第十六話 本気×圧倒×唖然
多少のグロ入るんで苦手な方はご注意を…
11/20 誤字訂正
――――side ????????
他に人の気配もせずしんとした路地裏に一つの黒と一つの白が五人の男達に囲まれていた。
「おっ!いい女はっけーん!」
「男の方も顔は良いから売ったら金になりそうだぜ?」
「まぁ取り合えずお前ら無駄な抵抗はやめとくんだな。お前らみたいなガキと女が刃向かったってしょうがないぜ?」
「怪我はしたくないだろー?ん?」
男達は口々にでたらめばかりを言う。
捕まったら怪我どころでは済まされないのは分かりきっていることなのに。
しかし体格差や人数差があるにも関わらず黒い服の少年と白い服の女はなんら怯えた様子はない。
「表に出た瞬間に絡まれましたね、マスター」
「んー…こんな見た目損だよ、全く。いちいち相手するの面倒だもん」
「ではマスター。私が片付けましょう」
「いいよ、久しぶりだし僕がやる」
そういうとマスターと呼ばれた黒い身なりの少年は一歩前出た。
「なんだガキ?お前が守るってか?バカらしー」
ギャハハハ!と男達は笑う。
少年は心底うっとうしそうに言った。
「まぁいいからさ、僕を見ててよ。『邪悪な視線』」
少年はフードを取り、男達と視線を合わせる。
が別段男達に変わった様子はない。
「何やってんだぁ?ガキ。こうしゃしゃる奴うぜぇんだよ。もう売るのもめんどくせぇ、死ねや」
男の一人はナイフを持ち少年の胸をズブリと刺した。
少年は叫び声一つあげずその場に仰向きに倒れる。
「ちっ、ほんと邪魔だったな。女はどこに消えた?逃げたのか?」
辺りをキョロキョロと見回すが女の姿はどこにも無い。
すると何故か女の姿だけでなく、建物や空、仲間の姿まで消えていた。
真っ暗な空間の中であるのは自分と少年の死体だけ。
「おい、お前ら!どこ行った!?隠れてないで出てこいよ!ったくめんどくせぇやつらだな…」
何を思ったのかからかわれていると感じた男は苛立ち死んだ少年の頭を蹴った。
するとポロッと少年の頭が取れたではないか。
「うわっなんだこいつ、気持ちわりぃ」
そういって顔を上げると
「うわあぁぁぁーーー!!!」
そこには立って後ろを向いた少年がいた。
それだけではない。
首の前半分が切り離され、頭が背中側に逆さまでだらんとぶら下がってこちらを見ているではないか。
その顔は目が片方飛び出ており、もう片方の焦点があっていない。
鼻は削げ落ち、血まみれの状態で後ろ向きにこちらに向かって来る。
もはやこの世のものとは思えない。
男は腰が抜けてしまい、上手く立ち上がれない。
向かって来る、頭が逆さまで背中に付いているように見える少年は口を開いた。
「オマエモ、ナカマニ、ナロウヨ」
「や、やめてくれっ!!悪かった!俺が悪かった!!ヒッ!こっちに来ないでください!!お、お願いしますっ!!たっ、たっ、たすけてくれーーーっ!!!!」
「マスターの魔法はいつ見てもぞくぞくします」
「そう?僕はもう慣れちゃったかなー。幻術とは言え、本物と同じ質感だから怖いよね−」
「そんなことを平気でやるマスターが怖いです」
男達は実は離れていなかった。
その場で五人とも同じ幻を見ていたのだ。
男達は翌日になって発狂死の変死体として発見されるのである。
「あっ!お金金庫から持ってくるの忘れた!ファイル分しかない…」
「もう…ほんとマスターはおっちょこちょいですね」
「まぁいっか、コピーすればいくらでもあるし」
「本当はカードはいかなる能力によってもコピー出来ないはずなんですけどね。お金だけとは言え、マスターはやはり規格外です」
「照れるなぁ、クゥ。でもあれやると市場が混乱するから嫌なんだよね。まぁ僕ら二人分くらいならいっか」
「褒めてないですよ…」
そうして少年と女は光の当たる表舞台に繰り出すのだった。
――――side end
サラ達が無事に勝利した後、幸介は何か適当な理由をつけてサラ達から離れた。
ディモン達との戦闘のための準備(着替え)をしなければならなかったのだ。
幸介の必死な理由付けに事情を知っているダリスは苦笑していた。
ミディアを引き連れて準備完了。
幸介はすごく緊張していた。
強者相手との闘いの為…ではなく、ばらされたらどうしようという心配の為である。
もちろん闘いでミディアを傷つけてしまうことも心配だが、幸介自身がチートのためそこらへんは大丈夫なのだろう。
しかし実は幸介はばれた時のことをすでに考えていた。
そしていよいよ入場の時がやって来る。
DJ佐藤が何か言ってるがこの際もう気にしないことにした。
(ディモンさん達には悪いが瞬殺させてもらおう。まぁばらされたら恥ずかしいのもあるけど、ここらで本気見せといて、他の選手をビビらせよっと。)
心の中で瞬殺宣言を決めた幸介。
実は幸介はディモン達の強さを知っていたから本気を出すことにしたのだ。
万が一ミディアが危険な目にあったらと思うと幸介としては本当は気が気でならなかった。
そして今、闘いの始まりを告げるゴングが鳴った。
――――side Dimon
こいつはまいったな、とディモンは内心とても焦っていた。
始まると同時にあの小坊主が消え、相棒のハイトが地面に埋まっていたのだ。
(まさかこの俺でも反応はおろか、目で追うことすら許されないなんてな…一杯くわされたぜ。さっきの試合はまだ全然本気じゃなかったのか…こいつは化け物なんて生優しいもんじゃない。ちっ、このガキ底がしれねぇ)
急いで幸介の方を警戒すると、一瞬目が合った。
その時ディモンは死を覚悟したという。
「ディモンさん、ちょっとだけおやすみなさい」
幸介のこの言葉を最後にディモンは意識を失った。
――――change side Reina
「とうとうあの変態組も年貢の納め時ね。師匠に勝てる奴なんていないんだからッ!!レイナもそう思うでしょ!?」
甲冑娘でツンデレのサラと、ローブを着た年の割に何かと小さい少女レイナは二人で並んで控室に座っていた。
控室からは一般席と違い会場の様子がはっきりと見える。
レイナはサラに同意を求められたので取り合えず頷いた。
レイナは知っている。
サラが幸介に逃げられてちょっと落ち込んでいるのを。
さらにミディアという可愛らしい女の子と一緒に出かけたことでより一層寂しい気持ちになっていることを。
それにむしゃくしゃしているのに自分自身気づいていないことを。
そして……
幸介が逃げた理由が試合に出場するからだということを。
実はレイナは誰よりも早くそのことに気づいていた。
彼女にとって魔力を探るのは朝飯前なのである。
当然幸介から何故か魔力が少しも感じられないことに気付き、ずっと疑問に思っていたのだ。
そこで旅の途中彼をずっと見張っていた。
すると昼間は全くおかしなことはなかったが夜彼が度々消えるのを見てしまった。
そしてミディアを一緒に連れてきたのも。
初めレイナはそれを有り得ないと思った。
転移魔法は自分でさえも使えない。
何故なら桁外れな魔力が必要なので自分の魔力量では足らないことと、さらには人間を超越するほどの集中力が必要だからだ。
転移魔法はもちろん転移先について細かく知っていなければならないし、何より少しでも転移の位置がズレたら大惨事になりかねないのだ。
上にズレて落ちてしまうだけならまだましだが、下にズレてしまった場合、さらには転移先に丁度人がいた場合等を考えるととても集中なんて出来ない。
だがこの幸介とかいう男はそれを簡単にやってのけている。
ミディアを連れて現れたのが何よりの証拠だ。
人を連れて転移するのは一人でするより難易度が格段に跳ね上がる。
ましてや魔力がない状態で魔法を使うことなど考えられない。
そしてその力を隠す理由も分からない。
もう分からないことだらけなのでレイナは考えるのをあきらめた。
幸い悪人ではなさそうだし、頭を撫でてもらえるのも気持ちよくって癖になりそうなので気にしないことにしたのだ。
だから魔力のことには今まで触れてこなかった。
だがこうやって幸介が姿を隠して大会に出ているということをサラに言った方がいいのか迷ってしまう。
幸介のことを考えると何か理由があって姿を隠しているのだろう。
護衛対象として知ってしまった個人の秘密を仲間とはいえ話してしまうのはどうなんだろうか。
一方自分達は命を預けあってる仲なので一つの秘密がチームワークの乱れに繋がりかねない。
うーん…と考えてたらいつの間にかゴングが鳴っていたのに気づいた。
やっと始まったのかと思ったら会場中が騒然としている。
隣のサラを見ると口をポカーンと開けて目を見開き「えっ…」とか「そんな…」とか「ありえない…」と呟いている。
そしてDJ佐藤の声が聞こえてきた。
「…これはっ…一体何が起こったのか…開始と同時にSランク伝説の傭兵の一人『ハイト=フィナンシェ』が戦闘不能の状態に陥り、その後身構えていたもう一人の伝説の傭兵『ディモン=トライバル』が膝から崩れ落ちて気絶してしまった……そして倒れたディモンの隣に相手選手『ザ・バカップル』の青い(?)方がただ佇んでいるだけ………ッ!こ、これから導き出される答えは一つッ!!しょ、勝者ぁぁ!『ザ・バカップル』!!準決勝進出ぅぅ!!!」
レイナはその真実を聞いてもまだ釈然としなかった。
考えられないのだ。
いくら幸介が強いと分かっていても、自分達の師匠がやられるわけがないと思っていた。
少し面白い試合になると思っていた程度だったが、完全に想定外のことが起こってしまった。
師匠達の強さは弟子の自分達が一番よく分かっているつもりだ。
それがこんな、こんなにもあっさりと容易く倒されてしまうなんてレイナには到底信じることが出来ない。
無論サラにしたってそうだろう。
これは勝てる勝てないの次元ではない。
自分達でさえ化け物だと思っていた人達が、反応すら出来ずに負ける相手に勝てるわけがない。
生まれて初めてあまりの実力差に絶望抱いてしまった。
サラにいたっても「勝てっこない…」と呟き未だに茫然自失な状態だ。
ドラゴンはサラまでとは言わないが「あいつらあんな力隠してやがったのか……」と驚いている。
レイナは取り合えず幸介に会おうと思い、二人を置いて席をたった。
本当に今更ですが、この物語はフィクションです。
実際の団体名や個人名とは全く関係ありません。
感想とかとか待ってます。