第四話 大都市×ケンカ×ツンデレ
俺はターズ村から三時間かけてついに大都市アルケディアについた。
中はとにかく人、人、人の人だらけ。
建物は石造建築でどこかヨーロッパの街並みを彷彿とさせる。
道には行き交う人がたくさんおり、東京の歩行者天国を思い出した。
俺は制服という異質な格好をしているのにも関わらずそんなに注目されてない。
やはり異世界人はそれほど珍しくないのかもしれない。
そんな中で俺は後ろから肩を叩かれた。
「もしもーし、あんた『シール』を使って来た奴だろ?」
俺は振り向いてそいつを見ると中性的な顔立ちをした金髪の男が立っていた。
俺より背は高く185cmはあるだろう(俺は175cm)。
腰には剣を携えている。
「誰だ、お前。俺に何のようだ??」
「まあまあ兄さんかっかしなさんなって。俺の名は『バンガ』。このゲームをクリアしようと企んでいる内の一人だ。そのための仲間を集めてる。仲間にならなくてもいいからついてきてほしい。情報交換をしよう。あんたにも悪くない話だと思うけどね」
俺は頷くとバンガという男に付いていった。
襲われる心配を考えたがチート能力があれば100%安心だろう。
それにカードなんて今草原で拾った石ころと少しの金しかないから盗られるものもない。
付いてきた先には噴水がある広場があった。
他にも15人ぐらいはいるだろうか、違う男の話を聞いているように見える。
俺はバンガに案内されて他の人たちと同様に座った。
バンガは元々の仲間だろう男に話しかけている。
「もうこれくらいが限界だろう」
もう一人の男は頷く。
「そうだな。よし、みんなよく来てくれた。俺達はゲームクリアすることを目的としたチームだ。分かっているとは思うがゲームのクリア条件はカードのコンプリート。そこで諸君達にはカードを手分けして探してもらいたい。もちろん報酬は弾む。何か質問はあるか?」
一人の女が手をあげる。
「あのぉ…報酬っていくらでいつ貰えるんですか?」
「俺たちは実は雇われてこの世界に来た。その人はシールをお金で集めるような人だ。つまりかなりの富豪。クリアしたものには一億Gが出る。俺たちで五千万G、残りをお前たちにやろうと思う。報酬はもちろんクリア時に渡す」
雇われるぐらいなのだから、この男達はかなりの腕前なのだろう。
「どうやって渡すんですか??」
続けて同じ女の人が聞き返す。
確かに報酬をこいつらがとんずらするかもしれないし、聞いておきたい。
ま、元より入るつもりはないけど。
「それは俺が金をこの世界に持ってこよう。お金は金塊で払うからどこの星でも価値は同じだ。知ってるだろう、金の価値はどこの星でも同じだって惑星連合で決められていることくらい」
俺を除くみんなはさも当たり前のように頷く。
えぇー…俺初めて知ったんだけど。
つーか惑星連合ってなんだよ。
ほんとに地球人のお偉いさん隠してたのか…
そこですかさず同じ女の人が発言する。
「あなた達が裏切る可能性だってあるんじゃないの?」
周りからは「確かにそうだっ!」とブーイングが起こる。
「その辺は大丈夫。この紙を見てくれ。これは特殊な契約書でな、もし約束が破られるとここに書いたことが起こるようにできている。試しに実験をする。そこのお前、ちょっと来い」
そう言って俺の方を手招きしてきた。
後ろを振り向くが誰もいない…って俺か。
「あっ、はい」
そして俺はその男の所へ歩いて行く。
「黒眼に黒髪か…めずらしいな。まぁいい、お前の持っている適当な硬貨をちょっと手の上に置いてみろ」
俺は財布から五百円玉を取り出して手の上に乗せた。
「お前はこの紙に名前を書き、手の上のコインをみんなに見せるようにしてくれ。名前は偽名でもいい。書いた人とその人の筆跡が一緒ならな。この契約書には今からお前が何かを喋ったらこのコインが俺の手の上に移動するという契約をする。いいな?」
俺は頷くと契約書に『コースケ』と書いた。
「よし、書いたか。これで契約成立だ。何か喋ってみろ。」
「分かった」
その瞬間に俺の手から五百円玉は消え、男の手の上に移った。
それを見たみんなは納得したような顔をしている。
俺は男から五百円玉を返してもらった。
(これは便利な紙だな)
「こうゆうことだから俺たちが金をもらってとんずらすることはない。さぁ他に質問はないか?」
そこで座っていた一人の男が手をあげた。
「方法はどうするんだ?どんな方法でカードを集めるかぐらいの算段はあるんだろ?仲間になって、さぁどうやって探そうなんて俺はごめんだぜ」
「あぁ、その点もある程度は大丈夫だ。このゲームにはカードサーチのスペルがあってな、とは言ってもカードに所持者がいるかどうかだけなんだが…いる場合はスペルで奪う。いない場合は情報収集をしてクリア条件を探す。ありきたりな方法で地道だが一番の近道だ。他にはトレードで手に入れる。入手のヒントのないカードは設定上ないからな。そのために人数は多い方がいい。ちなみに奪う為のスペルカードの支給やその説明は仲間になってもらってからではないと行えない」
(まぁ妥当なところだな。というより…それしかないと言った方がいいね)
「他に質問はあるか?
どうやらないな…それでは仲間になるやつは手をあげろ」
俺を除く全ての人は手をあげた。
(元より俺にはそんなことしなくてもいいし。ゲームクリアは暇になったらでいいか。確かランクSSSのカードは同種が三枚しかないってアンさんが言ってたっけ。俺はチートでいつでもカードに戻せるからこのルビーだけでも世界に後二枚。あいつら全て手に入れるには時間かかるだろうな…)
「じゃあ俺はこれで…」
そう言って俺はこの噴水広場を去った。
手をあげた奴等はバンガ達に付いていった。
「さぁこれからどうしよっかな?」
賑やかな街並みを歩いていくと道の真ん中に人だかりが出来ていた。
(ん?なんだ??)
俺がその人だかりの中を見に行くとどうやら喧嘩をしているようだった。
(というよりかは一方的なリンチだな。やられてるのは一般人か…相手はファイルを出してる。スキルでも唱える気か?そしたら不味い。止めに入ろう)
そう言って俺は中に入ろうとした………が
「止めなさい!!その人は一般人って見れば分かるでしょ!一般人に手を出すなんてバカじゃないの!?」
どうやら先に止められてしまったようだ。
てか全身甲冑だから顔わかんねぇ…
声は高めなんだからきっと女の子だな。
あの娘も異世界人なんだ…
つーか大丈夫なのか?
うわっ…相手の男、怒りの矛先を女の子に向けてるよ。
「なんだてめぇ…!?元はこいつが悪いんだよ。なんも知らねぇやつがしゃしゃりでてくんなッ!!」
どうやら相当頭にきてるらしい。
すぐにでも手を出してきそうだ。
「これだからすぐ頭に血が昇る単細胞は……クズはいつまで経ってもクズってことね」
「なんだとこのあまぁ!死ね!!」
そう言って男はファイルからカードを出した。
(これはヤバい!助けに行こう!)
俺が男の前に行こうとした瞬間俺を遮ろうとする手が目の前に現れる。
別の女の子が片手で俺を制す形になった。
「心配…いらない。サラは…強いから」
どうやらこの娘は戦おうとしているサラと呼ばれる女の子の仲間らしい。
蒼色のロングヘアーで黒い魔導師のローブを着ている。
年は身長から見ても多く見積もって15歳くらいってところだ。
顔つきも幼さが残っているがかなり整っており、美人よりかわいいの部類に入るだろう。
そして俺はロリコンではないっ!!キリッ
ふと、サラの方を見たらすでに男は気絶しており、被害にあってた一般人の人から感謝の言葉をもらっていた。
(いつの間に…確かに強いな)
礼が終わったのか、サラはこっちに歩いてきた。
「あんたもあいつの仲間!?レイナになにかしなかったでしょうねぇ…もし少しでも手を出したんなら容赦しないわよっ!!」
なるほど、この蒼髪娘はレイナって名前なのか…じゃなくてっ!!
「ち、違う!断じて違う!!俺は只のギャラリーなだけっ!」
まぁ若干嘘をついたがいいだろう。
てかこの娘、相変わらず甲冑着てるから顔見えないし…って、よくみたら露出度高いよこの鎧。
まさかのヘソだし!?
とうとう鎧にもオシャレを求める時代が来たのか…
っていうか守る部分少なくしてどうするよ…
「ほんとぉ?ならあんたなんてどうでもいいけど…」
「いや…この人は…プレイヤー…それにサラを守ろうとしてた…」
おいっ!レイナちゃん!!
そこは黙っておこうよ!
てかなんでプレイヤーだってバレたっ!?
俺はレイナちゃんの言葉で少しサラが驚いたように見えた。
甲冑の上からだから表情わかんないけど…
「ふーん…でレイナ、こいつの能力は分かる?」
「この人から…魔力は…感じない…運動能力も…これと言って無い…」
「はぁ!?あんたそんなんでよくここまで来れたわね…それにそんなに貧弱でこの私を助けようなんて、さっきの男ぐらいバカだわ。でも、私は助けてくれようと思った分他の奴らよりましね…あんた名前は?」
(てかなんなんだよこいつ…バカなのかましなのかわけわかんないし…なによりチョーえらそう。まぁ災難は避けるに越したことはない。名前だけ教えてさっさと逃げよう)
「幸介だ」
「ふーん…コースケね。私はサラ。でこの小さくてかわいいのがレイナよ。で、なんで魔力がないって分かったかって顔してたわね。レイナはこう見えて凄腕の魔術師で、探知の魔法に長けてるの。あなたに魔力があるかないかぐらい一発よ」
「そーなんだ。じゃあプレイヤーっていうのも魔法で?」
「……あんたそんなことも知らないなんて相当初心者なのね。あのね、一度話したことのあるプレイヤーはファイルに登録されるの。こんな常識も知らないなんてあんたバカすぎ」
(くっ…耐えろ。こいつと関わったらろくでもないことになりそうなことは明白だ)
「あははは…じゃあ俺はこのへんでぇ…」
すたすたすたーと背を向けて歩こうとしたが、服を捕まれて動けない。
「ちょっと待ちなさいよあんた!せっかく私が助けてあげたんだから何かおごっていくのが筋ってもんでしょ!?」
「えーっ!俺お前に助けてもらってないから!!」
「何言ってんの?あんたがあのときつっこんで来たら間違いなく死んでたわ。止めてあげたんだからおごるのは当然でしょ」
「もしそうだとしても止めたのはお前じゃなくてレイナちゃんだろ!!」
「つべこべ言わない!どっちにしろ『私たち』に助けられたんだから一緒でしょ?私良い酒場知ってんのよ。レイナもあそこでいいでしょ?あんた所持金はいくら?」
「うん…ご飯食べれるなら…どこでも」
「た、たったの100Gしか俺持ってないけど…(嗚呼、俺はもうこういう宿命なんだな…)」
俺が渋々狼を倒したとき手に入れた100Gのカードを見せると何故か二人はとても驚いている。
「あれ?二人ともどうしたんだ?奢れないことにショック受けた?」
「ち、違うわよ!逆よ逆!なんであんたごときがこんな大金持ってるのよ!」
「た、大金!?」
「100…Gあれば…家が…一つ建つ」
「えっー!?」
「なんであんたが一番驚いてんのよ!?ちょっとあんたファイル見せなさい!!」
「えっ!?100G含めて二枚しか入ってないよ?」
そういって俺はファイルを二人に見せた。