その訳
展開が早いです
少年の民族は狩猟民族。
狩りをして生活をする、勇敢な民族だったらしい。
大人になる為の儀式もその影響で、ひとりでモンスターを倒せれば一人前だと認められる。
しかし、ジード曰くサイクロプスは中級のモンスターで、わざわざそんな物に手を付けなくても良いはずだ。…そうだ。
「どうしてわざわざあんなヤバいのに挑んだりしたの?」
少年が苦笑い。
「……ボクは、本当はまだ大人になる必要なんか無いんです。
けど、今はどうしても必要で…。
形式化してしまった仕来たりを利用して、ボクは大人にも敵うって知らせたかったんです」
成人式でビール呑みすぎてベロベロになる…みたいな?
…いや、全然違うか。
「…何でキミの力を知らしめたかったのさ? 死ぬかも知んないのに」
「……死んだって良いんです、…お姉ちゃんを救えないボクなんて」
その、お姉ちゃんが弱々しく言う。
「リッキー、やめて頂戴……そんなことを言うのは」
少年は、机を叩いて立ち上がった。
髪やミミの毛が逆立っている。尻尾も膨れていた。
近所で喧嘩をしていた猫を思い出した。
「だって!! そんなボクが生きていたって辛いだけじゃないか!
後悔して惨めに生きるぐらいなら行動して死んだ方がマシだ!!」
こんなショタ…いや、子供が、死んだって良いなんて事を言うなんて思わなかった。
戦時中の国民はこんな感じだったのかな。
「…少年、キミはもう十分大人だよ。立派に一人前だと思うけど」
少年は息を荒らげながらも、少し冷静になって座った。
「―ごめんなさい、ちょっと興奮しました。
この一族は、今は勇敢なんかじゃありません。…ただの腰抜けに成り下がってしまった」
お姉ちゃんは、黙って下を向いたままだ。
「…どういうこと?」
アタシが訊くと、少年はちらりとお姉さんを見た。
様子を窺いながら、躊躇いがちに呟く。
「…森の深くに、儀式の塔があります。
昔…―いえ、ほんの最近までは、あそこは追悼や婚礼のための神聖な塔だった」
俯いていたお姉さんの目から、堰を切ったように涙が溢れた。
慰めたいんだけど、これあんまベタベタ触ったらセクハラになんないかな。今一応男だしな。
…なんで、一線を越さない程度に肩を抱いておく。…あれ、これってまずいかな。どうだろう。
「…けど、今は只の魔物の巣窟です!
その上、頂上にいたセイレーン様まで…今は…」
セイレーン?
なんか…神格じみた名前ですな。
「それがどうしたの?」
少年は僅かに頷く。
「セイレーン様は、ボクらの守り神でした。なのに気が触れてしまったのか…ボクには分かりませんが…。
……生け贄を渡さないと村を滅ぼすと言われました。…それで、お姉ちゃんが……」
「!!」
―だから、お姉ちゃんはこんなに憔悴してるのか。
『―ナギ、分かっているのか。お前の使命はボランティアじゃない』
ジードの声。
今は聞きたくない。
「…いや、ボランティアだ。オレに利益はないんだから」
この世界を救っても、アタシの世界は平和にならない。
戦争はなくならない。地雷は消えない。ホームレスに家は見つからない。
…停学処分は、取り消しにならない。
―だから、やりたいことをやる。
「少年、大人じゃないとお姉ちゃんを助けられないのかよ」
「…いえ…塔に行くことを、未成年を口実に断られただけです」
「そうか。―じゃあ問題ない」
決めたら即行動。
アタシの短所で、長所でもある。
立ち上がって、見上げる少年に言った。
「―そのセイレーンって奴、ぶん殴りに行こうか」