第二十七話 企み×浅薄×受難
今回は場面転換多いです……気をつけて下さい。泣
今回から後書きは活動報告にてやらせていただきます。
もしよければそちらも覗いていただければ嬉しいです。
――――side ??????
ここはケンプティア帝国の城内の一室、執務室。
そこに腕組みをしながら片方の手を顎にあて部屋の中を行ったり来たりする一人の男がいた。
「全く……あのひよこは一体なんなのでしょうか。ミディア姫自身も知らなかったようでしたが……しかし、一応は不死鳥と言っているくらいなので侮れませんね、何故か喋れますし……それにしても外では既に傭兵の選抜が始ろうとしているのにあの二人はまだなのでしょうか。せっかくあの『人形屋』から高い金払ってまで仕入れたのですが……なにが『迅速かつ安全に仕事をこなしますよ。ヒッヒッヒッ』ですか。あれではただの豚です」
ぶつ、ぶつ、と呟く男。
途中から愚痴になっているのには気づいていない。
その執務室に二人の女性が突如現れた。
男は待ってましたとばかりににやりと笑うと報告を受ける。
「ようやくですか。少し遅かった気がしますが、まぁいいでしょう……で、魔王の宝は?」
二人の女性の内、僧侶の姿をした女性が若干苦い顔をするがはっきりと話し始めた。
「結論から言いますと……任務は失敗致しました」
途端男の表情が明らかに訝しくなる。
しかし下手に怒鳴らず続きを促す。
「魔王ザーガは既に場所を替えていたようです。しかしその娘が現魔王となっていたので殺そうとしたのですが……奴は不死身でした。これ以上の任務続行は不可能と判断し帰還しました」
「ほぅ……不死身ですか。しかしこれがイベントで有る限り必ず殺す方法はあるはず。まぁそれは別に後でいいとして勿論連れていた剣士と魔術師は始末してきたのでしょうね?」
この質問の方にはかなり答えに詰まる僧侶。
これこそ目撃者を消し損なったなど言いにくいに決まっている。
「それが……申し訳ありませんカルム様。魔術師の方は仕留めましたが魔王が何故か相手側に付きまして剣士の方は……」
カルムと呼ばれた男は怒りを表には出しはしないが内心苛立っている。
「そうですか……任務の失敗は本来であれば罰を与えるべきなのでしょう。しかしあなたたちがアルセウスの姫を見つけた手柄は大きいのでこれ以上は咎めないこととします。
それにあの剣士一人では何も出来ないでしょう。魔王も剣士に付いていった所で利益などないはずです。たとえ剣士が恨みを晴らしに来たとしても一人でしょうね。気にするほどでもないです。
カード集めも後でも出来ますし。
……とは言え一応二人とも『プリズムプリズン』は使っておいて下さい。剣士に『テレポート』を使われていきなり現れてもらっても困りますので。
それよりもこれからの戦争の方が本来の目的であり最重要任務です。クライン、フィーネあなたたちはもう少しで始まる傭兵選抜試験に紛れなさい。勿論誰にも正体は悟られないように。試験に落ちた傭兵は全て殺しておいてください。それが私の目的の一つなのですから。もちろんばれないことを優先的に。
開戦時は最初に説明した通りですが、クラインはアルセウス側のプレイヤーを、フィーネは内側を全滅させてください。そうですね……フィーネはあえて雑魚と手を組み、自分の存在を消しておく方が良いかもしれません」
本当はレインを生かしておいたのはカルムにとってとても面倒なことなのだが、それより今はもっと重要なことがある。
僧侶の姿をした女性、クラインと、勇者……今は剣士のフィーネは頷くとカルムの命令に従いファイルから取り出した「プリズムプリズン」を唱える。
「プリズムプリズン」とは術者のファイル内に名を連ねている一人を対象にして術者自身に使用する。
選んだ対象から術者へのスペルカードの使用による効果を「コンタクト」以外全て無効化するランクSのスペルカードである。
ただし回復系統、補助系統も無効化してしまう。
「テレポート」とはその名の通り訪れたことのある場所、又はファイル内に記されているプレイヤーを選択しそこへ一瞬で移動できるスペルカード。
ランクはC。
ちなみに幸介は自分以外の全ての人において「プリズムプリズン」が発動された状態になっている。
よって他人からのカードによる攻撃や移動系、回復は全て無効化される状態。
しかし本人はそのことを知らない。
「ではすぐに選抜試験に紛れ込んでください」
二人は返事をした後部屋から出ようとした。
しかしクラインがドアノブに手をかけるとカルムが一言付け加える。
「言い忘れてましたけど……次はありませんからね。予想通りの働きをお願いしますよ」
二人は一瞬動きを止めたが無言のままドアを開け執務室から去った。
「さてと……私も自分の仕事に戻りますか」
カルムも遅れて部屋を出た。
執務室に人の影はない。
――――change side Sara
「ほらレイナ。十二枚ちゃんと取って来たわよ」
サラはあらかじめ決めていたというよりはレイナに動くなと言っていた場所でレイナと合流していた。
その手には他人から奪った十二枚のプレートが握られている。
「サラ……自分の合わせて六枚で充分……二枚多い……だから待ってって言った……」
「えっ……?じゃあ奪い損じゃない。無駄な体力使っちゃった。まぁいいわ、とっととここから出て前金貰いに行くわよ」
ちぇっとサラは舌打ちをするがすぐに気を取り直す。
二人は他の傭兵達の攻撃をいなしながら演説した髭のおっさんが出て行った扉へ行く。
扉の向こう側にはひょろい男とその護衛らしき姿が二人いた。
「ではプレートをお見せ下さい」
サラとレイナは互いに七枚のプレートを差し出した。
意外と警備が手薄なことより、髭のおっさんがいない方がサラにとっては気になる様子だ。
「あの髭のおっさんじゃないのね」
「髭の……おっさん?…ああ、ゲイズ将軍のことですか。あの人は忙しい身でしてね。代わりに暇な私がこうやってお仕事している訳です。……はい、確かに六枚づつプレートを承りました。正式な登録をお願いします。登録が終わりましたら前金の方をお支払い致しますね。召集など何かありましたらその都度連絡致しますのでよろしくお願いします」
「ねぇ、あんた達三人で大丈夫なの?ほら、そこの扉特別何か仕掛けがあるわけでもないし……プレート取れなかった奴があんた達殺して金だけ奪って逃げるかもよ?」
サラは登録用紙を書きながら軽く尋ねた。
しかし男は別段慌てた様子もなく涼しげな顔のまま答える。
「そうですね……しかしこう見えても腕には多少の自信はありますので。それに、プレートを奪えないような奴らなどたいした強さではないでしょう」
「まぁそれもそうね、野暮なこと聞いたわ。じゃ、ありがたく頂いていくわよ」
サラとレイナはお互いに100Gずつ受け取りケンプティア城を後にした。
彼女達が見えなくなったところで登録用紙を見た男……カルムが呟く。
「サラ……エメリッヒですか。あの死に損ない剣士の血縁者でしょうか。だとすれば使い道があるかもしれませんね……」
密かに危惧していた女剣士レインに対しての切り札になる、と小さく笑みを浮かべるカルムだった。
――――change side Beiku
フィーネのおかげで死地を脱することが出来たベイクはフィーネを誘って二人でレストランで打ち上げらしきことをしていた。
ここは自分が払うよ。と男らしく宣言するがこのお金もフィーネのおかげだ。
「いやぁほんとに助かったよフィーネさん。おかげで前金も手に入ったし。後はとんずらするだけだね。良かったら一緒に逃げない?戦場なんて危ないだけで行くもんじゃないよ」
「……ベイクさん。今更ですけど逃げるのだけはやめた方が良いですよ」
「……へっ?なんで?」
ベイクは呆気に取られ目を丸くする。
「よく考えてみてください。もう登録終わっちゃってるんです。もし召集がかかったときにベイクさんがいなかったら帝国はあなたを指名手配にしてギルドにも立入禁止令が出ます。そうなったらギルドでお金は稼げないし、指名手配されてるからバイト等で同じ場所に留まって稼ぐことも出来なくなります。そうなったら生きていけませんよ?」
「た…た…た、確かに……どうしよう……こうなったらもう戦争に出るしかないじゃないか……僕なんてまぐれで生き残っただけなのに。このままじゃ十中八九戦場で殺されるのがオチに決まってる」
一瞬にして絶望に陥るベイク。
ギルドのランクも初心者にちょっと毛が生えたレベルである。
金も貰えるしってことで軽い気持ちで参加した傭兵がまさかここまで自分を苦しめることになろうとは思いもしなかった。
少し冷静になっていればフィーネが言うまでもなく、始めから気づけただろう。
しかしここまで来たらもうどうしようもない。
今からお金だけ返して辞退しますとは言えない。
そんなことしたら何故参加したのか、馬鹿にしに来たのかとどんな仕打ちが返ってくるかわかったもんじゃない。
そもそも自分が戦争に出ることはないだろうと思っていた。
もう戦争に巻き込まれて死ぬしかないのかとベイクは絶望の淵に追い込まれたように見えた。
――が、そんなベイクにフィーネが思いもよらない提案を持ち掛けた。
「あの……それなら私と一緒に特訓しませんか?ベイクさんもですけど私も死にたくないですし。もしかしたら名のある将とかうっかり倒せちゃうかもしれませんよ?」
「特訓……?でも戦争までもうそんなに時間ないんだから今さらやったって意味ないよ」
まるで死刑宣告された受刑者みたいに消極的なベイクをフィーネは一生懸命励ます。
「そんなのわかんないじゃないですか。私はそれでも生き残る確率が1%でも上がるならやりますよ」
「1%でも……か。そう…だね、まだ死ぬと決まった訳じゃないんだもんね。……決めたよ。僕じゃあ足手まといになるだけかもしれないけど、よろしくフィーネさん」
決心したのか、フィーネの前に右手を差し出すベイク。
今まで練習などそこまで熱心になったことがなかったベイクにとって、死に物狂いで何かに取り組むというのは初めてのことだった。
「そうと決まれば早速特訓!!ベイク!やるよっ!!」
差し出された右手をガシッと掴み二人は握手をした。
しかしベイクはフィーネに違和感を覚える。
「あれ……?フィーネさん?」
「どったのベイク?早く行こ。もしかしてお金?それなら奢ってくれるってさっき言ったばっかりじゃん」
「いや……そうじゃなくて……」
「あっ!分かった!ベイクトイレ行きたいんだ。待っててあげるから急いで急いで」
「いや……そうでもなくて……」
「えー?もう一体何?男ならビシッと言っちゃいなさいっ」
フィーネの明らかな変貌に困惑するベイク。
誰でもいきなりここまで変わられたら戸惑わないほうがおかしい。
「えっと……そんな喋り方だっけ?」
「あー……そんなこと?もう一緒に練習する仲になるんだから気を使う必要ないかなーなんて」
「あはは……そうなんだ」
(やっぱり僕に近づく人は変な人しかいないじゃないかーーー!!)
「…?変なベイク」
これから怒涛?の特訓が始まるのであった。