第三話 俺×狼×村長
ようやく異世界突入です。
4/4 誤字訂正
2011 7/30 文法&書式訂正
「ここに来て分かったけど自分の体が軽すぎる。光の速さで動くことだってやろうと思えば可能だし…でもせっかくだから極力能力は使わないようにしよう。人にたかられても面倒だし、面白く無さそうだしね。とりあえずまぁ能力があれば死ぬことは無さそうだからゆっくり行くか。
それにしてもここは何にもねぇな。近場の町はっと」
これくらいの能力はいいだろう、と俺は近くの町をサーチした。
「北東の方角か…やっぱり町のある方角も東西南北も瞬時に分かる」
俺はその場から離れて町を目指すことにした。
数十分後俺は草原を抜け森の中へと入った。この森は日の光が入らないほど草木が生い茂っており、人が歩く道だけがかろうじて見えるという整備されてない森だった。しかし今のところこれといったモンスターみたいなものは出てこない。
(あれ?町への最短ルートを通ってきているはずなのになんでこんなに道が荒れてるんだ?草原から村への通りは整備された道があると思ったんだけど…
それにしても不気味な森だな。モンスターが出てこないのが逆に怖いくらいだよ)
そうしてしばらくするとうなり声が聞こえてきた。
「グルルルオオォォォオ!!」
「な、なんだ!?」
森のどこかから獣の声がするが生い茂った草のせいで視界に捉えることが出来ない。
不味いと思った俺はすぐに声のする方をたよりに距離を把握した。
(奴と俺はここから少し離れている。そうだな…この先に広いところが有るからそこまでおびきよせよう)
俺は瞬間的にその場所まで移動した。
するとその周り囲むように銀毛の狼が十匹近く現れた。
「グルルルゥゥ……」
その中でも一際大きく左目に傷の入った狼が威嚇している。
(さっきの声はこいつが仲間を呼ぶために吠えたのか…ということはっと)
瞬時にボスらしきの狼の前に移動しドコッと頭を叩いてやると気絶した。
もちろん俺以外は誰も見えなかっただろう。
リーダーの狼がやられたのに気づいた他の狼たちは恐れをなしたのか、急いで森の奥へ逃げ出してしまった。
「このチート能力がないともう死んでたな。地形も何故か初めから分かってた気がしたし、狼との距離も一瞬で読めたし。それでこの狼どうしよ…」
俺が先程殴った狼を見ようと振り替えるとそこに獣の姿はなく、代わりに二枚のカードが置いてあった。
「なるほど倒したらカードになるんだな。これがアイテムカードか…なになに
『《シルバーファング》ランクD
常に仲間と共に行動する狼。とても凶暴だが、司令塔となるファングを倒せばたちまち逃げ出してしまう。』
このもう一枚のは…お金か
『100GランクG
この世界の通貨。』
(この作者のやつマジでパクってやがる…)
それにしても100Gって一体どれくらいの価値だろうか…狼の方は、ランクDなだけ低いんだろうな」
そう思いながら俺はファイルを出し、その二枚をファイルに入れた。
「これで良しっと。さーて町を目指すか」
再び町に向かって歩き出して一時間。
ようやく町らしき所に到着した。
「これは…町と言うより村だな。建物全て木で出来てるよ…」
その村の中へ足を踏み入れると珍しい目で住民がこちらを見てきた。住民と言っても農家の人のような格好をしている。しかし誰も歓迎のムードではない。むしろ出ていけというような敵対の視線を感じる。
すると初老の男がこちらへ向かってきた。
「ようこそ『大都市アルケディア』に属している辺境の村『ターズ』へ。私がこの村の村長を勤めさせていただいております、『リース』と申します」
「えっと…こんにちはリースさん。俺は菊地幸介って言います」
取り敢えず儀礼的なあいさつを返しておく。
「それで、菊地様とやら、この度はどうなさいましたか。この村に来るということは大都市からいらっしゃったのでしょう?言っておきますけどもこの村は渡しませんよ」
村長は睨むようにこちらを直視してくる。
ちょっと殺意を感じるのは気のせいだろうか…
「えっと…なんのことでしょうか??俺はあの森の向こうの草原から来ました。言っても信じてくれないでしょうが、異世界から飛ばされて…」
「なるほど異世界からでしたか、これはこれは失礼いたしました」
村長は慌てて謝り頭を下げたが俺はそれを必死で止めた。
するとふと村長が何かに気づいたように硬直し、下げていた頭をゆっくりと上げて目を見開いて俺を見る。
「菊地様でしたかな…?失礼ですが先程はなんと??」
「いや、異世界から来たって…」
(やっぱり言わない方が良かったのかな)
「その前です!!異世界人がいるのはさほど珍しいことではございません。それよりあなたは…『森を抜けて』とおっしゃいましたか??」
「えっ?そうですけど…それがなにか…まさか立ち入り禁止だとか??」
「立ち入り禁止なぞめっそうもございません!ただ何故あなたは無事なのでしょうか…?」
「無事って…そんな大げさな。たしかに狼には襲われましたけど別にランクDですよ?誰でも倒せるんじゃ…」
「あの狼めらを倒してくださったのですね!?
皆の衆!!
このお方が狼を狩ってくださったぞ!!これでこの村は救われた!!!!」
すると村全体から「おおおぉーーー!!!」という歓喜の声があがる。
当然訳がわからない俺は呆然とするしかない。
「何故俺が村を救ったことに…?」
喜びの顔を満面に出している村長リースは今なら何でも答えてくれそうだ。
「これはこれは…再び失礼いたしました、英雄菊地幸介様。実はですね、このターズ村、あの狼どもにはほとほと困らされていたのでございます。
もともとこの村はガーナ草原と大都市アルケディアとを繋ぐ近道でございまして、それはそれは沢山の旅行客や商業を営む人たちで賑わい、立派なものでした。
しかしある日を境に沢山いた人たちは去っていき賑わっていたこの村も今では税金を払うことすら出来なくなってしまったのです。
ある日と言うのはあなた様が倒された狼が現れた日でございます。奴等は見境なしに人を襲うのです。討伐しようと傭兵を雇ったこともあったのですが、いかんせん数が多く、獣とは思えぬほどの連携を持っていましたので狩りにいった者たちは次々と返り討ちにあい、ついにはあきらめていたのです。
実はお恥ずかしい話ですが、村を完全に売り払う意見も出てたりしていまして…ほんとにあなた様のおかげでこの村は救われました。
これでまた以前のような賑わいを取り戻せます。
今度あなた様の銅像を建てようと思うのですが、どのようなポーズがよろしいでしょうか?」
いつの間にか俺の周りには村中の人が集まってきてやんややんやとお祭り騒ぎになっていた。
「俺はたまたま狼が狩れただけで英雄でも何でもないです。それと俺の名前はあまり他の人に言わないでください。目立ってしまうの好きじゃないんです。銅像なんて以っての外。それでは行かなきゃいけないので」
「そんな…せめて一泊だけでも…」
「いや急ぎの用事がありますので…また時間が空いたら来ます。ではその時までに俺に賑わったターズを見せてください」
俺は用事などなかったがとりあえず大都市とやらに行ってみたかった。
そしてほんとに賑わったこの村も見たいと思っていた。
リースさんは心底残念そうにしていたが俺に渡したいものがあると家に戻っていってしまった。
「これはまだ繁栄していた時来ていた行商人からいただいたものです。大変価値があるらしいのですが私たちには必要無いのであなた様に差し上げます」
そう言って村長は俺に一つの真っ赤なペンダントをくれた。それは俺の手に渡ったときに一枚のカードとなった。
「えっと…
『《真実のルビー》ランクSSS
このペンダントをかけている者が触った贋物は全て消え去る。ふるいかかる厄災からも逃れられると言われている伝説の宝石』
って最高ランクのアイテムじゃないか!!これはせっかくいただいたものだしカードとして集めるんじゃなくて首にかけておこう。
リースさんありがとうございました!!」
俺は早速真っ赤に輝くルビーのペンダントを首にかけた。
「こんなものしか用意できませんでしたが喜んでいただき嬉しいです。よく似合っておられますよ。それでは幸介様の旅をお祈りしています」
俺は大都市アルケディアに向かって旅立つ。村の人たちは俺が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
しかし俺は何か引っ掛かることがある。
(あれ?そういえば、なんでランクDのモンスター倒しただけで最高ランクのSSSのカードが貰えたんだろう…ま、貰える物は貰っとくか)
あまり気にしないことにして先を急いだ。