第十三話 初戦×予想×恋路
――――side Sara
いよいよあの変態共の実力をこの目で見ることが出来るときが来た。
相手の『ブレイカー』は最近出てきたくせに妙にやり手な奴ら。
剣術もさることながらスペルカードの使い方が上手い。
カードは魔法みたいに魔力を練らないでいいから自分の好きなタイミングで使えるのが強みだ。
彼等はそれを相手が一番嫌がる時に使うことが出来る。
対人戦は彼等が最も得意とする戦闘だろう。
(持ち前の『ドラゴン』に勝った運もここまでだわ)
カァンッ!
と試合開始のゴングがなると同時に彼等『ブレイカー』は二人とも動きを見せた。
どうやらあのピンクの方を先に叩こうという寸法らしい。
魔法よりカードが優れているのは二人とも動けることにもある。
動くにしろそうでないにしろ機動力が高いのは有利だ。
そういった点でも私達とは戦い方が違う。
バカップルのピンクは怯えたのか、しゃがみ込んで頭を抱え込んでいる。
(全くの初心者じゃないの?
このままだとあのピンクは終わりね。
ブルーの方が助けに行っても相手は相当の速さだし、二人がかりだからどっちにしろ無駄だわ。)
そうたかをくくったが結果は私の予想を大きく超えていた。
(な、何で!?何が起こったの?)
しかしそこにはいたのは相変わらず頭を抱えていたピンクとピンクの目の前にいるブルー、そしてダウンした『ブレイカー』の二人だったのだ。
「何が起こったのでしょうか!?開始後勢いよく倒しにかかった二人が何故か相手の前で倒れていますっ!!」
実況の疑問はここにいる全ての観客の疑問だろう。
遅れてカウントが入るが流石と言ったところかブレイカーはゆっくりと起き上がっている。
その間ブルーはピンクに何か言っていた。
試合が再開すると今度はブレイカーも危険だと察知したのかファイルを出している。
「スモークオン!」
ブレイカーの一人が煙幕のスペルを相手を中心に発動した。
同時にもうひとりはその煙幕の中に飛び込んで行った。
(さっきより早いわね。おそらく身体と嗅覚の強化スペルを使ってる)
身体強化は分かるだろうが、嗅覚強化は煙幕によって視界が悪くなっているので臭いで相手を感知するというものだろう。
煙幕によって私達からもどうなっているのか状況は分からない。
唯一見える煙幕のスペルを発動した人は魔力を練っている。
この間を使って上級魔法を使う気だろう。
(しかし、嫌に静かだわ。普通なら相手の驚く声などが聞こえてもおかしくないんだけどね…)
やがて煙が薄れて中が見れるようになると中で何が起こったのかすぐに分かってしまった。
(あ、有り得ない。奇襲した方が一太刀も浴びせることなく逆に一撃でのされているなんて…)
ふたを開けてみると先程と同じように、だが今度は完全にのびている男とその前に悠然と立っている変人二人だった。
今なら最初にしゃがみ込んだのも演技だと思えてしまう。
予想外の結果に慌てて魔力を練り魔法の準備する男。
しかしそれを見てもまるで突っ立ったままの二人。
(バッ、バカにしてるの!?あれだけ長い間魔力を練っているのに邪魔しに行かないなんてっ!まるで撃って来いみたいな余裕…ムカつくわっ!!ブレイカーさっさと何でもいいから殺っちゃいなさい!)
「くっ、くたばりやがれ!『チェインフレア』!!」
チェインフレアは直径6、70cm程度の炎の塊を連続して打ち出すことの出来る魔法。
一つ一つがかなり破壊力をもっており、さらに一発当たれば続けて二発三発と被弾してしまうたいていは対大型モンスター時に使う魔法なのだが…
(これじゃあ当たったら本当に死んでしまうわ!確かに殺れとは言ったけど死んだら後味悪いし何より失格でしょう!!)
相手はお構いなしにチェインフレアを撃ち放つ。
そして着弾。
爆音と共に爆煙、爆風が辺りを覆い、全く何も見えなくなってしまった。
(当たっちゃったじゃないの…最悪の結末ね)
煙が晴れた時にはバカップルの二人は生き絶えており、ブレイカーには失格が告げられるだろう。
サラはそう思っていたし、誰もがそう思っただろう。
『ザ・バカップル』以外は。
目の覆いたくなる瞬間がやって来た。
人が死ぬところを見たいクズなんてそうはいないはずだ。
徐々に煙が晴れて試合場の様子が明らかになってくる。
しかし目の前にある事実はまたもやサラ、いや全ての人達の予想を遥かに超え、否定した。
結果は簡単。
またまた倒れていたのは魔法を唱えた方で被弾した方は外傷一つ、かつ服にすら目立った汚れもなしにただ立っているだけ。
誰から見ても勝敗は明白だ。
「一体何が起こったのか!?俺から見るとただ攻撃した方が倒れるという全く不可解な現象が起こっただけ。だがその現象が一つの事実を指し示しているっ!!勝者『ザ・バカップル』!!二回戦進出だぁーッ!!」
うおおぉぉぉおおぉーーー!?
歓声とは言えるか分からない疑問符のついた歓声の中、彼等は退場していった。
相手の『ブレイカー』はどうやら気絶しているだけらしい。
(分かったわ。あいつら『カウンター』の使い手なのね。だとすれば全て納得がいく。そして分かったなら後は楽勝。カウンター対策なんて腐るほどあるんだから)
もし『双刃の姫君』と『ザ・バカップル』が戦うことになるなら決勝戦になるのだがすでに戦うことを想定しているサラだった。
そしてサラはまたもや自分の予想を裏切られることとなる。
――――change side Dimon
「見えたかい?ディモン?」
「ああ、うっすらだがな。これで分かった、奴らは化け物だ。少なくともそう思って戦わないと話にならないだろう」
あの煙の中どれだけの人が真実を知ることが出来ただろうかとディモンは思った。
隣のハイトも分かったようだが、どう感じたのだろうか。
「お前はどう思った、ハイト?」
「んっ…とそうだね。まぁ僕達にとっては死闘になるかな。取り合えずただ単純に早過ぎる。そして少なくともフレアを片手で受け止めながら普通に前に進むなんて真似、魔力が売りの僕でも無理だ。それに…」
「あの『男』からは魔力が微塵も感じられない。そうだろ?」
コクンとハイトは頷く。
そんなことは有り得ないのだ。
この世界に飛ばされた者は実は誰しも少なからず魔力が与えられている。
「これで決まりだな。あそこにいた変な格好をした馬鹿げた奴らはサラとレイナの護衛対象だ。どうしてこんなことをしてるのかは分かんねぇ。が、俺達の前に立ちはだかるやつぁ誰であろうと捩じ伏せる。そうだろ、ハイト?」
「そうだね、ディモン。そして二対一なら勝ち目はあるかもしれない」
彼等は見抜いていた。
ブルーの方が幸助でピンクの方がミディアだということを。
ミディアはさっきの試合中ずっと動かなかったしコースケに守られていた。
すなわちミディアは戦闘要員ではなく数合わせということになる。
するとミディアの方は注意しなくて済み、コースケ一人に的をしぼれる。
そしてそれでも危険な武道大会に出たということはミディアはそれ程コースケに全幅の信頼をおいているのだろう。
(ククッ、サラの奴ライバルは手強いようだぞ)
弟子の恋路を心配しつつ、久しぶりの本気の戦いに胸躍らせるディモンであった。
――――side end
ふぅ…俺っち疲れたよ。
中々策士な相手だったな、とコースケは思った。
相手の力量を判断した瞬間に策を練り次の行動に移す判断力とチームワークは凄かったと思う。
ミディアの方には絶対障壁を張ったと言えやっぱり心配で庇いに行っちゃう。
まぁ男としては正解…だよな?
次はあのじゃじゃ馬『サラ』の師匠、ディモンさん達だ。
いよいよ気が抜けなくなってきたな。
そう思いながら控え室に向かっていると次の試合の用意のためディモンさん達と会った。
当然他人のふりで通り過ぎようとすると急に立ち止まり…
(お前、サラ達と一緒にいた坊主だな。次の試合はよろしくたのむぜ)
と耳打ちしてこられました。
ばっ、ばっ、ばれてるうぅっっっ!!!
これは困った。
とても困った。
何より恥ずかしくて死にそう。
これをネタに脅されたらもちろん逆らえません、ええ逆らえませんとも。
それとも暗に降参しろということなのだろうか?
思わずその場で固まってしまい、後ろを歩いていたミディアが俺にぶつかり「ふにゃっ!」と声を出しているがそれどころではない。
もう俺の人生オワタ。
行き違う人ごとに「うわっキモい格好が趣味な変態が来たっ!近寄るな!変態菌がうつるぞ!!」と言われることに…
もうお婿に行けない…
しばらく呆然と突っ立っていた俺の目の前でミディアが手を振りかざしたり声をかけてみたりといろいろしたらしいのだが気付かないのでやはりひきずられてその場を後にした。
気がつくと控え室にいた。
どうやらすでにディモンさん達の試合は終わっていたらしい。
次の試合相手の力量を見ないで挑むことになろうとはなんたる不覚。
仕方なくミディアに聞いてみることにする。
「なぁ、今の試合どうだった?」
ミディアは俺がいつの間にか我に返っておりいきなり声をかけたことに驚いたようだ。
「サラさんの師匠さんの試合ですか?えーっとですね、よくわかりませんでした。始まってすぐ終わっちゃったんで」
おいおい…相手は少なくともかなり高い倍率の予選を勝ち抜いてきた奴らなんだぞ?
それを瞬殺だなんて…
しかも二人とも同じような実力だろう。
どうしようか…
取り合えず二回戦まで寝るか、疲れたし。
再び俺はまぶたを閉じた。
戦闘描写は難しいですね…
全く書けた気が…
感想とかアドバイス、誤字などありましたらどんどんお願いしますm(._.)m