第二十五話 傭兵×戦争×天使
時間的に言えば幸介編より一日進んでいます。
多分今回だけそれに気をつけていただければ大丈夫なはずです。
地の文多めです。
2011 7/30 計算ミスの訂正
――――side Sara
次の日、サラは目を赤く腫らして起床した。
ふと外を見ると、空はこれ以上ないほど晴れ渡っているが、サラの心はこの空ほど清々しくはない。
今日は演説がある日だからと、レイナを優しく揺すり起こす。
少し寒いのかそれとも彼女の習性からなのか、丸まって寝ている彼女はサラの手を避けるように2、3度寝返りをうった後若干不機嫌そうに目を覚ました。
二人は顔を洗い眠気を飛ばそうとするが、サラはよく寝れなかったのか目元に少し隈が出来ており、レイナは寝ぼけて手に注いだ顔を洗う為の水を飲んでしまう。
まだ共に外に出られる状態とは言えない。
彼女達は普段自炊はしない。
出来ない訳ではないのだが、師匠の所にいた時は師匠の一人であるハイトが料理が得意で二人とも彼の料理の味を気に入っていたし、外に出てからはたいてい外食か宿のオプションで食事をしてそれで事足りていた。
とは言っても宿の部屋に台所はそうそう付いていないのでそうならざるを得ないのだが。
今朝も顔を洗った後、ルームサービスで出てきたクロワッサンを二人で頬張り、ホットミルクは優雅に飲みほす。
出かける前にしっかりと武具の確認をして宿を後にした。
もちろん向かう先は演説が行われる城内広場。
帝国の首都だということもあって、流石に街の規模は大きい。
まだ朝の早いうちだというのに歩く人をちょくちょく見かける。
今サラ達が歩いてる通りではないが、朝市も開かれているらしい。
こんなに豊かな街であるのにどうして沢山の傭兵を集めなければならないのだろうかとサラは歩きながら不思議に思う。
しかしそんなことは国のお偉いさんが考えることであって、傭兵である自分達が首を突っ込むのは余計なことであり首をしょっぴかれる元。
自分達は仕事に見合った報酬を貰えればそれでいい。
(……そういえば、やけに契約金が良いわね。まぁ私達としては願ったり叶ったりなんだけど。……恐らく考えてる通りなんだろうな)
サラは大体自分達の仕事の内容を分かっていた。
ギルドを介さずこれだけ大人数の傭兵を国が雇うなんて考えられることは一つしかない。
(やっぱり戦争かしらね。この安定した国が起こすなんて他国から攻撃されたぐらいしかないと思うんだけど……国民は全く慌ててないし…知らされていないのかしら?)
相手国を思い当たる節に挙げようとするが、全然思い浮かばない。
だがそれは演説の時に分かる事だろう。
ケンプティア城に到着した二人は受付で登録の確認を終え、番号の書かれた札を受け取ると広場へ案内された。
どうしてわざわざ案内されたのか分からなかったが、広場に着くと何となく理解出来た。
(私達最後だったんだ……どおりで受付に私達以外の傭兵らしき姿が見えなかった訳ね。でもまだ時間は少しあるはず。みんな馬鹿真面目なのかしら)
そこには昨日のあの大名行列みたく列を成していた雇われ傭兵達が適当に並んでいた。
流石傭兵と言ったところか、列の統率は執れていない。
しばらくざわざわと騒がしい場内であったが、一番前にある壇に立派な髭の持ち主の男がゆっくり上がっていくと話し声は次第と収まっていく。
壇上に上がり終えた男は私達と向かい合う形をとり、ゴホンッと大きな咳ばらいを一つした後話し始めた。
「お集まりいただいた諸君!!薄々分かっているとは思うが我々ケンプティア帝国は近々戦争を行うっ!!そのための兵士として志願してもらいたい。しかして……相手は隣国、アルセウス王国であるッ!!」
がやがや、と一斉に話し声が聞こえてきた。
無理もない。
アルセウス王国とケンプティア帝国は長年大変良好な関係であり、長い歴史の中、両国間で戦争が行われたことはないのだ。
それを突然戦争をしますと宣言され、はい分かりました。と言えたとしても、疑問が残らないはずがない。
静まらない広場に、静かにしろと男の声が響き渡ると、徐々に精彩を欠いた傭兵達が落ち着いてきた。
「先日我々はケンプティア領内で単独で行動していたアルセウス王国の姫を保護した。しかしっ! その姫は世間には知られていない第三女っ! そして結果このことは一つの答えを示している!! アルセウス王国は我々ケンプティア帝国の情報を探っており戦争を仕掛ける機会を伺っていたのだ!! よって我々は叩かれる前に叩くッ!! アルセウス王国を服従させるのだッ!!」
詳しいことは傭兵ごときには教えれないのだろうが、何と馬鹿げた話だろうかとサラは思った。
確かに秘密にされていた姫が一人で領内をうろついていたのは怪しいかもしれない。
しかしそのことがアルセウス王国が戦争を仕掛ける直接の原因になり得るのか。
姫が吐いたのかもしれないが、自分から言わない限りそんなことにはならないだろう。
そして喋らせる為に拷問なんぞしたら、その時こそアルセウス王国が戦争を仕掛ける理由を作ることになる。
それだと大義名分は向こう側にあるわけで、先にこっちから仕掛けたなら周りの国から反感を買うに違いない。
さらに先日捕らえたと言ったがそのことをアルセウス王国に話したかどうかも疑わしい。
だいたい諜報目的なら別に姫である必要がないだろう。
今まで良好だった関係が突然過ぎると言えるほどこんなに早い段階で戦争になるとは何かおかしいとサラは感じた。
それでも、金が入るなら深入りはしない。
これが傭兵の暗黙のルールでもある。
他の傭兵達もただアルセウス王国との戦争ということに驚いていただけで戦争の理由はどうでもよさそうだ。
「以上で説明を終える。契約金については登録時に知ったと思うが、その通りだ。では、我々と一緒に戦う意思がある者はそのまま残ってくれ。そうでない者はここから去っていただく」
男の言葉で三千人はいそうな中で二十人程度が城を後にした。
結局はサラも含めて金目的なのだろう。
何しろ前金だけで50G貰えるとのこと。
さらに成功報酬として150G、加えて特別報酬もと言っていたが、それは戦争においては敵将を討つことに当たる。
例えば戦争で三千人生き残ったとしたら結局国は合計六十万G(日本円で約六十億円)以上出す事になるのだが……
「ここから本題に移ろう。我々からしたら傭兵ごときに貴重な軍資金を裂きたくない。なので精鋭の部隊を組もうと考えている。そこで……だ、諸君らには各々武器を持ってきてもらったと思う。さらに受付で配布したナンバープレートを着けてもらっているはずだ」
髭の濃い男は一呼吸置く。
ここにいる全ての人が唾を飲み込み自分の番号が書かれた札に目を向ける。
「そうだな……一人六枚。ナンバープレートを持ってこい。殺しても構わん。持ってきた奴には明記した金額の二倍の値段で契約しよう。俺が広場から出たらスタートだ」
多々の殺気が一瞬にして渦巻き場の空気を支配した。
男はゆっくり、ゆっくりと広場の外へと歩みを進める。
そして城内へと入り扉が閉まった。
ウオオオォォォォ!!!!
さあ始まる生き残りを懸けた闘争が。
「レイナはじっとしてて!!私がちゃちゃっと十二枚取って来るから!!」
「サラ…待った…」
しかしすでにサラはレイナの元を離れてプレートを奪いに行ってしまう。
仕方なく端っこの方で強力な認識疎外と防御の魔法を自身にかけて座った。
一方早々にレイナの元を離脱し一人プレート集めに奔走するサラ。
「みんな声の割に慎重なのね。もっとごちゃごちゃした戦いになるのかと思ってた」
傭兵達は勢いよく声をあげたのはよかったのだが後ろから刺されたらどうしようかと辺りを警戒している。
そんな中、サラの手には既に五枚のプレートが握られていた。
えいっ、えいっと男達から次々とプレートをすっていくサラ。
さらに気絶のおまけつきだ。
すると近くで一人の少年の声が聞こえてきた。
――――change side ???????
(な、何でこんなことになったんだよ! 戦争なんて参加だけして金を貰ったらずらかろうと思っただけなのに……
くそっ!やばい……)
少年は一人の傭兵に追い詰められていた。
傭兵はこの少年を殺す気だろう。
殺気立てながら得物を手にし、近寄って来る。
「み、見逃してくれッ!!ホントはあの時帰るはずだったんだよ!お願いだッ!!」
「馬鹿かお前?弱い奴から狙うのが常識だろうが。何で見逃さなきゃいけねえんだよ。言い訳は死んで……」
しかし目の前の男が突然倒れた。
そしてその代わりに髪の紅い少女が立っている。
(て、天使だ……)
「助けられたよ、ありがとう。ちょっと油断してて…もう大丈夫。僕の名前はベイク。君の名前は?良かったら一緒に行動しない?」
しかし少女は考えもしない言葉を返してきた。
「あんたみたいなクズ、誰が助けなきゃいけないのよ?傭兵なら、いつでも死ねる覚悟しときなさい。それと、助けられたと思うならあんたのプレートよこして。それで丁度最後だから」
言葉とは似合わない顔でベイクに微笑みかける少女。
ベイクはさっきの男みたいになるのはごめんなので自分のプレートを外して少女に渡した。
「ま、それでもせいぜいあがくことね」
それを言うと少女はベイクの目の前から去って行った。
(何だっていうんだあの女の子。あれじゃ天使じゃなくて悪魔だよ……)
ベイクは腰が抜けてその場から動けなくなっていた。
少しすると、今度は違う美少女がベイクの前にやってきた。
さっきの教訓を活かして今度は慎重な対応をする。
「悪いけどもう僕にプレートはないよ」
(今日はやけに可愛い女の子と出会うよな……)
しかしショートボブの少女は首を横に振った。
「大丈夫ですかー?これ良かったら使ってください」
そう言って少女は傷薬みたいな物をベイクに差し出してきた。
ベイクは特に怪我をしている訳ではないので大丈夫と答える。
「そうですかー良かったです。あのぉ…宜しかったら私と組みません?私一人だと心細くて……」
ベイクとしては嬉しい誘いなのだが、お世辞にも実力があるとは言えないベイクと、このか弱そうな少女が組んだところで何になろう。
「でも僕は自分で言うのもなんだけど君の役にはたたないと思うよ。プレートも奪われちゃったし……」
正確には自ら差し出したのだが、ベイクは少し見栄を張った。
「そんなことないですよ。だって現にこうやって命はあるじゃないですか。それにプレートのことなら安心して下さい」
少女はジャラジャラとプレートを袋から出した。
その数二十はあるだろう。
「えっ……君ってものすごく強いんだ……だったら尚更僕はダメだよ」
「これはですね、後ろから男の人をポカッと叩いたらその人がたまたまこんなに持ってたんです」
「それは…運が良かったんだね」
「はい、ですから私と組んで下さい!」
「まぁ僕でいいなら……君は何て名前なの?」
「人に名前を尋ねる時は自分から…ですよ?」
「あ、えっと…僕の名前はベイク、ベイクっていうんだ。君は?」
「ふふっ。ベイクさんですね?私ですか?私の名前は……」
少女はベイクににっこり笑う。
「フィーネです。ベイクさんよろしくお願いしますね」
少年は気づかない。
本当の悪魔に出会ってしまったことに……
サラ編ようやく話が進み出した……
次回は幸介編です。