にゃんでれ
なんだかにゃんこヤンデレじゃなくなった気が……いや、気のせい!!
前と比べるとダークというか、暗いお話です。
※こっちを『にゃんでれ』にしたので、前作のタイトルも『わんでれ』に変えましたが、中身は変わってません。
猫のような人だと思った。
気まぐれで、マイペース。自分が甘えたい時は擦り寄ってきて、そうじゃない時は近寄らない。
寒いのが苦手で、暖かいところが好き。特に人肌が。
だから、ああなることはわかってた。
だから、彼のために――いや、自分のために、この関係を解消しようと思ったのに。
なぜこうなってしまったの?
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私こと、鳩山朱奈の彼氏は、大学の中でも有名な人だ。
童顔気味の顔に、人懐っこい笑みをいつも浮かべ、大学中を気ままに歩きまわってる。そこで出会った人たちはみーんな彼と仲良くなり、どんどん交遊関係が広がって、一部では彼と話したことがない人はいないんじゃないかって噂になるぐらい。
斯く言う私も、彼とは何度か話したことがある。講義がいくつか被っていて、自己紹介をされたのだ。
「俺、桐野春樹ってゆーんだ!よろしくね?」
私は上京してこの大学に入ったため、誰も知り合いがいなかったことと、人見知りで中々自分から声を掛けられないということで、しゅん君に話しかけられた時はすごい嬉しかった。……戸惑った反応しか返せない自分を本気で呪ったけど。
でも、そんな私にもしゅん君は気分を害さず、それから会う度に話しかけてくれた。
そんな彼に告白されたのは、サークルに入って友達も出来、こっちの暮らしにも慣れた頃だった。
講義に向かう途中のところで呼び止められ、衆人環視の元でいきなり。
「初めて会った時から好きだったんだ!俺の彼女になってくれませんか!」
正直、嬉しさよりも戸惑いの方が大きかった。だって、私にはまだ彼氏…とか、そんな余裕がなくて。どうせなら『友達』からとかが良かったんだけど、なんかそんな雰囲気じゃないし、私みたいな地味な女が、大学の人気者の彼を振るなんて厚かましく思えて。だから、つい首を縦に降ってしまったの。
もしかしたら罰ゲームとか、一時の過ちでって考えたりもしたんだけど、その時のしゅん君の顔はすごい嬉しそうだったし、そのあとも恋愛初心者の私に合わせるように、ゆっくりと進んでいってくれた。
よく雑誌に載っちゃうくらいおしゃれイケメンさんのしゅん君の隣に並ぶのはいたたまれないけど、私がおしゃれをすると少し不機嫌そうに、『朱奈はいつも通りでいいんだよ。』って言ってくれるから、頑張らなくてもいいんだってちょっと安心した。
そんなしゅん君と初めて肌を合わせたのは、付き合ってからちょうど半年後。彼の部屋で、だった。
それまでは、手を繋いでデートしたり、軽くキスをしただけだったんだけど、それを友達に言ったら
「ないっしょ。まじで。ヤりたい盛りにヤらせないって、鬼だよ?まぁそれだけ朱奈のことを想ってるってことなんだろーけどさ。心の準備はしときなよ?」
普段からきっぱりはっきりモノを言う子だから悪気がないのはわかってたんだけど、ちょっぴりショックはうけた。だから、その動揺のまましゅん君に聞いちゃったんだ。そしたら彼は、
「……そりゃ、俺だって朱奈とシたいけど、でも無理やりする気はないから。朱奈がいいって言うまで、俺ずっと待ってるし。」
こんな優しい彼氏が他にいるだろうか。この優しさに私も応えたい。
「……じゃぁ、今度の半年記念に、その…………」
そう言った。しゅん君は喜んでくれて、でも気遣ってもくれて、その姿が可愛くて。ちょっぴり笑ってしまったんだ。
初めては痛かったけど、やっぱりしゅん君は優しくて、お互いテンパってたからその、避妊を、忘れてしまった。でもしゅん君は『大丈夫だよ。』って言ってくれたし、生理も来たから安心した。
しゅん君は同年代と比べると淡白な方らしく、会った時は2回だけ。週末は5、6回ぐらいで終わる。体力のない私には助かったけど、これ以上にするらしい他の人のことを思うと付いていけないだろうな。本当に、相手がしゅん君で良かった。
しばらくは穏やかな時間を過ごしていた。でも2年生になり、サークルの行事で忙しくなると、しゅん君と会う時間はどんどん減っていった。それは私のせいであり、……しゅん君のせいでもあった。
最初は待ち合わせの時間に遅れるぐらいだったと思う。いつも私より先に来ている彼にしては珍しいなぐらいの気持ちだった。
それがドタキャンになり、しまいには連絡さえも着かなくなって、おかしいと感じ始めた時にその話を聞いた。
友達曰く、彼がキレイな女性と歩いているところを何度か目撃してるとのこと。日時を聞いてみれば、私とのデートの日。
そこまで聞いても彼を信じたい気持ちが勝り、問い詰められない日々が続いたあと、決定打を見てしまった。
彼が、しゅん君が、知らない女性とキスしてるところを――――
どうやって帰ったのか覚えてない。脳裏に焼き付いているのは、しゅん君のキスシーン。しかも、……多分思い違いでなければ、しゅん君は私のことを見てた。他の人と口を合わせながら、私を射ぬくように見てた。
しゅん君が何を考えてるのかわからない。でも、私が捨てられたんだなってことだけはわかった。
最初っから、猫みたいな人だって知ってたじゃない。気まぐれで、マイペース。擦り寄ったり見向きもしなかったり。掴み所がないのがまたいいんだって、大学の女の子も言ってた。だからすぐ捨てられるよって。彼女らの言葉は正しかったわけだ。
とにかく、一度ちゃんと話してケリだけはつけないと。うやむやは、私にとってもしゅん君にとっても良くない。
そう意気込んでしゅん君を近くのファミレスに呼び出した。彼の家は様子がおかしくなった時から(多分浮気をし出した時位)呼ばれなくなったし、私の家に呼ぶのもなって思ったから。
初めはもしかしたら来ないかもって思ってた。またドタキャンされるかもって。でも、しゅん君はいた。まるで付き合いたての頃みたいに、私より先にいて、私が来ると嬉しそうに笑った。
「朱奈と会うの久しぶりだからさ、30分前ぐらいに来ちゃった。あ、何食べる?ここさ、新しいメニュー増えたんだよ。朱奈の好きなシーフード系。パスタにする?」
……なぜこんなにいつも通りなんだろう。最後の晩餐だから?別れ際ぐらいは楽しく?
でも、私は早く終わらせたい。もう、何も考えたくないの。
「……ご飯はいらない。すぐ帰るから。しゅん君、もうわかってるんでしょう?私たち、別れよう。」
「…………なんで?」
一息に言った。すぐに『わかった。』っていう答えを想像してたから、心底不思議そうなしゅん君の言葉に私の方が戸惑った。
「なんでって、だってしゅん君が……」
「俺が、なに?あぁ!もしかして最近一緒にいられなかったから?それで拗ねちゃったの?朱奈はバカだなぁ。だったらこんなこと言わなくても、寂しいって言ってくれればすぐに駆け付けたのに。朱奈がいる場所くらいわかるから。」
「?それ、どういう…」
「お互いすれ違ってたもんなぁ。寂しい思いさせてごめんね?これからは"ずっと"一緒にいられるから。」
「そうじゃなくて……!もう、お互いのためにも…」
「早く何食べるか決めないと。店員さんに迷惑だよな。」
初めて彼に恐怖心を抱いた。だって、私の言うことを何一つ聞いてはくれなかったからだ。
本当はこんな嘘を吐きたくなかったけど、これで彼が耳を傾けてくれるなら。
「……ごめんなさい。しゅん君が悪い訳じゃないの。私、他に好きな人が出来て……。」
「…………」
しゅん君の目は、見れなかった。目を合わせてしまったら、嘘がバレてしまいそうな気がして。
長かったような、短かったような沈黙の時間はしゅん君の『わかった。』という声で終わりを告げた。
「それならしょうがないよね。じゃぁ最後に俺の部屋来てくれる?朱奈が置いていったもの、持っていってほしいから。」
わかってたけど、自分から言い出したことだけど、これで終わっちゃうんだって思ったら悲しくて、俯いたまま頷いた。
だから気付かなかった。しゅん君の恍惚とした表情に――――
すぐにファミレスを出て、久しぶりの彼の家に向かった。
「どうぞ。」
しゅん君が玄関を開けてくれたから、先に入ってリビングに向かう。しゅん君はいいところのお坊っちゃんだから、セキュリティ抜群の広いマンションに一人暮らしだ。
習慣でついリビングのドアを開ければ、そこにあったのは―――
「どう?結構うまく撮れてるでしょ?目線が合わないのはしょうがないけど、朱奈の良さがちゃんと出た写真でしょ?」
壁一面に貼られた私の写真。もちろん、彼と一緒に撮ったのもあったけど、その大半は何処から撮ったのかわからないもの、つまり盗撮されたものだった。
「しゅ、しゅん君?これ……」
「俺と一緒にいない時、朱奈が何やってるか気になって。もし変な男が現れたりしたら大変だろ?だからいつなにがあってもすぐ駆け付けられるように"ずっと"側にいたんだ。……まぁ、あまり意味はなかったみたいだけど。朱奈が好きだっていう男はこいつ?それともこいつ?あぁ、こいつも朱奈に笑顔を向けられてたよね。みぃーんな駆除しなくっちゃ。朱奈をタブらかすわるいやつらだからね。」
怖かった。さっき以上に。足が竦んだけど、とにかく逃げなくちゃいけないのだけはわかった。でも、
「逃げられないよ?玄関のカギは締めたし、チェーンもかかってる。すぐに捕まるだけだよ。だいじょーぶ。朱奈がよそ見したのは、俺がもっと計画的に動かなかったせいだし。お仕置きなんかしないから。それより、朱奈?この間、嫉妬した?」
「なにいって…」
「だーかーらー、この間、俺が他の女とキスするとこ見てたでしょ?やきもち、やいた?」
やっぱり私が見ていることを知ってたんだ。
「なんでそんなことっ!」
「それに関しては朱奈が悪いんだよ?サークルなんかにかまけて俺をないがしろにするから。」
「ないがしろになんてしてないよ!」
「したよ。俺はいつだって朱奈といたいのに、朱奈はサークルを選んだじゃないか。俺がどんなに苦しい思いしたかわかる?俺の知らない奴らと楽しそうに話して、俺だけに向けるべき顔を他の奴らにもしてた。ほんとに、何度殺してやろうかと思ったか。だから朱奈が俺のことだけを考えられるように、わざと女と目立つように出かけたりしたんだぁ。朱奈は気づくの遅かったけど。あの時の、俺がキスしてたところを見た朱奈の顔はすごい可愛かった。俺のことしか頭になかったでしょ?あぁ、でも安心して。キスはあれ1回限りだし、他の女とセックスもしてないから。朱奈じゃないと俺勃たないんだよね。さ、話はこれぐらいにして、今まで会えなかった分、いっぱいシようか。もう我慢の限界だよ。」
そこからのことは記憶が朧気だ。
ベッドに縛りつけられて、気を失うまで……ううん、気を失ってもしゅん君に貫かれ続けた。
何度イヤだと抵抗しても、私の弱いトコロを熟知しているしゅん君によって、甘い声しか出せない。
私が休める時間は、寝てる間と食事をしゅん君から食べさせてもらってる時だけになった。
そんな生活が何日続いたのだろう。日にち感覚がなくなってきたころ、『ちょっと出かけてくるから、イイ子で待ってるんだよ?』そう言ってしゅん君は私を置いて外に出た。
逃げようと思えば逃げられるかもしれない。でも、私にはそんな気力もとうに尽きていた。
「ただいま」
すごく嬉しそうな顔で帰ってきたしゅん君の手には1枚の紙。
「しゅん君、それなぁに?」
「これはね、俺たちの婚姻届だよ!」
「えっ?」
「お義父さんも、お義母さんもとっても喜んでた。まぁ学生結婚になっちゃうけど、朱奈を養えるぐらいの金はあるし。これからは"ずぅーっと"一緒だよ。」
しゅん君がどうやってうちの両親を説得したのかはわからない。でも、しゅん君の顔が今まで見たなかで一番可愛い笑顔で、思わず私も笑ってしまった――――
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何がどうしてこうなったかなんてわからない。
私に言えることは1つ。
しゅん君、もう離さないでね?
洗脳完了っ!おめでとうしゅん君!!
ある意味バッドエンドな気がしますが、実はこのあとはいちゃいちゃしかありません(笑)
だって、しゅん君は思い通り朱奈ちゃんを手に入れたし、朱奈ちゃんも結局一緒にいられて幸せだからです!
ちなみに、しゅん君が避妊し忘れたことも、別れ話されることも、ぜーんぶ計画的犯行。唯一、好きな人が~のくだりだけが予想外でした!という裏設定。




