白色少女
下ネタ注意ー!
ゆらゆら揺れる尻尾について行くと、一件の小さなログハウスに辿り着く。
これが少年の家なのだろう。
村の建物は全部そうだ。レンガや木以外の家は見当たらない。
ログハウスっつーか、子豚の次男が作ったような家ばっかり並んでる。
いやソレがまた絶妙に合うんだよ。ケモノミミに。
『――黙れ変態勇者。何をにやついているんだ、締まりのない。
表情を引き締めろ』
「えっ!? あんたとうとう読心術まで取得したの。
何だよ、うかうか考え事も出来ねぇじゃん」
『…違う。……急に物凄い悪寒がしたんだ』
全身全霊で、ミミ萌えを拒否している声だった。
……ああ、なるほど。
受け付けないのね。体中の細胞という細胞が。
『…止めて貰えないか、頻繁に不謹慎な事を考えるのは。
……それは―確かに、時にはそういう気分になる時だってあるかも知れん。そこは理解しよう。お前とて人の子だ。
しかし…そういう事は周りに人のいない場所で、個人的に行って貰えないだろうか』
神妙な声でそんな事を言われて、
…―いやいや、ちょっと待て。待ってくれジードさん。
「いやいやちょっと待とう?……あの、さ、アタシ別にエロいこと考えてる訳じゃ―」
『今お前の身体は女じゃないんだ。即座に下半身が反の―』
「黙れ!!変態はお前だ!!」
言ってることは正論だがダメだソレは。
ちょっと色々大人の事情的に、そういう発言は描写を濁さなくちゃいけないんだ。
「…ってめェ何なんだよ!新種のセクハラか!!」
『違うな。これは私の体だぞ。そんな姿を見られた暁にはそのブツを切り落とさねばならな―』
「恐ろしいこと言ってんじゃねぇ!!!!」
こいつ、案外下ネタ好きなんじゃねぇの?
いや、分かんないけどさ。
「ゆ、勇者様? なんか…さっきから色々…―大丈夫ですか?」
…ほらー。不審がられちゃったじゃーん。
「あ…いやうん、問題ない。ちょっとこっちで色々と」
お下品なトークしてました。
「…な、なら良いですけど…。そうですよね、勇者様ですもんね」
「ん、まあ、間違っちゃいないかな。…いや、それは別に良いんだよ。
――所で、ここがキミの家?」
「はっ!」
少年の耳が、ピンッと跳ねた。激萌え。
「そうでしたそうでした! はい、ボクの家です」
話の進展しそうな気配だ。よしよし。
「―…ただいま」
分厚い木製のドアは少年には重たいようで、全身を使って押し開けた。
「お邪魔しまーす」
家の中は桧の匂いがした。
ガラスの窓が無いからか、薄暗い。
物珍しいんであちこち見回している。と、
『きょろきょろするな。子供かお前は』
「あーんもう、いちいちうっせぇよ。だって新鮮じゃんかよー」
『ナギ、お前は一応でも勇者なのだ。もう少し誇りを持て
というか恥を知れ』
「まるでオレに羞恥心がないみたいじゃないか」
『違うのか?』
「……否定はしないが」
頭の中で、小さく溜息が響いた。
「…あ!これ何て言うんだっけ。なんか思い出せそうな気がする」
壁に掛かっている、小さな布をいっぱい繋いだような壁掛け。
『伝統工芸か何かじゃないのか?』
「うん、多分そんなんだったと思う」
何だっけな〜何かやったんだよなー、こないだ家庭科で。
「あのさー少年、これって―」
壁の飾り物について話題を振ろうと思って、少年のほうを向くと、
「なん、だっ…た…」
既に少年は全然違う場所にいて、
その後ろ姿は、とてもポップだなんて言える空気じゃなくて、
どうでも良い雑談は簡単に忘れた。
「――お姉ちゃん」
少年が薄く開いた扉から、光が漏れ出している。
アタシも気になって、少年の元へと歩み寄った。
「……ああ…リッキー」
弱々しい、女の子の声。泣いているのか、語尾が震えている。
アタシは薄く開いたドアを覗き込んで、
「お姉ちゃん…ボク――今日も大人になれなかった」
「……そう…。
…ううん、いいの…。リッキー、どうか無理はしないで……。
…―っ…ああ、何で……ごめんなさい、私――」
「……泣かないで、お姉ちゃん。…ごめんね、ボクが弱いから…」
そこにいた少女に、驚いた。
―この村で初めて見た、白い織物のワンピース。
肌も髪も白い。純白だ。瞳が赤い。
泣いて充血した所為もあってか、それはさらに強調されて見えた。
「アルビノ―?」
その赤い瞳が、
驚きを含んでアタシを捉えた。