!」
更に目尻までピクピクしてて、必死に笑いを耐えているのが見て取れるし!
「バレちゃったか。……じゃあ今騙されてくれないなら家に帰ったらわざと騙されてくれるの?」
「……総合優勝出来たら考えるよ」
「約束だぞぉ〜! 破ったら許さないから!」
「うん、約束だよ」
彼女が傷付いているのは本当だから。昨日競技が終わって帰った後、ウズヒの落ち込み様は酷かった。保健室では一時的に回復したみたいだったけど、家ではずっと泣いていたからね。唯一救いだったのはボクの隣にいてくれた事。
何を出来たかわからない。ボクの自己満足かもしれない。ただ、彼女が辛い時に傍にいられてよかった。
泣き疲れていつの間にか寝入ってしまったウズヒも、今朝起きた時『傍にいてくれてありがとう。確かに辛かったけど……綺羅君がいてくれて安心できたわ。』と言ってくれたし。
「おい、天領!! 呼出しが掛かってるぞ!! 次の試合はお前だろう!!」
「わかりました! すぐに行きます!!」
少し遠くにいるごりせんに声を掛けられ、相手に聞こえるくらいの大きさで返事を返す。
「頑張ってね! 応援してるから」
「うん。必ず勝つ…とは言えないけど、一生懸命勝ちにいってくるよ」
総合優勝して彼女に騙されたフリをする事、今誓ったように一生懸命勝ちにいく事、そして《西強》へのチケットを手に入れる事。全ての約束の為に。
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「ラァッ!!」
『バコンッ!』
全ての気合いと共にボールを打ち出す。
『ズシャッ!』
それに対し相手は特殊なスライス回転をかけて打ち返してくる。
(後少し…後少しなんだ!)
『バコンッ!』
『ズシャッ!』
(後1ポイント…1本で『約束』に近づく事が出来る!)
『ズシャァッ!!』
『バコッ!』
「だから…決まってくれッ!!」
『バッコォン!!』
「ゲームセット!! ウォンバイ 愛川&佐久本! カウント4―2!
よって二年生の男女混合ダブルスは12組の優勝とする!!」
やった!!賢&未来ペアが勝ってくれたよ。流石我が校が誇る最高の2人組の組み合わせの一つだね(もう一つはウズヒ&未来)。
え?ボクの試合だと思ったって? それは残念。ボクは準決勝進出は果たしたんだけど、準々決勝で頑張りすぎたせいで決勝では最後まで体力が持たずに力尽きちゃったんだ。
いくらラブコメ小説の主人公でもボクは一般人なわけですよ。ウズヒや未来、賢のような身体能力があるわけでもなく、特別カッコイイわけでもない。唯一の特徴はウズヒと付き合えるという奇跡を手に入れられた事だけ。
自慢かって? いやぁ〜そんなつもりはないんですけどねぇ。でも事実は変えられませんしねぇ〜。
……すいません、調子こきました。どうかお許し下さい。そしてお願いですから見捨てないで下さい…。
「綺羅君どうしたの…? 顔色が悪い上に汗が出てて、物凄く申し訳なさそうな表情だよ?」
ウズヒいわくそのような状態なのでどうか御勘弁を……。
「本当に大丈夫?? 棗さんを呼んでこようか?」
「…大丈夫だよ。体調が悪いとかそんなんじゃないから」
「……そう? 無理はしないでね?」
「うん」
先程の事は忘れて下さい。暑さで軽く頭がやられただけです……。
は、話を戻すと4位で終わってしまったボクだが、女子のシングルスに出場した娘が3位入賞を決め、今賢&未来ペアが優勝してくれたお陰で十分総合優勝出来る所に位置付けている。
残るはドッジボール唯一つ。泣いても笑っても全員参加のこの競技で全てが決まる!
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現在の総合順位(2年生)は……
1位 2年6組 460点
2位 2年12組 430点
3位 2年1組 280点。
各競技で3位以内入賞すると、
1位…100点
2位…50点
3位…30点
が加算される。(発表が遅いって?ごめんなさい…)
残りは1競技だけなので総合優勝は6組か12組に絞られた。しかし最低でも3位、6組の出来次第では1or2位じゃないと負けてしまう。
そんな6組を率いているのが…
「よう綺羅。久しぶりだな」
この東野聖(第11話に名前だけ登場)だ。
東野 聖(トウノ ヒジリ)2年6組のクラス委員長でテニス部のエース。小学校は違ったものの、中学校が同じでクラスも一緒になった事があるので仲はいい。直斗君という中学2年生の弟がいる。特別外見がカッコイイというわけではないが、努力家で人当たりの良い性格のため結構モテる。インターハイではダブルスで優勝。
「やあ聖。元気だった?」
「ああ。お前も元気そうだな」
「まぁ人並みにはね。そういえばシングルス優勝おめでとう。流石聖!!ってプレーだったよ。観てて惚れ惚れした」
「ありがとう。だけど出来れば決勝はお前と戦いたかったな」
「ハハハ。ボクじゃ無理だよ。最終的に4位だったしね」
クラス全員に『そこまで勝ったら優勝しろよ!』とはいわれたけど。
「部活にも何も入ってなくて4位なら凄いさ。やっぱりお前には才能があるよ。今からでも遅くない、テニス部に入らないか?」
「高校に入った時から熱心に誘ってくれてるのは嬉しいけど……。どうしてそんなに誘ってくれるの?」
それも入学式の日からずっと。聖本人がとてもイイ奴だから、鬱陶しいとか考えた事は無いけどね。そこもまたモテる要因なのかな?
「勿論テニス部を強くしたいってのもあるが、1番の理由は伝説になるくらい凄い選手だった女性の子供とダブルスを組んでみたいのさ」
「その伝説の選手って…母さんの事?」
「ああ。お前のお袋さんは青春高校テニス部にとって神とも呼べる存在だからな」
あの母さんがねぇ……。とても想像出来ない。
「わかってるとは思うが、俺はお前にその才能がしっかりと受け継がれているし、お前自身とも組んでみたら面白そうだと思うから誘うんだ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」
「駄目か?」
「……うん。やっぱりボクは母さんじゃないし、そんなにテニスが好きってわけでもないからテニス部の空気を壊しちゃうと思うんだ。だから…」
よくドラマとかでコーチ役の人が『やる気の無い奴は出て行け』って言うけど、その通りだと思う。そしてその『やる気の無い奴』の中にボクは該当する。
「…そうか」
「ごめんね?」
「いや、気にするな。無理に誘った俺が悪かったしな。ただ…ただもし少しでも興味が湧いたら来てくれ。いつでも歓迎するから」
う〜ん。やっぱり聖はイイ奴だね。カッコイイ。……別に変な意味じゃないよ?
「ありがとう」
「ああ。……もうそろそろ時間だな」
「そうだね。確か12組と6組は……」
「ブロックが違ったな。だから対戦するとしたら決勝になる」
「ハハッ! そうしたらドラマみたいな展開だね。勝った方が総合優勝…みたいな」
漫画を描くとしたら恰好の題材だよ。少しお約束過ぎる気がしないでもないけどね。
「おそらくそうなるさ。そうしたら手は抜かないぞ?」
「こっちこそ!! 総合優勝はボク達のものだよ!」
「楽しみだ。…じゃあな! 決勝で会おう!!」
「うん!!」
もう一つ『約束』ができた。必ず決勝で対戦するという、友との物。全ての『約束』 の為、ボクは今…発つ!!(うわぁ…この小説っぽくない台詞……)
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あれから2時間の時が過ぎて今は……
『レディース・アンド・ジェントルメン!! ボーイズ・アンド・ガールズ!! その中に入ってない奴も皆元気かぁーー!?』
「「「「オォォーーーー!!!!」」」」
『よしよし、いい返事だ。これより閉会式&表彰式をとり行う!』
先程まで熱戦が繰り広げられていたグラウンドで集会…という状況になってる。12組の勝敗は…このあと発表される順位で確認してね。
しかし校長……男子でも女子でもない人なんてこの学校には…
「校長先生流石ですわ! この私の事も忘れてらっしゃらなかったのですね!!」
ハイ、いました。しかもウチのクラスに。まぁ面倒臭いのであまり関わらないようにする。
『じゃあまずは……何だっけ? 教頭? …え? 俺の話? そんなもん面倒臭…いえ、話します! 話させていただきます!!』
教頭は奥の手を使ったな。聞いた話だと校長は恐妻家らしいから、奥さんに電話するとでも脅されたんだろう。その校長の慌てように、生徒や先生方からは失笑が漏れている。
『えぇ〜ならつまらないかもしれないが、少し俺の話を聞いてもらおう』
結局話すのね…。
『まず皆よく頑張った! 勝ち進んで仲間と喜びを分かち合った者、悔し涙を流した者、両方いると思う。どちらだとしても今回の球技大会で得た物は少なからずあるだろう。それがいつか役に立つ時が来る。そう信じて自分の未来を進んでいってくれ、以上』
ありきたりな台詞だけど、この場面で聞くとやっぱりぐっとくる何かがあるね。
その証拠に、自然と沸き起こった拍手や口笛の中から「校長サイコー!!」とか「結婚してー!!」とか聞こえる。
いや、結婚とか飛躍し過ぎでしょ。
『結婚? 俺と? よし、今から式場の予約に行こう! 神社か教会だったらどっちがいい…ってか教頭!! 冗談に決まっているだろう! だから携帯電話の番号をプッシュするのはやめてくれぇー!!』
あ〜あ、もう収拾がつかなくなってきちゃったよ。皆の笑いと拍手で隣の人の声すら聞こえなくなっている。
『えぇ〜取り乱してすまない。表彰式に移らせてくれ。まずは1年生……』
「綺羅君大丈夫?」
表彰式が始まったお陰で周りの人の声くらいは聞こえるようになってきた。でも、ウズヒはさっきまで保健室にいたはずなんだけど…
「ボクは大丈夫。ウズヒは休んでなくていいの? 足だってまだ引きずってるし」
「心配しないで。ちゃんと棗さんの許可も貰ってるから」
「それならまぁ…」
棗さんの腕は確かだからね。ただ、正確過ぎて仮病が効かないとか何とか……。
「へぇ〜棗さんの言うことなら聞くの? 綺羅君はああいう小柄で優しい女性が好みなんだぁ〜?」
「…え?」
「しっかりしてて大人だもんねぇ〜。去年お嫁さんにしたい先生No.1に選ばれてたみたいだし」
「ええ!?」
ちょ、ちょっと話が飛躍してきてない?
「私みたいにスポーツくらいしか取り柄の無い、背も高い女じゃ魅力なんて感じないよね?」
「ご、ごめん。ボクそんな事言った?」
「フフッ。ウソよ♪ 焦った?」
「そりゃ焦ったよ…。君がいきなり変な事言い出すから」
「ごめんネ♪」
「「「「ワァァァ!!!!」」」」
ウズヒと会話をしていると会場から大きな歓声があがった。
「あ、1年生の結果発表が終わったみたいよ」
「そうみたいだね」
未だに歓声をあげている1年生を見て『若いなぁ〜』なんてオヤジくさい事を考えてたりもする。ボク達の年齢での1年は大きいからね。
「おっ、いたいた。2人でよろしくやるのもいいが私達の事も忘れるなよ?」
賢を連れた未来が何処からか現れてボク達に声を掛けてきた。
「未来も賢人君とよろしくしてたんじゃないの?」
雰囲気はでそうだよね。大勢の歓声を遠くに聞きながら校舎裏で……。
「バ、バカッ! そんなわけねぇだろ!! お前を保健室に迎えに行ったら、棗さんが綺羅の所へ行ったって言うから探してたんだよ」
「そうだったの? ありがとう♪」
そんな事を話していると、再びマイク越しで校長先生の話が始まった。
『よし、これで1年の表彰は終わりだな。次は2年生だ。呼ばれたクラスの代表者は舞台に上がれよ?』
「おっと2年生の番が来たな。ここを聞き逃すわけにはいかんだろ」
「……そうだな」
『2年は近年稀にみる接戦だった。特に6組と12組は最後までデッドヒートを繰り広げたな。』
いや、まったくです…。
『両クラスとも死力を尽くして戦ったことだと思う。勿論他のクラスも、だ。だがこれも勝負事、白黒は付けなければいけない』
「……そう、そうだな」
「賢?」
「……勝つ者がいれば負ける者もいるということだ」
「うん…」
「……俺達も相手も力を尽くして戦ったんだ」
「大丈夫。ボクも聖もそれはわかってるから」
「……そうか」
『そんな君達の中で、今回勝利の女神が微笑んだ者達をこれから表彰する。まずは第3位。第3位は…280点で2年1組!!』
1組から歓声が上がり、それを称える拍手が起こる。
『代表者は前へ』
代表者は…一条君か。
『おめでとう。よく頑張ったな。チームワークは2年随一だった!』
『ありがとうございます。次は絶対優勝を手に入れてみせます!!』
『頑張ってくれ。皆2年1組の仲間にもう一度大きな拍手を!』
一条君も1組の人達も、もう次の事を考えているんだな。
『続いて第2位の発表だ。第2位は……510点で6組!!!!』
先程の1組よりも大きな歓声が上がる。そして舞台へむかっているのは…聖か。
『おめでとう』
『ありがとうございます』
先生の言葉に答える聖の声がとても清々しい。ボクが言うのもどうかと思うけど、全力で戦ったんだよね。
『だが惜しかったな?』
『確かにあと一歩でしたが、その一歩が大きかったんだと思います。彼等と戦った者ならその負けた理由がよくわかりますよ。ただ次は負けません!!』
『そうか。…負けて尚相手の力を認め、リベンジを誓う2年6組の面々に盛大な拍手を!!』
ん〜やっぱり聖はカッコイイね。何と言うか発言が凄く男らしい。
『さて次は優勝クラスだな。激戦が続きのトーナメントを制したクラスは…』
「やっと来たね…」
「うん♪」
「おう!」
「……ああ」
『530点を獲得した……2年12組!!』
「よし!!」
「やった♪」
「ヤリィ〜」
「……上出来だ」
「「「「ワァァァ!!!!」」」」
それぞれが歓声を上げ喜びを表す。
『優勝クラスだから全員…といきたいところだが、いかんせん舞台にそれだけの大きさが無くてな。すまんが代表者だけで頼む』
「そりゃウズヒしかいないだろう」
「……そうだな」
「え……私?」
「そうだそうだ! 桜井さん以外にはいない!」
「ウズヒちゃんより相応しい人なんて見つからないわ!!」
彼女の努力を見てきたクラスの全員がウズヒを推す。
「みんな……」
「誰もウズヒ以外考えてないみたいだよ?」
「綺羅君まで……」
「勿論ボクもそう思うよ」
誰よりもそう思ってる自身が有る。恥ずかしくて言葉には出来ないけどね。
「…皆ありがとう。12組の代表として相応しいかどうかわからないけど行ってくるわ」
「頑張ってね。クラス全員で見守ってるから」
「お前は何を言ってんだ? アホか?」
「え?」
カッコイイ言葉で彼女を見送ったと思っていたボクに、未来がツッコミをいれる。未来さん、貴女は何をおっしゃりたいのでしょうか?
「ウズヒは足を引きずってるくらいなんだぞ? 付いていってやれよ」
「それなら無理にウズヒを舞台に行かせなくても……」
ボクはウズヒ1人を目立たせてあげたいから付いていくのは……
『おい12組。早くしてくれよ?』
「ほら、急かされてるんだ。グダグダ言ってねぇでささっと行け!」
「わ、わかったから怒鳴らないでよ…」
トホホ…。結局最後は脅されて行く事になっちゃった……。そんな状況のせいで少しブルーな気持ちになっていると、賢が耳元で囁いてきた。
(……ここは男らしいところをみせろよ)
(どういう事?)
さっぱり意味が分からない。ボクの頭には、無事に舞台へ辿り着く事しかないからね。
(……彼女を……で運べという事だ)
(そんなの出来るわけが……)
(……時間が無い。……つべこべ言わずに行け!)
(…わかったよ!)
もうどうにでもなればいい!!
「ウズヒ…恥ずかしいかもしれないけど、我慢してね。」
「え…それって……キャッ!!」
「お、おい!あれ……」
「マジかよ…。すげぇ度胸だな……」
「いいなぁ〜。私もあんな風に人垣の中を通ってみたい」
ギャラリーが何か騒いでいるが、今のボクにそれを気にしている余裕などない。とりあえず恥ずかしくて堪らない。
「き、綺羅君…。重かったら無理しなくてもいいんだよ?」
「大丈夫。それより、あと少しだけ恥ずかしいの我慢してね?」
「確かに恥ずかしいけど…。それ以上に嬉しいからずっとこのままでもいいよ♪」
「それだとボクが困るんだけど……」
もうお察しの方もいるかもしれないが、ボクは今《お姫様抱っこ》をしている。さっきも言った通りウズヒが重いなんて事は無い。しかしこの状態は非常に恥ずかしい。なんとか舞台には着いたけど…
「お前達随分見せ付けてくれるな……」
「今見た事は忘れて下さい」
「いや…。でも……」
「それより早く表彰をしましょう。お願いですから」
「りょ、了解だ」
出来るだけ早く賢達の所へ戻りたい。そのボクの気持ちが表情に出たのだろう。校長が顔を引きつらせながらも司会に戻ってくれた。
『よ、よ〜し表彰だ。まずは優勝おめでとう!』
『ありがとうございます♪ この優勝は12組全員が一丸となって掴んだものです』
校長の祝福の言葉にウズヒが答える。ボク? ボクは彼女を舞台まで連れてくるのが役割ですから。インタビューはウズヒに任せますよ。
『じゃあ今回の大会で1番印象深かった試合は?』
『全部が当て嵌まりますけど、あえて1番を選ぶなら6組とのドッジボール決勝ですね。出れなかったのが凄く悔しいです』
『やっぱりな。観てるこっちも熱くなる試合だったよ。……もっと話を聞きたいが時間が無いみたいだ』
教頭が舞台袖で『早く次へ!!』みたいなジェスチャーをしている。
『では優勝トロフィーの授与だ』
「トロフィーは綺羅君が貰って?」
ウズヒが振り返り、ボクに話し掛ける。
「え…何故?」
「トロフィーって結構重いから私の足じゃ……」
そういう事ね。
「わかったよ、貰ってくる」
そう言ってトロフィーを持っている校長に近付いていく。
『優勝2年12組! おめでとう!!』
「「「「ワァァァ!!」」」」
歓喜の声とそれを祝福する声が会場にこだまし、それに応えるようボクがトロフィーを高々と掲げる。正直そんなに重くもない気が…。
「綺羅君?」
喧騒の中でウズヒに呼ばれたような気がしたのでそちらを向くと……
「!?」
「「「「「「!?!?」」」」」」
…なんで彼女の顔が目の前に?しかも何かめちゃくちゃ柔らかい物が唇に当たってるし……。あぁキスされたのか………ってキス!?
「「「「ワァァァ!!!!」」」」
人混みら歓声か悲鳴かわからないような声が沸き起こる。
「おめでとう、綺羅君♪」
天領綺羅、呆然………
・
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衝撃の表彰式が行われた学校から場所は移って天領家。
「お兄ちゃん、どうかしたの? さっきからずっと暗いよ?」
「ごめん…。ちょっと学校でね」
「そう。あ、ウズヒさん。お風呂どうでした?」
「いいお湯だったわ。気持ちよかったよ」
「そうですか。じゃあ私も入ってきますね」
そう言い残して亜梨香は風呂場に行ってしまった。
「綺羅君怒ってる?」
「別に怒ってないよ」
別に怒る理由なんて無いと思うんだけど……
「嘘でしょう? 学校を出てから一言も口をきいてくれないじゃない!!」
「それは…」
「違う事は無いでしょう!? 昨日綺羅君が言ったよね? 『なんでも話してくれ』って。私には全部話させて自分は1人で溜め込むつもりなの!?」
ウズヒが怒ったような、寂しそうな表情で訴える。
「ちょ…ウズヒ……」
出来れば最後まで喋らせて欲しい……
「ごめんなさい。謝って赦してくれるならいくらでも謝るわ。だから…お願いだから赦して……」
「ちょっと待ってよ。何を勘違いしてるのかわからないけど、ボクは本当に怒ってないから!」
「……え?」
「恥ずかしかったから口をきけなかっただけだし、君が謝る必要なんて無いから。」
口をきかなかったボクが謝るなら分かるけどね。
「本当に?」
「本当に。信じてくれない?」
「ううん。貴方の言う事なら信じるわ。疑うわけないじゃない♪ どんなときでも私は貴方優先なんだから♪」
と、言いつつ腕を組んできた。つーか切り替え早ッ!!さっきまでボクの話を最後まで聞いてくれなかったのに優先も何もないんじゃ……
「そういえば『約束』を忘れてたりしないよね?」
「う、うん。騙されるっていうあれだよね?」
「モチロン♪ 今更無しなんて事は無いわよね?」
「は、はい。ちゃんと守ります」
『今更〜』の時のウズヒの笑顔が恐かった。『忘れた』なんて言ったらどうなるか…。想像したくない。
「じゃあまずは…何もしないから目を瞑って?」
わ、わかり易過ぎる……。かといって言う事をきかないわけにもいかないので……
「瞑りましたが?」
「じゃあちょっと失礼♪」
はぁ…嫌ではないけど疲れる。……まぁたまにはこんなのもいいかな。ね?
このあと、こんなのが2時間も続きました。さすがにツライ……。
どうもakishiです!
やっと球技大会が終わりましたね。少し話数を使いすぎた気がしないでもないですが、まぁそれはご愛嬌ということで。
話は変わりますが、少しずつ前の話を手直ししているんですけど、始めの方はとても読めた物ではないですね……(今でもどうかと思う文章ですが)。そんな駄文にお付き合い下さっている皆さんに感謝しきりございますです、はい。 そんなダメ作者ですがこれからもよろしくお願いします♪
P.S 次回はまた番外編を書こうと思います。主役は…お楽しみということで。