第十七話 棄権×別れ×再出発
(ちょっとやり過ぎちゃったか…)
幸介は着ぐるみを着たまま少し後悔した。
これでは強さを見せ付けるっていうより謎を残して行ったという方が正しい。
さらにはインチキなのではないかと思わせてしまったかもしれない。
それでも圧倒的な力差を見せ付けるにはこれくらいしないとダメだと思ったのだ。
インチキとか言われたらどうしようと、物思いにふける隣でミディアはお茶をずずずず…とすすって和んでいる。
それを見るとなんだか幸介も和んでしまった。
一緒にお茶をすすっていると、見覚えのある小さな姿が現れた。
(あっ…レイナちゃんだ。どうしたんだろ、一人で)
レイナは控室に入ると辺りをキョロキョロと見回すとやがて何かお目当ての物を発見したのか、こちらへ向かってきた。
そして幸介の目の前に来ると、ちょんちょんと幸介の服を引っ張り帰って行った。
どうやらついて来いと言いたいらしい。
ミディアも不思議そうな顔をしていたので一緒に控室を後にし、レイナについて行った。
レイナはとことこ歩いて行きやがて公園につくとこちらを振り向いて一言言った。
「……コースケ?」
幸介は見た目平静を装っていたが内心冷や汗ダラダラだった。
(まさかばれてしまったのか!?いやまだ大丈夫。ここは知らんぷりで通そう)
「君は確か…『双刃の姫君』のレイナちゃんだっけ…?残念だけど幸介という人は知らないし、僕ではないよ」
(よし、完璧で紳士な受け答えだ!これでレイナちゃんもごまかせるだろう)
しかし幸介の読みはこの後ものの見事に看破されることになるのだ。
自分自身の手によって。
「…コースケ…違うの…?」
幸介にとってこの一言で十分だった。
(だ、ダメだ…レイナちゃん…首をかしげての上目遣いは…は、反則過ぎる…た、耐えろ!耐えるんだ、俺ッ!)
しかしやはりと言うべきなのか、いつの間にか幸介の右手はレイナの頭に吸い込まれてしまい、思いきり撫でていた。
「やっぱり…コースケだ…」
撫でられて嬉しいのか目をつむって、頬をやんわり赤く染めながら手の感触を楽しむレイナ。
そして隣のミディアを見ると仮面の上からでもわかるほどの殺気が感じられた。
ばれてしまったならしょうがないと、二人は仮面を脱いで素顔をレイナの前に晒した。
「どうしてレイナさんは私達が分かったんですか?こう見えても完璧な変装だったと思うのですが…」
(格好以外はな……)
ミディアが当然の疑問を投げかけた。
そして幸介はいまだミディアのセンスを恨んでいる。
それに対してレイナはさも当たり前のように話し始めた。
「この世界の人…全てに魔力を与えられる…でもコースケだけ魔力感じない…顔隠してても…わかる…」
「あららら…ということはすぐばれてたみたいなのね…だからディモンさんにもばれたのか。ん?でもサラは気付いてなかったみたいだったけど…」
「サラは…探知苦手だから…それに…私が無いって言ったとき…サラ、『少ししか』って勘違いしてた…他にも…コースケ…不思議な力ある…魔力無いのに空間転移魔法使ってた…私出来ないのに…ずるい…」
(瞬間移動まで知られていたのか……)
むぅ…と頬を膨らますレイナ。
思わず撫でてしまうのは毎度の如くご愛嬌だ。
そして幸介はもし正体がばれてしまったときの行動をすでに考えていて、覚悟を決めた。
「そっか、それもばれてたんだ…ならもうレイナちゃん達とはお別れだね。サラには良いけど俺のこと他の人にむやみに教えないで。突然でごめん。俺ばれたら離れようって決めてたから。レイナちゃん達との旅、短かったけど楽しかったよ。じゃ!またいつか!」
幸介は大会棄権するから優勝してね!と言い残し、ミディアを連れ颯爽と去っていった。
残されたレイナはいきなりのことでびっくりして呆然と立ち尽くしていたが、やがてとてとてと歩きだし、途中で石につまずいてパタッとこけた。
その時彼女の頬をつたって一粒の涙が流れた。
――――side Sara
(有り得ない……師匠を倒しておきながらいきなり棄権するなんて…怪我でも負ったのかしら)
ザ・バカップルの棄権を放送で知った私は愕然とした。
(これじゃ、師匠を倒すほどの相手と戦えないし、なにより仮面を暴けないじゃない!!)
突然の失踪に謎を感じるがそれでも賞品の為に負けるわけにはいかない。
そう自分に言い聞かせ、準決勝へ臨んだ。
…………結果は惨敗。
こんなこと言いたくないんだけど、レイナの動きが酷すぎる。
あの子があんなにミスするなんて今まで無かった。
おかげで勝てる相手にも関わらずズタズタにされてしまった。
試合後当然のように私はレイナに問い詰めた。
「レイナッ!さっきの試合何なの!?どう考えてもやる気が無かったでしょ!!戦いにおいて手を抜き、油断することは死だと言われてきたでしょ!!!」
俯きっぱなしのレイナからズズッと鼻をすする音が聞こえた。
そして同時に涙がこぼれ落ちるのが見えてしまった。
サラはちょっと強く当たりすぎたかなと思い許してあげようかとしたらとんでもないことが聞けた。
「まぁこんなこと初めてだし、レイナが反省したって言「だって…ズズッ…コースケが…ぐすんっ…」えっ?コースケがどうかしたの?」
(ついにあの野郎はレイナに手を出して泣かせたのね…絶対に…絶対に許さないわよ……)
だがレイナはサラが想像していたこととは全く違ったことを言った。
「…コースケが…コースケが……行っちゃったから…遠くに…もう会えないかもしれないから……」
「えっ?」
(コースケが行った?遠くに?どこへ?わけが分からない。一体何故?)
「レイナ!コースケは何処に行ったの!?」
サラは泣くレイナの肩をガシッと掴むと、強い口調で尋ねた。
「分からない…棄権するから優勝しろって言われて…去って行った…ぐすっ…でも負けちゃった…ごめんなさい…」
もうサラには何が何だか分からない。
(…棄権?優勝?どういうこと?まさかあいつらが…?あー!!!もうどうしてこうわけわかんないことが続くのよッ!!)
この場では落ち着いて話せそうにないので宿屋に戻ることにした。
そして部屋に戻り全てを聞いた。
バカップルが幸介とミディアだということ。
幸介には微弱な魔力すら与えられていないこと。
それにも関わらず転移魔法が使えること。
聞いたサラは裏切られた気持ちだった。
(やっぱり…みんな私の元を去っていくんだね。元はと言えば私が無理に付き合わせていたんだけど…だけどそれでも一言言って欲しかった。私本当は寂しくて仕方なかったのね…)
しばらく俯いていると、レイナがぽつりぽつりと言葉を発した。
「サラ…私が言わなかったら…コースケ…行かなかった…ごめんなさい…」
やっと出たといったような声はとてもか細く小さな声でそして責任を感じた声だった。
(私…レイナにも心配させて…情けないな…本当に情けないよ…私がしっかりしないといけないのに…もう覚悟を決めよう)
「レイナそうとなったら行くわよっ!!準備して!」
「えっ?…どこに…?」
「あいつを追うのよ。私に断り無しで出ていくなんて一発殴るどころじゃ済まさないんだからねっ!!」
レイナは顔を上げ笑顔で一度頷くと、支度を始めた。
部屋を出ていく前にあることに気がついたレイナ。
「サラ…それ…」
「もういいの。私も自分を隠すばかりにはもう飽きたわ。それに…あいつとまた会った時に…私だってすぐ分かって欲しいし…」
最後の方は小さな声でボソッと言ったがレイナにはしっかり聞こえていた。
「サラ…かわいい…」
「ばっ…ばか!何言ってるの!ほ、ほら!さっさと行くわよ」
ボンッと言う音が聞こえそうなほど顔全体が赤く染まるサラにレイナは小さく笑った。
部屋に残された一つの兜が日の光を浴びて虹色に輝いている。
まるで彼女達の新たな門出を祝うかのように。
そう、ようやく彼女達の本当の旅が始まるのだ。
第一部 了
ここはルクスムを出てしばらく北の草原。
「本当に良かったのですか、コースケ様?サラさん泣いてると思いますよ?…それにコースケ様も楽しそうじゃなかったですか。何も別れる必要は無かったんじゃ…」
緑の綺麗な髪をした美少女お姫様は黒髪のボサボサ頭の少年に話しかけた。
「んー…まぁそうだけど、前から決めてたんだよ。それにあいつらとはまた会う気がする、必ず…どこかで…ね」
「確かに…私もそんな気がします。それにまた会いたいですしね」
「別にミディア、お前もあいつらと居てもよかったんだぞ?」
ミディアは驚いて幸介の顔を見た。
「そんな…コースケ様…私を守ってくれると言ったじゃないですか…(伴侶的な意味で)」
「まぁそんなこと言った気もするな…(護衛的な意味で)」
「もう!しっかりしてくださいよ!私のお供なんですからっ!(長年連れ添っていく的な意味で)」
「おうっ!任せとけ。悪い奴には指一本触らせないぞ(王様との約束的な意味で)」
(それこそ護衛なら同性のあいつらの方が良かった気がするけどなぁ…腕も確かだし)
「ま、まぁ…(ポッ」
(他の男には指一本触れさせないなんて…大胆な所も素敵です)
こうして彼等の旅もまた始まっていくのであった。
「ところでコースケ様?やけにさくさく進んでいるようですが、次の目的地はどちらなんですか?」
「えっ!そんなのしらねーよ。ろくに調べず勢いで出ちまったからな。取り合えず北に行くぞ−!!」
「えっ!ええぇ−−−ッ!!」
だだっ広い草原に少女の叫び声が響き渡るのであった。
無理矢理ぃーな感じでしたが一応第一部は終了となります。
だけどサラ達もまだまだ出て来ます…多分。
第二部ではまた違うキャラ達との旅に…なる予定です、はい。
それで第一部終了ということでまとめ的な意味を込めてキャラ紹介とかあった方がいいですかね?
要望がないようでしたらそのまま第二部に入らせてもらおうかなー…と考えています。
感想などなど待ってます。