第十話 ならず者の街×武道大会×変装
「ここがルクスムかー。思ったより明るい雰囲気だな」
「そうですねっ!なんだかみんな楽しそうです」
ミディアも初めて見た他の街なのかいつもよりはしゃぎ気味だ。
それにしてもならず者の街と聞かされたわりには人が多くて賑わっているように見える。
街並みは確かに綺麗とは言えないが。
「今日…武道大会がある…賞品…レアカード」
レイナちゃんが前にある大きな看板を指差して呟いた。
「なんですって!!早速登録するしかないわねっ!行くわよレイナ!!」
それを聞いたサラは目を輝かせながらレイナちゃんを連れ猛ダッシュであっという間に消えた。
必然的に俺とミディアは取り残される。
「あっという間に行っちゃいましたね二人とも。私達はどうします?」
武道大会だから人が多かったのか、と一人納得してるところにミディアが今後の予定を聞いてきた。
「どうしますって言われてもなー…何かしたいことある?」
「一応私達もプレイヤーだし、カード集めるのも目標の一つなんじゃないですかねぇ」
まぁそれもそうだ。
だけど俺はいつでも帰れるし、カードも集める必要は今はないからやることない。
それならその武道大会とやらに参加しても面白いかもしれないな。
「じゃあミディア、俺も参加してみようか?顔とかは仮面とか着ければ全然大丈夫だろうし…」
「だったらペアルックなんてどうですか!?二人で色違いで出場なんてかっこいいですー」
あれ?
ミディアさん出る気なんですか??
てかペアルックで仮面なんて危ない奴等にしか思われませんよ?
言うなら野菜人が主人公の某国民的アニメに出てくるグレー〇トサイ〇マン1号2号なんかが良い例。
本人達は格好良いと思っているかもしれないが端から見ればまるで変態にしか見えない。
「ミディア…ペアルックは流石にちょっと……」
「やっぱり私みたいな女とはペアルックなんてしたくないですよね。厚かましいですよね。ごめんなさい」
えー…なんか俺が悪いみたいになっちゃった…
てかミディアさんキャラ変わっちゃいました…?
ちっ!あのくそ作者のせいか!?
「いや…うん、やっぱりペアルックは良いと思うなー。あははははー」
「やっぱりそうですよね!!じゃあ今すぐ仮面とペアルックの服買って出場登録しに行きましょう!!」
目がキラキラ輝いてるよミディア…
やっぱりキャラ変わりすぎだぁ…
もとの純情なミディアに戻ってくれー
そして今のミディアが魔性の女に見えるのは気のせいであってほしい…
さらに本人が自覚してないところが一番恐ろしい。
買い物を終え、大会用スタイルに変身した俺たち。
ふっ…周りの視線が痛すぎるぜ。
そして鏡で今の自分の見て思った。
どこのグレ〇トサ〇ヤマンですか!?
ほぼ一緒じゃないか!!
そもそもなんでこんなヘルメット売ってんだよ!!!
「コースケ様?チーム名考えたんですけど聞いてもらえますか?」
そうなのだ。この武道大会は二人一組。
だからミディアの出場を許可したのだ。
よく考えたらミディアの周りに結界みたいなの張って、俺が守ってやればいいだけだし。
「ん?なんだ?」
「サイヤマ「それはダメだ(著作権的に)」えっ!?せっかく良い名前だと思ったのに…」
良かった。
あの名前を最後まで言わせてはダメな気がする。
というかミディア…
お前はこの格好させて言うなんて確信犯なのか!?
そもそも何故知ってる!?
「ならラブラブズなんて…「断る」だったら何が良いんですか!?もう、コースケ様が決めてください!!」
ぷいっとそっぽを向くミディア。
ちょっとぐらっときたのは内緒だ。
というよりそんなネーミングセンスしかないミディアの頭の中を見てみたいわ!!
「じゃあここは無難にライダーズなんてどうだ?」
うん、我ながらいい名前だ。
「そんなありきたりな名前じゃ嫌です」
別にありきたりではないと思うんだが…
「はぁ…じゃあもうミディア決めちゃっていいよ」
そういうことで俺たちはチーム「ザ・バカップル」に決定した。
恥ずかしくて死にそう。
仮面で姿が見えないから許したんだが…
もう俺の人生で汚点としか言いようがない。
そんなこんなで予選が始まった。
かなりの人数が技を競い戦っている。
やはり理由は今回の賞品のカードだろう。
ランクAでそのなかでも価値が高い方らしい。
俺たちは難なく予選を突破した。
…のはいいんだが、勝つ度にミディアが抱きついたり何かしらの俺の理性を奪おうとするアクションを起こしてくるのがきつい。
本人いわく「名前の通りじゃないと怪しまれるよ!!」とのことだがもうすでに十分すぎて逆に目が離されない時がないくらい怪しまれてるのを天然なミディアは知らない。
ちなみにサラ達も無事に予選を突破していた。
流石は有名な「双刃の姫君」だ。
ちらりと観戦したんだけど二人のコンビネーションは抜群。
周りの人たちも彼女らを見て、戦っているのにまるでダンスを見ているような錯覚に陥って見入っていた。
そして終わったあとの拍手が印象的。
ふつう予選程度の戦いに拍手なんて起こらないもんだ。
それほど完璧な技だったのだろう。
ちらりと見ただけだからよくわかんないけど…
そして本選まで少し時間があるのでミディアと少し店を見て回ることにした。
―――――side sara
武道大会やってるなんてついてるわ。
しかも優勝賞品がランクAの「古代の剣」なんてAの中でも手に入りにくいって言われていたからすごくラッキー。
すぐ参加登録しないと。
それにしても…
「コースケ達置いてきちゃったけど大丈夫だったかしら…」
「やっぱり…コースケ心配?」
「えっ?やっぱりってどーゆーこと?」
「サラとコースケ…早朝から仲良し…素顔見せてたし…」
えっ!!あれ見られてた!?
「なっ…!レイナ見てたの……?」
こくっと頷くレイナ。
恥ずかしすぎて顔から火が出そう…
「サラが男の人に素顔見せるなんて…珍しい…」
確かに私はめったに男性に素顔を見せない…
「そんなことはどーでもいいでしょ!!それよりそろそろ予選が始まるわよ」
この話題からそらさないと私の身がもたない気がする…
蓋を開けてみたら圧勝だった。
まだ予選だけど私達のグループには強いチームはいなかったみたい。
それにしても周りに人だかりがあるのがうざいわね。
ちょっと有名になるとすぐこれだから嫌なのよ。
私達は本選まで時間があるので街をぶらぶらすることにした。
そういえば会場にいた知らない男たちの会話がすごく気になった。
――――――――――
『てかさーあのチームすごかったよね』
『マントにヘルメット、しかもカラフル。そうとう目立つよなーしかもかなり強かったし』
『けど強いとは言えあんな格好したやつらに負けたら恥ずかしいよ』
『そりゃそうだ。なんたってチーム名は〈ザ・バカップル〉だぜー?もうおかしくて仕方ねー』
――――――――――
私はチーム名を聞いた瞬間盛大に吹き出してしまい周りから奇怪な目で見られた。
一体どんなチームなんだろ、それ。
気になりつつも会場を離れる。
暇だからレイナを連れて武器でも見に行こうかしら。
街へ繰り出したのはいいがこれといってめぼしいものは見当たらない。
本選は昼からなので飯屋に行くことにした。
金はあいつから奪ったが基本節約なので近くの定食屋に入った。
そこは武道大会のせいでもあるのか賑わっている。
と、そこに見たことのある大柄の男がカウンターの席に座っていた。
「ディモンさん!!」
半ば驚いたような声でその男の名前を呼ぶとこっちに気づいてくれたようだ。
やっぱりそれは私たちに武を教えてくれた師匠の姿だった。
「おー!サラとレイナじゃねぇか!久しぶりだなぁ!!この武道大会に出たら会うかもしれんと思ったがホントに会うとは…ほら、レイナ、元気にしてたか?」
いつの間にかちょこんとディモンさんの隣に座っていたレイナの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
レイナは嬉しそう。
「サラも相変わらず変なもんかぶってんなー。お前らも予選は突破したのか?」
「ええ、もちろんです!ってことは、ディモンさんも出てたんですか?パートナーの方は?」
「俺のパートナーと言ったらこいつしかいないだろう。てか俺の隣にずっと座ってんぞ?レイナは気付いてたようだけどな」
ディモンさんの隣に座っていたレイナはまたいつの間にか消えていて隣の見覚えのある細い男に撫でてもらっていた。
「ハイトさん!」
彼も師匠の一人で主に魔法を教えてくれた。
「サラちゃんに気づいてもらえないなんてショックだなぁ…」
「そんなにショックじゃないくせに」
「うっ…でもレイナちゃんはちゃんと気づいてくれたよ?」
この人はいつもこうやって私を困らせようとする。
「はいそーですね。ディモンさん達も賞品狙いですか?」
「もちろんそれもあるが、いろんなところから集まってくる猛者たちと戦いたいってのが一番だな」
「ふふっ、ディモンさんらしいですね。それで強い方は見つかりましたか?」
「今年はかなり名の知れた奴らがいるぞ。『トライブ』のリーダーや『ガーゴル』の奴らも参加しているらしい」
「へぇー…相手にとって不足なしですね」
「それでな、『ザ・バカップル』っていうふざけた奴ら知ってるか?」
「ブハッ!!」
その名前を聞いたとき飲んでた水を吹き出してしまった。
やはり周りの視線が痛い。師匠にこぼれた水をふいてもらってる…恥ずかしいよ。
「その変態なチームがどうかしたんですか?」
落ち着いたところで質問し返す。
するととんでもない答えが帰ってきた。
「そのチームがあの『ドラゴン』を倒した」
「「「えっ!!」」」
その言葉を聞いた三人は驚いて師匠を見た。
『ドラゴン』といったら私達と同じAランクの一人。
一緒にギルドで仕事もしたことあるが彼はそんなに簡単に負けるような男ではない。
「あいつらも優勝候補の一角だったんだけどな、バカップルの奴らは1号って呼ばれてたやつ一人で倒した。それも、一分もかからずに、だ」
「「「…………」」」
「がははははっ!!流石にだまっちまうか。俺はよう、久しぶりの『ドラゴン』の姿を見ようと予選の合間をぬって試合を見に行ったんだ。ところがよぉ、そこにいたのは『ドラゴン』達と、変なコスプレをした『バカップル』と名乗るやつらだった。」
「それで?」
続きが気になりせかすハイトさんをディモンさんが落ち着かせ、続きを話す。
「俺もよう、最初はノリで出場するようなバカなやつらだと思ってたんだよ。何しろあいつら試合始まって『ドラゴン』が動くまで昼御飯の話で言い争ってたからな。カレーかラーメンかどっちが食べたいかってことで」
「そっ、そんな訳あるわけないじゃない!!だって『ドラゴン』って言ったら誰もが喧嘩を売るような相手じゃないって分かってるはずよ!!」
そんなことあるわけがない!
もしこの話がほんとならバカにするのもいいとこだわ!
私は半信半疑で師匠の話を聞くのだった。