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LUCKY PRESENT  作者: みっち
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第三十三話 潜入×決着×全貌

みなさんお久しぶりです。


たいへん長らくお待たせいたしました。


「さて、レインは…っと」


 幸介は現在ケンプティア城の屋上にいる。

 警備が手薄だろうという推測でここに瞬間移動してきたのだが、もちろん何人か見回りの兵はいた。

 今は全員におねんねしてもらっている。

 いきなりレインのいる場に現れても良いのだが、幸介にとってめんどくさいことになること請け負いなのでこうして兵士の恰好をちょうだいした次第である。

 ということで全身甲冑姿の幸介はそのまま城内へとすんなり忍び込むことに成功した。


 途中上官らしき偉そうな人とすれ違う際にはもちろん敬礼を忘れない。


(あれ? 敬礼って現代風の軍隊的な感じじゃなかったっけ? こういう古風な感じの騎士でも使えんの?)


 そんな幸介の心配は杞憂だったが、他の兵士はある点において幸介を心配していた。


(((あいつ、上半身の鎧前後逆じゃんっ!!)))


 鎧というものを今まで着たことのない幸介にとっては仕方がないことなのかもしれない。

 しかし彼にそのことを教える者は誰ひとりいなかった。


 そんなこんなで何事もなく医務室の前に着いた幸介。

 中の様子を覗いて見ると、大急ぎで動き回っている医者達と一つのベッドを囲んで一生懸命魔法をかけている僧侶達の姿があった。

 そのベッドの中には鎧を脱がされたレインがまるで死んでいるかのように目を閉じて眠っていた。


「駄目です! 私たちの魔法ではこの毒は強力過ぎて解毒出来ません!!」


「医療班は早く解毒薬をっ!!」


「こ、こんな特殊な毒は初めてだ……そんなに早くは無理だっ!!」


「しかし……このままではレイン様は……30分後には死にます!! それまでになんとかして下さい!!」


「さ、30分だとッ!? 後丸一日は最低でも必要だ!!」


 魔法をかけている僧侶らしき人と、解毒薬を作っている医者との掛け合いがレインの状態がただごとではないと物語っている。

 幸介はたまらず医務室の中に飛び入り、レインの元へ駆け寄って手を握った。

 彼女の手は氷のように冷たく、生きているように感じ取れなかった。


「な、何をしているんですか!? この人は急患ですよっ!? 早くどいて下さい!! 治療の邪魔です!!」


 僧侶の声が聞こえていないのか、幸介はその場から動かずレインの手を強く、強く、握りしめている。

 そして兜を脱いだ後、彼女の耳元で言葉を大事そうに囁く。


「……レイン……来てやったぞ。ほら、朝だ、起きろよ。こんなところで寝てる場合じゃないんだろ? だってお前は俺を守ってくれるって言ってたじゃないか。……それにそんな薄着で風邪でもひいたらみんな心配するよ、こんなに冷たくなってさ。お前には俺やマゥっていう帰ってくるところがあるんだから、な?」


 するとレインはその声に反応するかのようにゆっくりとまぶたを上げる。

 周りの僧侶やら医者やらは動きを止め、彼女が起きたことに驚き、奇跡が起きたと唖然としている。

 そして彼女は口を開き言葉を発した。


「私は……生きて……いるのか……? ……コー…ス…ケ? なんで、私の前に……? そうか、また、助けられたのか。私は……ほんと……困った奴……だな。こんな……こんな……鎧を前後逆に着ている奴に、二度も助けられるなんて」


 途切れ途切れな口調だが顔が少し綻びているのを見ると、幸介は少し安心した。


「あははは……どうりで、背中が痛かった訳だ。今度からは前後逆に着ても大丈夫な鎧を着ないとな」


「そういう……問題ではないだろう。ふふっ、まぁコースケらしいな。私はもう、大丈夫。私に毒を盛った奴も分かった。そいつが黒幕に違いない。行こう」


 レインはベッドからゆっくり降りるといつもの鎧を下着の上から着用する。


「そうだな……体力も回復させてあるけど、いけるのか?」


「もちろんだ。なんたって、私はコースケを守ると誓ったからな」


「ばーか。女に守られる趣味はねーよ」


「ふむ、さっきと言っていることが違うぞ?」


「なっ!? 聞いてたのか!?」


 幸介は顔がみるみる熱くなっていくのを感じてそっぽを向いた。

 そんな幸介の様子を見てレインはニヤリと頬を緩める。


「あの時のお返しだ」


「ったく……」


 そっぽを向いたまま幸介は右手で後ろ頭を掻いた。

 そしてレインが照れ臭そうにボソッと呟く。


「……ありがとう、コースケ」


「ん、なに?」


 呟かれた言葉は幸介に正確には届かなかったのか、レインに背中を向けていた彼は向き直して聞き返した。


「な、なんでもござらんっ! さ、早く行くでござるよ!」


(なぜに侍口調……)


 どれだけレインが慌てたかは口調の変化で明らかだろう。

 しかし幸介は彼女が慌てたということにすら気づいていない。

 鈍感男ここに極めり、である。


――――――――――


 二人がやってきたのは宰相の部屋。ミディアを連れ去った張本人、カルムがいる部屋だ。


「ここなんだな? この中にいる奴がミディアをさらい、レインに毒を盛った奴がいるんだな」


「ああ」


 レインが頷くのを見ると幸介はノックもせずにその重い扉を開ける。


 中には黒いスーツを身に纏った男が立派な椅子に腰をかけていた。

 その男……カルムは腕組みをして幸介を睨んでいる。


 幸介は初めてカルムを見ると鎧であったりスーツであったり世界観ばらばらだなと思ったが、すぐにここがシールによって集められた世界だったと思い返すと一人納得した。


 カルムは突然の来訪者に多少は驚いたが、別段慌てた様子は見せない。

 ……幸介の後ろからレインの姿が見えるまでは。


「なっ……!? どうしてお前が!? 確かに私は……」


「毒を盛った……か?」


 レインがカルムの言葉を代わりに続ける。


「生憎俺が治さしてもらったからなぁ。レインはほら、この通り何の後遺症もなくピンピンしてるよ」


「ば、馬鹿な!? それこそこの私が特別に作った毒だぞ? 魔法を無効化し、毒を解析して薬を作るのに三日は必要なほど複雑なものにしたはず……お前、何をした!?」


「何を……か。それはお前に問いたいよ。俺の仲間二人を危害を加えようとしやがって……それだけじゃねぇ!! お前の部下をけしかけてもう一人の仲間のアーニャを……殺しやがった!! 俺はそこにいたんだ。忘れたとは言わせねぇ……」


「……ふっ、彼女を連れてここに来たということは、あなたは全て知っているのですね。しかし、そこにいたのならあなたが守ってあげれば良かっただけのことではないのですか? あなたの力不足を直接手を下していない私のせいにするのはお門違いな気がしますがね」


 落ち着きを取り戻し冷静な口調に戻ったカルムはジロリと幸介の目をまるで射抜くかのように直視する。


「それは……「コースケは守った!!」」


 二の句が継げない幸介を庇うようにレインが叫ぶ。

 それはまるで城中に響き渡るかのような……腹から、いや彼女の心からの叫び声だった。


「コースケは守った……守ってくれた。アーニャは死んでしまったけれど、コースケがいなければ何も分からずみんな死んでいた。私もアーニャも、誰にも気づかれずにひっそりと死んでいた。墓も作られず、見舞われることなくただ死んでいた。悪いのはお前達だ!! 人を簡単に裏切り、簡単に殺し、そのくせ平然としているお前達は悪だ!! よくもそれを人のせいになんか出来るなッ!? 絶対に、絶対に許さない……」


 レインは自分の手から血が滲み出るほど拳を固く握っている。

 対してカルムは2対1という状況にも関わらず相変わらず余裕の表情だ。


「許さない……ね。で? どうするのですか? 私を殺しますか? 仲間が殺されたのと同じように」


「もちろんだ! 許さないと言ったはず、泣いて請うてももう遅い!!」


 レインが自分の剣に手をかけ、カルム目掛けて斬りかかろうとしたが幸介がそれを制した。


「コースケ!! どうして止める!?」


「レイン、怒りに身をまかせてなんになる。確かにこいつは憎い、今すぐ殺してやりたいぐらいに…… でも復讐なんて後でいくらでも出来る。俺達はまだミディアをさらった理由も、アーニャを殺し、俺達を殺そうとした理由も何も聞いていない。復讐はそれからでも遅くないはずだ」


「理由……理由ね。そんなことが聞きたいのですか? 理由なんて単純明快、単にプレーヤーの数を減らしたいだけですよ」


「プレイヤー……? 何故そんなことを?」


「どうして? 何故? あなたたちはそればかり。少しぐらいそのちんけな脳みそを使って考えてみてはどうです? もっとも、もう考える暇などありませんがね」


 カルムがパンと一度手を叩くと突然幸介とレインを何かが襲った。レインは何とかそれを躱し、幸介は片手一つでたたき落とす。二人を襲ったのはナイフで、飛んできた方向からは見覚えのある二人の女性が現れた。


「ついに現れたかフィーネ!! クライン!!」


「一度は見逃してあげたらしいですがね、二度目はありませんよ。この高性能のドール達からは逃げる術などありません。人間との戦闘能力の差を見せつけてあげなさい」


 再びカルムの指示でナイフを投じたフィーネとクライン。今度は二人も同時に幸介に向かって攻め立てる。しかしナイフと二人の攻撃が幸介の体に届くことはなかった。


「兵法ってのがわかってねーな。最初に最強を狙ってどうするよ? 言っとくけど俺はお前たちを許すつもりはねえから覚悟しとけっ!!」


 幸介は二人の頭を鷲掴みにすると彼女たちはピクリとも動かなくなった。


(これが、コースケの本気……)


 レインとカルムはいきなり戦闘不能になった二人を見てただただ唖然とするばかり。


「どっ、どういうことだ……ドールは人間の持ち得ない力を持っているのではなかったのか? それともただ不良品だったのか? 何故だ? どうして……」


「何故? どうして? さっきからそればっかりだな、くず野郎。少しはそのちんけな脳みそ使って考えてみな」


 膝から崩れ落ちたカルムへとゆっくり歩み寄る幸介。尻餅を付いているカルムはそのまま壁まで追いやられる。その顔は恐怖に染まっている。


「最初に言ったが、復讐なんていつでもできる。お前をブチ殺すのは後回しにしてやってもいい。だからお前の目的とそこに倒れている二人について話せ」


 幸介の殺気にあてられたカルムはびくつきながらその全貌を明らかにした。

 ミディアを連れ去ることでアルセウスとケンプティア間に戦争を起こさせる。そうすることでプレイヤーを大量に殺すつもりだったらしい。そしてその時にカードを狩り、さらにプレイヤーの数を減らすことで稀少価値のあるカードを入手しやすくする……という計画をカルムが一人実行に移そうとしていたのだ。

 そしてフィーネとクラインはドールと呼ばれる人形らしい。詳しいことについてはカルムにも分からないようだ。自分は人形屋という人物から購入しただけだと言っていた。


「これだけ話したんだ。もう許してくれ。いや許してくださいっ!!」


「何を抜け抜けと……お前がしたことは反逆罪もいいとこだ!! 直接私が切り捨ててくれる!」


 レインが鞘から剣を引き抜くとその先端をカルムの喉元に突きつけた。

 しかし再び幸介がそれを制す。いよいよレインも黙ってはいられない。


「コースケッ!! もういいだろう! このままこいつを放っておいて私の怒りはどこへ向ければいいんだ。聞くことも聞いた。もうこいつに用はない」


「レイン、落ち着こう。お前の怒りは分かる。でもな、俺は思ったんだ。こいつの言うとおりここで俺達がこいつを殺してしまえば、こいつと同じなんじゃないかって。 ただの綺麗事かもしれないけど、俺はそっちのほうが嫌だって思うんだ。レインはどうだ? こんなやつと同じことをしてまで自分の怒りを鎮めたいのか?」


「それは…… しかしこいつはどうする!? このまま野放しにしておけないぞ?」


「この国の王様にこいつの口から全てを供述させるんだ。そして処分はそこで決めてもらおう。生き残るかもしれないけれどただでは済まされないだろう」


「そういうことなら……しかしコースケも許すつもりはないと言っていたではないか」


「ああ、許すつもりはないさ、だからこいつらには死んで欲しくない。死んで逃げることなんて簡単だから。生きてその罪、償わさせる」


「そうかわかった、それならコースケに任せる」


「ありがと、レイン。レインならわかってくれると信じてたよ」


 そう言ってレインの頭を優しく撫でる幸介。レインはしばらく気持ちよさそうにしていたが我に返ると顔を真赤にして叫んだ。


「な、な、なにをしてるんだこのバカコースケ!!」


「あ、いつものくせで……」


 幸介はいつもレイナを撫でているくせでついうっかりレインを撫でてしまった。まあ名前も似ているし仕方ない。


「いつもって……いつもこんなうらやま……ごほんっ! いやらしいことを誰かにしているのか!? 今日という今日は許さんぞコースケ!!」


 かくして大事なことを忘れつつ、取りあえず戦争という危機を脱した幸介達だった。

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