01プロローグ
ぼく の なまえは |えっくすにーいちさんななぜろはちいちさんたいぷえむいちはちあーる《X21370813 Type-M18R》 です
「くそっ 醜悪な正義を振りかざす偽善者どもめ! まさか本部まで攻め込んでくるとはっ」
「仕方ないさ、セロ。それより、どうするね?」
「あと少しで完成するというのにな。……モジュール化の終わっている奴は無いのか?」
「あるとも。丁度、一基完成したところさ。これだ」
「ほう、口紅付きか! DDの自信作とあれば、是非もないか……」
ぼくは つうしょう |こんぽじっとぶれいんゆにっと《複合式脳髄体》 と よばれるものです
それは にんげんから とりだしたのうを
きかいとあわせて もじゅーるか しておくことにより
じんたいを かいぞうして わんおふのせんとういんをつくるよりも
せんとういんの りょうさんがしやすいため
よりあんいで はんようせいのたかい せんりょくをかくほできるのです
「よし、一旦こいつを移植して避難させよう。ここをしのげば何とでもなる。DD、どれぐらい時間を稼げばいい?」
「手術は三十分もあれば終わるさ。ただ、組織の定着には何時間か欲しいね」
「どうせ後で入れ替えるんだ。とりあえず動けばいいから短縮しろ」
「じゃあ、手術と合わせて一時間も貰おうか」
「任せろ。戦闘員ども、迎撃用意! 奴らがのこのこ迷い込んだ場所が、どれほど恐ろしい組織の基地か思い知らせてやれ!」
ほんらい ぼくには たんたいでしゅういをにんしきするきのうがありません
だから このじょうきょうをにんしきしているのは
ぼくではありません
「ごめんよ、かずみくん。私には、こんなカタチでしか君を救えなかった……」
怜悧な美貌を持つ女性だった。
すらりとした肢体は白一色のスリーピースで包まれている。
艶やかな黒髪がさらさらとまっすぐに落ちている。
眼鏡越しに覗く同じ色の瞳が涙に潤んでいた。
「さあ、もう動けるね? シェルターに入って、定着が終わったら脱出するんだ。そして――――」
突然の轟音とともに壁が吹き飛んだ。
ぽっかりと開いた穴から、原色の強化スーツを着込んだ面々が、戦闘員を蹴り飛ばしながら踏み込んでくる。
「見つけたぞ、狂科学者DD! 貴様らの悪事もここまでだっ!」
赤い強化スーツの戦士が声高らかに告げる。
「セロはどうしたんだい?」
「ふっ 俺たちがここに居る、それが答えだ」
マスクの下のニヒルな笑みが透けて見えるような声で、青の戦士が答える。
「やれやれ、セロの奴もあてにならないな……」
DDは、どこからともなく取り出したステッキで、戦士達との大立ち周りを始めた。
しかし、多勢に無勢だ。
戦士達は、己の武器をその時々に合わせて、光線銃や近接武器に変形させながら、DDを追い詰めていった。
手術室にも似たその部屋に配された、用途も知れぬような機材達が流れ弾や斬撃の余波で、再起不能なまでに破壊されていく。
「何がおかしいっ」
ギリギリと武器をきしませながら、つばぜり合いに持ち込んだ赤が怒鳴る。
DDが、なぜか周囲を見回して笑みを浮かべたからだ。
「君には、永遠に解らないさっ」
華奢にさえ見える足から繰り出された前蹴りが、猛烈な勢いで赤を吹き飛ばす。
しかし、あわや壁に激突するかと思われた瞬間に、飛び込んだ黄と桃が、がっちりと赤を受け止めた。さらに、追撃を避けようと青と緑が、めくら撃ちに光線銃を撃ち込んでくる。
「ちぇ、面倒だな」
くるくると三度ほどとんぼ返りをして、光線銃の直撃を避けたDDは、白いマントをばさりと振り回して、着弾の余波と視線を遮る煙を打ち払った。
だが、その煙が晴れた瞬間に、己の失策を悟る。
五人の戦士達の構えた合体バズーカが、その砲口に煌々と輝くエネルギーを湛えてDDをポイントしていた。
ただ躱すのならば、容易い。
しかし、その射線上には、未だ動かぬ彼が居た。
だから、DDには受けるしかなかった。
「ディストーション・フィル・フィールド!」
「くらえッ ディメンジョン・ダクティルフラクチャ・デストラクター!」
五色のエネルギーの奔流が、DDがステッキを横に構えて張ったバリアに激突する。
一瞬の均衡。
しかし、バリアが少ずつ押されていく。それを支えるDDもまた、靴底を滑らせて後退していく。
「ごめん、かずみくん。もしも、もしも生き延びることが出来たのなら――――」
ガラスが割れるかのようなピキピキという乾いた音にあわせて、二つの膨大なエネルギーの激突の余波で空間がひび割れていく。
光と轟音の乱舞の中で、かずみと呼びかけられたそれは、DDの唇の動きを読んだ。
「わたしをさがして、ころしにきておくれ」
巨大な爆発が、悪の組織の本部地下施設を揺さぶった。
正義の戦士による合体バズーカのせいだ。
その莫大な破壊エネルギーは、十数枚もの隔壁を貫通していた。
そんな凶悪な力の矛先を、真正面から向けられた狂科学者DDの姿など、当然のことながら何処にも残っているはずがなかった。
・次回予告
まもなく結婚を控えた伯爵令嬢であるディアーヌ・デュルフェは、目の前の光景に絶望していた。
しかし、彼女が遭遇した悪夢を切り裂く一条の光。
あれはいったい誰なのか?
ディアーヌの心が、今、試される!