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LUCKY PRESENT  作者: みっち
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第三十二話 姫×ひよこ×大脱走

お待たせしました


――――side Midia


 可愛らしい関西弁のひよこが仲間になったのはいいが、相変わらず脱出の目処は立たない。


「はぁ……こうしている間にもコースケ様が泥棒猫共の毒牙にかかっていると思うと……いてもたってもいられません! かと言って私にはピヨちゃんが一匹だけ……どうしましょう?」


 牢獄の中で歩き回るミディアをよそにピヨちゃんことフェニックシュはショックを受けていた。


「な、なぁ? いい加減にその『ピヨちゃん』言うのやめへん? わいにもメンツゆーもんがあるんや。確かにあんたはわいのマスターで決めたことは絶対。やけどそれやとキメ時になんか締まらん。ほんま頼むわー。ほら、このとおり!」


 フェニックシュはミディアに頭を下げるが彼女は部屋をぐるぐる歩き回っているだけで、取り合おうともしない。

 しかしふいに立ち止まるとフェニックシュの方を振り向いた。


「分かりました。そのかわりここから脱出させて下さい。脱出出来たらピヨちゃんと呼びません」


「脱出ゆーてもわいにはここから離れられへんし……せや! あれを使えばええんや!」


 ふと何か思いついたように叫んだと思うとどこからともなく自分の背丈より長い短剣を取り出した。

 その体のメカニズムが気になるところだがそれは一旦おいといて、ミディアはその短剣に目を向けた。


「それは……一体?」


 すると小さな黄色い不死鳥は誇ったように話す。


「ふっふっふっ……これはな、伝説のひよk……ごほんっ! 不死鳥七つ道具の一つ、『妖剣ピソード』や!! これさえあればこんな所とはおさらば出来るで!」


 ミディアはあらゆる角度から精神的衝撃を受けた。そして彼?のメンツとは見栄のことではないのかと思い始める。


「こいつの特性は、見えないものを斬る力。空間にしろ魔力にしろ、見えへんものならなんでも斬れるで。せやけど逆に見えるものは何にも斬れへん。どや? なかなか凄いやろ?」


「でも、見えないものなんて今斬っても仕方ないですよ?」


「ミディアはん確かプレイヤーやろ? この牢獄には脱出防止の為にカードを使うことが出来へん魔法とがかかっとる。ところがどっこいこの剣を使えば、その魔法を解除出来るんや。後は移動のカードでおさらば言うこっちゃ」


 フェニックシュの話によれば確かに脱出は可能だ。しかしミディアの顔は晴れない。


「どしたん? もっと喜んでもええんやで?」


「い、いや……その、ですね、私実はカード一枚も持ってないんです」


「な、な、な、なんやてー!! ……と、こんなこともあろうかと実は脱出用のカード1枚持ってんねん。あ、でもこれ『ドリフト』やわ」


「出られるんならなんでも良いです! ありがとうピヨちゃん!! これでコースケ様の元に……」


 フェニックシュを思い切り抱きしめるミディア。しかし彼女は気づいていなかった。これからもっとひどい目に遭うことを。


「結局ピヨちゃんなんかい……約束なんて綺麗さっぱり無かったことにされとる……もうあんたを説得するのは無理な気がしてきたわ。でもそのカードは……あっ!」


 ミディアはフェニックシュがカードの説明をする前に取り上げてしまった。

 そしてカードを使用する。


「『漂流ドリフト』オンッ!!」


 一人と一匹はケンプティアから忽然と姿を消したのだった。



――――side end



一方レインとの連絡が急に途絶えてしまった幸介はある反応に気づいた。


「ん? ミディアが帝国から消えた? どうなってんだ、あのひよこ何してんだよ。レインもいきなりどうしたんだ? 二人の身に何かあったのか? 城では何が起きてるんだ!?」


 しかし自室で叫んだところで何にもならないと思い、立ち上がって城へ行く準備を始めた。


(ミディアはひよこがついているとしてもレインは一人だ。それに連絡が突然途絶えたのが気になる。指輪があるにしても念を入れておいたほうがいいな。ミディアの方はとりあえず城から脱出したと見ていいのかな? そういえばたしかひよこに脱出用のカード渡したし……それを使ったのかもしれない。何のカードかよくわかんなかったけどカード屋の店長は脱出ならこれが一番いいって言ってたし、大丈夫なはず)


 幸介がフェニックシュに渡していたカードこそ「漂流ドリフト」なのだが、この効果は使用者一人を自分が行ったことのない町へ飛ばすというもの。確かに問答無用に飛ばすという点では脱出にうってつけだ。


 カードはたいてい五枚一組10シルバーでパック売りされているのだが、一枚一枚バラで買うことも出来る。しかしその場合価格がカードのレア度によって決まるため、パックで買うより何倍もすることがある。「漂流ドリフト」はランクはC。Cランクをバラで買おうと思ったなら一枚10G前後と破格の金額が必要になる。

 カードはスペルカードとトレジャーカードとモンスターカード、そしてノーマルカードの四種類に分けられる。

 スペルカードは使用することで何かしらの効果を得ることが出来るカードで、F〜Sランクまである。店ではランクBまでがバラ売りされている。ランクA以上はパックで当てるか、イベントをクリアするしか入手する方法はない。

 トレジャーカードは使用するとそれに描かれた特殊な物体が具現化して出てくるカードで、D〜SSSランクまで存在し、このトレジャーカードを全種類集めることでこの「名も無き世界」においてクリアとなる。もちろん非売品。

 モンスターカードは魔物等を倒すことで手に入るカード。ランクはG〜SSまで。

 最後のノーマルカードはいわゆるその他一般的な日用雑貨に当てはまる。ランクはGしかなく、お金もここに分類される。カード店以外で売られている。つまりカード店ではスペルカードしか扱っていない。

 ――以上が幸介がカード店に出向いてそこで初めて知ったことだ。カードコンプリートがクリアの条件だとは薄々気づいてはいたが、アンが教えてくれなかったことが普通に分かってしまうことに少し呆気にとられた。


 そして幸介は確かにミディアの現在地は分かるが、それが何と言う名前の場所かは分からない。

 幸介がこの世界に初めて来てシルバーファングと戦った時、地形があらかじめ分かっていた。それは彼の空間認識能力なのだが、それを発動させるにはそのエリアあるいは町の名前を知っておくことか、もしくはそこに足を一歩でも踏み入れておく必要があるという条件がある。それを満たすことでそのエリアあるいは町の地形全てを把握することが出来るのだ。

 そして地形を認識しておかないと瞬間移動は発動しない。

 もちろん場所は分かっているので瞬間移動でなくとも直線的に高速で移動すれば確実に到着する。


 しかし今はミディアよりいきなり通信の途絶えたレインの方が一刻を争う可能性が高い。彼女はただ単に恥ずかしさに悶えているだけなのだが……

 まったく迷惑な話である。


「俺、今からレイン助けに行かないといけなくなったんだけどさ、マゥは大人しくお留守番してくれないか? 今回は目立ったらいけないからマゥは連れていけないんだ。ごめんな、お土産持って帰ってくるから許してな」


 マゥはムスッとほっぺを膨らましたがお土産と聞いてすぐに笑顔になる。


「マゥね、おみやげ焼きそばがいいなー」


「焼きそば? 分かった、じゃいい子にな」


 幸介はマゥの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 マゥはうんっと大きく頷くと「おとなりさんと一緒に遊ぶー」と楽しそうにしている。


「ん? マゥがお世話になったって言うお隣りさんか。ついでにお礼も兼ねて挨拶しといた方がいいかな。俺が帰ってきたらそのお隣りさん俺にも紹介してね」


 そして幸介は部屋からいなくなった。



――――side Rain



 レインが恥ずかしさでうずくまっていたところに、給仕の少女とカルムが駆け付けてきた。


「君はそこで待っていてくれ。私が彼女の容態を確認し、処置を施そう」


 カルムは給仕の少女を制し、レインに近づけないようにする。

 二人が心配して来てくれたことに気づいたレインは慌てて無事を伝えようとする。


「カルム様、私は大じょ……」

(何だ? 言葉が出ない! それに体の自由が……意識はあるのに……)


 カルムに触れられた瞬間レインは言葉が出なくなり体が動かなくなってしまった。


「た、大変だ! 彼女は毒を盛られているッ!! 私は直ちに解毒にあたるから君は早く医療班を!!」


(毒って、何も……私は大丈夫なはずだぞ?)


 カルムが少女の方を向いて医療班を呼んで来させる。

 広い客室は必然的に二人だけとなる。


「レインさん、あなたに恨みはないんですがここで死んでもらいます。慢性的な毒にしますのですぐには死ねませんが大丈夫です、死ぬときは一瞬ですから。あ、心配しなくてもこれは私特製の毒で、解毒薬は私にしか作れませんよ」


(そ、そんな……まさかカルム様が…… はっ! 指輪は!?)


 しかし幸介から渡された指輪は調べる為に一旦外して、悶絶したときに落としたままだった。

 手の届く位置にあるのに体の自由が効かず手を伸ばすことが出来ない。


 やがて給仕の連れて来た医療班が到着した。


「彼女は何らかの毒に犯されている。一通りの解毒魔法を試してみたんだが、ダメだ! 私にはこれ以上出来ない。後は任せた! 一刻も早く彼女を救ってやってくれ」


(何を……言っているのだ! 全てこいつがッ!! クソォッ!! ……コースケ……役に立てず、すまない…… 私を……私を、女の子と見てくれて……嬉しかった……)


 そしてレインの意識は薄れていった。



――――change side Beiku



 剣士になることが決まったベイク。ようやく本格的な修行が始まるのだが、まだ彼には気になることがあるようだ。


「あの……フィーネ? 僕剣士になるのは分かったんだけどさ、もし剣士になったとして前のような物理攻撃が効かない相手と戦うことになった時どうすればいいの? フィーネは炎使えって言ったけど剣士だから魔法使えないと思うんだけど……それともやっぱりカードでなんとかするしかない?」


「それは後々やる予定だったんだけど……まぁ説明だけはしておこうかしら。結論からすれば剣士でも魔法は使うわよ」


「ええっ!? それじゃ魔剣士じゃないか!?」


「使うって言ってもサーチとか初歩的な魔法。いい? 魔力をエネルギーに変える……まぁこれを『練』って言うんだけど、だいたいみんな常に大半の魔力をエネルギーにしてんの、内か外にね。それは練るには時間がかかるから。いちいち戦う度に練ってたら隙だらけでやられ放題。少し魔力を残して後は常に練った後の状態でいる、これが基本の戦い方になる訳ね。だから剣士が物理攻撃をレジストする敵と戦うとき、余りの魔力を外に練って魔法を使うの。練る量が少なければそれだけ早く練れるから初歩魔法ならそんなに時間はかからないし。分かった?」


「だったら最初から余った魔力を反対側に練ってればいいんじゃないの?」


「これは魔剣士が少ない理由の一つにもなるんだけどね、外と内のエネルギーを同時に保ったままにするのって、類い稀なるセンスが必要になるの。それこそ天才と呼ばれる一握りの人間のみ。やってみたらわかるけど、すっごく難しいよ? 練れたとしてもお互いに反発し合ってまともに動けたもんじゃないから。まぁそれはいいとしても、魔力には『練』以外にも使い道があるってこと」


「他の使い道?」


 ベイクがフィーネの言葉をおうむ返しする。


「そうね、最初にやった基本の魔力の解放。あれを応用してやれば攻撃出来たりする。いくよっ! 破ッ!!」


 フィーネが掛け声をあげるとバンッという音と共に彼女から見えない衝撃波が発生し、ベイクは十数メートル吹き飛ばされた。

 ベイクは何が起きたか全く理解出来ていない様子で目をパチクリさせながらゆっくりと起き上がる。


「いてて……今何が起きたの?」


「今のはある程度の魔力を一度に解放させる『爆』って技。あまりダメージは与えられないけれど、相手を吹き飛ばして間合いを取れる。ちなみに、魔力の解放をそのまま『解』とも言うよ」


「す、すごい……僕も出来るようになりたい」


「まぁそれも修行しだい。この『爆』をさらに応用したのが『蹴』ってのがあるんだけどそれはまたの機会ね。取りあえず最初は『練』を覚えないと話にならないわ。感覚的には『解』した魔力を大気に出さずに体に閉じ込める感じかな。そして『練』を維持することを漂うという文字で『漂』っていうの。そんなに難しくはないからやってみて」


「まぁいまいち理解出来ないけど最初は『解』だね」


 ベイクは言われた通り自分の魔力を徐々に解放していく。


「次は……魔力をエネルギーへと練り変える『練』。なんか魔力とは違う感じ。体がポカポカしてくる」


 解放された魔力がベイクの体の中へ体内エネルギーへと変わりながら集束していく。


「最後に練ったエネルギーを体内に漂わせる『漂』。うわぁ……なんだかこれだけで強くなった気分」


「気分じゃなくて強くなってるよ。ほら剣を使ってこの前の蛙を倒して」


 ベイクはフィーネから投げ渡された両手剣を手にすると、目の前に現れた前回惨敗した巨大蛙を直視する。


「やあぁッ!!!」


 そのまま蛙目掛けて直進。以前とは比べものにならないほどの速さだ。そしてその手に持っている両手剣を振りかざし、蛙の脳天へと勢いよく振り下ろす。


 ズバッ!!!!


 豪快な音と共に蛙は真っ二つになった。

 そしてその残骸はカードへと変わる。


 そのカードをフィーネが拾った。


「おめでとー。ようやく大きな一歩を踏み出したって感じ? このカードはベイクんだよ」


 ベイクはフィーネから手渡しされたカードを覗くと少しショックを受けた。


「やっと倒せたと思ったらランクF……でもあいつ物理攻撃効かないんじゃなかったっけ?」


「ん? そんなこと言った? ってああ! あれ嘘。あんな雑魚キャラがそんな訳ないじゃん。ただベイクが弱かっただけだよ」


 その言葉に追い打ちをかけられさらにへこむ。


「それと今日から毎日『解』から『漂』まで一連の流れを毎日練習! そして『漂』を保ったままの生活になれること! 戦争までに出来るだけ鍛えたいから。分かった!?」


「はいっ! 師匠!!」


 気を取り直したベイクの元気のよい返事がまっさらな草原に響き渡る。


――――side end



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