表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

ジード




 昨晩、まぁまぁ仲良くなったあのミニマムな白ローブと話をした。


 大まかには、アタシが急の急に旅立つ事についての不満、上司のグチ、家庭事情など。そんな取り留めもない様な事ばっかり。


 以下適当に回想。


    ・

    ・

    ・


『急すぎると思いませんか? 明日ですよ?』


 ちっちゃい頬を膨らまして、ミニマム白ローブがぷりぷり怒る。


『まぁ…アタシとしては早く出たいから好都合なんだけどさ』


 現状の心理としては、全てをパッパッと済ましたい。そんなところ。

 正直、飛ばされた直後との変化なんてほとんど無いのだ。

 …そこに、ちょっとした親切心の欠片みたいなのがプラスされただけ。


『そんな…ぼくは困りますよ!!』


 受け答えもめんどくさい。アタシは投げやりに言う。


『はぁあ? …何で』

『勇者様にお教えしたい事が沢山あるんです!! ―大きな声じゃ言えないことも』


 ―大きな声じゃ言えないこと。

 そのワードに、アタシは何故か無性に惹かれて、耳を貸した。


『ほお?…―例えば』

『その身体の持ち主のこととか。コレは結構基礎知識として必要だと』


 この身体…ってのは、ウォーレンとかって呼ばれてた兄ちゃんだ。

 一回だけ見た鏡にその姿を見て、ホントにおったまげたよ。超美形。


『…このイケメソの事か』

『いけめそ?』


 ……アタシの虚言に付き合ってくれるな、恥ずかしい。

 誤魔化せ誤魔化せ。


『…いや気にすんな。ホラ、続き』


 促すと、思い出した様にミニマム白ローブは続けた。


『あ…ああはい。…その身体の持ち主はウォーレン様という御仁なのですが。フルネームはウォーレン・ジード・カーディスといい、神の使いエンジェイ族の―』


『そういうのはイイ。興味ない。…ソレが大事な基礎知識?』

『…ま、まぁ一部です』


『うっとおしいから大事な所だけ簡潔に』


 アタシが短気なのは存知の事実の筈だ。

 つか必要か?

 コイツのプロフ。


 …いや不要いらんだろうが。


『そ、それでですが…、ウォーレン様は勇者様のお供として、そして護衛として辺境からおいでくださった方なんです。

ウォーレン様だけは勇者召喚に積極的で、陛下にも随分と掛け合ってくれたみたいなんですけど…』

『けど』

『……けど、陛下はそのウォーレン様に夢中になられてしまって、難癖付けてなかなか勇者召喚を許可しなかったんです。

それで、世界も国民も待ちくたびれている状態で…』

『…それで今日の今日出発か』

『…はい』


 しゅんと項垂れるように下を向く。

 別にあんたは悪くないだろって頭を撫でたい衝動に駆られた。ペットみたいな。


 ミニマムは不意に頭を上げ、拳を握る。


『非道くありません!? 勇者様はこの世界での貨幣も法律も一般常識も―…それはおろか武器の名前も性質すらも知らないのに!!』


『………馬鹿にされてるのかなアタシ』


『それなのに、何にも知らない勇者様をほっぽりだすなんて!!』

『…まぁ…悪気は無いんだろ。あの人だから』


 陛下さんが下心があってアタシを、―ましてやこの身体の主ウォーレンを送り出すとは思えない。

 あの人にとってコレは苦渋の選択なんじゃないかな。


『陛下の人格は破綻しています!私情に任せて勇者召喚を引き止めるなんて!!』


 まぁ…陛下としてどうかとは思うけど。

 ああ、そうだ。この罪悪感が正規かどうかの確認、しておこう。


『……あのさ、ひとつ訊いて良い?』

『? はい?』

『そのウォーレンってのはさ、陛下さんとは…どうだったの。陛下さん側からじゃなくて、コイツ側からは。』


 アッサリと。

 何でもないことのようにミニマムは答える。


『…ああ、全く興味無かったみたいですよ。適当な理由で断り続けてきた様なので』


 それを聞いた瞬間、罪悪感とか場違い感とかが一気に軽減された。


『は〜!軽く一安心だわ〜。肩の荷が軽くなった…』

『…どうしてですか?』

『―ん。こっちの話。…それよりさミニマム白ローブ。…魔法、って…あるんでしょ?』


『ぼくそんな名前!? ―いや、ありますけど…!』

『ちょっくら教えてくんないかな。…なに、時間もないからさわり程度で構わんよ』


『あ…ぼく魔法は使えますよ!! ―才能は皆無ですがね。はっ』


『なーにそれで十分さ。さ、魔法ってのはどーやって使うんだ?』


『…魔法はですね、要はイメージなんですよ。ほら、それで魔力のイメージを―……』


『ん、コレで良いのかな。わぉ!出来た出来たコレって―……』


    ・

    ・

    ・


 陛下さんを始めとする城の従事者全員に見送られて、アタシはジブリアニメのワンシーンさながらに城を出た。



 ちなみに今現在、日の出前。


 …陛下さんの話によると―以下は要約。


 混乱や開戦を防ぐために勇者召喚の報は出す。

 が、アタシが勇者だって事は公には言わない方向でやってくらしい。


 理由は言うまでもなく、色々とややこしくなるからだ。


 …確かにこの外見じゃ勇者ってか勇者の右腕だし、陛下さんの言う事はごもっとも。

 それにアタシはめんどくさいの嫌いだから、それは凄く良い案だった。

 よって大人しく賛成。陛下さんの言う事に従うことにした。


 …との事で、城下町の方々にさとられないようにこんな早起きをした訳です。要約、以上。



 ……とは言えど、こんなに早く町に出てもやることもない。何せ店も開いてない。

 究極に暇だ。

 パン屋…か何か、看板のイラストから想像するに多分パン屋…の煙突から、白い煙が昇っている。


 朝特有のひんやり澄んだ空気を喰らうが、暇潰しに適さない。だって暇が紛れるわけでもないし。


 誰か話し相手いないかな。ケータイもある筈がないし、コンビニも無いから立ち読みも出来ない。


「…あ〜…。疲れた…」


 考えるのにも歩くのにも疲れた。

 アタシは人目に付かない裏路地に入り、こそこそと辺りを窺う。

 …あったあった。ちょうど良い木箱。寝不足だったんだよね〜。…そうそう、これを2つくらい並べてその上でゴローンっと―…


『―みっともない事をするな!!』

「うひっ!? 誰!?」


 咄嗟に飛び起きて周囲を窺う。


 人気は無い。


 …けど、…絶対に空耳じゃ無いでしょ…。

 形容しがたい悪寒と悪汗。急に朝の薄闇が恐怖感に変わる。


 扱えないとは薄々解りながらも、背中に装備されていた2本の剣に手が伸び―…


『―それを扱えると思うのなら抜いてみるがいい。…抜いたとしても相手がいないがな』


「わわわっ!! また!? …こ、こんな所に居ないでさっさと成仏しやがれ!! 来るなら来い!相手ならすっぞコラァ!!」


『…昨日の朝までは、生きながらに幽霊扱いされる日が来ようとは…思ってもみなかったな…』


 つかどこに居るんだよ!

 場所が特定できない。どことか言うよりは…何て言うか頭の中で響いてる感じ……―ん?待て待て頭の中?


「…も、もしも〜し?」

『やっと落ち着いたな。そうでないと話が通じん』


 耳から入るアタシの声と同じ。…いや、大分こっちの方が凛々しいな。


『―お前の言動、全て見聞きしていた。…世界を救う勇者が聞いて呆れるな』

「…んだよテメー!うっさいな、アタシだって色々不便なんだよ!!

大体人を馬鹿にする前に正体表したらどうなんだ!!」

『―正論だ。名乗らせて貰おう。

―私はウォーレン・ジード・カーディス。

エンジェイ族を代表し、勇者殿の護衛となるべくこの地へ赴いた。…が、まさかお前の様な口の悪い小娘が勇者とはな』


「悪かったな口の悪い小娘で!! 勝手に言ってろ!」


 …ん?ウォーレン?

 どっかで聞いたなそんな名前。


 ―あ゛!!


「お前この身体の持ち主か!!」

『…そうでなければ何処の物好きが内面から話し掛けたりするものか』


「何で今更になって―。陛下さんがお前のために泣きそうになってたぞ。女泣かすなんて最低だな!!」


 …そういうアタシは、既に戦いの数だけ相手を泣かしてます。

 殴るとかは跡が残るからね。精神攻撃で。


『勘違いするな。出ていけなかったんじゃない。出ていきたくなかっただけだ』

「尚更悪いじゃねェか」


 どうやったら好印象に解釈できるんだよ。誰か教えてくれ。


『…私はあの方が苦手でな。

勇者召喚を引き留めたり召喚師の説明を省いたり、…私ごときに現を抜かしている事を分かっているのだが…どうにも』


「…アタシは好きだけどなぁ、あの人」


 段々と空が明るくなってきた。人の声もいつの間にかまばらに増えている。

 着実に時間は潰せているらしい。


『―しかし、お前には文句ばかりは言っていられないな。あの時壺を割ってもらわねば、もしかしたら本当に幽霊に成っていたやもしれん』


「………アタシ、壺なんか割ったっけ」


 …覚えてないな。ちょくちょく破壊活動してるから。


『礼を言うぞナギ』


「…まー悪い気はしないな。割った事にしとくか」


 割ったって言ってるんだから割ったんだろう。 別にどうでも良いけど。


「…あぁ。じゃあさぁ、アンタが勇者に成りすまして世界救ってよ。アタシそれまでバトンタッチして中で寝てるからさぁ」


 コイツの方が、100%勇者に向いてる。

 性格、喋り方、そしてハードボイルド。完璧。


『……それが、だな』

「ん?」

『私は『表』に成れない…らしい』


「え…?ぇえぇええーッ!?」


 な…何で!!

 どうして!?

 完全に人任せモードだったアタシは、軽く絶望。

 あたしゃそう簡単に納得しないよ!!


『…実は何度か試みてみたのだが…無理だった。どうやらお前の自我が強すぎて身体を乗っ取れないようだ』

「うっそぉー…!! じゃあアタシやっぱり勇者ぁ!?」

『その様だな。―やるからには頑張ってくれ。出来る事は尽力する』


「…くっそ!楽しようと思ったのに…」

「はっ。残念だったなナギ」


 …まー…、出来ないモンはしょうがないー…。幾ら駄々捏ねたって出来ないんだから…。


「…でー…、さぁ、アタシ、この武器は使えないと思うんだよね。早速アタシ用の武器の買い物、レクチャーしてくんない?」

『む、案外頭が回るな。…了解した。出来る事なら致そう』


 某ゲームの仲間が出来た音楽とコマンドが脳内に表示される中、アタシはすっかり活気付いた市場に向かった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ