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07

・前回の悪戦転移の三つの出来事

 ひとつ、キイ達は踏み込んだ地下室で男爵と対峙。しかし、突如現れたカブト人間に、男爵がビリスもろとも殺されてしまう。

 ふたつ、貴族社会の闇に巣くう謎の組織、雷爪。その四賢人と名乗る甲虫人間と戦うキイ。しかし、さらなる援軍コンゴウインコ人間までが現れる。

 みっつ、とっさの隙を突き二匹を圧倒するキイ。しかし、背後からトリケラ人間の攻撃を受けて倒されてしまう。

 よっつ、ディアーヌの悲痛な叫びに、その時、奇跡が起こった!


レナ「オーxは属性もうまく使ってて大好きなのですよー」

キイ「キングxトーン・フラーッシュ! です?」

ククル「なんで四行なんすか」

キイ「最終巻記念です?」










 恐竜人間の攻撃を受けたキイは、指一本動かせないほどの大ダメージを喰らっていた。

 仮面(ヘルメット)が砕けて素顔が露出している。一番ダメージがひどいのは背面だ。体表の生体素材の皮膚が切り裂かれ、内部の人工筋肉も大きくダメージを受けている。

 その他の処理を一時的に後回しにしてまで修復用ナノマシンが全力稼働させているが、ダメージの治療は遅々として進まない。


 そもそも、キイはこの体の本当の主では無い。

 戦闘員に改造した際、脳改造時に事前入力(プリインストール)される簡易人格である。

 生体脳が機能しないときに戦闘員を強引に行動させるための、補助的な知性。

 それがキイの真実。

 それゆえに、キイは情動も薄く、常に指示を求め、従順で受動的な振る舞いをするのだ。


 そして、人体改造型戦闘員用の人格として作り出されたキイは、この体の全てを使いこなしているとは言えなかった。いや、使いこなすための機能も権限も無かった。


 キイにはいかなる理由によるものか分からないが、この体は極限まで人工的に人体を再現している。体表や体毛は生体素材を利用しているが、その内部の特殊素材による骨格や筋肉の配置は、人体のそれを完全に模倣していた。


 その謎多き体を、ただの改造人体として簡易処理することでキイは戦ってきた。通常で人間の五倍、戦闘員用のスーツを身につける戦闘形態になることで、従来の戦闘員を上回るさらなる能力を発揮するこの体。


 もしも、だ。

 異世界に転移して以来、眠ったままの生体脳が目覚めたのならば。

 キイという余計な人格を放棄して、複合式脳髄体コンポジット・ブレインユニットが全力稼働したのならば、三匹の異形の怪物を倒せるのでは無いだろうか?


 キイは、ディアーヌ達を守りたいと思った(、、、)

 それは、命令をされたからでは無い。

 戦闘員の義務だからでも無い。

 楽しい、と感じたからだ。


 伯爵と騎士団長とシュウ。彼らとの手合わせは面白かった。シュウと伯爵には手玉に取られたが、騎士団長とは勝ったり負けたりでいい勝負だった。


 マーサと料理長は優しかった。キイを取り合うほどに、必要としてくれた。キイは飲食の必要は殆ど無かったが、マーサがこっそりとくれたおやつや、料理長がたまにつまみ食いさせてくれる料理はとても美味しかった。


 ククルとレナも何くれと無く世話を焼いてくれた。

 この世界の常識を教えてくれたのは二人だ。

 ククルは屈託の無いあけすけな性格で、二人でお使いに行くと街の人々は気さくに声を掛けてきて、世間話に夢中になって時間を忘れ、戻ってから大目玉を食らったりもした。屈託の無い彼女の楽しそうな笑顔は眩しかった。

 レナは信仰深い神官で、連れて行かれた神殿では老若男女からひとしく敬われていた。私的にスラムを巡回し、親を失った子供達を孤児院に保護したり、治療費が払えぬ傷病者にも嫌な顔一つせず治療を施す優しい女性だ。


 そんな人々の中でもディアーヌは特別だった。

 情報リンクから切り離され、あらゆる通信波も傍受出来ないこの世界で目覚めたとき、起動したばかりのキイは混乱と孤独感にうちひしがれた。情報リンクが切れているということは、少なくとも半径数十キロメートル以内に味方は居ないということ。通信波が感知出来ないということは、ネットワークなどを利用して指示を受けることもできないということ。

 そしてなによりも、キイには服従すべき対象が設定されていなかった。

 指揮を受け、命令に従い、任務を達成することで充足感を得るように作られているキイという簡易人格にとって、これはあり得ない事態だ。いうなれば、存在意義そのものが消失したに等しい。


 自己崩壊の危機。

 そんなキイの状態を正確に見抜き、救いの手をさしのべてくれたのがディアーヌだ。


 彼女の言葉によって、簡易人格というシステムは安定した。

 そして、短いながらも濃厚な人々との関わり合いが、キイという「物」に変化をもたらした。

 命令でも、義務でも、設定でも、刷り込みでも無い。




 キイは(、、、)、ディアーヌ達を守りたいと思った(、、、)




 だから、キイは手放していく。

 視覚を。

 聴覚を。

 触覚を。

 味覚。

 嗅覚。

 システム管理機能さえも。


 そして、深く、深く、落ちていく。

 何も無い、何も感じない、死にも似た闇の中を、ただ”意志”だけを持って。




   ※   




 闇。


 そして、闇を認識する自分に、キイは首をかしげた。

 改造体(からだ)の制御を手放せば、自分は消えるのだと思っていた。パソコンから不要なソフトを削除するように、システムから切り離されればきれいさっぱり”無くなる”と思っていた。

 だが、闇を感じる。

 闇の中を吸い込まれるかのように落ちていく自己を認識している。

 いくつもの門を越えて、何処かへ向かっているのだ。


 どれほどの距離を落ちたのだろうか?

 何かに遮られて落下が停止した。

 それにぶつかった精神的な衝撃はかなりのものだった。

 ぐるぐると視界が回るかのような錯覚にしばらく苦しんだ。


 ふと気づけば、それは門であると認識できた。

 固く閉ざされた、巨大な門だ。

 同時に、この門が「X21370813 Type-M18R」を完全にするための、最後の障害であることを認識する。


 同時に、もう一つ。

 この門が、キイ一人では開けられないことを認識する。


 キイに出来ることは、たった一つ。

 強く、強く。

 ただひたすらに、意志をぶつけることだけ。




   ※   




 神島かずみは憎んでいる。

 彼から幸せを奪った悪の組織を。

 彼から彼女を奪ったあの存在を。

 何もかもから切り離された不変の闇の中で。

 自己を摩耗させ消滅させないために、ただひたすらに怒りの炎を燃やしていた。


 だから、最初はそれが理解出来なかった。


 闇の中に差し込む一筋の光のような、小さな意志の気配。

 長い長い時間の中で、初めての変化。


「誰だッ!!」


 怨敵の姿を思い浮かべ、反射的に燃えるような闘志を叩き付ける。

 風に煽られた蝋燭のように、小さな意志が儚く揺らぐ。

 それを感じて、かずみは少しだけ落ち着きを取り戻す。


「……お前は、誰だ?」

”ボクは、キイ。君は?”


 ひどく危うげで不安定な存在を感じる。


「オレはかずみ。神島かずみ」

”かずみ、ボクの居る方角がわかるです?”

「なんだ、これは?」


 キイの気配を感じる方角に、いつの間にか巨大な門が現れていた。


”たぶん、かずみを閉じ込めてる門です?”


 言われてみて納得する。


「開けろ。オレをここから出せッ!」


 たき火にガソリンをぶちまけたかのように、一気に怒りがわき上がる。

 ここから出ることができれば、奴らに復讐が出来る。

 あの、あの卑怯な奴らに――――


”おちつくです、かずみ。ボク一人じゃ無理です?”


 かずみの怒りの波動に煽られて、キイの存在が揺らいでいるのに気づき、慌てて冷静さを取り戻す。


「済まん。どうすればいい?」


 ゆらゆらと揺れるキイの気配が落ち着く。


”たぶん、ボク達が同時にこの門を攻撃すればいいです? でも、その前にお願いがあるです”

「分かった。任せろ」

”ボクの―――― はやっ!?”

「ここから出られるなら、奴に復讐出来るならオレは悪魔にだって魂を売る。お前の出す条件ぐらい、聞くまでも無い」


 小さな、さざ波のような波動が広がる。

 これは、笑いだろうか?

 それとも、喜び?


「あわせてやるから、カウントを取れ。ゼロで攻撃だ」


 それに釣られるかのように、かずみの心にも暖かいものが広がっていく。

 誰だか知らないが、この門を破れば顔を見ることも出来るだろう。


”いくです。スリー! ツー! ワン!”

「”ゼロッ!!”」


 光が広がっていく。

 表裏から叩き付けられた破壊の意志が、巨大な門を打ち砕く。

 意識が急速に浮遊していくなか、キイの叫びがかずみに届く。


「お願い、かずみ! ボクの代わりに、戦ってっ!!」




   ※   




「何が起きているというのだ……」


 唖然とした様子で、目を腕でかばった甲虫人間がつぶやく。

 しかし、その次の瞬間――――


「なにっ!?」


 どごん、と重い衝撃音が響く。

 光の中から飛び出した人影が、甲虫人間を構えた盾ごと吹き飛ばしていた。

 紅い外骨格に包まれた腕が、肩の部分から明後日の方角に曲がっている。


「ふぁあああ? ギャッ!?」


 一足飛びに鳥人間に迫った人影が、後ろ回し蹴りを叩き付ける。

 鳥人間はまるで重さが無くなったかのように、くの字になって吹き飛ばされた。


「ヌウンッ!」

「シッ」


 恐竜人間がその巨大な両手剣を振り下ろす。

 だが、その人影は空手の回し受けのように右腕を振る。

 恐竜人間の体格は二メートルを超える。

 体重は二百キログラム近いだろう。両手剣だって、常人が持ち上げることすら困難なほどのサイズだ。

 その強烈な斬撃を、彼は片腕一本で易々と払い落とす。

 両手剣がざっくりと石畳を切り裂き、刀身が半ば程までめり込んだ。

 さらに彼は、その剣を足場代わりに飛び膝蹴りをたたき込む。

 恐竜人間はとっさに剣を手放して上半身を反らす。

 だが、そこに重力を無視したかのような回し蹴りが炸裂。恐竜人間の鼻先の角を折り飛ばす。


 腰砕けに後ずさる恐竜人間を追わず、彼はくるりとトンボを切ってディアーヌ達の前に着地した。


「……とりあえず、怪人っぽかったから殴ったが。アンタらの方がディアーヌさん達でいいんだよな? あ、ああ。そうか」


 あまりのことに硬直するディアーヌ達の前で、彼は一人頷いた。


「く、貴公は、何者だ。パワーもスピードも変わってはいない。しかし、その格闘術はなんだ? キイと同じ顔に見えるが……」

「なんでまたフルチンすか……」


 よろめく甲虫人間に、ククルが台詞をかぶせる。まるで、先日の襲撃の焼き直しのようだった。

 そう、顔はキイのままだ。

 だが、表情が大きく変わっていた。

 眉間に大きくしわを刻み、鋭く釣り上げられたまなざし。

 どこか茫洋としたキイと異なり、猛々しく獰猛な気配。

 立ち方にさえも自信をうかがわせるほどの全裸男(ゼンラーマン)がペンデュラムを揺らしてそこに居た。


「おっと、こいつは御無礼」


 彼はぱっと両手で股間を隠して背を向ける。


「ズボンとか無いよな? 腰巻きになる布切れでもいいが」

「流石にないすよ」

「あ、マントを切れば……」

「いや、それはもったいな―――― ああ、そいつで行こう」


 ククルとなんとか再起動したレナの言葉に答えながら、彼は不意に独り言をこぼす。 

 次の瞬間、かっと光に包まれると、キイの纏っていた戦闘員用スーツのグローブとブーツ。ズボンを身に纏っていた。上半身は相変わらず裸だが。


「敵のスーツなのがちょいともにょるが、まあマッパよりいいか」

「……貴方は、一体何者なのですか?」


 ようやく気を取り直したディアーヌが問いかけると、彼は人なつっこい笑みを浮かべて答えた。


「オレの名は神島―――― カズミ・カシマだ。ディアーヌさん達を助けるようにキイに頼まれた」

「キイは――――」

「貴公はキイでは無いのか?」

「うるさいぞ、甲虫人間(カブトノイド)


 カズミからどっとあふれ出した威圧感に、ディアーヌ達三人は腰砕けに座り込んでしまった。

 あの甲虫人間でさえ、数歩後ずさるほどの威圧感だ。


「言っただろ、オレはカズミだ。お前は敵だからこう名乗ろうか? 極神九闘流きょくじんくとうりゅう皆伝、神島かずみ」

「ふ、ならば改めて我も名乗ろうか――――」

「いや、いらん」


 虚を突かれて微妙な雰囲気を放つ甲虫人間に、カズミは畳みかける。背後でククルが「ひどい人すね」とか言ってるがスルーされた。


「オレが聞きたいのはたった一つだ。お前を改造したのは、DD(ディーディー)か?」


 緩んでいた空気が再び張り詰める。


「インコとトリケラは逃げたみたいだし、お前は逃がさんぞ。答えろよ甲虫人間(カブトノイド)


 指をわきわきと蠢かせ、グローブの金属パーツをちきちきとならしながらカズミが近づく。


DD(ディーディー)? それが貴公に”進化の秘術”を施した者の名か。我らの盟主はそのような名では無い。それに、盟主は素顔を晒したことは無い。声は女性のようだがな」


 そう答えた甲虫人間は長剣を石畳に突き立てると、外れた肩を強引に戻す。ぼぐん、と嫌な音と押し殺した声がこぼれる。


「それがイニシャルであるのならば、姫がDD(ディーディー)だな。ディアーヌ・デュルフェ」


 カズミは思わず振り向いた。

 そしてディアーヌをじっと見つめる。黒髪、黒目。


「いや、DD(ディーディー)はこんなバタ臭くない」


 ぴきっと空気が凍る。冷たい気配をはなつディアーヌに、ククルとレナはとばっちりを恐れて後ずさる。

 が、男二人はそんな気配に気づかない。


「貴公のように平たい顔なのか?」

「平たいって、お前の顔だってカブトムシだから起伏少ないだろうが」

「我は良いのだ。この姿は戦闘形態。この顔は仮面のようなもの―――― ごほん。いや、淑女に対してバタ臭いなどと。紳士として……」


 いきなり言動をひるがえす甲虫人間。

 それに首をかしげるカズミを、すぱーんっと景気のいい音が襲った。


「まじめにやりなさいカズミっ!!」

「はい、すんませんでした」


 脱いだヒールを片手に、鬼のような形相ですごむディアーヌ。どうやらこれでひっぱたかれたらしい。

 反射的に頭を下げたカズミは、蘇った過去の記憶に郷愁を覚えた。

 彼女もそうだった。

 悪ふざけが過ぎたカズミを、よくこうして叱ったものだ。力では圧倒的に劣る彼女ではあるが、不思議とその叱責には逆らえなかった。


 思わず頬を緩めるカズミに、ディアーヌは「何がおかしいのです!」と食ってかかる。コントのようなその掛け合いに、すっかりと場の空気が変わってしまう。


「あは、あははははははははははははは」


 しかし、そんな空気をぶち壊すかのような嘲笑が響き渡った。




   ※   




 それは、女の声だった。

 屈託の無い、心底面白いものをみたと言うかのような笑い声だった。

 闇の中に浮かび上がる純白のマント。

 怜悧な美貌を持つ女性だった。

 すらりとした肢体は白一色の三つ揃いで包まれている。

 艶やかな黒髪がさらさらとまっすぐに落ちている。

 眼鏡越しに覗く同じ色の瞳が、歪んだ愉悦を浮かべていた。


「ディィィィィディィィィィィィッ!!」


 まるで岩同士が激突したかのような、どごおんという音に、ディアーヌは目の前に居たはずのカズミがかき消えた事に気づいた。

 その姿は、DD(ディーディー)と呼ばれた女の前にあり、カズミが突きだした拳は、DDが差し出したステッキの先端、そこに生まれた魔法陣に受け止められている。


「やっと逢えたね、かずみ君。どうやら、わたしとは飛ばされた時間がずれたようだね」


 にこやかに笑うDDに、カズミはどっと炎のような怒気を溢れさせる。


香澄(かすみ)を、香澄の体を返せッ!!」


 稲妻のような回し蹴りを、DDはふわりと後ろに飛んでかわす。


「おいおい、そんな蹴りが当たったら、この体は死んでしまうよ?」


 ぎりぎりと歯を食いしばるカズミに、DDは笑みを浮かべたまま肩をすくめる。


 悪の組織が成人に対してアブダクトを行う場合、条件が存在する。


 一つは、高い知能を持つこと。高名な科学者などを拉致して、改造や薬品、あるいは人質を利用して言うことを聞かせる。


 もう一つは、高い戦闘能力を持つこと。武術家や軍人などを攫い、改造して戦闘員にして従える。


 カズミはこちらに該当する。

 極神九闘流。

 正式には極神拳九闘流という。


 拳を極め、神にも通じる程の力を得るための戦闘術。

 カズミは祖父によりその技を仕込まれた。ろくに分別もつかない子供の頃から、「ひみつとっくんじゃ!」などと称して手ほどきされたため、半歩間違えただけで死にかねない鍛錬も、そういうものだと思い込まされていた。


 カズミの祖父であれば、気を纏わせたその一撃で巨岩をも粉砕する超常の技だ。まあ、そんな祖父も老衰には勝てなかったが。


 当然、皆伝のカズミも生身で戦闘員に打ち勝てる。

 そこで奴らは卑劣な罠を仕組んだ。

 カズミの幼なじみである彼女、不破香澄(ふわかすみ)を拉致。人質にしてカズミを捕らえた。

 そして、どうやったのかはカズミには分からないが、DDは香澄の体を乗っ取った。悪霊のように憑依したのかも知れないし、自分のように脳髄をえぐり取られて入れ替えられたのかも知れない。

 カズミにとって、目の前のDDは憎むべき怨敵でありながら、最愛の人の体を持つ最悪の敵であった。


「ああ、いいね。胸の奥がどきどきするよ。このときめきは、わたしのものかな? それとも、香澄ちゃんのものかな?」


 ほほえむその笑顔は美しい。

 しかし、同時に底なしの卑しさと邪悪さを覗かせている。


「その顔で、そんな顔で笑うなDDィッ!!」


 ぶるぶると拳を振るわせて怒りをこらえるカズミの肩に、そっと手が乗せられた。ディアーヌだ。


「落ち着きなさい、カズミ。DD(ディーディー)と言いましたね? 貴方の目的はなんですか?」


 最悪の敵に物怖じせず問いかけるディアーヌの姿に、カズミは思わず毒気を抜かれてしまう。


「かずみ君の気配を感じて思わず来てしまっただけさ。君は、かずみ君の新しい彼女かい?」

「違うッ!」

「……いえ」


 戯れ言とばかりに即座に切り捨てるカズミに、微妙な表情でディアーヌが続く。別にその気は無いのだが、即断されるのもそれはそれで、もやもやするらしい。


「貴方はもしや……」


 空気になっていた甲虫人間がずいと前に出た。触角をぴこぴこゆすり、ちかちかと額の宝珠が瞬く。

 それに答えるかのように、DDのステッキの柄頭にあしらわれた宝玉が光る。


「すまぬな、カズミ。我が盟主とDDは同一人物だったらしい。我と貴公とは、戦う運命(さだめ)のようだな」


 DDは隣に並び立つ甲虫人間に、肩をすくめる。


「盟主、そこなる姫は純潔の金剛石(ヴァージン・ホワイト)候補者でございます」

「ふうん。まあ、その辺は君に任せるよ。まだかずみ君もその体を使いこなしてないみたいだし、今日はここまでにしようか」

「待てッ!」


 カズミは足下に浮かんだ魔法陣に吸い込まれていく二人に追いすがる。しかし、掴んだ手のひらは空を切った。


「あははははははははははははは。かずみ君、約束を覚えているかい? ちゃんと、わたしを探しておくれよ? わたしを殺しにきておくれよ? あははははははははははははは……」


 DD達が消えた石畳にカズミは拳を叩き付ける。


「DD、オレはお前を絶対に許さないっ。絶対に探し出して、香澄を取り戻すッ!」


 カズミの怨嗟の叫びが、玄室に響き渡った。
















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