第二十話 デート×誘拐×本意
今回はいつもより少し長めの話になりました。
勇者、フィーネ達の仲間にしてもらった幸介はレインの鎧を調達するために最寄りの町へ向かった。
「着いたぞ水玉。早く出てこい」
「そうせかすなコースケ殿…って何言ってるんだお前はっ!!だいたいこの町に寄ることになったのも、鎧が必要になったのも全部お前のせいなんだぞ!!?」
ここに来るまでに幸介が分かったことはレインはいじりやすいということだ。
ついつい幸介の中のS心が出てしまう。
「はいはい…分かった分かった。それで、出てこないのか?」
「全くお主は…ミディア殿の服がなければ今頃どうなっていたか…」
ぶつぶつ言いながら馬車を降りるレイン。
ミディアから借りた服…といってもほとんどドレスに近い服を着て降りて来る姿はどこかのお姫様に見える。
「御手をどうぞ。姫」
「む、すまない。って私は姫ではない、剣士だ」
「そのドレスがあまりにも似合っていてな、どっかの城のお姫様に見えたんだ」
「なっ……………////!!」
こういった言葉に慣れていないのか、レインはすぐに照れてしまう。
そもそもミディアはお姫様なんだからその服がお姫様っぽいのも仕方がない。
しかし本人は普段は動きにくいから着てないらしい。
レインも最初は渋ったがわがままを言える状況では無かったので着ざるを得なかったのだ。
そして、こんなやり取りがなぜスムーズにいくかというと、当のミディア本人はフィーネ達と一緒に出かけて行ってしまったから。
幸介としてもたまには女の子だけで買い物とか楽しませてあげたい。
そもそももしこの場にミディアがいたなら嫉妬深い彼女が先ほどの会話を成立させるはずがない。
というわけ?である意味幸介はこの時間だけ自由を手に入れた。
念のためミディアには幸介特製のお守りを持たせておいてある。
幸介の話ではピンチの時に助けてくれるありがたいものらしい。
ミディアは何にしろ幸介からのプレゼントということで大はしゃぎしていた。
だからだろうか……
「あれ?よく考えたらこれってデートじゃない?二人きりでレインも綺麗に着飾ってるし」
「えっ………///そんなこと言ったら意識してしまうからやめてくれ。だいたい私はあいつらに無理矢理着飾らせられたんだっ!!」
化粧した美人の女の子と幸介を一緒にさせるという、大失態をおかしたことにミディアが気づけなかったのは……
それに気づいたらミディアは今頃発狂しているだろう。
何はともあれ早速防具を見に行く二人。
しかし見た目普通の男と見た目超美女が一緒にいるともちろんからまれるのがテンプレなわけで。
「からまれちゃいました」
「『からまれちゃいました』ではないだろう、コースケ殿ッ!!……ちっ、私に剣があればこんな奴ら…ッ」
「うだうだ言ってないでよー遊びにいこーや、ねーちゃん」
「くそッ……ってお前はコースケ殿!!なぜ相手側にいるのだッ!!!」
いつの間にか男達と一緒にナンパする側にいた幸介。
レインはもちろん、男達も幸介をどう扱えばいいのか困っている。
「ひーふーみー…十人もいるのか。手ぶらの私にはきつい…」
「確かにあんたら10対1って卑怯だろ!!」
「コースケ殿…お主はそんなに離れて私一人で戦わす気かっ!?」
幸介は何故か今度はやじ馬の立ち位置にいた。
しかし十人の男達はいっこうに襲ってくる気配がない。
「じゃ遊びは終わり。ということで行こっか、レイン」
「そんなのこやつらが見逃すはず…ってええッ!?なんで素通り出来るんだ……?」
「んー、まぁ心変わりしたんだよ、きっと」
何事も無かったかのように男達の間を抜けていく二人。
途中レインが一人の男と少しぶつかるとその男は倒れてしまった。
レインはそれに気づき衝撃を受けた。
(ま、まさかコースケ殿はこれだけの人数私にも気づかれないように尚且つ倒さないように立ったまま気絶させた…だと!?いつやったんだ?魔法か?いや、唱える時間など無かった。やったとしたならコースケ殿が相手側に行ってそこから離れる間か……こんな芸当私は見たことがないぞ…私と戦った時も本気では無かったのか………??)
その場に呆然と立ち尽くすレインに「置いてくぞー」と呑気に声をかける幸介の底が測れないレインだった。
――――――――――
一方ミディア達はというとみんなでショッピングを楽しんでいた。
……途中まで。
フィーネが余計なことを言わなければ最後まで楽しめたに違いない。
「そういえば良かったんですかーミディアさん?レインさんを可愛くしたのはいいけどコースケさんと二人きりにしちゃって……」
この一言を聞いた瞬間ミディアはまるで全身の骨が無くなったかのようにその場に崩れ落ち、そして急に我に返ったかと思うとどこかへ走り去ってしまったのだ。
「コースケ様を探してきますッ!!」
の声と共に。
そしてもう一度言おう。
フィーネの言葉がなければ、誰もが最後までショッピングを楽しめたに違いない。
――――side Midia view
やってしまいました……
人生で最悪の失敗です。
あの時何故私は気づけなかったのでしょうか。
あんなの、あんなの、誰がどう見たって……
「デートじゃないですかーーッ!!!」
走りながら叫んだので多少息がきれるけどそんなのどうだっていい。
早くあの二人と合流しないと愛を誓い合ったとは言え、万が一コースケ様がレインさんになびいてしまったら私、私…今度こそ身投げしてしまいそうです。
その危険を感じさせる美しさが今日のレインさんにはありました。
そうしたのは私達なんですけど……
確か防具を買いに行ったはずです。
寄り道とかは許しませんよ!
防具屋さんはどこかと立ち止まって辺りを見回していると後ろから肩を叩かれました。
そこにいたのはコースケ様ではなくスーツ姿の男でしたが、この人に防具屋さんの在りかを教えてもらおうと思います。
「あの…ぼう「ミディア=アルセウス=ガーネット姫ですね?少しご同行願います」……えっ?」
(なんで私のことを……?)
すると男の人はいきなり私の口をハンカチでふさぎました。
「嫌と言っても連れていきますけどね。大丈夫ですよ、ちょっと眠くなるだけです」
(あれ…段々眠く……コースケさ…ま……たす…け……)
ミディアの手には幸介から貰ったお守りがしっかとり握りしめられていた。
――――side end
「鎧なんてどれも一緒のようなものだろ。適当に俺が選んであげよっか?」
幸介はそこら辺に置いてある適当な鎧を指差しながら言う。
それはサラが身につけているようなへそ出し鎧だった。
防具屋に来たのは良かったが、そこから中々レインが決めないのだ。
着いてからかれこれ1時間になるがレインは未だに迷っている。
「そんな腹が出た鎧なんか着れん。店主殿、ここで一番良いものを出してくれ」
「あるがそいつは売り物じゃないんでね。お嬢さん諦めておくんなせぇ」
店主はドレス姿のレインをどこかのお嬢様と見たのだろう。
この店主としては鎧を飾るより使って欲しいと思うのは当然であり、いつか出会うであるはずの運命?の人に譲ろうと考えていたりする。
「それにしてもこの鎧サラのにとてもよく似てるんだけどなー」
幸介は先ほどのへそ出し鎧をずっと眺めていた。
「ああ、確かにその鎧は『サラ=エメリッヒ』モデルだからな。もちろん偽物だから性能は本物に比べるとかなり落ちる」
店主は幸介の呟きを聞いていたのか眺めていたへそ出し鎧について補足の説明をした。
(そういえばサラの上の名前聞いたことがなかったな……)
「む……コースケ殿に店主殿?どうして私の妹を知っているのだ??」
店主は開いた口が塞がらないといった顔をしている。
「レイン知らないのか?サラって『双刃の姫君』で有名らしいぞ。お前の妹なんだろ?よく知っとけ……って、妹だとぉーッ!?」
幸介も遅れて店主と同じような反応になる。
二人してあんぐりと口を開ける姿はどこか滑稽だった。
そしてレインも首を傾げており、何かに気づいたのか突然「あっ!!」と声をあげた。
「まさか……サラの奴、私を追ってこの世界まで来たんじゃ…なんてことだ……」
「まぁサラなら今頃元気にしてるでしょ。レイナちゃんと一緒にね」
(確かによく見たら似てる。髪も紅いし、目元もキリッとしてるし。それでも若干レインの方がきつめな印象があるな…)
「コースケ殿に何が分かるッ!!あんなか弱い子がモンスターにでも襲われたら……」
「か弱い…子??」
(…あれがか??)
「ああ、そうだ!あの子は虫も殺せない優しい子なのに……父様達は一体何をしてたんだっ!!?」
(サラ…こっちに来て一体何があったんだよ……)
「心配しなくても大丈夫。あいつらは強い。ギルドランクだっけ?あれもAランクだって言ってたし」
「あの子がギルドランクA!?嘘だッ!!」
どういうことかあのサラをか弱いと信じこんでいるレインに幸介が説明の仕方に迷っていると、店長が助け舟をだしてくれた。
「お嬢さん。サラちゃんに姉がいるなんて初めて知ったが、そこにいる小僧が言う通りギルドランクAってのは事実だよ」
「ほんとに…あの子が……?」
「ああ、そうさ。途中まで一緒に旅をしてた俺が言うんだ、間違いない」
「「ええっ!!」」
幸介のカミングアウトに驚きを隠せない二人。
意外な所で繋がっているんだな、と幸介は世界を狭く感じた。
「それにしてもお嬢さんがあのサラちゃんのあねさんだとはねぇ……これも何かの縁だ。この店秘蔵の防具を持っていってくれないか?」
「いいのか?私が嘘をついているのかも知れないんだぞ?」
店主が今まで出し渋っていた防具をいきなり譲ると言われ、レインは落ち着きを取り戻しつつ確認を取った。
「あの有名な紅刃姫をか弱いと何のためらいもなく言えるなんて、例え嘘だとしても相当な腕の持ち主だろう。そんな兵にこそこの防具は相応しい。奥の方から取って来るから少し待っててくれ」
店主は言い終わると、どこか嬉しそうな表情で店の奥に入っていった。
「良かったのだろうか……店主殿を騙したような気がしないでもないが……」
「まぁ俺はどっちでもいいけど。店主の言う通りレインは強いんだし、別に悩む必要なんてないよ。もっとも…俺としてはこのまま鎧が決まらない場合の方が避けたかったけどな」
「私が強い…ね……コースケ殿は本当はあの時手加減していたのではないか?」
「さぁ、な。それより店主さん帰って来たみたいだけど」
店主は鎧が入っているらしき大きな箱をせっせと運んできた。
その箱は黒ずんでおり、時の経過が感じられる。
「箱は古びれてはいるが、中身の手入れは怠ってねぇ。新品同然だよ。ほらレインちゃん、持って行きな」
レインが箱を開けるとそこにはぴかぴかの鎧が一式丁寧にしまわれていた。
レインは胴の部分を手に取るとあまりの軽さに驚愕する。
「ははっ、驚いたかい?そいつは永久魔法がかけられていてな、鎧の重量を軽減しているんだ。それだけじゃない、魔法による全属性の攻撃の効果を半減させてくれるこの世に二つとない最高品だよ。素材はグランドドラゴンの体内に稀に出来る竜鉱石を使用している。硬度はダイヤモンドの約三十倍だ。俺の知る限り、これより優れた鎧は見たことねぇ。」
店主はまるで自分が造ったかのように自慢げに説明する。
それを聞いたレインの反応も幸介からすると大袈裟に見えるほど大きく反応している。
レインは早速試着室に入り新しい鎧を身に纏った。
「すごい…全く重さを感じない…洋服を着ている時と変わらないぐらいだ。それに動きやすい!なんだこれはっ!この鎧曲がるぞ!!」
「それが竜鉱石の特徴でもあるんだ。硬い上に柔軟性に富む。最高の素材だよ」
やけにレインのテンションがあがったところで店主にお礼を言って防具屋を後にする。
店を出た所で買い物を楽しんでいたはずの勇者達と出くわした。
「ナイスタイミングね。レインたんはいっつも買い物長いから待たされるかと思ってたわー。それにしてもラブラブデートはどうだった?」
「なっ……!アーニャ!デートなどでは……」
ふと勇者があることに気づいた。
「あれ?ミディアさんは?コースケさん追って物凄い早さで消えてったんだけど……」
「えっ!ミディアが……?会ってないけど…」
「おかしいですね。防具屋にいるとは知っていたはず」
腕組みをしながら冷静に分析をするクライン。
「私達も探してあげたいんですが、魔王は待ってくれないので先を急ぎます。見つかったら教えて下さいね」
勇者一団が幸介のもとを去ろうと後ろを向くと幸介はそれを止めた。
「待ってくれっ!俺も一緒に行くッ!!」
「そんな…あなたはずっと共に旅してきたミディアさんを見捨てると言うんですかッ!?」
「コースケ殿、それはあまりに非道な行為だ。いくらあなたと言えども許せはしないぞ?」
「いや、ミディアは必ず無事だ」
「そんな憶測で言うような子はお姉さん嫌いになっちゃうぞー?」
「なんたって、俺の守りがついてるからな」
ニヤリと笑う幸介の言葉の意味が分かるものは本人以外誰もいなかった。
「その自信がどこからくるものなのか私には見当がつかないが、コースケ殿がそう言うなら私は信じる。勇者様、コースケ殿を連れていってはもらえませんか?」
レインは幸介の得体の知らない力を見てしまったから大丈夫な気がしたのだ。
「レインさん……そこまで言うなら分かりました。その代わり、もしミディアさんが無事でないなら私は勇者としてあなたを絶対に許しません…正義の下に処罰を下します」
「ああ、どんな罰でも受けよう」
(徐々にだが化けの皮が剥がれてきたな)
こうしてミディアを置いて魔王城に向け出発した一行。
幸介以外のメンバーは少なからず幸介に疑心を抱いたのは間違いないだろう……
ストックが全て切れてしまいました……
これから本当に不定期になるので毎日0時更新は出来なくなります。
ご了承下さいm(._.)m