第五話 驚き×言い訳×共同生活
俺は自分のファイルの中の全カード二枚を二人に見せた。
サラには100Gのカード。
レイナには俺が倒して手に入れた狼のカードを渡した。
「ほ、本当に100G持ってるのね。で、もう一枚は何?石ころでも拾ったの?」
「別に嘘なんか付かないよ。それに石ころなんてファイルに入れませんっ!」
石ころがカード化するのは草原で拾った石で確認済み。
確か無駄なカードでファイルを埋め、ランダムに盗む効果を持つスキルの対策とかハ〇ター×ハン〇ーでやってたけどぶっちゃけチートの俺には必要ない。
まぁ少し前まで持ってたけどいらないから捨てた。
そしてカードをなかなか返してくれないサラからようやく取り戻すことに成功した。
「で、レイナは何でそんなにカードとにらめっこしてるの?こいつにお金以外あるわけないでしょ」
本当にサラは失礼な奴だと思う。
俺が最強能力の持ち主だって教えて軽くひねってやればものすごく驚くだろうなー。
もっともそんなことして付いてきてもらっては困るから秘密にしておく。
するとレイナはようやく口を開いた。
「コースケ…どこで…これを…?」
年下?にも呼び捨てにされる俺って一体…
レイナは持っていたシルバーファングのカードを俺たちに見せた。
すると隣にいたサラが真っ先に食いつく。
「これは…『シルバーファング』じゃない!?一匹一匹でもなかなか手強いのに群れをなして襲ってくるこいつらに一体どれだけのプレイヤーがやられたか…一匹のランクはEだけど総合的に考えると実際のランクはA以上だとも言われているの。何故なら彼らは頭が良く、獲物を自分達の有利な所まで誘導し狩る。さらにリーダーがいる限り無尽蔵に現れるという最悪な敵。それにこれはよく見たらリーダーのカードじゃないっ!
あんた…ほんとは何者…?」
早口かつ何故か説明口調でサラが喋り終えるとレイナが同意の意をもってコクコクと頷く。
(やばい…墓穴掘ったか?なんとかしてごまかそう)
「いや…これは実は貰ったんだ。俺が森を歩いているときその狼達に襲われてね。その時誰かが俺を助けてくれた。その人が狼を倒した後この世界に来たばかりで金のない俺にその狼のカードと一緒に出てきたお金をくれたんだ。俺は100Gがどれだけの価値かわかんなくてそのまま受け取ったんだけど…まさかこんな大金だったとは。こっちがびっくりしたよ」
「なぁんだ!やっぱりそんなことだろうと思ったわ!あんたみたいな貧弱男に倒せるわけないじゃない。でもその人が気になるわね…あの銀狼を倒すとなると中々の実力の持ち主。一度会ってみたいわ。アンタその人の名前は?」
「えっ?あ、そういえば聞き忘れたなぁ…何しろホントに死ぬかと思ったから気が動転しちゃってて。名前どころか顔も覚えてないよ。」
「アンタどうしようもないバカね。命の恩人の顔や名前ぐらい知っときなさいよ…まぁいいわ。そのお陰で私たちは奢ってもらえるんだから。さぁてお店に行きましょ」
(なんとかごまかせた…か?)
その後俺はサラ達に案内され思う存分おごらされた。
そこで色々為になる話を聞いた。
例えば、通貨はBSGで100Bで1S、100Sで1Gらしい。
日本円にしたら100Gは100万円くらい。この世界では地球と比べると家は比較的安く、100Gあれば一軒建つとのこと。
なんでDランクを倒しただけで100Gも貰えたかを聞いたら周りの狼たちの分も換算されるそうだかららしい。
リーダーを倒せば子分の狼達は出てこなくなる。
他にもたくさん教えてもらえた。
言葉は悪いが意外と親切なのかもしれない。
帰り際にサラに質問された。
「そういえばアンタって黒眼黒髪だけど、どこの出身?初めて見たわ」
「地球の日本ってところだけど…」
それを聞いた途端二人の様子が変わったのに気づいた。
サラなんか少し震えている
「ちょっ…どうしたんだよ。何かおかしいこと言った?」
「だっ、だって…あんた『あの』地球人なんだもの。それはびっくりするわよ」
(何でだよっ)
「何がそんなに驚くことなのか教えてよ」
「知らないの?そっか、確か地球は国民には他の惑星にも人類が住んでるなんて公表してないんだったね。いろんな意味で有名なのよ、地球は。魔法が使えなくて剣の腕もない癖に技術力だけはバカみたいにあって、そのくせ高い技術を人を殺すための武器に費やした愚かな星としてね」
(まぁそう言われればそうなのかな)
そしてサラは続ける。
「さらに度胸のある奴も少ないし。レイナにサーチしてもらったとき地球人は既に全滅したって聞いたんだけど…新しく来たのね、どうせすぐゲームオーバーだと思うけど」
(確かに度胸がないやつは多いかも知れないけどそんなの全員じゃないだろ。それにこいつ何かあったのか?遠回しでも本気で死ねとは言うような奴には見えない…)
「サラ…言い過ぎ…」
レイナがたしなめる。
「そうね、言い過ぎたわ。でも一つ言っておく。あなたたち地球人は信用できない。今度私を騙したら容赦しないから」
「サラは…地球人に…騙されて…お金を取られた…私たちにお金がないのはそのせい…」
レイナが理由を説明する。
「その後その地球人はモンスターに襲われて死んだわ。良い気味ね」
「ホントは…私たちは三人だったの…サラはその人を信用してたんだけど…裏切られて…」
「それで傷付いて…か。なら俺は行くわ。別に俺はお前らの事情なんか知ったこっちゃないし、元々関わるつもりもなかったしね。お金がないならこれあげるよ。無理矢理奢らすほど金欠なんだろ?それともそんなに信用できないならそのまま置いとけ。誰かが拾うだろ」
そう言って俺はファイルから80G分の四枚のカードを地面に置いた。
店でお釣りをもらったときかなりのカードの数になったから実は密かに邪魔になっていたのだ。
ちなみに地面に置いたのは50Gのカード一枚と10Gのカード三枚。
二人は突然の俺の行動にビックリしているようだ。
俺はそんな二人を背に向けてその場から立ち去る。
少しするとサラが叫ぶ声が聞こえた。
「待ちなさーい!まだ用は終わってないわっ!!」
「何?用事って?まだお金が足らないってことか?」
「違うわよ!護衛の『依頼料』!確かに受け取ったからね!!」
俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべているとレイナが耳打ちしてくる。
「(サラ…どうやら…あなたを気に入ったみたい…)」
「(えーっ!?どうやったらあれが『気に入る』なんだよ?どう見たって俺から搾り取ろうとしてるだけじゃないかっ!)」
「(サラ…素直じゃないから…)」
「(素直じゃないっていうかどうみてもあれが本心にしか…)」
「何やってんの二人とも!そうと決まれば今後の方針を決めるため早速会議でしょ!?さぁ、早く宿屋に戻るわよ」
(ううう…なんでこんな羽目に)
人知れず涙する俺だった。
早速サラたちがいた宿屋に着くと流石に男女一緒は不味いので新たに俺の部屋をとった(もちろん俺の金で)。
そして作戦会議ということでサラたちの部屋に向かう俺。
(本当になんでこんなことになったんだろうか…ってうわっ!)
考えながら廊下を歩いていると誰かにぶつかりその人を倒してしまった。
あわてて謝り手を差し伸べる。
「すいません。大丈夫ですか?お怪我は?」
倒れたのはどうやら女の子のようで紅い綺麗な髪を肩まで伸ばしている。うつむいている顔を覗き込んでみるとどうやらかなりの美少女。
顔立ちは整っており十人がすれ違うと十人全てが振り返るような美貌の持ち主だった。
レイナとは違った意味での美少女だ。
だが…
「あ、ありがとうごじゃ、ございましゅ。」
俺はこの娘はパッと見クールビューティーでこういう対応には慣れているのだろうと思っていたのだが全く予想を反した反応を見せてきた。
これがいわゆるギャップ萌えというやつなのだろうか…
まぁ俺には関係ないだろうな、と彼女の手を引いて起こしてあげる。
力強く引いたので彼女が俺に寄りかかってしまった時、ちょっとドキッとしたのは秘密だ。
彼女はずっと俺の手を握っていたのに気付き顔を真っ赤にしてそれこそ「ぴゅー」という音が聞こえてきそうなほどあわてて走って消えていった。
(あの娘は一体なんだったんだろう…)
俺はサラたちの部屋に着くとドアをノックして俺が来たことを伝える。
すると中からレイナの声が聞こえてきた。
「…入って」
俺はゆっくりとドアを開け中に入るとレイナがちょこんと椅子に座っていた。
二人部屋なのか俺の部屋より広く、少し豪華な気がする。
「サラは?」
「用事があるって…出ちゃった…すぐもどってくる…って…」
あいつ(サラ)は呼び出しといてなんなんだろうかと思う。
それにしてもパジャマ姿のレイナちゃんを見てると和む。
間違いなく癒し系だ。
俺は無意識にレイナちゃんの綺麗な蒼髪をなでなでしていた。
レイナちゃんは「んぅ…」となんだかちょっぴり嬉しそう。
小さな妹が出来たみたい。
もうずっとこうしとこ…
ちなみに断じて俺はロリコンじゃない!
俺はロリコンじゃないぞーッ!!
大事なことだから二回言ったよ。
だいたいこの子俺と同い年らしいし…
するといきなりバンッ!とドアが勢いよく開きサラが入ってきた。
「さぁ!早速これからのことを……って何しとんじゃこの変態がぁ!!!」
ドゴォ!!と俺は凄い音をたてベッドにダイブ。
思いっきり殴られた。
そしてベッドに勝手に入ったからという理由でまた怒られた。
んな理不尽な…
仕切り直してテーブルの周りに座る俺(もちろん地べた)。
そしてレイナにおさわり禁止の令が出た。
レイナは少し残念そう。
どうやら撫でられるのが好きらしい。
「変態には言ってなかったけど私たちは一応ゲームクリアを目指しているの。ハンターギルドにも属しているわ。ちなみに私たちは『双刃の姫君』なんて呼ばれてちょっとは有名なんだからね」
妙に誇らしげな声で説明してくる。
それにしても…
「なんで部屋の中まで兜着てんだ?暑くてしょうがないだろう」
「これについてはノーコメントよ。貴方には顔を見せられないわ。変態なんかに見られたら私の顔が腐るもの」
(さっきの女の子の乙女らしさをこいつに分けてやりたい…)
「…で、その「双刃の姫君」とやらはなんで俺なんかを連れてきたのさ」
「言ったでしょ?『依頼料』だって。私たち、どんな金でもただでは受けとりたくないの。だから貴方の行きたいとこまで護衛という形で恩を返したいってわけ。」
(へー…こういうところはちゃんとした考えもってんだな)
ふとレイナを見ると眠たいのか首をこくこくと揺らしていた。
あ、落ちそう…お、たてなおした。
「そうは言ってもねぇ…俺行きたいとこなんてないよ?旅してるからただ適当にぶらついて見えた町に行くだけだし」
適当にぶらつくっていうのは嘘だが行きたいところはないということは本当だ。
適当に近い町に『一直線』に進むのだから。
「旅…ねぇ…いいわ!私たちも丁度ハントには飽きてきたところだし、色々なとこに行かないと起きないイベントもあるかもしれないし…あんたと一緒に行く。それに知ってる人が死ぬと目覚めが悪いし。良いわよねレイナ?」
レイナは突然名前を呼ばれてびっくりしたのかうとうとしてた体がビクッとなった。
こうして二人と共に行動することになってしまった俺。
全然自由気ままには生きれそうにはない。
だがレイナちゃんもいるし頑張れそうかなと苦笑いする俺でもあった。