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02

・前回の悪戦転移


 正義の戦士の合体バズーカを打ち込まれ、DDと彼は姿を消した。

 果たして、悪の組織は滅びたのか?

 悪の戦闘員は本当に消滅したのだろうか?



 ぼくたちせんとういんは だいたいきかいです

 きかいなので どうけいきたい(同系機体)とは じょうほうりんくがかくりつされています

 また こうきのうきたいをちょうてんとしたせんじゅつりんくにより たかいれんけいせいをほこります

 ぼくたちがせんとうじに 「きー!」とおんせいしゅつりょくするのは なかまとのじょうほうりんくのかくにんのためです

 「きー!」とさけんだとき へんじがあるとあんしんするし ゆうきもわいてきます


 だから だれもこたえてくれないのは さみしいです




   ※   




 とある貴族の、伯爵令嬢であるディアーヌ・デュルフェは、目の前の光景に絶望していた。


 危険など何一つ無いはずの旅路であった。

 屈強な護衛達に護られての馬車の旅。

 輿入れ先が決まり、いわゆる箔をつけるために、国境の砦に勤める騎士達を慰問しての帰り道のことだ。

 街道の一部が崩落により通行止めとなったため、多少時間はかかるものの迂回路を進むことにした。

 街に到着する時間が、夕方から少しずれ込むだけのこと、ただそれだけの事のはずだった。


 しかし、現実は常に過酷である。


 主要街道では無い以上、どうしても道の整備は悪い。

 必要最低限の整地しかされていない路面は、必然的に馬車の進行速度を落とし、時には倒木などが道をふさいでいた。

 街への到着時間はずるずると後ろへずれ込み、あっという間に日が落ちてしまった。


 野営をするにはいささか危険であると判断し、ランタンや魔法の光を使って夜を徹しての強行軍を選択。結果としては、これが悪手となった。


 賊の襲撃である。

 後になって思えば、主街道を進んでいたときにすでに目をつけられていたのかも知れない。


 林の中から、暗闇に乗じて雨あられと矢を射かけられて、先ず最初に馬車馬がやられて馬車が止められた。

 次に賊どもは、蜂の巣をつついたかのような混乱に乗じて、護衛の中でも鎧の薄い軽戦士や、魔法使いを無力化しようと突っ込んできた。山賊にしては妙に手際のいい襲撃である。


 もちろん、護衛達も無力ではなかった。

 がっちりと鎧を着込んだ盾持ちの戦士達が、突っ込んできた賊どもを体当たりではじき飛ばした。


 その隙に、護衛達は馬車を護るようにぐるりと囲み、盾役達の後ろに護られた魔法使いが戦況を有利にするべく、明かりの魔法を投射していく。そして盾役に邪魔された賊を、攻撃役の戦士達が鮮やかな連携で斬り伏せていく。


 護衛のうちの何人かは手傷を負ったが、こちらには神官の治癒術もある。

 返り討ちに成功するだろう、と、わずかに息をついた瞬間に異変が起きた。


「ギ、ルル、グ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 不気味な咆哮とともに、ぐしゃり、と盾役の戦士が叩きつぶされた。

 ぎょっとして振り向いた攻撃役の戦士は、その鋭いかぎ爪に縦に引き裂かれた。


「さ、さがれ!」

「なんでマッドグリズリーがっ!?」

「山賊のくせに魔獣使い(テイマー)だとぉっ」


 狂い熊(マッドグリズリー)

 魔物の中でも中級レベルの恐ろしい怪物である。

 巨大なその体躯から繰り出される腕力任せの一撃は、馬の首すらやすやす刎ね飛ばす。

 さらに、一度戦い始めれば、恐れを知らぬかのように、その命が尽きるまで逃げることなく暴れ回るやっかいな魔獣だ。


 ちなみに、冒険者にとっては、バランスのとれたパーティで討伐して一人前、ソロで倒せれば一流の証とされる怪物である。


 身の丈三メートルを超える魔獣は、まるでお手玉でもするかのように、護衛達をぽんぽんとはじき飛ばしていく。


 山賊達は暴れるマッドグリズリーに巻き込まれないように遠巻きに、しかし誰も逃げられないように周囲を取り囲んでいる。


 もはや勝利を疑っていないのか、ごてごてと装飾を施された横笛を手にした魔獣使い(テイマー)も木々の中から前に出て、にたにたと厭らしい笑みを浮かべていた。


「悪夢、ですわね……」


 まるで藁束を刈り倒すかのような勢いで、護衛の戦士達が全滅していた。古くからディアーヌに仕えている二人、女性の魔法使いと神官はまだ生きてはいるが、壁となる前衛職がいなければ、彼女たちに出来ることは少ない。


「さあ、伯爵令嬢。おとなしく出てこい! これ以上抵抗しなければ、殺しはしねえ」

「なぁに、そっちのお嬢ちゃん達も生かしておいてやるぜぇ?」

「ちょっとばかりすり減るけどな!」


 魔獣使いの言葉に便乗して、山賊どもがげらげらと下品な笑い声を上げる。


 ディアーヌは己の不幸を呪いながらも、ここまでかと諦めた。

 降伏しても、先は知れている。

 たとえ生きて帰ったとしても、身を汚されてしまっては、貴族の令嬢としての価値などない。それどころか、一族の恥として、自ら命を絶つことしか許されまい。


 それが、貴族の一員として生まれた者の常識だ。


「お待ちなさい」

「姫様!」

「いけませんっ!」


 馬車から降りたディアーヌを、魔法使いと神官が身を挺してかばう。

 足がかくかくと震えるが、それでもディアーヌは凛とした声で魔獣使いに命令する。


「わたくしが何者か知っているということは、目当てはわたくし自身でしょう。そして、わざわざ降伏を呼びかけると言うことは、わたくしを生きて捕らえなければ、雇い主に怒られるのではなくて? あるいは、貴方もそのまま消されるかも知れませんね。さあ、この二人を無傷で解放すると約束しなさい。そうでなければ、わたくしはこの懐剣で喉を突きます!」


 ディアーヌには、その雇い主の正体にも心当たりがあった。

 自慢ではないが、ディアーヌの容姿はそれなりに良い。

 デュルフェ一族は、貴族の中では珍しい黒髪黒目を持っており、社交界では、その白い肌もあわせて「麗しの人形姫」などと讃えられることもあるほどだ。


 そして、そんなディアーヌの美貌と血筋を狙って粘着していた成り上がりの中年貴族がいた。

 輿入れ先が決まるまでは、ずいぶんとしつこくされたのだが、正式に婚約が発表されると同時に、潔く手を引いたかと思われていた。まさかこんな強硬手段をとるとは予想だにしなかった。


「ク、クククク。いいねぇ。お嬢はなかなかに賢いねぇ。そういう女は嫌いじゃないぜぇ?」


 魔獣使いはニヤニヤと笑みを深めて続ける。


「でもよ、うちのクライアントは別に生死にこだわってねーんだわ。たんに、出来るだけ手ひどく辱めてやれって言われただけでな。なんつーの? 可愛さ余って憎さ百倍って奴なのかねぇ? 俺たちとしては、死体とヤるのが嫌だから降伏勧告をしただけで、死んだら死んだで、辱める方法はいくらでもあるんだよぉ~ あ、ちなみにその熊オスだぜ」


 べろり、と舌を出してディアーヌ達を嘲笑する魔獣使いとその手下達。

 娘達三人は、最後まで戦うか、即座に自害するかの二者択一を迫られる。

 戦っても、逃げ延びられる可能性は何処までも低い。長い苦痛の果てに恥辱の死を与えられるのか、あるいは一瞬の苦痛で全てを放棄するのか?


「レナ、やろう……」


 そう言ったのは魔法使いだ。


「そうだね、ククル。それしかない……」


 神官が決意を瞳に浮かべて頷いた。


「姫様、守れなくてごめんなさい」

「私達がなんとしてでも、時間を稼ぎます」

「いいえ。ここまで来たら、生きるも死ぬも一緒ですわ」


 こちらに恐怖を与えようと、あえてゆっくりとせまる魔獣使い達を、三人は強くにらむ。


「おお、怖い怖い。親分、どうしやしょう! にらまれちゃってちびりそうですぜ!」

「ぎゃはははははっ そりゃヤベぇや!」

「俺だって怖いぜ。だからここは一丁、熊ちゃんに張り切ってもらうかあ」


 ぴゅい、と魔獣使いが横笛を吹き鳴らした。

 立ち尽くしていたマッドグリズリーが、のっそりと前に出る。

 その爪も体も、護衛の男達の返り血にまみれていた。


 彼女たちに勝ち目など、あるはずもなかった。


「尊き母よ、我が祈り聞き届けたまえ。その白き御手にて子らを護り給え!」

「風の力、嵐に潜む雷霆よ!」


 神官の防御魔法と同時に、魔法使いが雷撃の呪文を唱える。

 光の幾何学模様が三人の体の表面に走り、突き出された杖からは純白の閃光が打ち放たれ――――



 そして、爆裂した衝撃波で、その場にいた全員がなぎ払われた。



 雷撃の呪文は、人間相手ならば必要十分の威力を持つ。通常の生物であるならば、たとえダメージが低かったとしても、感電による麻痺を引き起こす使い勝手の良い呪文である。


「なにが、起きたと言うの……」


 二人にかばわれたディアーヌは、殆どダメージもなく立ち上がった。

 もうもうと立ちこめる煙、水蒸気が視線を遮っている。


「ひっ!?」


 ぬるりとした感触に顔をぬぐえば、血まみれの肉片がへばりついていた。

 へなへなと腰から力が抜けてしゃがみ込むと、足下には飛び散った肉片まみれの二人が白目を剥いて倒れていた。どうやら、マッドグリズリーの肉片だったらしい。


 二人が飛び散っていなかったことに、ほっと息をついたディアーヌは、着弾したはずの場所を見透かそうと目をこらした。


「……え?」


 風に流されて晴れた煙の中からなにかが現れた。

 それがなにか理解することを脳が拒んでいる間に、周囲の様子もはっきりする。

 魔獣使い達は、尻餅をついたままで、ぽかんと爆心地を見つめていた。


「ん…… はっ 姫様!?」

「んんん~ ……何が起きたの?」


 小さくうめきながら、二人が起き上がる。


「レナ、ククル、あれが何に見えまして?」


 指し示すディアーヌの指先を追った二人が、そろってぽかんと口をあけた。


「な、なにって、その男性、です……」

「……あー、マッパの男?」

「ククル、下品ですわよ……」


 何が起きたのかまったく理解できない。

 麻痺狙いで撃った魔法が、巨大熊をミンチにして吹き飛ばしたと思ったら、爆発後から全裸の男が出てきたのだ。


 魔法の明かりで男の体が隅々まで照らし出されている。

 男は、均整のとれた体つきをしていた。肩幅広く、すらりと伸びた手足には、がっちりとした筋肉がバランス良くついていた。

 うつむいたまま、ふらふらと体を揺らしているせいで顔はよく見えない。


「レナ、あいつ怪我してるな?」

「ええ。ひどい傷跡です……」


 そう。その全身には、様々な生々しい傷跡が血を滴らせていた。しかし、その傷跡は何処かしら秩序だったものを感じさせる。あえて言うならば、体の中身を余すところなくさらけ出しやすいように、とでもいうべきだろうか。


「レナ、敵か味方かは分かりませんが、治癒を。あれでは、いつ死んでもおかしくありませんわ」

「了解です!」


 レナが治癒の祈りをささげ始めると同時に、再起動した魔獣使いが怒鳴った。


手前(てめえ)ら、ぼやぼやしてるんじゃねぇっ! 何をやったか分からんが、野郎一匹増えただけだ。囲んで一気にやっちまえ!! 弓持ち、女どもを縫い付けろ!!」

「おうっ!」


 ディアーヌ達に矢の雨が降り注ぐ。

 当てるつもりがないので散発的ではあるが、それでも詠唱中のレナを矢から守るために、ククルは杖を振り回して攻撃魔法にまで手が回らない。


 わらわらと無秩序に男へと迫る手下達。

 ある者はショートソードを振りかざし、ある者はダガーを腰溜めに構えて突っ込んでいく。

 一見雑には見えるが、ショートソードのけん制メインの攻撃から、ダガーでの止めを狙う必殺の策だ。山賊達は、この手で何人もの手練れを始末してきたのだ。


 レナは必死で紡いだ治癒の魔法を男に投げかける。


「間に合ってっ!」


 神聖魔法独特の、白く淡い発光現象が男を包んだ。

 しかし、容赦なく手下達のショートソードが叩き付けられ、身を躱した剣持ちの影から、ダガー持ちが飛び出した。


「そ、そんな……」

「くそっ」


 愕然とするククルとレナ。

 ディアーヌもまた呆然と、それを見ていた。

 男の前後左右の四方向に、手下達が密着していた。

 人の急所を狙い澄ました攻撃を四方から受けて、無事であるはずが無かった。


「ちっ びびらせやがって。さあって、お嬢ちゃ――――」


 ぼぎゃ、っと音がした。

 魔獣使いが視線を向けると、男の左腕が、振り払われていた。

 ただ、それだけのことだ。

 だが、ただそれだけのことなのに、男の後ろに立つ手下が血と臓物にまみれていた。

 少し離れた位置に、男の左に立っていた手下が、真っ二つにちぎれて転がっていた。


「お、親分っ どうしよう、どうしたらいいっ!?」

「刺さってねぇ! ダガーが刺さらねぇよ、おやぶぎゃあああああああっ!?」


 ぐしゃり、と男の右手が右側にいた手下の頭を、西瓜のように握りつぶした。指の隙間から脳髄が、ゼリーのようににゅるにゅると絞り出される。


 男は両腕を広げたまま、ぐるりと魔獣使いへ向き直る。

 ただそれだけで、前後に立っていた手下達の首が飛んだ。

 手刀で刎ねられたのだ。


「バカヤロウッ びびってんじゃねえ!!」


 魔獣使いがドロップキックで男を蹴り倒した。

 足に帰ってきた反動は、とても人間を蹴った物とは思えなかった。見た目には分からないが、獣人か獣憑き(ライカンスロープ)なのかもしれないと当たりをつける。


「おら、叩け叩け叩けッ!! こけてるうちは怖かねーぜっ!!」


 魔獣使いは、完全に戦意をへし折られた手下を奮い立たせるべく、あえて無謀な行為に出た。

 まさかマッドグリズリーを倒されるとは思っていなかったし、魔獣使いのキャパシティではそれ以上の使役は不可能であり、手札として残っているのは騎獣のみだ。


 親分の蛮勇に感化された手下達が、それぞれに得物を手にして男を打ち据える。


「なあんだよ、大したことねーなクソが!」

「かってーな、こいつ。実は鉄かなにかじゃねえ?」

「叩いてりゃそのうちつぶれるだろ」

「叩け! 叩け! 叩けぇ!」


 その行動は頭の悪い山賊のようではあったが、弓持ちたちがしっかりと馬車を盾にした三人にけん制を続けていた。


「姫様、なんなんですかねあの男。とうてい人間とは思えない頑丈さですが」

「なんというか、すごい力持ちなのに、戦い方を知らないというか」

「……」


 ククルの姿隠しの魔法、鏡面迷彩(ミラーカモフラージュ)を使って三人は馬車の影からこっそりと脱出していた。

 この魔法は、空間をゆがめることで周囲の風景を鏡のように写し込むことにより、まるで透明になったかのように姿を隠すことが出来る。最大で直径十メートルほどのフィールドを指定可能だ。


 思わぬ幸運により、脱出のめどがついた。

 だが、ディアーヌは迷う。

 果たして、このまま逃げてしまったいいものだろうか?


「姫様?」


 ククルが不安そうに、じっと見つめてくる。


 貴族と一般人の間には、明確な身分の差がある。

 一般人は貴族の生活を支えるために身を粉にして働いて税を納める。

 貴族は集めた税を使って、領地がより良くなるために働く。

 敵が攻めてくれば、真っ先に剣を執って先頭に立って戦うし、敗軍の将として責任を求められれば、潔く首を差し出すだろう。

 貴族とは、一般人の代表であるとともに、その国そのものを表す看板であると言えるだろう。


 だから、どこの馬の骨とも分からない一般人の一人と、貴族であるディアーヌでは、その価値を計る天秤は、あっさりとディアーヌに傾くだろう。

 今回のような危機的状況では、ディアーヌの無事を優先することがなによりも正しい。


 しかし、とディアーヌは考える。

 ここは戦場だ。

 絶体絶命の状況を、あの男はひっくり返してくれたのだ。

 貴族の命を救った一般人を、優先順序だけに固執して見捨てて脱出することは、本当に正しいのだろうか?


「ディアーヌ様?」


 ククルが不安そうに、じっと見つめてくる。


 あれほどの力を持つ男が、今なすすべも無く蹂躙されている。

 様々な武器で打ち据えながらも、声一つこぼさずにもがき続けている。


「―――ぃ……」


 いや、この声は。


「きーぃ……」


 理屈では無い。

 心が、感じた。


 それは、悲しみの泣き声だ。

 誰一人仲間の居ない孤独な存在が、理不尽な暴力にさらされて、助けを求めて泣いているのだ。


「ここに居ますわよっ!」


 気がついたときには、ディアーヌは鏡面迷彩の効果範囲から踏み出して、叫んでいた。


「貴方が誰も味方が居ないと思うのならば、それは間違いです。ここに、わたくしがいますわ!」


 きょとんとした顔で、魔獣使いと手下達がその手を止める。


「ひとりぼっちでどうしていいのか分からないと言うのならば、それは間違いです。ここに、わたくしがいます。貴方が一人で立てるまで、わたくしが手を取り導きましょう!」


 倒れ伏していた男が、その声に応えるようにわずかに頭を上げた。

 ディアーヌは男に強く頷いてみせる。

 戦いは貴族の仕事である。

 しかし、直接剣を交えることだけではなく、兵を率いることも重要な仕事の一つ。


「立ちなさい。そして―――」

「させるかよおっ!」


 魔獣使いがディアーヌにナイフを投げ放つ。

 手下どもが、再び男に襲いかかる。


「甘いですっ!」

「なにいっ!?」


 前に出たレナが突きだした両手が、純白の光の盾を生み出してナイフをはじき飛ばした。


「こっちもさせないよっ 空の果てより来たれ。光矢よ、雨のごとく敵を討て!」


 男に襲いかかった手下達も、ククルの魔法の矢(マジックミサイル)を食らって打ち倒される。

 二人は、ディアーヌの演説の影に隠れて呪文を詠唱し、攻撃のタイミングを計っていたのだ。


「これだから、姫様のおつきはやめられないよね」

「ディアーヌ様こそ、持てる者の義務ノブレス・オブリージュを体現なさっているお方です」


 にこりと視線を合わせてにこりと二人は笑う。

 ディアーヌはいかなる苦境に落ちようとも、決して高潔さを失わない。

 だからこそ、幼い頃からディアーヌの友として、お付きの者として、ずっと仕えてきたのだ。


「……きーぃ?」


 立ち上がった男は、ディアーヌと同じ色の瞳を持っていた。

 小さく問いかけるような声に、ディアーヌはしっかりと応える。


「わたくしが教えてあげましょう。貴方自身を護るために、わたくしを守って戦いなさい。貴方が仕えるべき者、それは、わたくしです!」

「させるなっ 押さえつけて叩けッ!!」


 手下が一斉に男に躍りかかった。

 弓持ちさえも弓を捨てて、その人の山に飛びかかっていく。

 彼らは、恐怖を覚えていたのだ。

 男の何かが、変わった事に。

 少女にしか過ぎないディアーヌが放つ気迫に。


「余計なことをしてくれたな。くそう、こうなったら手前らだけ始末して、フルチン野郎から逃げるしか――――」

「立ちなさい。そして、薙ぎ払えっ!」

「なにぃっ!?」


 変化は劇的に現れた。

 人の山が吹き飛んだ。

 不運にも、飛ばされずに男のそばにわずかに残っていた手下達は、振り回された両腕になぎ払われて、凹み、ちぎれ、飛び散った。

 幸運なことに飛ばされただけで済んだ手下達は、蜘蛛の子を散らすようにばらばらに逃げていく。


「KEYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッ!!」


 それは、周囲に敵が居なくなると、かかとを打ち付けて直立不動の姿勢になった。右の拳で左肩をとんと叩き、その手を素早く挙手してディアーヌに向かって報告するかのように叫ぶ。


 それは、漆黒の異形だった。


 黒色の薄いタイツのようなものが、男の首からつま先までを包んでいた。胸から腹部の要所を、筋肉を模倣したかのような銀のプレートが守っている。


 同色のグローブとブーツには、V字を重ね合わせたような装甲板があしらわれており、つま先と指先は爪のように鋭く尖っていた。


 腰の部分には剣帯に似た太いベルトが巻かれており、複雑な形状の片手斧のような武器がぶらさがっている。


 何よりも異様なのは、その頭部だ。

 謎の魔物としか言いようのない形状で、フルヘルムのようにすっぽりと頭部を覆っているのに、どこにものぞき穴や空気穴がない。


 しかも、額のあたりから生えた触覚らしきものが、ぴこぴこと嬉しそうに動いている。さらに、眉間のあたりに埋まった宝石のような結晶がちかちかと瞬いていた。


「良くやりました。それにしても…… 二人とも見なさい。結構可愛いと思いませんこと?」

「いえ。きもいよね?」

「じゃあ、中間を取って、きも可愛い、ですね」

「むう」


 ディアーヌの言葉にぴこぴこ触覚を振る異形は、素直で可愛いと思うのだが、二人はそうは思わないようだ。


「こうなりゃ、ヤケだあっ!」


 一人取り残された魔獣使いが、腰の小剣(ショートソード)を引き抜いてディアーヌだけでも殺そうと襲いかかる。


 しかし――――


「KEYYYYYYYYYッ!」


 目にも止まらないほどの速度で割って入った異形が、魔獣使いの首を掴んで空中に放り投げた。

 わずかに腰を落として、力を溜めるかのように身構える。


「殺すなっ!」


 命令が間に合ったのは、奇跡といっても良かった。

 落ちてきた魔獣使いを迎撃するべく繰り出しされた、光を纏わせた回し蹴りが、男の胴体を蹴り抜く寸前にぴたりと止まった。

 レナとククルなどはあまりの急展開に、まるでついて行けなかった。


「助かったわ。ご苦労様」


 ほっと安堵の息をもらし、ディアーヌは異形を労う。


「KEYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッ!!」


 異形は、再び敬礼。

 そして――――


「あ、フルチン」

「倒れましたです」

「ククル、淑女たる者、慎みを忘れてはいけませんわ」


 異形の姿はゼンラーの男の形に戻り、そのまま木が倒れるかのように、ぱったりと横倒しになった。


 その表情は、何かをやり遂げたかのように、とても嬉しそうな笑顔だった。








・次回予告

 とらえた魔獣使いからもたらされた情報は、王国の屋台骨を揺さぶりかねないほどのものだった。

 成り上がりの貴族の背後に潜む黒い影。

 果たして、雷爪(ライトニング・クロー)とはいかなる組織なのか?

 ディアーヌは無事に輿入れできるのか?


 次回も戦闘員の触覚がうなるっ!


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