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第71話:特級の証明

王都を出発したタムたち「ラストマイル」一行の前に、物流ギルドが差し向けた刺客たちが立ちはだかります。しかし、かつての彼らとは違います。再会し、絆を深めた仲間たちが揃った今、彼らにとってこの襲撃は「不測の事態」ですらありませんでした。進化した彼らの「仕事」の真髄が、今ここで明かされます。

 街道を爆走するレガシー・ガーディアンの上で、タムは絶体絶命の危機に陥っていた。白銀の箱に封じたはずの「神晶のオルゴール」が、外部からの刺客による魔力干渉をトリガーに再活性化し、箱の内部で**「精神汚染の不協和音」**を響かせ始めたのだ。

 タムの白銀の瞳はオルゴールの脈動と同調し、その意識は現実と「崩壊し続ける位相」の間で激しく揺れ動く。右腕の義手からは黒い亀裂のような魔力が走り、タムの精神を内側からパッキング解除(破壊)しようと浸食していく。

「……あ、が……ッ! 脳が、……かき混ぜられる……!」

 リナやセレスが駆け寄ろうとするが、オルゴールの放つ高濃度の魔力障壁がそれを拒絶した。近づけば仲間まで精神を破壊される。そんな孤立無援の精神世界で、タムを繋ぎ止めたのは、カイトの叫びだった。

 カイトとリナ、そしてエドワードは、タムを守るために円陣を組み、次々と襲い来るギルドの暗殺者たちを文字通り「一歩も近づけさせない」鉄壁の守りで迎え撃つ。

「タム! お前が『中』を支えてるなら、俺たちが『外』を支えてやる! 自分を信じろ、梱包師!!」

 仲間の覚悟を背中で感じたタムは、恐怖を捨てて「共鳴」を受け入れる決意を固めた。暴走するオルゴールの不協和音を、無理に抑え込むのではなく、自らの右腕を「導管ルート」としてガーディアンの心臓部へと直結させる。

「――『共鳴配送シンクロ・ディスパッチ』!!」

 神の呪いとも呼ぶべき莫大なエネルギーを、ガーディアンの推進力へと変換。紫紺の炎を噴き上げたガーディアンは、物理限界を超えた超加速で、追撃する暗殺者たちを光の彼方へと引き離していった。


 王都クレイエルの北門を抜けてから1時間。街道は切り立った崖と深い森に挟まれた「落涙の狭間」と呼ばれる難所に差し掛かっていた。ここは古来より山賊や魔物の巣窟として知られ、また、物流ギルドが「不都合な荷物」を葬るための処刑場としても利用されてきた場所である。

 霧が不自然に濃くなり、視界が十メートル先も見通せなくなった時、レガシー・ガーディアンがその足を止めた。

「……タム、来たわよ。……数は二十、いえ、三十以上。街道の両脇、頭上、さらには地面の下にも潜んでいるわ。……随分と念入りな『お出迎え』ね」

 リナが、新調した大剣の柄にそっと手を添え、霧の奥を鋭い眼光で射抜いた。彼女の胸元の魔導銀が、セレスの意識と完全に同調し、周囲の魔力分布を三次元的な地図としてタムの脳内に直接送り届けてくる。

『タムさん、ご安心を。……わたくしが既に、彼らの魔力回路の脆弱性を「検品」済みです。……いつでもパッキング解除できますわよ』

 霧の中から、黒い法衣を纏った魔術師たちと、全身を重厚な鎧で固めた私兵部隊が姿を現した。その中心に立つのは、物流ギルドの「執行官」を名乗る、顔に深い傷跡のある男だった。

「……梱包師タム。……貴様の身勝手な振る舞いは、王都の物流の秩序を著しく乱した。……子爵閣下の名により、その荷物ごと、この地の土に還るがいい」

 男の合図と共に、三十人の魔術師が一斉に呪文を唱え始めた。発動したのは、大規模な「空間固定魔法」。ガーディアンの足を止め、内部のオルゴールに過剰な重力負荷をかけて自壊させるという、最も卑劣で効率的な妨害工作だった。

 だが、タムは慌てない。彼は白銀の箱に右腕を添えたまま、静かに口を開いた。

「……カイト、お願いします」

「了解。……五秒で終わらせるぜ」

 ガーディアンの背から、黄金の閃光が弾けた。

 カイトの姿が消失したかと思うと、次の瞬間、街道に並んでいた魔術師たちの周囲で、目にも止まらぬ速さの剣閃が渦巻いた。

 ガシャン、ガシャン、と小気味よい音が響く。

 カイトは彼らの肉体を傷つけることはなかった。ただ、彼らが魔法の発動に使っていた杖や魔石、さらには法衣の留め金に至るまでを、精密外科手術のような正確さで「切断」したのだ。

「……な、……私の杖が!? ……魔法の構築が維持できん……ッ!」

 発動直前の膨大な魔力が、行き場を失って空中に霧散する。カイトは元の位置に戻り、何事もなかったかのように剣を鞘に収めた。

「……悪いな。……俺の友人は、予定より五分早く着きたいらしいんだ。……お前たちの無駄話に付き合っている暇はない」

 執行官の男が顔を真っ赤にして叫ぶ。

「おのれ、……ならば力ずくだ! ……私兵部隊、突撃しろ! 荷物を破壊しろ!!」

 重装歩兵たちが一斉にガーディアンへ殺到する。その圧力は、並の馬車であれば一瞬で紙屑のように押し潰されるほどの質量だった。

 しかし、その進軍は、たった一人の少女の「祈り」によって遮られた。

「……精霊さん、道が狭くて通りにくいみたいです。……少しだけ、お掃除を手伝ってくれますか?」

 アルウェンが杖を地面に突き立てると、街道の石畳から無数の「光の蔦」が噴き出した。それは物理的な拘束具ではなく、相手の「戦意」という魔力エネルギーを吸い取り、花を咲かせるという、エルフの郷の始祖から受け継いだ高等精霊魔法だった。

「……なんだ、身体に力が入らん……。……それに、……どうして私は、……こんなところで殺し合いを……」

 血走っていた兵士たちの瞳から険しさが消え、彼らはその場に膝をつき、咲き乱れる極彩色の花々に囲まれて呆然と立ち尽くした。

「……信じられん、……王都の精鋭部隊が、……こうも簡単に……ッ!」

 執行官が最後の手札として、巨大な魔力攪乱石ジャミング・ストーンを起動させようとした。それは「神晶のオルゴール」が最も嫌う、不規則な魔力の波形を叩きつける禁忌の魔道具だった。

「……それ、……不合格だ」

 タムの声が、冷徹に響いた。

 タムは右腕の義手を空中に掲げ、親指と中指を鳴らした。

「――『空間間引き(ボイド・ソーティング)』」

 

 パチン、と乾いた音がした瞬間。

 執行官の手の中にあった魔力攪乱石が、その質量ごと消失した。

 消失したのではない。タムが、攪乱石が存在する「座標」そのものを切り抜き、遥か上空、雲の彼方へと「強制配送」してしまったのだ。

 数秒後、遥か高空で爆発音が響き、美しい魔力の光が花火のように霧を払った。

「……荷物に干渉する不用品は、……適切に処分するのが、……梱包師の義務です」

 タムの白銀の瞳が、執行官を射抜く。

 男は腰を抜かし、尻餅をついた。目の前にいる少年は、自分たちが「無能」と呼んで追い出したあの日の出来損ないではない。世界の理さえも「荷物」として扱う、正真正銘の特級配達員であることを、その魂で理解してしまったのだ。

「……さて。……検品終了。……ルートは確保された」

 タムの合図に、エドワードが「よしきた!」と声を上げ、ガーディアンの駆動レバーを押し込んだ。

「……タム、今の空間転移……。……お前、……随分と腕を上げたな。……儂が作った予備の燃料タンクを、……使う暇もなさそうだ」

「……エドワードさんの箱が完璧だから、……僕は空間の整理に集中できるんです。……さあ、行きましょう。……国境まで、あと二時間。……お茶が冷める前に、……完璧な仕事を届けなきゃならない」

 レガシー・ガーディアンは、花々に囲まれて戦意を失った兵士たちの間を、王者のような風格で悠然と走り抜けた。

 背後で執行官が何かを叫んでいたが、それは疾走する風の音にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。

 

 夕刻。

 隣国との国境を分かつ「双子神の門」が見えてきた頃、白銀の箱に収められたオルゴールは、依然として完璧な静寂を保っていた。

 タムは、右腕に伝わる微かな震動を心地よく感じながら、沈みゆく夕日に照らされた街道を見つめていた。

 かつて自分を否定した世界が、今、自分たちの背中の後ろで遠ざかっていく。

 仲間という名の「最強の緩衝材」に守られたこの配送任務は、もはや単なる仕事ではなく、彼らの存在そのものを証明するための、輝かしい凱旋パレードへと変わっていた。

「……カイト、……リナさん。……アルウェン、……エドワードさん。……セレスお嬢様」

 タムが一人一人の名前を呼ぶ。

「……最高の配送です」

 その言葉に、誰もが最高の笑顔で応えた。

 国境の門番たちが、見たこともない巨躯の機械人形と、その上に立つ気高き一行の姿を見て、驚愕のあまり門を開け放つのを忘れるほど。

 梱包師タムの「特級の証明」は、まだその一歩を記したに過ぎなかった。

圧倒的な実力差を見せつけ、街道の刺客を瞬殺したラストマイル一行。しかし、国境を越えた先には、また異なる文化と、そして「神晶のオルゴール」を巡る新たな因縁が待ち受けています。目的地である隣国の王宮へ、彼らの「完璧な仕事」はどのように届けられるのでしょうか。次回の配送記録(冒険)も、どうぞお楽しみに。

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