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チェンジ!




 アタシは、冒険に出るっつったらだだっ広いフィールド…みたいなのを想像してたんだけど、それはどうやら違うらしい。


『―この町では城壁の外側を囲むように城下町がある。

そしてその城下町ごと高い防壁で囲ってしまおうという街の構造だ。

検問所までは馬車が通っているが、外に出るとなると高い金を積んで雇わねば―誰も乗せてはくれないだろうな』



 一応都市の近くには道が整備されているが、遠く離れた辺鄙な場所には道もなく、魔物が出る等の危険もある。


「なんだぁ。フィールドじゃないんだ〜。つまんねー」

『は?』


 町を出てすぐにクソ広い草原なんてのは有り得ないのか。


 そうか…考えれば確かにな。


「ん〜、いやいや。なんでもない」

『話が噛み合っていないと思うのは私だけか』


「多分全国共通の見解かな」



 で、いい加減ジードさんに話を合わせますと、


「…じゃあどうすんの。徒歩?」

『流石に徒歩では時間が掛かりすぎるな。

―今の仲間は居ない。当面の足は馬か何かを使えば良いだろう』


 ……アタシ馬とか乗ったこと無いんだけど。

 チャリは―いや、それ以前に存在しないか。



「馬乗れません」

『…元の世界の交通手段は一体何だったんだ』


「自転車っていう素晴らしい絡繰り。

体力次第で何処までも行けるよ」


 本当、シンプルだが素晴らしい発明だ。

 核兵器とかよりよっぽど使えるだろ。浸透率パネェし。


『…まさか魔法は―』

「ない。その代わり科学が発達してるよ」


 科学のワードが分からないのか、アタシの中でジードが小さく唸った。


「…錬金術ってある?」


『迷信じみているが―有ることには有るな』


「それの超進化系。

流石に石ころから金は作れないけど―炭素からダイアモンドとか、錆からルビーとか、その程度なら出来るよ」



 アタシの記憶に劣化や変質が無ければね。


 …さて、馬か…。


『…―駿馬一頭買うには金が要るが…出来るなら節約したいな』


 そうだね。金を稼ぐ手段がない以上金銭は貴重だ。


『よし、私に良い案がある。…一度城に戻れ』















「…あんたって案外腹黒いね」


『頭が働くと言って欲しいな。利用できる物は最大限活用すべきだ。

―そう思わんか』


「かなり思う」



 アタシは無事、白馬に跨って煉瓦の道を進んでいた。



 乗馬ってそんなに難しくない。

 もとからそんなに運動音痴じゃないんで、5キロ位進んだ今は大分馴れ、歩くぐらいは楽勝になってきた。


『…能力は一番ではないのか…。

…まぁ、致仕方あるまい。白馬という事で納得しよう』


「つっても2番だぜ?しょうがないじゃん。一番は陛下さんのなんだから。

…てか、好きなの?白馬」


 何その訳分からん嗜好。王子様に憧れる人ですか。


『…私に似合うだろうが。何処からどう見ても真っ白だ』

「ああそっちか!!」



 分かんねぇ。コイツとことん分かんねぇよ。


『見た目は大事だぞ。

お前は黒ずくめの男に『こんにちは、天使です。貴女をお迎えに参りました』…と、言われたらどうする。』


「迷わず警察に電話する」


 だろう?と、ジード。


『反対に、白装束の金髪碧眼の少年に同じ事を言われてみろ。絶対に信じるぞ』


「うん、相棒の大型犬が欲しくなっちゃうかも知れない」


 そして荷台に乗って昇天するんだろうな。




 ―すっかり城下町の防壁も遠ざかり、開けていた景色にも木々の姿が増えてきた。


「…で、さぁ。今更だけどオレは一体何処に向かってんの」


『隣の都市はもう少し大きな街だ。

勇者だと言うことを口実―いや、主体に武闘大会でも開けば、強い輩―もとい、仲間が手に入るだろう』



「……つくづく汚ないな…お前」


 頭は良いんだろうけどさぁ…。真っ当に生きようとか思いませんか。


 ……いやいや、違うな。真っ当なんだよね。言い方が頂けないだけで。


「仲間とかめんどい。…ってか、人間関係を築くのがめんどい」

『お前も随分と人間失格だな』


 本当に最悪なコンビかもね。

 相性とかじゃなくて、根性のあたりが。具体的には揃って凄くねじくれてて。



「つまんねーなー。

戦ってみたいなー。モンスター出ないかなー」



 ぱっからぱっから進んでるだけじゃ退屈なんだよね。

 武器も手に入れたし、そろそろ異世界を堪能したい。


 …いや、ケンカで堪能は虚しいとか言わないで。



『相手が面倒だから、魔物が出ないに越したことは無いだろう。

それにそう都合良く出る訳――』



 メキメキメキメキ!!

バキん!!


「『は?」』


 道沿いの木々が一挙に薙ぎ倒され、ずっと背後の道が塞がった。



 ―と、


「わあああああ!! 退いて退いて退いて!! 危ないですからああ!!!!」


 薙ぎ倒された場所から飛び出し、泣き笑いで全力疾走、かつ突進してきた少年。


「……え、ちょっと何これ」

『…恐らく何かに追われているのだと思うが…』


 と、全地面が激しく震撼した。


 白馬が嘶き、前脚を高く上げて立ち上がる。

 しっかりと捕まっていなかったアタシは、揺れる大地に振り落とされた。


「っくう!こ…ッの!!」


 手綱は放さなかったので、逃げようとする所を地面に指を打ち込んでしがみつき、阻止する。


 …スゲェ怪力だなアタシ。



「きゃああああ!! 来ちゃったぁあーーっ!!」


 少年の悲鳴に顔を上げた。



「うえ゛っ!?」


 少年は、超デカい巨人みたいなのに追われている。


 メタボ体型で短足で、一つ目の巨人。肌の色がアバター。

 これまたクソでかい棍棒を持っていて、ソレを振り下ろす度に―


「く…っうう―ッ!!」


 大地が震える。


『サイクロプスだ

―お前には強すぎる敵かも知れん』

「じゃあなに!? 逃げろっての!?」

『馬がパニックに陥っている。人の脚では逃げ切れん』


「何が言いたいんだよ!! 死ねってか!?」


『戦え!』


 はあぁああ!?

 馬鹿なんじゃないの!?


「勝てっこ無いんじゃなかったのかよ!!」

『ではただなぶり殺されたいか!』

「嫌だね!!アタシはギリまで戦って死ぬ人間だ!!」


『―できるな』



 …―あぁあクソッ!!


 アタシは背中の剣を抜き、手綱の輪の中に突き刺した。


「逃げてくださいそこの人ーッ!!!!」


「…誰が逃げるか!!」



 突進してくる巨人に向けて、アタシは飛び出した。


 ―衝突する向きだからか、違うからか。

 アタシ、凄く速い。


 サイクロプスって怪人が、言語にならない声で吼えた。

 そして振り降ろされた棍棒。地震の前に飛び上がり、それを足場に更に飛び上がる。



 ―凄い跳躍だ。巨人よりも高く跳ねてしまった。

 アタシを捉える一つ目。


 その極端に低い鼻に着地し、全力で振りかぶり、踏ん張って―


「―お前、記念すべきモンスター一号、―ッな!!」


 眼球を殴った。


「ガァアアアアアアアアアア!!!!」


 巨人の咆哮。そりゃあ痛そうに、目を庇って頭を振った。


「っうあっ!?」

 アタシは振り落とされて、

 上から追い討ちみたいに棍棒が降ってきて―。



 ―やべ、無駄にでしゃばった罰か



 もう少しでぶつかる―って所、で、

 …茶色い何かがアタシをかっさらっていった。


 直後、棍棒が地面を叩く。


「うぇあっ!!」

「え、ちょ―何事!?」


 アタシを担いでいたのは、

「おま―っ、さっきの少年!?」


 驚いた、この身体をかよ。


「ボクは逃げてって言ったのにぃい!!」

「逃げ切れないって判断した結果だって!」

「貴方何者ですか!エンジェイ族じゃないですか!!」

「まー一応容れ物は!!」


『喋る暇があるなら前を見ろ!!

このままだと馬が轢かれるぞ!!』

 ジードの声が珍しく切羽詰まっていた。


「う、マジだ!!」

 動物愛護法施行せよ!!


『―ち…、私が替われれば―』

「アタシもそう思うよ!!」

『嗚呼、―歯痒い!!」


「…わ―!!』


 その時、確かに後ろに投げ出された感覚があった。

 …けど、


 ―あれ?


「おい―離せ」

「わっちょっと!!」


『ちょ、コレどうなってんの!?』


 アタシの声が響いて聞こえる。

 少年からアタシが逃れ、馬を繋いでいた対の剣を引き抜く。


 …いや、其れよりも、身体の感覚が薄い。ボケてる。

 聴覚にも淡く残響が残り、景色は何処か遠くにある。


 …え、嘘何これ。




「―覚悟しろ」


 巨大な2本の剣が、太陽光を照り返して光った。






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