ジード
昨晩、まぁまぁ仲良くなったあのミニマムな白ローブと話をした。
大まかには、アタシが急の急に旅立つ事についての不満、上司のグチ、家庭事情など。そんな取り留めもない様な事ばっかり。
以下適当に回想。
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『急すぎると思いませんか? 明日ですよ?』
ちっちゃい頬を膨らまして、ミニマム白ローブがぷりぷり怒る。
『まぁ…アタシとしては早く出たいから好都合なんだけどさ』
現状の心理としては、全てをパッパッと済ましたい。そんなところ。
正直、飛ばされた直後との変化なんてほとんど無いのだ。
…そこに、ちょっとした親切心の欠片みたいなのがプラスされただけ。
『そんな…ぼくは困りますよ!!』
受け答えもめんどくさい。アタシは投げやりに言う。
『はぁあ? …何で』
『勇者様にお教えしたい事が沢山あるんです!! ―大きな声じゃ言えないことも』
―大きな声じゃ言えないこと。
そのワードに、アタシは何故か無性に惹かれて、耳を貸した。
『ほお?…―例えば』
『その身体の持ち主のこととか。コレは結構基礎知識として必要だと』
この身体…ってのは、ウォーレンとかって呼ばれてた兄ちゃんだ。
一回だけ見た鏡にその姿を見て、ホントにおったまげたよ。超美形。
『…このイケメソの事か』
『いけめそ?』
……アタシの虚言に付き合ってくれるな、恥ずかしい。
誤魔化せ誤魔化せ。
『…いや気にすんな。ホラ、続き』
促すと、思い出した様にミニマム白ローブは続けた。
『あ…ああはい。…その身体の持ち主はウォーレン様という御仁なのですが。フルネームはウォーレン・ジード・カーディスといい、神の使いエンジェイ族の―』
『そういうのはイイ。興味ない。…ソレが大事な基礎知識?』
『…ま、まぁ一部です』
『うっとおしいから大事な所だけ簡潔に』
アタシが短気なのは存知の事実の筈だ。
つか必要か?
コイツのプロフ。
…いや不要んだろうが。
『そ、それでですが…、ウォーレン様は勇者様のお供として、そして護衛として辺境からおいでくださった方なんです。
ウォーレン様だけは勇者召喚に積極的で、陛下にも随分と掛け合ってくれたみたいなんですけど…』
『けど』
『……けど、陛下はそのウォーレン様に夢中になられてしまって、難癖付けてなかなか勇者召喚を許可しなかったんです。
それで、世界も国民も待ちくたびれている状態で…』
『…それで今日の今日出発か』
『…はい』
しゅんと項垂れるように下を向く。
別にあんたは悪くないだろって頭を撫でたい衝動に駆られた。ペットみたいな。
ミニマムは不意に頭を上げ、拳を握る。
『非道くありません!? 勇者様はこの世界での貨幣も法律も一般常識も―…それはおろか武器の名前も性質すらも知らないのに!!』
『………馬鹿にされてるのかなアタシ』
『それなのに、何にも知らない勇者様をほっぽりだすなんて!!』
『…まぁ…悪気は無いんだろ。あの人だから』
陛下さんが下心があってアタシを、―ましてやこの身体の主ウォーレンを送り出すとは思えない。
あの人にとってコレは苦渋の選択なんじゃないかな。
『陛下の人格は破綻しています!私情に任せて勇者召喚を引き止めるなんて!!』
まぁ…陛下としてどうかとは思うけど。
ああ、そうだ。この罪悪感が正規かどうかの確認、しておこう。
『……あのさ、ひとつ訊いて良い?』
『? はい?』
『そのウォーレンってのはさ、陛下さんとは…どうだったの。陛下さん側からじゃなくて、コイツ側からは。』
アッサリと。
何でもないことのようにミニマムは答える。
『…ああ、全く興味無かったみたいですよ。適当な理由で断り続けてきた様なので』
それを聞いた瞬間、罪悪感とか場違い感とかが一気に軽減された。
『は〜!軽く一安心だわ〜。肩の荷が軽くなった…』
『…どうしてですか?』
『―ん。こっちの話。…それよりさミニマム白ローブ。…魔法、って…あるんでしょ?』
『ぼくそんな名前!? ―いや、ありますけど…!』
『ちょっくら教えてくんないかな。…なに、時間もないからさわり程度で構わんよ』
『あ…ぼく魔法は使えますよ!! ―才能は皆無ですがね。はっ』
『なーにそれで十分さ。さ、魔法ってのはどーやって使うんだ?』
『…魔法はですね、要はイメージなんですよ。ほら、それで魔力のイメージを―……』
『ん、コレで良いのかな。わぉ!出来た出来たコレって―……』
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陛下さんを始めとする城の従事者全員に見送られて、アタシはジブリアニメのワンシーンさながらに城を出た。
ちなみに今現在、日の出前。
…陛下さんの話によると―以下は要約。
混乱や開戦を防ぐために勇者召喚の報は出す。
が、アタシが勇者だって事は公には言わない方向でやってくらしい。
理由は言うまでもなく、色々とややこしくなるからだ。
…確かにこの外見じゃ勇者ってか勇者の右腕だし、陛下さんの言う事はごもっとも。
それにアタシはめんどくさいの嫌いだから、それは凄く良い案だった。
よって大人しく賛成。陛下さんの言う事に従うことにした。
…との事で、城下町の方々にさとられないようにこんな早起きをした訳です。要約、以上。
……とは言えど、こんなに早く町に出てもやることもない。何せ店も開いてない。
究極に暇だ。
パン屋…か何か、看板のイラストから想像するに多分パン屋…の煙突から、白い煙が昇っている。
朝特有のひんやり澄んだ空気を喰らうが、暇潰しに適さない。だって暇が紛れるわけでもないし。
誰か話し相手いないかな。ケータイもある筈がないし、コンビニも無いから立ち読みも出来ない。
「…あ〜…。疲れた…」
考えるのにも歩くのにも疲れた。
アタシは人目に付かない裏路地に入り、こそこそと辺りを窺う。
…あったあった。ちょうど良い木箱。寝不足だったんだよね〜。…そうそう、これを2つくらい並べてその上でゴローンっと―…
『―みっともない事をするな!!』
「うひっ!? 誰!?」
咄嗟に飛び起きて周囲を窺う。
人気は無い。
…けど、…絶対に空耳じゃ無いでしょ…。
形容しがたい悪寒と悪汗。急に朝の薄闇が恐怖感に変わる。
扱えないとは薄々解りながらも、背中に装備されていた2本の剣に手が伸び―…
『―それを扱えると思うのなら抜いてみるがいい。…抜いたとしても相手がいないがな』
「わわわっ!! また!? …こ、こんな所に居ないでさっさと成仏しやがれ!! 来るなら来い!相手ならすっぞコラァ!!」
『…昨日の朝までは、生きながらに幽霊扱いされる日が来ようとは…思ってもみなかったな…』
つかどこに居るんだよ!
場所が特定できない。どことか言うよりは…何て言うか頭の中で響いてる感じ……―ん?待て待て頭の中?
「…も、もしも〜し?」
『やっと落ち着いたな。そうでないと話が通じん』
耳から入るアタシの声と同じ。…いや、大分こっちの方が凛々しいな。
『―お前の言動、全て見聞きしていた。…世界を救う勇者が聞いて呆れるな』
「…んだよテメー!うっさいな、アタシだって色々不便なんだよ!!
大体人を馬鹿にする前に正体表したらどうなんだ!!」
『―正論だ。名乗らせて貰おう。
―私はウォーレン・ジード・カーディス。
エンジェイ族を代表し、勇者殿の護衛となるべくこの地へ赴いた。…が、まさかお前の様な口の悪い小娘が勇者とはな』
「悪かったな口の悪い小娘で!! 勝手に言ってろ!」
…ん?ウォーレン?
どっかで聞いたなそんな名前。
―あ゛!!
「お前この身体の持ち主か!!」
『…そうでなければ何処の物好きが内面から話し掛けたりするものか』
「何で今更になって―。陛下さんがお前のために泣きそうになってたぞ。女泣かすなんて最低だな!!」
…そういうアタシは、既に戦いの数だけ相手を泣かしてます。
殴るとかは跡が残るからね。精神攻撃で。
『勘違いするな。出ていけなかったんじゃない。出ていきたくなかっただけだ』
「尚更悪いじゃねェか」
どうやったら好印象に解釈できるんだよ。誰か教えてくれ。
『…私はあの方が苦手でな。
勇者召喚を引き留めたり召喚師の説明を省いたり、…私ごときに現を抜かしている事を分かっているのだが…どうにも』
「…アタシは好きだけどなぁ、あの人」
段々と空が明るくなってきた。人の声もいつの間にかまばらに増えている。
着実に時間は潰せているらしい。
『―しかし、お前には文句ばかりは言っていられないな。あの時壺を割ってもらわねば、もしかしたら本当に幽霊に成っていたやもしれん』
「………アタシ、壺なんか割ったっけ」
…覚えてないな。ちょくちょく破壊活動してるから。
『礼を言うぞナギ』
「…まー悪い気はしないな。割った事にしとくか」
割ったって言ってるんだから割ったんだろう。 別にどうでも良いけど。
「…あぁ。じゃあさぁ、アンタが勇者に成りすまして世界救ってよ。アタシそれまでバトンタッチして中で寝てるからさぁ」
コイツの方が、100%勇者に向いてる。
性格、喋り方、そしてハードボイルド。完璧。
『……それが、だな』
「ん?」
『私は『表』に成れない…らしい』
「え…?ぇえぇええーッ!?」
な…何で!!
どうして!?
完全に人任せモードだったアタシは、軽く絶望。
あたしゃそう簡単に納得しないよ!!
『…実は何度か試みてみたのだが…無理だった。どうやらお前の自我が強すぎて身体を乗っ取れないようだ』
「うっそぉー…!! じゃあアタシやっぱり勇者ぁ!?」
『その様だな。―やるからには頑張ってくれ。出来る事は尽力する』
「…くっそ!楽しようと思ったのに…」
「はっ。残念だったなナギ」
…まー…、出来ないモンはしょうがないー…。幾ら駄々捏ねたって出来ないんだから…。
「…でー…、さぁ、アタシ、この武器は使えないと思うんだよね。早速アタシ用の武器の買い物、レクチャーしてくんない?」
『む、案外頭が回るな。…了解した。出来る事なら致そう』
某ゲームの仲間が出来た音楽とコマンドが脳内に表示される中、アタシはすっかり活気付いた市場に向かった。




