第二話 俺×受付×ヘタレ
俺は普段より早く起きた。
手元の時計を見るとまだアラームのなる30分前だった。
「めずらしいな、俺が自力で起きるなんて。あ、そういえばシールはどうなったんだろ?」
俺は起きてパジャマのまま机を見る。
別段変わった様子はない。
気になる点と言えばシール台紙が無くなったぐらいだがそんなことはどうでもいい。
「少し早いけど準備するか」
制服に着替えていつもどおり朝の準備をする。
「そういえば被害にあった人って皆外に出るときに消えたんだっけ?一応剥がしておこうかな」
部屋に戻り机のシールを剥がそうとしても剥がれない。
「あれ?このシールこんなに粘着力あったっけ??」
ところがどんなに力を入れても爪で剥ぎ取ろうとしても傷一つ付かない。
「これってまずくね?いくらなんでもこんだけ力入れて剥がせないってのはおかしい。まぁ十枚ないといけないらしいし…うーん、でも家出るのが怖いな…」
そんなことしているうちに時間は刻一刻と迫っていき、あっという間に家を出なければ遅刻してしまう時間となった。
「うだうだ言っててもしょうがない。もうどーにでもなりやがれっ!!」
ばっ!と勢いよく玄関のドアを開けると俺は真っ白で四角い部屋の中にいた。
「ここは一体…まさかあの『シール』の力で?」
すると目の前に女の人が現れた。
どこかの会社の受付嬢を彷彿とさせる雰囲気を身にまとっているが見たこともない服装だ。
(…というよりは機械みたいだな)
突然現れた受付嬢らしき人を観察していたら喋り始めた。
「『名も無き世界』へようこそ、菊地幸介様。私はこの世界の案内人を勤めさせていただきます、『アン』と申します」
抑揚のない声で語りかけてくる女性はどうやらアンさんというらしい。
「まずはこの世界についての説明をします。この世界は言わば別の次元にあり、全惑星の中の『シール』を十枚集めることが出来た者だけが訪れることのできる空間です」
「全惑星?地球以外にも人いんの?」
「はい、もちろんですが」
「まじですか…そうするとここには全ての星の人たちがいるってことになるけど…でも地球では他の星にはとても生物の住める環境がないといわれているよ??」
「そのことはそちらの星の偽装工作です。だいたい全ての星にはあなたと同じような『人間』が生活し、文化を営んでいます。あなたの星はそのことを意図的に隠しています。他星との貿易により多大な利益が生じてしまいその利益を独占するためです。他の国には最も権力の強い国が何かしらの圧力をかけています」
(それは俺に言って良かったのだろうか…)
アンさんは続けて言う。
「ではこの世界の目的ですが…これと言って特にはありません。人それぞれと言った方がいいのでしょうか。
この世界には全惑星の鉱石や珍しい物などが沢山あります。持ってかえって売れば何兆円もの金額を一挙に手に入れることも可能です。他には武道を極めんとする人や自分の夢を叶えたいという目的でも何でも良いです。
一応クリア条件はあるのですが、それは自力で探してください。」
「じゃあ戻れたりするッ!?」
「そこが問題なのですが、この世界はあなたたちの世界で言う魔法というものが存在します。しかし魔力少なき者が使うには『スペルカード』が必要となります。
例えば『ファイア』の魔法が使いたいときは、そのカードを持って『ファイアオン!』と唱えます。するとファイアの魔法が使うことが出来るのです。しかしこれには限度回数があって、ある程度使用すると使えなくなります。ちなみに回数は自分で確認できます。
他にも色々なスペルがあるのですが、そのなかに『エスケープ』という元の世界へ帰ることが出来るスペルがあり、入手難度はBです。ちなみに入手難度はG〜SSSの十段階です。
また来るときはそのシールに触れていただければ再びこの世界へ来れます。そのときのスペルカードは保存されていませんのでゼロからと言うことになります」
「じゃあその『スペルカード』って盗まれたりするんじゃ…」
「もちろん奪うことも可能ですがたいてい『スペルファイル』に入れておけば大丈夫です。もしファイル内のカードを盗む場合はスペルカードでのみ可能となります。
スペルファイルを出すには心の中で『来い』と思えば現れます。」
俺は言われた通り心の中で『来い』と念じた。するとボンッと本みたいなものが現れた。
(これは『ハ〇ター×ハン〇ー』みたいなもんだな。一話ごとの題名の形式もそうだしこの作者パクってやがる)
「そのファイルについての説明は必要ですか?」
「いや、いいよ。それよりもしここで死んだりしたら元の世界でも死んだことになる?」
「はい」
「そっか…じゃあ他の星の人たちが元々の星に魔法があればこの世界でも使えたりする?」
「はい、元の世界とそのままの能力で別の次元に移動させていますから。他に質問は」
「いや、もういいよ」
(ということは地球人めっちゃ不利じゃんっ)
「では『アイテムカード』についての説明をします。手に入れたアイテムはカードとなります。元に戻したいときは先程のように念じていただければ戻りますが、一度戻ったらもうカードには戻りません。アイテムカードはスペルカード同様、ファイルに入れることが可能です。以上で一般の説明は終了です。続いてスペシャルシール取得者についての説明をします」
「…スペシャルシール?普通のシールとは違うんだ」
「はい、あなたのシールはスペシャルシールといい、全惑星で一枚しかない最高のシールです。一枚あればこの世界に来ることが出来、さらに特典が追加されます」
「俺運良すぎ。ちなみにどれくらいの確率??」
「全惑星となりますのでおおよそ5兆分の1です」
「ごっごっ…5兆!?あり得ん……で…特典って…?」
「はい、特典というのはこの『名も無き世界』における全能力追加アビリティです。
要するにあなたはスペルカード無くてもどんな上級スペルも使えますし、身体的な能力も自由に操れます。すぐに『エスケープ』することも可能です。さらにその時持ち帰ったカードも消えません。菊地様一人の力でこの世界を破壊し尽くすことも可能です。但し時間を操ることだけは全ての世界に支障をきたすので不可能ですが…」
(なんだよそれっ!?めちゃくちゃチートじゃないかっ!!ていうか別に世界壊せる力が手に入ったなら別に時間操れないとかいっても関係ない気がする…)
「じゃ、じゃあもし悪人にこのシールが渡ってたりしたら世界壊れてたんじゃ…」
「その心配はございません。このシールは欲はあるけども人を殺すことは絶対に出来ないような人、つまりヘタレに渡るようになっています。ヘタレにしか可能性はありませんので5兆分の1とはいっても実際はそこまでではありません」
(ヘタレって言われた…初めて会った人にヘタレって…否定はできないけど…)
「…まぁ楽しんでくるよ…」
「では行ってらっしゃいませ。良い旅を」
すると真っ白な部屋が消え、辺り一面緑の草原と化した。
俺は若干心に傷を負って旅立つことになった。
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