第14話 〜『水鉄砲』と『白衣』と彼女の『涙』〜
昨日の野球とソフトボールに引き続き、今日は『サッカー』と『バスケットボール』、英語では『Soccer』と『Basketball』(これはいらない…よね?)
「どうして綺羅君はサッカーに出場しないの?? スポーツ好きなのに珍しいよね?」
「確かに好きなんだけどね…。そんな運動神経がいいわけじゃないし、サッカーが特に苦手なんだ」
某サッカー少年の『ボールは友達』っていう発言を始めて聞いた時は、上〇彩の父親が犬だったと知った時と同じくらいびっくりしたよ。
「そうなんだ…。綺羅君のカッコイイ所が見たかったな…」
クッ…その残念そうな表情が目茶苦茶可愛くて罪悪感にかられるよ。
「おいおいウズヒ、お前はラッキーだと思うぞ?」
未来さん&賢人君ご夫妻登場!
「未来……」
「どうしてラッキーなの?」
「フフッ。こいつはな、小学校時代一試合10得点をあげた男なんだ」
「すごいじゃない!!」
「オウンゴールでね……」
「え…?」
「そのとき綺羅はディフェンダーをやっていてな。蹴ったボールが全て矢のように自軍のゴールへ突き刺さったのさ」
それはボクにとって忌まわしき記憶でしかない。
「……試合は勝ったけどな」
「そうなの!?」
「そうなんだよ。賢と未来が20点位取ってくれたからね」
本当にその頃から人間離れしてたよね?
『ピンポンパンポン♪ まもなく第一回戦第1試合を行います。面倒臭いので早く集まって下さい。少しでも遅れたら即失格にしますのでそのつもりで』
面倒臭いって……。お疲れなんですかね?
「……行くか」
「そうだな。今日も応援に全力を挙げるぜ! なぁウズヒ?」
「ええ。今日は綺羅君も一緒にね?」
「え? ボク?」
「そうだよ? 試合は出ないんでしょ?」
「ごめん…。ボクはちょっと用事があるんだ……」
「そうなんだ…。残念だなぁ。でも早く用事が済んだら来てね?」
「うん。了解だよ」
クラスの男子はウズヒや未来の応援しか期待してないから行ってもかわらない気がするけどね。
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ボクは今、大会本部と看板の立てられたプレハブの前にいる。毎年何か行事がある度にこのプレハブが建てられる。何故そんなプレハブの前にいるかというと…
「命が惜しければ動くな!」
ハイ、説明する前に銃で後ろから脅されました。おかしくない?ここは西暦200X年の日本ですよ?
まぁ犯人は分かってるんだけどね。
「橘校長、バレバレな演技はやめてください」
「チッ! バレたか。騙されたふり位してもバチはあたらんだろうに」
「生徒に対してする行動じゃないでしょう?」
水鉄砲を背中に突き付けるなんて。貴方は幼稚園児ですか?
「お前以外にはしないさ。とりあえず中に入れ。茶でも飲もう」
そう促されたボクは建物の中に足を踏み入れる。この人の自分勝手さは今に始まったことではないので気にしない。気にしてはいけない。
橘 渉(タチバナ ワタル)青春高校の校長先生であり最高権力者。既に50歳位なのに生徒と共にはしゃぎ、時には生徒以上の元気を見せるパワフルな人物。元数学教師。
ハンズアップのまま入ったプレハブの中は予想していたよりも豪華だった。
「コーヒーでよかったよな?」
「ええ。ありがとうございます。…手を下ろしてもいいですか?」
「ああ。しかし、お前と話すのも久しぶりだな」
校長がコーヒーの準備をしながら背中越しに話し掛けてくる。
「そうですね。最近忙しかったので…」
「ウズヒちゃんが来たからか?」
「ご存知でしたか……」
「あれだけ学校で騒げばな」
ボクは追っ手から逃げてただけなのに…。
「だけどよくウズヒの事まで知ってましたね?」
「そりゃミス謳歌だからな」
やっぱり知らなかったのはボクだけ?
「それに彼女は悠真と杏奈の娘だろ? ほら、飲め」
アイスコーヒーを机に出してくれた。
「ありがとうございます。ええ。そういえば先生はボクの両親を知ってるんでしたっけ。だから悠真さんと杏奈さんの事を?」
「ああ。あいつらも二十数年前はここの生徒だったからな。今のお前達4人みたいな関係だったよ。」
「それは初耳ですね」
今までそんな話は誰からも聞いた事は無かった。悠真さんや杏奈さんと知り合ったのも最近だしね。
「そうだったか?」
「はい。父さんと母さんの話を聞いた覚えはありますけど…」
「そうか。まぁそれはまた今度話してやるよ。ところで霞は元気か?」
母さん、ねぇ……。
「今は海外へ出張しているのでわからないですけど…元気だと思いますよ。母さんですし」
「へぇ。いつ日本を出たんだ?」
「春休みですよ。教えられたのは出発当日でしたけど…」
「ハハハハッ!! あいつらしいな。朱実も高校の時は同じような扱いを受けてたぞ? 聞いた話しだと、急に海に連れてかれた…ってのもあったな」
父さん……ボクは貴方に同情します。
「気の毒そうな顔をするな。それがあいつの愛情表現だったんだよ」
「そりゃまたはた迷惑な……」
「ハハッ! お前の母親だろう?」
「そうですけど20年前の母さんなんて全くの他人ですからね。……あまり今と変わりはありませんけど」
性格も、たぶん容姿もね。どうやってあの若さ(見た目)を維持してるのかな?
「そうみたいだな。でも感謝しろよ? お前と妹さんをこれまで育ててくれたんだからな」
「はい。それに普通に生活していたら、ウズヒと知り合いにすらなっていなかったでしょうし」
手の届かない存在として憧れは抱いてただろうけど。
「美人だよなぁ〜。性格もいいみたいだし、俺があと30歳若かったらほっとかないぜ」
「………」
「怒るな怒るな。彼女の目には『天領綺羅』しか映ってないから心配するなって」
「皆そう言ってくれますけど、未だに信じられないんですよ……」
一応世間で言う『恋人同士』…ではある。でも周りからどう見られているのか……。
「フッ……やっぱり朱実の息子だな。あいつの学生時代と全く同じ発言だ」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。大丈夫、その内信じられる時が来るさ」
「はぁ……」
本当にわかる時なんて来るのかな…? 不安でしょうがないよ。
「青春だな。そんな姿を見てると俺も若返る気がするよ」
「先生はまだまだお若いですって」
特に水鉄砲を未だに握っているあたり。
「ありがとう。でもそう見えるのは、いつも高校生と接しているからだろうな」
「あまりハリキリ過ぎないで下さいよ? もう若くないんですから」
「…さっきと言ってることが矛盾してるぞ?」
「さっきのは気持ちの話ですよ。体は若くないんですから無理しないで下さい」
「……了解だ。気をつけよう」
「ありがとうございます。…じゃあボクはこれで。」
と言ってコーヒーを飲み干し、立ち上がる。
「もう行くのか?」
「ええ。そろそろ応援に行かないとまずいですからね」
「そうか。また来いよ?」
「近いうちに必ず…。じゃあ失礼します」
「ああ、気をつけてな」
先生の言葉に一礼し、ボクはサッカー場へむかった。
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時は過ぎて、今はバスケの準決勝前の休憩時間。あの後プレハブ校舎を出たボクがグラウンドに到着すると何と2年12組は既に敗退していた……。理由を聞くと、賢が常に3人以上の敵に囲まれてパスが上手く回らなかったせいらしい。
試合終了と同時に賢やサッカーに出てた人達が凄く落ち込み始め、そんな皆を元気づける為にウズヒや未来を始めとするバスケ組の選手達がここまで快進撃を続けてきた…と。
「いやぁ〜私達は強いな! なぁウズヒ?」
「うん♪ このまま優勝へむかって一直線よ! だから賢人君は元気を出してね?」
「……すまん」
「だぁーそこで謝るな!! 逆に空気が悪くなるだろうが!!」
「……すまん」
あちゃ〜また謝っちゃう?
「………もういい。私が悪かった」
「……すまん」
「「「………」」」
………君はそんなに空気が読めなかったっけ?
「そ、そうだ! 何でウズヒ達はあんなに強かったの? 簡単にパスがまわってたよね??」
ここは親友であるボクがこの空気を救わなければ!!
「そ、それはトライアングルオフェンスのお陰だよ!」
「トライアングルオフェンス? 聞いた事ないんだけど…すごいの?」
「自分達で言うのも気が引けるが結構凄いぜ。なんたってあのNBAでもなかなか見れるプレーじゃないからな」
「へぇ〜。どんな攻撃の仕方なの?」
「詳しく説明すると長くなるんだけどね。簡単に言うと常に三角形を作るようにしてパスコースを2つ確保するんだよ♪」
「でもそれだけだと止められちゃうんじゃない?」
「単純に動いていたらな。そのために5人がコートを縦横無尽に駆け回るのさ」
「だけどデタラメに動けばいいって物でもないから、5人それぞれに高度な能力が要求されるの」
「凄いんだね。賢もそう思うだろ?」
先程失態を晒してしまった(本人に自覚無し)賢に話を振り、更に親友同士だからこそ使うことの出来る《秘技・アイコンタクト》を使用する。
(ここで未来を褒めてさっきの失敗をちゃらにしよう!)
(……失敗? ……まぁいい、了解だ)
よっし成功!!後は賢次第だね。
「……そうだな。……お前達の凄さはこれまでの結果が証明しているから次も頑張れよ?」
なかなかポイントの高い台詞ですねぇ〜。
「な、なんか照れるな…」
「フフッそうね。人に褒められるのは嬉しいわ」
『ピンポンパンポ〜ン♪ 5分前。3番コート。よろしく』
………え?
「今の放送は何!?」
「……おそらく5分後に3番コートで試合があるんだろう」
「もう準決勝の第一試合は終わってるから、次は私達の出る第二試合ね」
「相手は確かサッカーで男子が負けた9組だったな。優勝の有力候補ではあるが、私達もその中の1組だしな。勝つか負けるかは五分五分だろう」
「よくあれだけの情報でそこまでわかったね?」
ボクには到底無理。というか普通はアナウンサーの人がそこまで喋るべきだと、ボクは思う。
「対戦相手の情報くらい手に入れておくのは当たり前だぜ?」
「個人の動きの傾向とかシュート成功率とかもあるけど聞きたい?」
「いえ…遠慮しておきます」
自分が昨日の野球をどれだけ適当にやっていたか痛感するよ。戦いは情報戦も重要なんだね……。
「そろそろ行くか? 体も温めておきたいしな」
「うん。じゃあ綺羅君と賢人君は応援よろしくね?」
「まかせてよ!」
「……問題ない」
「頼んだぜ。じゃあな!」
女神sは戦場へと旅立ち……
「ボク達も行こうか?」
「……ああ。……そういえば先程は何故俺の方を見てたんだ?」
「…なんでもないから気にしないで」
「……?」
そんな会話をしながらボク達は観客席へと旅立った(?)……
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白熱のバスケ準決勝第二試合は前半10分が終わって23―24の接戦で相手が1点のリード。今は15分のハーフタイム(休憩時間)中。
その時12組の選手ベンチでは……
「やっぱり相手が全員バスケ部だと強いね」
「ああ。トライアングルオフェンスの対策としてゾーンディフェンスを敷いてきてるしな……」
ゾーンディフェンス……簡単に説明するとゴールの周りに選手がかたまってゴールを守るディフェンス。トライアングルオフェンスに有効。
「ウズヒちゃんと未来ちゃんがいれば負けるわけないから大丈夫よ!」
「そうよ! 2人みたいに上手くは出来ないけど私達も一緒に頑張るんだから!」
「相手だって疲れてるのは一緒なんだから1点差くらいなら追い付き追い越せるわ!」
「そう…そうだな。私達まで負けるわけにはいかない!」
「うん! 皆あと10分頑張っていこう!!」
「「「「オー!!」」」」
一方観客席では……
「残り10分で1点差…。賢はどう思う?」
「……キツイかもな」
「そう?」
ボクは結構いい勝負だと思うけど……
「……ああ。……こっちはあれだけの面子が揃っているのにこの点差だからな」
「ウズヒや未来以外の3人もすごいの?」
「……お前は何を見ていたんだ?」
「いや、ちゃんと見てたよ? 見てたけど…。そこまですごいとは……」
正直思わなかったね。素人だからわからないだけかもしれないけど。
「……確かに未来とウズヒによって見落としがちだが、あの2人の身体能力も学年でトップクラスなんだ」
「へぇ〜そうなんだ。だけど何で賢は2人の事をよく知ってるの?」
中学校は違ったし、話してるのも見た事が無いよ?
「……出場選手の個人データくらい手に入れておくべきだ。……最低限はな」
「どうせボクはぶっつけ本番の人間ですよ!! 悪かったね!! あ、後半が始まるみたいだよ?」
コートでは前半と同様にジャンプボールから始まり……。
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「ハァ…ハァ……急がなきゃ……!」
後半開始のジャンプボールから5分後、ボクは必死に走っている。そりゃあもう見た人が引くくらいの形相で。
何故そんなに頑張って走っているかというと……ウズヒが怪我をしてしまった。
つい先程敵チームのプレイヤーと接触した時に転んでしまい、その時に足を痛めたみたい。
彼女は頑張ってプレーを続行しようとしたけど立つ事すら出来なかったので、そのまま担架で保健室まで運ばれていった。
ボクは後の事を全て賢に頼み(別にする事は無いけど…)会場である体育館を後にして現在の状況に至る…と。
(確か1番近い保健室はここを右に曲がった所に……)
この学校はとても広い為、保健室が数ヵ所ある。その中の1ヵ所が…
「ハァ…ハァ……。……あった。ハァハァ……」
これまで走ったことが無いスピードで走れた自分に驚きつつドアに近づくと……
『ガチャッ!』
内側からドアが開き、そのあまりの勢いにボクは頭を強打してしまった。
「ッ痛……」
「あら、綺羅君ですか? そんな所で何を??」
「……何でもありませんよ、棗さん」
「そうですか? それならいいですけど」
沖原 棗(オキハラ ナツメ)我が高校の保険医で常に白衣を纏っている。『棗さん』と呼ばないと怒られる。美しく、長い黒髪を持つ大和撫子だが背が低く、150cmに満たない。そのため今だに牛乳を飲んでいる。だけど、もう二十……
「綺羅くん……?」
「は、はい!?」
「それ以上言ったら……」
「すいません! 絶対言いません!! 先生が二十…」
「………」
ヤバイ…威圧感が……
「冗談ですよ♪ それよりウズヒは……」
威圧感を笑顔でかわし、話題を無理矢理かえる。
「中にいますよ。私は別に用事があるので、誰か代わりの人に看ていてもらおうと思ったんですが…貴方にお願いできますか?」
「はい、大丈夫です」
誰か他の人が任されたとしても、代わりにボクが彼女を看る。一応許婚兼彼氏ですから。
「怪我の手当てはきちんとしておきましたが、かなり落ち込んでいるみたいなので支えてあげてください。貴方が1番適任ですから」
「わかりました」
「では失礼しますね」
そう言い残して棗さんはどこかへ去っていった。
あの人は背丈の割に目茶苦茶威圧感がだせるから疲れるのよ。失言しそうになったボクも悪いけどさ。
「フゥ……入るか」
もう考えないようにしよう。今はウズヒの事が優先だ。
『ガチャッ!』
保健室の中に入るとウズヒは《保健室名物:回るイス》に座っていた。
ただ明らかにおかしい。俯いたまま一切動かず、ボクが入ってきた事にすら気付いていないみたいだ。
「ウズヒ?」
声を掛けてみるが、全く返事はない。こんなウズヒは見たことがないよ…
「ウズヒ!」
もう一度強く呼んでみる。すると…
「綺羅…君…?」
やっと答が返ってきた。
「ウズヒ、大丈夫?」
「大丈夫だよ♪ 心配してくれたの? やっぱり綺羅君は優しいなぁ〜」
「ウズヒ……」
誰がどう見ても空元気だ。ボクはわからない人の神経を疑う。
「捻挫だって♪ 無理にボールを取りに行かなきゃよかったなぁ。私ってバカだよね?」
「………」
「皆に迷惑掛けちゃったなぁ〜。あ、でも私なんかいてもいなくても12組の強さはかわらないか。……って、えっ!?」
ボクにはこんなことしか…彼女を抱きしめることしかできない。
「ど、どうしちゃったの? 綺羅君からなんて珍しいね?」
「……ふざけないで。自分の中で溜め込まないでよ!」
見ていて痛々し過ぎる。
「溜め込んでなんか……」
「ないって言うの!? そんな事を今のウズヒに言われたって誰でも嘘だってわかるよ!」
「綺羅君……」
「なんのためにボク達は一緒にいるの!? 何でも話して! 辛いときは頼ってよ!!」
楽しい事だけ共有するのが恋人じゃないと思うから。
「ゥ…グスッ……」
「ボクじゃ頼りないかもしれないけどさ。誰よりも君の事を気にかけてるつもりだから」
「ウゥ…ウワァァァン!怪我しちゃったよぉ…。5人で…皆で頑張ろうって約束したのに……」
「…うん」
泣き出し、本音を伝え始めてくれた彼女をさらに強く、優しく抱きしめる。
「一生懸命練習して……。優勝して皆で嬉し涙を流そうって……」
「……うん」
「でも私は…。私が怪我したせいで……」
「………」
「ねぇ……私はどうしたらいいの?どうしたら……」
「どうもしなくていいよ」
ボクは、ボクが思う事をそのまま伝える。
「…なんで? だって私のせいで……」
「ウズヒがいなかったら、ここまでこれなかったと思うよ」
「そんなこと……」
「うん。《いなかったらどうなっていたか》なんて分からないね。だけど誰もウズヒを責めたりしないよ」
「でも皆も実際心の中じゃ…」
「そんなことない!!」
「!!」
『ビクッ!!』と彼女の体が震えたが、今のボクにそれを気にしている余裕は無い。
「皆、ウズヒが頑張ってたのも努力してたのも知ってる! だから君の事を悪く言う人はいないよ。もしいたとしたらボクが絶対に許さない!!」
「……綺羅君」
「だから…ね?」
「うん…ありがとう……」
『〜〜♪〜〜♪〜♪』
携帯の着メロが突然流れる。正直この場面での着信は空気が読めてない気が……
「出てあげたら? 私は大丈夫だから」
「でも……」
「大丈夫。貴方の気持ちはちゃんと伝わってるから」
「うん、わかった。……もしもし?」
彼女の優しさを感じながら電話を受ける。本当はあんまり受けたくはないんだけどね。
『……綺羅か?』
「賢? どうしたの?」
『……試合結果をな』
これが有ると思ったから電話には出たくなかった。だっておそらく……
「うん…。で?」
『……負けた』
やっぱりね……
「そう」
『……ああ』
残念だけど……常に勝つなんて無理な事だもんね。
『もしもし? 私だ。ウズヒに代わってくれないか?』
「未来? いいよ」
『悪いな』
「未来がウズヒに代わってくれって」
彼女にボクのストラップ等が何も付いていない携帯を渡す。
「私? …もしもし? ……うん。そう……。…大丈夫だよ。…うん、じゃあね」
「大丈夫?」
携帯を受け取りながら聞く。
「うん。負けちゃったね……」
悲しそうに呟く彼女を、ボクはただ見てることしか出来ない。
「そんな心配そうな目をしないで? さっきの綺羅君の言葉があれば大丈夫だから。明日頑張ろう?」
「…そうだね。何か欲しいものは無い? 飲み物とか。何でも買ってくるよ?」
ウズヒが空元気で応えてくれてるのも分かったけど、今そこを責める必要もないと感じたのでそう聞く。
「……貴方の…綺羅君の優しさが欲しい」
「…え?」
「ダメ…?」
「いや…でも何処にも売ってないよ?」
ここに《ある》けど。ってゆーかいきなりの発言で今心臓バクバクですよ。
「お願い…私だけに頂戴……。嫌な女になってもいいから他の女性にはあげないで…」
「ボクにはウズヒしかいないよ。だから心配しないで」
「……うん」
その時、彼女の唇は涙で濡れていた。
その涙はクラス全員、そしてボクの心に火を点けることになる。
どうもakishiです。
何故か最近1話分が投稿毎に長くなってしまいます。一度でなく何度かに分けて投稿すればいいのですが、自分の中で『ここまでは書きたい!』という欲が出てきてしまして……。
そんな駄目作者ですが、これからもお付き合い頂けると幸いです。どうかひとつよろしくお願いします♪