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第48話:白銀の決戦!!

 絶壁の回廊スカイ・コリドーを突破した一行の前に、ついにその姿を現した監視者・アルゴス。

 一行は、新装備とこれまでの旅で培った連携のすべてを注ぎ込み、この天空の守護者へと挑みます。カイトの剛力、リナの粉砕、アルウェンの精霊術……重なる想いが、ついにアルゴスの白銀の身体を打ち砕くかに見えました。

 しかし、その勝利の瞬間に訪れたのは、安堵ではなく、背筋も凍るような機械的な宣告でした。

 お父様の管理システムの深淵、そして「精密検査」という言葉の真の意味が、一行をかつてない絶望へと叩き落とします。

 完璧に管理されたデータの前で、あがき続ける彼らの運命は――。

 白銀の広場は、静寂そのものだった。

 雲海を遥か眼下に見下ろすその場所は、太陽の光を遮るものが何一つない。鏡のように磨き上げられた床面が、暴力的なまでの輝きを反射し、一行の視界を白く染め上げる。

 その中心に、彼は立っていた。

 白銀の装甲を纏った少年のごとき体躯。顔面には、唯一つの巨大な「水晶のレンズ」が埋め込まれ、その奥で精密な機構がカチカチと音を立てて焦点を合わせている。

「……検品を開始します。不純物、計四名。……及び、イレギュラーな魂をパッキングした初期型オートマタ一体」

 アルゴスの声には感情の起伏が一切なかった。それは録音されたメッセージを再生しているかのように無機質で、それでいて場を支配する絶対的な威圧感を放っている。

「……排除プロセスへと移行。……皆様の価値、その断面をもって証明してください」

 アルゴスが指先を僅かに動かした瞬間、広場の空気が震えた。

 彼の周囲に浮遊していた数百枚の水晶の破片が、一斉に複雑な幾何学模様を描いて整列する。それらは空中で巨大な「収束レンズ」を形成し、降り注ぐ太陽光を一点に凝縮し始めた。

「来るぞ! 全員、散れッ!!」

 タムの叫びと同時に、極太の熱線が広場を横切った。

 白銀の床が瞬時に融解し、凄まじい熱風が巻き起こる。常人であればその余波だけで肺を焼かれるような一撃。だが、今の一行は砂漠を越えた時とは違う。

「……逃がすかよッ! 『巨獣の神経ニューラル・ワイヤー』、全力解放!!」

 カイトが聖剣の柄を握りしめる。第45話で新調された神経束のグリップが、カイトの腕の血管とシンクロするように蒼く脈動した。

 彼の意志がダイレクトに魔力へと変換され、放たれた光の刃はこれまでの数倍の密度と巨大さを備えていた。カイトはその光の大剣を盾のように構え、アルゴスが放つ第二射の熱線を真っ向から受け止める。

「ぐ、あああああッ! 重てぇ……けど、今の俺なら支えきれるッ!!」

 グリップがカイトの筋肉を強制的に補強し、本来なら弾き飛ばされるはずの衝撃を地面へと逃がす。その隙を、リナが見逃すはずもなかった。

「セレス、最大出力! 道を作るわよ!」

『了解しました、リナさん。……心核出力、限界までパッキング……。共振粉砕、チャージ完了!』

 リナが白銀の床に掌を突き立てる。セレスの鎧から放たれた超高周波の振動が、床面を伝わってアルゴスの足元へと殺到した。

 お父様の工廠で作られた強固な合金が、セレスの「解析」によって分子レベルで分解され、波打つように砕けていく。

『……目標の回避ルートを限定。……カイトさん、今です!』

「おうよッ! タム、頼むぜ!」

 空中に飛び出したカイトだったが、アルゴスの周囲には滞留する水晶片が「盾」として立ちはだかる。生身の跳躍では届かない。

 そこで、タムが動いた。

「……在庫ストックの使用を許可します。……開梱アンパッキング!」

 タムが第46話でパッキングした「魔獣(砂海の隠者)」のサイコロを弾く。

 空中で爆発的に解放されたのは、魔獣の巨大な甲殻の断片だった。タムはそれを単に放つのではなく、空中の特定の座標に「固定」された足場としてパッキングしたのだ。

 カイトはその宙に浮く甲殻を蹴り、さらに加速する。

 アルゴスのレンズがカチリと鳴り、カイトの眉間へ熱線を集中させようとするが、そこへアルウェンの精霊術が介入した。

「……光よ、屈折して! 彼を映さないで!」

 法衣から放たれた銀色の鱗粉が、カイトの周囲で光を歪ませる。アルゴスの狙撃は僅かに逸れ、カイトの髪を焼くにとどまった。

「これで……終点ラストマイルだあああッ!!」

 空中から振り下ろされた、絶大な光の断頭台。

 カイトの聖剣が、アルゴスの白銀の身体を脳頂から股下まで、一文字に真っ二つに引き裂いた。

 パリンッ、という、巨大な鏡が割れたような硬質な音が響き渡る。

 アルゴスの身体から銀色の擬似血液が飛散し、彼は言葉を発することなく、左右に分かれて崩れ落ちた。

 広場に、再び静寂が戻る。

 激しい呼吸音だけが、薄い酸素の中で響いていた。カイトは着地と同時に膝をつき、肩を大きく上下させる。リナもまた、過負荷で煙を上げる鎧の熱を逃がしながら、安堵の表情を浮かべた。

「はぁ……はぁ……。やった、のか……?」

「……ええ。セレスの解析でも、生体反応および動力源の停止を確認したわ。……まさか、あんなにあっさり倒せるとは思わなかったけど」

 リナがアルゴスの残骸に近づこうとした。

 だが、その足を、タムの鋭い声が止めた。

「……待ってください。近寄らないで」

 タムは御者台から飛び降り、義手のセンサーを残骸へ向けたまま、眉を潜めている。

 彼の目には、その「死体」がどうしても、あるべき姿に見えなかった。

「……タム? 何よ、もう動かないわよ、これ」

「……いえ、違います。……断面パッキングが、あまりにも綺麗すぎる。……リナさん、よく見てください。この個体には、私たちが今まで戦ってきたオートマタにあるはずの『魂の器』……コアが存在しません。……これは、ただのガワ(外装)です」

「え……?」

 リナが息を呑んだ瞬間。

 砕け散ったアルゴスの残骸から、ノイズ混じりの、しかし極めて明瞭な声が響き渡った。

『……検体A(戦士型)、身体能力の計測完了。……検体B(魔導型)、エネルギー出力パターンのサンプリングを完了。……検体C(初期型)、並びに同行者の連携理論を……全て検品しました』

 バラバラになったはずのアルゴスの口が、不気味に動き続けている。

 そして、一行の頭上――天体望遠鏡のような塔の頂から、まばゆいばかりの白銀の光が降り注いだ。

 光の中から、ゆっくりと浮遊しながら降下してくる影。

 それは、今カイトが切り裂いたはずの相手と、全く同じ姿、全く同じ「水晶の眼」を持った、もう一人のアルゴスだった。

 彼は優雅に地面に降り立つと、左右に分かれた「自分自身の残骸」を一瞥し、くすりと笑うような音を立てた。

「……素晴らしいデータでした。……皆様の必死な姿、実に美しく、そして……予測の範囲内でした」

 アルゴスは、凍りつく一行に向かって、冷徹な宣告を突きつける。

「……今のは僕の力を半分だけ再現したお人形ですよ。……本物の精密検査スキャンは、ここから始まります」

 その言葉と共に、広場全体の白銀の床が、生き物のようにうねり始めた。

 一行が先ほどの戦闘で見せた全ての技に対する「回答」を、お父様のシステムが今、この瞬間に再パッキングし始めようとしていた。

 ***

 空気が凍りついた。

 天体望遠鏡を思わせる白銀の塔から降り立った「本物」のアルゴス。その存在感は、先ほどカイトが切り裂いた「人形」とは比較にならないほど濃密で、冷徹だった。

「……素晴らしい連携でした。カイト様の身体能力を起点とし、リナ様とセレス様が構造を破壊。アルウェン様が認識を歪め、タム様が戦場を物理的にパッキングし直す。……実に効率的で、実に……『読みやすい』戦術です」

 アルゴスがレンズをカチリと鳴らす。その音一つで、広場の白銀の床が波打ち、先ほどリナが破壊したはずの床面が瞬時に再構成された。それどころか、床の表面には細かな「溝」が刻まれ、リナの放つ振動エネルギーを外部へと逃がす『排振構造』へとパッキングし直されていく。

「……リナさん、注意してください。……床の分子構造が変質しています。……今の私の『共振粉砕』では、あの床を砕くことは不可能です。……いいえ、それどころか――」

 セレスの警告が終わるより早く、アルゴスが動いた。

 彼は指先を振るっただけだった。だが、彼の周囲に浮かぶ数千の水晶片は、先ほどのような「光の集束」ではなく、カイトの光の刃と全く同じ波形の『光の鎖』へと姿を変えた。

「……カイト様。あなたの武器は、巨獣の神経束ニューラル・ワイヤーによって意志を光へパッキングするもの。……ならば、その波形を逆位相で上書きすれば、このようになります」

 放たれた光の鎖が、カイトの聖剣に触れた。

 その瞬間、カイトの右腕を凄まじい衝撃が襲う。

「ぐ、あああああッ!? 光が……消える……!?」

 蒼く輝いていた光の刃が、霧散するように掻き消えた。神経束グリップが異常加熱し、カイトの皮膚を焼く。アルゴスは、先ほどの戦闘だけでカイトの魔力特性を完全に解析し、それを無力化する「回答」を用意していたのだ。

「お父様のシステムを甘く見ないでください。……私たちは、一度見た『欠陥』を二度と許容しません。……さて、次はアルウェン様。あなたの『循環』をパッキングし直しましょう」

 アルゴスが天を仰ぐと、広場を覆う精霊の密度が急激に変化した。

 アルウェンの法衣が守っていた「温室」が、外部からの強引な魔力吸引によって引き裂かれる。酸素が再び薄くなり、リナが膝をついて激しく咳き込んだ。

「あ、あ……精霊たちが、吸い込まれていく……! アルゴス、貴方、精霊の『理』までパッキングするつもりなの……!?」

「……肯定します。……この回廊において、全ての資源リソースはお父様の管理下にあります。……貴女方の生存に必要な酸素も、魔力も、全ては私の許可なくしては存在しえません」

 圧倒的だった。

 暴力ではなく、システムそのものが自分たちを「拒絶」している。

 カイトは武器を封じられ、リナは呼吸を奪われ、アルウェンは術を無効化された。

 お父様の「精密検査」とは、侵入者の全能力を否定し、完全な無力へと追い込むプロセスそのものだったのだ。

「……検品終了まで、残り三十秒。……皆様、何か言い残すことはありますか? 不良品として廃棄される前に、最後のエラーログを記録させていただきますが」

 アルゴスが静かに歩を進める。彼の背後では、天空の攻撃端末が座標を固定し、目が眩むほどのまばゆい光が収束し始めていた。

 絶望が、広場を支配する。

 カイトは焼けた腕を抑えながら、それでもアルゴスを睨みつけていた。リナはセレスと共に、崩れゆく意識の中で必死に再起動を試みている。

 だが。

 その絶望の渦中で、唯一人、冷徹なまでに冷静な男がいた。

「……なるほど。……お父様のシステム、そしてアルゴスさん。あなたの検品能力、確かに『完璧』と言わざるを得ませんね」

 タムの声だった。

 彼は御者台の隅で、割れた眼鏡を指で押し上げながら、淡々とした口調で語りかけた。

「……貴方は、私たちの過去の戦い、装備、魔力波形、その全てをデータとしてパッキングした。……だからこそ、今の完璧なカウンターが可能になった。……素晴らしい。配送業者として、その徹底した管理体制には敬意を表しますよ」

「……感謝します。タム様。……ですが、その言葉も貴方の廃棄を遅らせる理由にはなりません」

「……ええ、分かっています。……ですが、アルゴスさん。……梱包師パッカーの世界には、一つの格言があるのを知っていますか?」

 タムがゆっくりと、右手の義手をポケットの奥深くに差し込んだ。

 

「……『中身のわからない荷物ほど、パッキングが難しいものはない』……と」

 アルゴスのレンズが、カチリと音を立てて拡大された。

 彼の超精密なスキャナーが、タムのポケットの中にある「何か」を捉えようとする。だが、不思議なことに、その「何か」の正体が、アルゴスの膨大なデータベースのどこにもヒットしない。

「……何……? ……解析不能。……タム様、貴方の手にあるものは何ですか。……その波形は、この世界のどの物質にも、どの魔力理論にも該当しません」

 初めて、アルゴスの無機質な声に、僅かな「揺らぎ」が混じった。

「……これですか? ……これは、私がこれまでの旅の途中で、誰にも見せず、自分だけの『秘密の在庫』としてパッキングしておいたものです」

 タムの瞳が、眼鏡の奥で鋭く、そして不気味なほどの輝きを宿す。

 

「……アルゴスさん、貴方のデータは完璧だ。……だが、それは『既知の事実』を積み上げただけのものに過ぎない。……予測不能なイレギュラー。……それが物流を、そして世界を狂わせるのだと、今から教えて差し上げましょう」

 タムがポケットから、その『何か』をゆっくりと引き抜こうとする。

 

 それは、今までの激闘の裏側で、彼が密かに、そして丁寧にパッキングし続けてきた、逆転の一撃。

 アルウェンも、カイトも、リナさえも知らない、タムの真の切り札。

「……再梱包リ・パッキング、準備完了。……配送を、継続します」

 タムがその指先を鳴らそうとした瞬間、広場全体の時が止まったかのような静寂が訪れた。

 アルゴスのレンズが、恐怖にも似た激しい明滅を繰り返す。

 タムの手に握られた、その『謎の在庫』の正体とは。

 そして、それをお父様のシステムが認識した時、天空の回廊はどう変貌するのか。

 運命の第49話へと、物語は加速する。

 第48話をお読みいただき、ありがとうございます。

 「人形」という衝撃の告白から始まった、本物のアルゴスによる圧倒的な蹂躙。

 こちらの攻撃パターンをすべて読み切り、その場で対策を再パッキング(再構成)してくるアルゴスの能力は、まさにお父様の支配の象徴とも言えます。カイトたちの全力すら「サンプリングデータ」として利用されていた事実に、のめり込むような絶望を感じていただけたでしょうか。

 ですが、そんな極限状態においても、タムの瞳だけは「次」を見据えていました。

 ポケットの中に隠された、アルゴスのデータベースにも存在しない「秘密の在庫」。これまでの長い旅路のどこかで、タムが誰にも見せず、静かに梱包し続けてきたその切り札が、ついに日の目を見ようとしています。

 予測不能なイレギュラーが、完璧なデータの世界をどうパッキングし直すのか。

 梱包師としての意地と、仲間たちの想いが交錯する瞬間。

 

 どうぞ、ご期待ください!

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