転生者は辛いよ
転生パターンで虫系ってあまり見ない気がして。
……………良く思う。前世の異世界転生で人間に転生できた人はそれだけで僥倖だと。
いや、人外に転生するのは一種のロマンだと思う。
有名なスライムに転生したの主人公はかなり苦労したけど。獣人とかドラゴンとか異世界独特の生き物に転生した方々も羨ましい限りだ。
まあ、一部。猫アレルギーなのに猫になったとか。トカゲが苦手なのにトカゲになったとか。いろいろあるだろうから一概に羨ましく思ってはいけないかもしれない。
それでも、異世界転生したらそうなるといいなと思われる程度には愛されている存在だろう。
……………異世界独特の生き物と言えば自分もなんだけど。正直、嬉しくない。
「………」
怯えたようにこちらを見て、視線を外す少女。
がりがりに痩せ細り、服はほぼ下着一枚。そして極め付きは首輪。
奴隷だ。
「お前のメスだ。励めよ」
偉そうに告げてくるのは人間。そして、その言葉に怯えたように身を縮ませているのが奴隷の少女……同じく人間。
そして、自分は、インセクト。いわゆる虫人間だ。
彼女を連れてきた男はさっさとその場から消えていく。それを目でも、虫人間独特の振動などで把握して。
「初めまして。お嫁さん」
と挨拶をする。
「言葉………」
「通じるよ。通じなかったら、人間と共同戦線などしないでしょう」
そこに座ってと一つしかない椅子を薦める。
「名前を名乗った方がいいかもしれないけど、識別番号として、カマキリ型0-23と呼ばれている。最初の0は苗字と思ってくれればいい。23番目の成功体という意味で付けられたんだ」
「…………」
話についてこれていないようだ。それはそうだろう。虫人間がしゃべるなど思っていなかっただろうし。
「まあ、大事なのは僕の名前がそれだっていうこと。で、お嫁さんの名前は?」
愛着はないが、識別されているからまだましかな程度のものだ。前世の名前を憶えていたらそっちを名乗っていたかもしれないが。
「…………名前」
「うん。あるよね」
「…………聞かれると思わなかった。奴隷になったら番号呼びされていたから」
「……………」
「お前は虫のメスになるのだから。そんなものいらないだろうと言われてきたし……」
「あ~……」
一応こちらは手を組んでいるだけなのに完全に格下扱いだな。人間そんなものか。
「……………奴隷になってから初めて人間扱いされた」
「そっか……」
そりゃ、人間だしね。
「ヴェレッタ。です……」
「ヴェレッタ。うん。素敵な名前だね。これからよろしくね」
改めて挨拶をするとまた驚かれる。
なんでそこで驚かれるのか。もしかして、虫人間に素敵な名前という感性があると思わなかったということだろうか。
この世界は常に戦争をしている。
多種多様の種族が存在していて、主導権を争っているのだ。
そんな中。竜人と獣人が同盟を結んだ。
竜人は番を愛する習性があり、その番が獣人の姫だった。
番同士の愛というきっかけで互いの種族の思惑が重なり、同盟という協力関係を結んだことで他の種族もそれぞれ同盟を結び自種族が有利になるように動きだし、翼人は魔人に。魚人は岩人と。
そんな中、虫人間が手を結んだのは人間だった。
人間は他の種族に比べて力が弱く、知恵で対抗する。その足りない力を補うために。虫人間は、力こそ優れているが、メスが優位性のある立場で、オスが不利益を被る現実。その為に子供を作る際の様々な支援を求めて。
特に自分のようなオスのカマキリは、子供を作る際に滋養として食べられる。
そう、食べられる。頭からバリバリと。
(童貞捨てると同時に、死亡かよ~!!)
いや、蜂のオスよりましだ。あいつらは生まれてすぐに搾り取られて捨てられるのだから。
虫は多産化だけど、いろいろあって生き残るのも少ない。そもそもオスが少ないのに使い捨て。そんなのを打破するために、人間と同盟を結んで同族の伴侶が出来ない者たちは人間を伴侶にすることになったのだが、
(まさか、奴隷を用意して送り込んでくるとはね)
まあ、それもあり得たか。好き好んで人外の嫁になりに来るなんて酔狂な輩は早々いないだろうし。
その日の夜。ヴェレッタは緊張した面持ちでベッドに上がろうとしたのを止めた。
「身をゆだねようとしてくれる覚悟は嬉しいです、だけど、僕たちは夫婦になるのだから互いのことをまず知っていかないと」
怯えている女性に無体なことをするなんて思われたくない。ただでさえ、人間と同じ背丈をしているがほとんど虫の姿。ましてや、手はなく、カマキリの鎌があるのだ。恐ろしいだろう。
そんな存在に身も心も委ねるなんてことはよほどの覚悟がないと無理だ。
ヴェレッタの首輪が枕元のライトに照らされる。彼女の悲壮感は自分が奴隷だからという逆らってはいけないという思いの表れなのだろうかと気になって人間と異なるカマキリの鎌でその首輪を破壊する。人間からすれば特注品で壊せない代物でも虫人間である自分からすればコツさえつかめば破壊できる代物だ。
だから、その負担をせめて減らしたくて、お互いのことを話し合う。至極当たり前のことなのだが、
「ありがとうございます……」
と泣かれてしまう。
何でここで泣かれてしまうのにどう慰めればいいのかと人の手があれば背中を撫でるとかいろいろあるのだが、あいにくカマキリの手だ。ただ見ているしかできなかったのだが……。
「私は素敵な旦那さまに嫁げたんですね」
「……………」
いや、こんなことくらいでそんなこと言われても……。
「でも、首輪を破壊してしまったら。身元を保証できるモノもなくなってしまいます……」
誰かの所有物であるという証明の首輪。それが無くなったら危険ではないかと言われて、意味が分からなかったけど。
(そういえば、異世界ものであったな。首輪とか、刺青があるから誰かの所有物として傷付けられないが、それが無くなったら壊していいと判断されて、ならず者に襲われるという話も。
「新しいものを用意するよ。って、首輪ではなくて……」
思い出すのは前世の世界のネット動画で見たチェーンソーアート。人間の手のように器用に出来ないが、カマキリの鎌なら似たようなことが出来るかもと。
まあ、器用にできないところはヴェレッタに手伝ってもらって作ったのは木彫りのペンダント。
それを互いの首に下げて。まるで結婚指輪のようにお揃いで持ったのだった。
愛は順調に育んでいる………と思う。
これでもかなり高給取りなので、生活に必要だと思われる物は購入して……。
「旦那さま。買い過ぎですっ!!」
「嫁ぐ前に持っていた物が下着に近い服一着だった妻の言うことは聞かない」
服をたかが5着買っただけで買い過ぎと言われても聞かなかったことにする。
「裸足で大丈夫です!!」
靴もいらないと言っていたが、
「最低でも二足は必要だろう。人間の足は虫人間よりもひ弱だ」
と言いくるめて買い与える。
「旦那さまっ!!」
「僕の稼いだ金で妻を自由に出来るのは当然では」
「最初の頃の旦那さまはもっとこちらに気を使ってくれました……」
「気を使っていてばかりでは、家族としては繋がりが弱いだろう。ヴェレッタも自分の発言を言うようになったし」
「ならば、こちらの要望も」
「却下」
出会った時には信じられないほど言い合いをして、互いの主張を出し合う。
なんだかんだで季節ごとの服とか色違いの物を与えるのは前世が高温多湿で四季感で格好を換えないと大変な事態になっていた元島国の人間だ。
あくまで最低限だと説得して、様々な物を用意したのだが、
「旦那さまは私に甘すぎます……」
「妻を大切にしたいと思っただけだ」
自分にとって当たり前のこと。だけど、どうやら、それは他の虫人間の妻たちからすれば異常だったのを自覚していなかった。
「ただ………お前は誰だ」
前線から家に帰ってきたら知らない女性が家にいる。
「お帰りなさい。誰って、失礼ね」
ヴェレッタに渡したペンダントをこれ見よがしに見せてくるが、知らない女性………いや、数時間前に交代で戦場に出ていった同僚の妻だと気付く。
「……………」
何をしているんだと呆れつつ、空気を振動。触覚などを使用して、ヴェレッタを探し出すとヴェレッタはその交代した同僚の家で拘束されていた。
不法侵入なのは後で謝罪するが、まずヴェレッタを助け出す。
「――どういうことだ?」
ペンダントを取り戻すために首元に鎌を向けた際に薄く傷をつけてしまったがしょうがないだろう。それに怯える女が居てもこっちとしては全く気にしなくなったのは心がだいぶ今の世界に馴染んだんだなと前世だったら絶対できなかった行為に対して冷静に判断する。
「な、何っ!! ひぃぃぃっ⁉」
「煩い」
喚いていて煩いからもっと傷をつけてやろうかと思って深く鎌を食い込ませたら流石に黙った。
「ヴェレッタ」
呼びかけるとヴェレッタは沈痛そうな表情で、
「……旦那さま。旦那さまは私が判別で来たんですね……」
「意味が分からない」
ヴェレッタにペンダントを返そうとしたが手がないから掴めないので鎌に引っ掛けた状態で差し出す。
だけど、それをなかなか受け取らずそんなことを告げてくるので困惑すると。
「皆さんに言われたんです……」
ヴェレッタ以外にも自分たちのような虫人間の嫁として奴隷が送られているが、他の虫人間は子供を産ませるのが第一目的だからこちらを気遣わない。
そもそも見分けていないのではと。
「私はこのペンダントで識別されているようですが、他の女性の方は……」
「あ。ああ………」
首輪は識別のために使われているのではなく、首輪をつけている相手なら手を出していい認識のようだ。
で、虫人間は同じ虫の人間だと区別がつかない。そして、あっちも自分たちを個別に認識していないのではないか。
「区別されているのはペンダントがあるからだと……」
まあ、虫の顔に識別は難しいのは理解できる。虫人間が人間を識別できるかという不安も分かる。でも、人間は見た目で判断するし、他の種族は匂いとかで判断することが多い。
虫人間の場合は触覚。それを通して判断するのが多い。まあ、一応匂いとかマーキングのように目印を付けるが。
でも、たぶん。区別はしているが虫にとって子孫を残す行為は、家族を持つではなくそのままの意味。なので子供を産んでくれそうなメスなら見境ないだけだろう。
一応、メスを巡って争いをするのだが、人間を娶る時点で負け組扱いだし、それならどれでもいいと判断してもおかしくないのかもしれない。
だけどね……………。
「旦那さまはきちんと見抜いてくれていたんですね……」
感動する基準おかしいから。
いや、おかしいのは前世の考えで動いていた自分なのかもしれないけど。うん。こんなことで喜ばないで、心を許してくれるのは嬉しいけど、そこで即落ちのようなことにならないで。
他の女性陣も羨ましがらないでほしい。
うん。世間の常識と前世の常識と今の境遇で当たり前のことで感動されるなんてどういうことか意味が分からない。
その日の夜。
「私をきちんとした妻にしてください」
と言われた時。自分を安上がりに明け渡さないでと言いたかったけど、据え膳は戴いた。
うん。やっぱ、異種族に転生した時点で苦労は絶えない。
この夫婦の間に生まれる子供は腕は人間で鎌は出し入れできる構造になる。




