第七話 お姫様×決闘×素
互いに軽い自己紹介を終えた後、ミディアは助けられたお礼をしたいと言って俺を付いてこさせた(半無理矢理)。
着いた先はというと……
「お、お城じゃねぇか!ミディアまさか…」
「その話は後でしますのでしっかり付いてきて下さいね。城内は広いからすぐ迷子になっちゃいますよ?」
「俺、帰る。服装も身分も何もかもが不相応だし…まさかミディアが『様』を付けるほど偉い人だとは思わなかった。お礼なんていいよ、じゃ…うぐっ」
背を向けた途端に服を捕まれた。
「だぁ・めぇ・で・すっ!!これからコースケ様には私のお父様とお母様に会っていただきますから」
「なおさらこんな格好じゃだめだろ。また今度行くから、な?」
「うー…今ここで帰したら二度と会えない気がします」
(うっ…するどいな。仕方ない、この手のタイプは言い出したら聞かないんだろう…多分)
「わかったわかった、会うだけだぞ?」
「ほんとですかっ!」
(この笑顔だけには逆らえそうにないな…はぁ)
すでに女の子に逆らえないことは秘密だ。
そうして城内に入る俺たち。
門番が「ミディア様!ご無事でしたか!?」と聞いていたのでミディアはきっとさらわれたか自分で抜け出すお転婆娘かのどちらかだろう。
おそらく後者だと思うが。
そして城中が「ミディア様がお戻りになられた!!」と安堵と歓喜の声が上がるなか、隣の俺を見て「ミディア様にくっついているこの不審者は誰だ?」という目線が送られてくる。
うん、帰りたい。
俺は王の間の手前で、ミディアにちょっと待つよう言われた。
ミディアは家来達に俺はお客様だと言っていたがほとんど信じて無さそうだった(服装が庶民的なのでだと思う)。
そして王の間の扉の前の兵士に入られよと言われたのでいそいそと入っていく。
言葉使いだけは気を付けよっと。
王が玉座に座っており隣には王妃がいる。
これがミディアの両親か…王様は威厳があって怖いが妃様は優しそう。
てかめちゃめちゃ美人だ。
俺は前まで行くと頭を下げる。
すると王様から楽にしていいと言われたので頭を上げた。
「話はミディアから聞いておる。よくぞ我が娘を救い出してくれた。褒美をとらせよう」
王様が手をパンパンと叩くと家来の一人がカードを持ってきた。
「褒美は500Gある。不服ならまだ出しても良いぞ?」
500Gって…そんな大金正直いらない。
「有りがたき幸せなのですが、失礼ながら受け取ることは出来ません。そもそも私は裏路地を歩いていた所、偶々悪漢三人に囲まれた女性を見つけたので助けただけです。困っている人を助けることは当然のことです。しかし、その女性が姫様であることを知らず、馴れ馴れしく接してしまいました。罰を受けることはあっても褒美をいただく理由はありません」
「では褒美ではなく、気持ちとして受け取ってはくれぬかのう?ミディアがどうしてもと言うんでな」
「それならば有りがたく頂戴いたします」
俺は500Gを手に入れた。
「して、コースケとやら。そなたは三人の男から狭い道から傷一つ負わずミディアを助け出したと聞く。かなりの腕の持ち主だと察した。これからその実力を見せてはくれんかのう?」
(王様の願いは極力叶えるようにしないとな)
「わかりました」
「これ、ルーンを呼べ」
「はっ!」
近くにいた兵士は一人の女の兵士を連れてきた。
「ルーンにございます。国王様、どのようなご用件でございましょうか?」
「うむ、ルーンよ、そなたには今からそこにいる少年と決闘をしてもらいたい」
ルーンは不思議そうな顔をする。
「お言葉ですが国王様。私には彼が私の相手を務まるようには思えません」
(やっぱり貧弱と思われてるんだろうなー)
そこに慌ててミディアが割って入る。
「ちょっと待ってくださいお父様!別にルーンさんでなくてもいいでしょう!!コースケ様に怪我でもさせてしまっては私の命の恩人として申し訳ありません!!」
「ふむ、その通りだが…そういうことは本人に聞いてみるとしよう。コースケよ。ここにいる剣士は我が国きっての戦士だ。女だからと言って甘く見ない方が良い。我が国の名誉騎士であり、英雄でもある。決闘を断ったからと言って誰も笑いはしない。どうだ?決闘を取り下げるか??」
そこまで言われちゃ黙ってられねぇな。
英雄と言えども俺には関係ない。
「私はかまいません」
「そうかそうか、やはりそなたなら断るはずもないと思っておったよ。では剣を貸してやろう」
俺は剣を手に取り適当に素振りをした。
うん、よくわかんね。
「では両者前へ。これよりコースケとルーンの決闘を行う」
王様の合図で俺たちは向かい合う。
ルーンさんも美人。
キャリアウーマンな感じがあるぞ。
鎧を着ているがサラと違って顔がしっかり見えるタイプの様だ。
「コースケとやら、私は例えどのような敵であろうと決して手加減はせぬ。覚悟されいッ!!」
俺は頷くと剣を構える。
「始めっ!」
王の合図でルーンが飛び込んできた。
かなりのスピードだ。
普通の人なら間違いなくかわせないだろう。
…普通の人ならな。
俺は素早く後ろに下がる。
ルーンは距離感がずれたため、空振るがすぐに体勢を立て直した。
続けざまに隙無く攻めてくるが俺には決して当たらない。
紙一重で全て避ける。
「私の攻撃をかわすとは驚いたぞ。しかし避けるだけではそなたの剣は私に当たりはせん!いくぞっ!!」
再び物凄いスピードで迫ってくる。
少し脅かしてやるか。
「これで終わりだっ!…えっ!?」
俺はルーンより何倍も速いスピードで逆に彼女に近づき横にかわすと、足をひっかけて転ばせた。
その後すぐさま思いっきりビターンと転けた彼女の首元に剣先を当てる。
どうみても俺の勝ちだ。
やはりみな唖然としている。
口をポカンとあけて、この結果に驚いているようだ。
剣をどけてやるとルーンは何故か顔を真っ赤にしている。
「よくも…よくもこの私を転ばせてくれたな…………ううぅ…辱しめられたよぉー!もうお嫁に行けないッ!!コースケとか言ったよね!?次会う時を楽しみにしとけぇ!うえーーーんッ!!!!」
………あんなキャラだったとは
…あれ?みんな引いてる??
まさかみんなも知らなかったんだ…
―――――side roon
私はルーン。
このアルセウス王国の名誉騎士だ。
今日は舞踏会で私は城の警備に勤めていた。
だがしかし第三王女であるミディア様が城から居なくなったという情報が入り急いで兵士に探させるよう指示をした。
(私がついていながらなんたる失態であろうか…)
私は気が気でならなかったが取り敢えず城の中を捜索するがいない。
一時間弱探し回っていたところで姫様が自らお戻りになったと聞いた。
ご無事でなによりだ。
私は持ち場に戻り再び警備に当たっていると国王様からお呼びがかかった。
夜も更けたころになんだろうかと王の間へ入る。
「ルーンにございます。国王様、どのようなご用件でございましょうか??」
「うむ、ルーンよ、そなたには今からそこにいる少年と決闘をしてもらいたい」
私はその少年の方を向く。
年は私と同じくらいだろうか。人を見かけで判断するのは好きではないが、どう見ても強くはなさそう。
数多もの戦場を経験した熟練の戦士には威圧感があるものだが少年には何も感じられない。
むしろ庶民のそれを感じる。
本当に決闘しなければならないのか。
明らかに怪我させてしまうだろう。
「お言葉ですが国王様。私には彼が私の相手を務まるようには思えません」
「ちょっと待ってくださいお父様!別にルーンさんでなくてもいいでしょう!!コースケ様に怪我でもさせてしまっては私の命の恩人として申し訳ありません!!」
姫様も同意のようだ。
というよりあの少年は姫様の命の恩人であったのか…
これはことが終わり次第礼を申し上げておかねばな。
「ふむ、その通りだが…そういうことは本人に聞いてみるとしよう。コースケよ。ここにいる剣士は我が国きっての戦士だ。女だからと言って甘く見ない方が良い。我が国の名誉騎士であり、英雄である。決闘を断ったからと言って誰も笑いはしない。どうだ?決闘を取り下げるか??」
「私はかまいません」
コースケと呼ばれた少年はあろうことか承諾をしてしまった。
それに自信があるのかわからんがやけに余裕を見せている。
やはり私を女だと思って甘くみているのだろうか。
こうなっては相手の戦意を喪失させるほどの実力差をみせつけてやらねば。
「そうかそうか、やはりそなたなら断るはずもないと思っておったよ。では剣を貸してやろう」
彼は剣を手に取り素振りをするがぎこちない。
剣を握ったことがあるのかどうかさえ疑わしいものだ。
「では両者前へ。これよりコースケとルーンの決闘を行う」
いよいよ決闘が始まる。
私はいつものように精神を集中させる。
「コースケとやら、私は例えどのような敵であろうと決して手加減はせぬ。覚悟されいッ!!」
「始めっ!」
始めの合図と共に私は地面を蹴り、相手との距離を一気に詰める。
戦いにおいて先手必勝が私のスタイル。
一対一で私のスピードについてこれた人はそうはいない。
…が
(何っ!?)
彼は私が来るのを分かっていたかのごとく振るった剣に合わせて後ろに少し下がり攻撃がかわされた。
一撃で決まると思っていた私は勢い余って体勢を崩すが反撃は無かった。
相手も避けるのにいっぱいいっぱいなんだろう。
そうは言っても私はすぐに体勢を立て直したので隙の部分は0.1秒程度。
まぁ実際はそのわずかな時間が命取りなのだが…
(相手に攻撃させる暇など与えません)
立て直すとすぐに続けて剣を振るう。
もちろん二人ともの剣に刃はないので切れることはない。
しかし私が猛攻しているのにも関わらずかすりすらしない。
避けることに関しては上手だ。
「私の攻撃をかわすとは驚いたぞ。しかし避けるだけではそなたの剣は私に当たりはせん!いくぞっ!!」
攻撃する暇は与えていないとはいえ彼がここまで出来るのには驚いた。
だがそろそろ決着をつけよう。
「これで終わり…えっ!?」
私は先程より速度をあげて彼に迫る。
これには流石についてこれまい。
と思っていたのだが…
(何ッ!き、消えた!?)
彼は私の目の前からいきなり姿を消した。
そして私の隣に現れると…
(キャッ!!)
思いっきり足を引っかけられた。
かなりのスピードを出していたのでひどい転け方をする。
それこそビターン!という効果音が付く程。
こんなことをされたのは初めてで、恥辱の極みだ。
(うぅ…恥ずかしいよぉ)
私は急いで起きようとするが、既に喉元に剣を突き付けられていて動けない。
これはどう見たって私の負けだ。
こんな恥ずかしい負け方は生まれて初めてでその時私の中の何かがキレた。
私は素の自分で思い切り捲し立ててその場から逃げ去った。
その時何を言ったかは正直覚えていない。
私は自室で先程の行動について物凄く後悔した。
(国王様の前で逃げ出すなんて情けない…名誉騎士失格だ…)
私はしばらく部屋に篭った。
――――――side end