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【梱包】スキルが万能すぎて、異世界で困ることは何もありません。〜時間の止まった箱から取り出す伝説の剣と、ほかほか炊き立ての白飯〜  作者: マランパチ
第一幕:梱包師タムの物語

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113/275

第113話:特急便

読者の皆様、お待たせいたしました!

第113話は、物語の運命を左右する「中継センター」への強行突入編です。

お父様が張り巡らせた、数万の検品官による鉄壁の防衛線。正面突破が不可能な絶望的状況で、タムが提示したのは、物流のプロならではの奇策**『不在再配達』作戦**でした。

自分たちを「宛先不明の不在荷物」に書き換え、システム側に強制回収させるという、あまりにも大胆で危険なハッキング。書き換えが完了するまでの極限の三分間、リナ、カイト、アルウェンたちが文字通り命を懸けて要塞を死守する総力戦が繰り広げられます。

一瞬の油断も許されない超次元の防衛戦と、ついに暴かれる中継センター内部の光景。加速する物語の鼓動を、どうぞ肌で感じてください。

 レガシー・ガーディアンの全モニターが、赤く点滅していた。

 視界を埋め尽くしているのは、お父様の直属部隊――「検品官ガーディアン」の軍勢だ。幾何学的な立方体の形状をした無機質な浮遊体たちが、数千、数万と次元の回廊を埋め尽くし、触れるものすべてを情報の塵へと分解する「スキャン・レーザー」の網を張り巡らせている。

 「……あれを正面突破するのは、太陽の中に飛び込むようなものよ」

 ゼロが、冷や汗を拭いながら因果の推移をモニターに映し出す。どのシミュレーション結果も、要塞が数秒で分子レベルまで分解される結末を示していた。

 だが、その絶望的な光景を見つめるタムの瞳には、別の「理屈」が映っていた。

 「ゼロ、お父様のシステムにとって、一番『許せないこと』って何だと思いますか?」

 「……不備、不確実性、そして……管理から漏れること。そうでしょ?」

 「ええ。だったら、僕たちがその『不備』の塊になりましょう」

 タムは、112話で魔改造した『黒い鍵』をコンソールに差し込んだ。

 「配送の世界には、どうしても届けられない荷物がある。受取人がいなかったり、住所が間違っていたり……。お父様は、そんな『宙に浮いた荷物』を、決して放置できないはずです」

 タムが提案したのは、『不在再配達』作戦だった。

 管理者権限を使い、レガシー・ガーディアンの存在定義(ID)を「お父様がパッキングした正規の荷物」へと一時的に書き換える。その上で、配送先を「この世のどこにも存在しないデタラメな座標」に設定するのだ。

 「宛先が不明、かつ受取人不在。そうなれば、システムの規約上、お父様は僕たちを『最優先で中継センターの保管庫バックヤードへ回収』せざるを得なくなります」

 「……なんて無茶な。……でも、理論上は可能ね。お父様の潔癖なシステムなら、管理不能な荷物を野放しにするより、自分の手元に引き戻すことを選ぶはず」

 「ただし、書き換えには三分間、要塞の全リソースを集中させる必要があります。その間、バリアも魔法障壁も、すべて出力が最低限になる。……丸裸の状態です」

 タムがそう言い終える前に、工作室の扉が勢いよく開いた。

 そこに立っていたのは、既に愛剣を抜き放ち、戦意を漲らせたカイトとリナだった。

 「三分間、要塞に指一本触れさせなきゃいいんだろ? ……勇者の仕事としては、分かりやすくていい」

 カイトが不敵に笑い、聖剣アスカロンが純白の輝きを放つ。

 「……タム、貴方は自分の仕事に集中なさい。……聖騎士の盾が、そう簡単に砕けると思わないことね」

 リナの背後で、鎧に宿るセレスが共鳴し、要塞の全域に凄まじい魔圧が満ちていった。

 アルウェンも、精霊の弓を引き絞りながら頷く。

 「風も、光も、すべて味方につけてみせます。……三分間、一筋の光線も通しません!」

 「……よし。……不在再配達、受付開始です!」

 タムの叫びと共に、要塞のハッチが開放された。

 前衛三人、そして一機の要塞。

 神の検品網を逆走する、無謀な特急便が走り出した。


 レガシー・ガーディアンは、減速することなく、検品官ガーディアンの艦隊の中央へと突っ込んでいった。

 要塞の外部装甲は、防御システムが最低限に落ちているため、表面が鈍い光沢を放つのみ。もはや、厚い鉄の壁がむき出しになっているのと変わらない。

 「――来たわッ! 全方位からスキャン・レーザー! 濃度、最大!!」

 ゼロの叫びが、操縦席に響く。

 数万の検品官が一斉に放った光の矢が、流星群のように要塞へと殺到する。それは単純な破壊光線ではない。触れた物質を瞬時にデータ化し、分解・消去する「情報の奔流」だ。

 「セレス、展開!!」

 リナが吼える。

 彼女の身を包むセレスティアの鎧が、その真の力を解放した。鎧の表面に刻まれた紋様が、血潮のように赤く輝き、要塞全体を覆い尽くすほどの巨大な魔導障壁が展開される。

 それは、ただの防御壁ではない。セレスの魔力感知能力が、あらゆるレーザーの軌道を瞬時に読み取り、着弾の衝撃を最も効率的な方法で「受け流す」しなやかな盾だ。パァン! パァン! と、魔力と情報の光線がぶつかり合う鈍い音が連鎖し、要塞の周囲で火花が雨霰と散り乱れる。

 「……くっ、この物量じゃ、いつまでも受け流すのは無理よ!」

 リナが奥歯を噛みしめる。セレスティアの防御がわずかに揺らぐたびに、要塞の装甲がミシミシと軋み、焦げ付く匂いが立ち込めた。

 その瞬間、「甘いな、検品官ども!」というカイトの咆哮が虚空に響いた。

 要塞の天面に飛び出したカイトは、聖剣アスカロンを横一文字に薙ぎ払う。

 純白の斬撃が、空間そのものを切り裂いた。それは物理的な衝撃波ではない。レーザーが集中する座標の「次元の断層」を強引に生成し、そこに流れ込もうとする光の矢の群れを、空間ごと「押し流す」斬撃だ。

 カイトの周囲の空間がまるで水面のように波打ち、殺到するレーザー群が一時的に「歪められた空間」の向こう側へと吸い込まれていく。その一撃で、要塞への直撃弾が半分近く消失した。

 だが、その隙を狙って、検品官たちがさらに無数のスキャン・ビットを射出する。それは小さな光の弾丸で、数で押し潰すように要塞の死角を狙って群がった。

 「……そこよ、アルウェンッ!」

 ゼロの声が響く。

 要塞の最上部に立つアルウェンは、精霊の弓を天高く掲げていた。

 「精霊たちよ、我が矢に、軌道修正の加護を!」

 彼女の周囲に、無数の光の精霊たちが集い、アルウェンの放つ矢に宿る。

 ヒュン!と放たれた一本の光の矢は、放たれた直後に空気中で分裂し、まるで意思を持つかのように八方に散った。精霊の力で自在に軌道を変化させる光の矢は、要塞の装甲に触れる寸前だったスキャン・ビットを正確に撃ち抜き、次々と爆散させていく。

 彼女の周囲は、まるで蝶が舞うように精霊の光が瞬き、しかしその光景は、一瞬の遅れも許されない超高速の迎撃網だった。

 「残り二分! タム、急いで!」

 ゼロの焦燥に満ちた声が、三人の脳裏に直接響く。

 リナの障壁が激しく明滅し、カイトの斬撃にも疲労の色が滲み始めていた。アルウェンの矢も、限界まで展開された精霊の加護で、まるでオーロラのように揺らめいている。

 検品官たちの放つレーザーの密度は、むしろ増しているかのようだった。

 その光の奔流の中で、レガシー・ガーディアンはまるで、嵐の海を突き進む小舟のように、しかし決して止まることなく前進を続けた。


 「――残り一分!! リナ、カイト、アルウェン……もう限界よっ!!」

 ゼロの声が悲鳴に変わった。

 リナの展開するセレスティアの魔導障壁は、既に蜘蛛の巣状にひび割れ、要塞の装甲から黒煙が噴き出し始めていた。セレスの瞳の輝きが揺らぎ、激しい過負荷によってリナの全身の血管が浮き上がり、肌が赤く染まっている。

 カイトは満身創痍だった。聖剣アスカロンの刀身からは火花が散り、次元を切り裂くはずの斬撃も、もはや微かな波紋を広げるのがやっとだった。彼の呼吸は荒く、顔には疲労困憊の表情が刻まれている。

 アルウェンの周囲を舞っていた精霊たちは、数えるほどしか残っておらず、彼女自身も弓を支える腕が震え、全身から吹き出す汗が弓のグリップを滑らせようとする。

 検品官たちは、獲物を仕留めるように一斉に動き出す。レーザーの密度は天井知らずに高まり、要塞の周囲を完全に埋め尽くした。

 「……くそっ! まだか、タム!!」

 カイトが力なく叫ぶ。彼の視線の先、操縦席で、タムは一点に集中していた。

 タムの右腕は、最早、血に濡れていた。黒い紋様が脈動するたびに、激痛が脳を貫く。

 「――今です、ゼロ!!」

 ゼロが導き出した最後の「デタラメな座標」を、タムは焼け付くような腕で『黒い鍵』へと叩き込んだ。

 【概念梱包:宛先不明アドレス・エラー】。

 要塞全体が、一瞬にして真っ黒なノイズに包まれた。

 それは、空間そのものが誤作動を起こしたかのような、視覚を歪ませる『情報の乱れ』だった。

 お父様のシステムが、まるで呼吸を止めたかのように静止する。そして、数万の検品官たちが放っていたレーザーが、ぴたりと止まった。

 「……っ、認識したわ! 要塞のIDを『再配達が必要な、破損した不備荷物』として……システムが処理を始めた!!」

 ゼロの絶叫が、辛うじて機能する通信機を通して響く。

 宇宙空間に浮かぶ中継センターの巨大なハッチが、音もなく開いていく。

 そのハッチの奥から、数本の青白い光の鎖が伸び、要塞を正確に捉えた。

 それは、お父様のシステムが「配送ミス」を絶対に許さず、たとえエラーであろうと『自分の管理下』へ引き戻そうとする、強迫的な意志の現れだった。

 「……回収リターン、開始!!」

 

 要塞は、光速に近い猛烈な速度で、中継センターの内部へと吸い込まれていく。

 前衛の三人は、その急激なGに耐えながら、辛うじて要塞の甲板にしがみついていた。彼らの全身からは湯気が立ち上り、服は破れ、消耗は極限に達していた。

 猛烈な加速の末、一行が辿り着いたのは、巨大なベルトコンベアが無限に広がる、無機質な格納庫だった。天井まで積み上げられた段ボールの山。規格化された荷物が、規則正しく流れていく。

 その巨大な空間の中央、まさにそのベルトコンベアの上で、レガシー・ガーディアンはまるで、場違いな巨大なゴミのように、ゆっくりと運ばれていく。

 タムは、もはや感覚の麻痺した右腕を、ゆっくりと下ろした。彼の顔には、疲労と、そして勝利の笑みが浮かんでいた。

 「……お父様、あんたのやり方は、配送のルール違反ですよ」

 タムの静かな声が、無機質な格納庫に響き渡る。

第113話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

今回の見どころは何と言っても、前衛メンバーたちの圧倒的な「意地」でした。リナの障壁、カイトの空間斬、アルウェンの精密射撃……。普段は頼もしい彼らが、初めて限界を超えて消耗する姿に、お父様のシステムの強大さが改めて浮き彫りになったのではないでしょうか。

そして、タムが決めた「不在再配達」のチェックイン。


辿り着いた先は、無限に続くベルトコンベアと、完璧に管理された無機質なバックヤード。お父様の懐に飛び込んだ一行を待ち受けるのは、新たな強敵か、それとも世界の真実か。

次回、第114話。

『仕分けの迷宮、あるいは不備在庫の逆襲』。

配送センター内部でのゲリラ戦が始まります。

奪われた「世界の自由」を取り戻すためのラスト・マイル。次回もどうぞお楽しみに!

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