表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/271

第112話:禁忌のツール・ボックス

読者の皆様、いつも熱い応援をありがとうございます。

前回、お父様の「設計図」から漏れたゴミ捨て場で、謎の黒い鍵を手に入れたタムたち。第112話は、その「開かずの鍵」を巡る、極限のハッキング・エピソードです。

お父様がとっくに廃棄したはずの旧世代の遺物。

それを、ゼロの演算、エドワードの魔導、そしてタムの梱包能力――三人の異能を総動員して「魔改造」し、鉄壁のセキュリティに風穴を開けます。

神の如き管理システムを欺くための、三位一体の連携。

そして、こじ開けられた禁忌の蓋の向こう側で一行が目撃する、あまりにも非情で巨大な「真実」とは。

物語のスケールが一気に加速する決定的瞬間を、どうぞ見届けてください。

 レガシー・ガーディアンの最深部、魔導工作室。

 普段はエドワードの実験場として散らかっているその場所は、今や異様な静寂と、冷え切った緊張感に包まれていた。

 作業台の上に鎮座するのは、集積所で拾い上げた「黒い鍵」。

 それは長さ一メートルほどの無骨な金属塊で、表面にはお父様特有の幾何学模様が刻まれているが、その輝きは死に絶え、煤けた黒ずみが深淵のような虚無を感じさせた。

 「……やはり、動かん。何の変化も、反応もない」

 エドワードが顔を近づけ、拡大鏡のレンズ越しに鍵の深部を覗き込む。杖から放たれた微細な探査用の魔力は、鍵の表面に触れた瞬間に霧散し、奥底にあるはずの制御中枢へは一ミリも届かない。

 

 「設計図が古すぎるのよ。……お父様は、自分の過去を完全に切り捨てているわ」

 ゼロが、鍵を囲むように展開されたホログラムの数式を、苛立たしく払い除けた。彼女の周囲には、お父様の現在のセキュリティプロトコルを解析した「光の鎖」が幾千も漂っている。だが、それら最新鋭の鎖と、目の前の古い鍵は、プロトコルが違いすぎて対話アクセスすることさえ不可能だった。

 「あの方にとって、これは単なるゴミ……いいえ、過去の自分を否定するための『遺物』。……私たちが手に入れたのは、開かない扉と、繋がらないコード。……ただの、重い鉄屑ね」

 ゼロの絶望的な診断が、室内の空気をさらに凍らせる。

 カイトは腕を組み、壁に寄りかかって目を閉じていた。リナとセレスも、自分たちの運命を変えるはずだったその「鍵」のあまりの無機質さに、言葉を失っている。

 だが、その沈黙を破ったのは、鍵の表面を指でなぞっていたタムだった。

 彼は右腕の包帯を解き、黒い紋様が浮き出た皮膚を、冷たい金属へと直接押し当てる。

 「……繋がらないなら、中身をパッキングし直しましょう。……僕たちが、この鍵の『新しい中身』になるんです」

 「……タム、何を言っているの?」

 ゼロが怪訝そうに眉をひそめる。

 「荷物が届かない時、配送員はどうするか。……住所が古いなら、今の地図に書き換える。宛先が不明なら、自分でラベルを貼り直す。……この鍵がお父様に門前払いされるなら、門番が気づかないほどの『嘘』を、一瞬だけ貼り付け続ければいい」

 タムの瞳には、かつてないほどの鋭い光が宿っていた。それは英雄の覚悟ではなく、困難な荷物を必ず届けると誓った「現場のプロ」の眼差しだった。

 「ゼロの演算で、お父様の『今の合言葉』を予測してください。……エドワードさんは、その言葉を鍵の内部に無理やり流し込むための『バイパス』を作ってください。……そして、僕がお父様の検品を一瞬で騙すための、偽造ラベルを貼り続けます」

 「……一瞬一瞬、あやつの『今の正解』にラベルを貼り替えるというのか? ……そんな神業、並の魔導師では精神が焼き切れるぞ!」

 エドワードが驚愕して叫ぶ。

 「並じゃないメンバーが、ここに揃ってるじゃないですか」

 タムが不敵に笑う。その挑発に応えるように、ゼロが再び因果の糸を掴み取り、エドワードが杖を高く掲げた。

 ゴミを、神を欺くハッキング・デバイスへと作り変える。

 一行の持てる全てを注ぎ込む、禁忌の魔改造が始まった。


 「――作業開始。ゼロ、予測を開始してください!」

 タムの声が、鉄の工作室に鋭く響く。

 ゼロの両目が、深淵のような蒼い光を帯びて発光した。彼女の周囲には、お父様の現在のセキュリティプロトコル――すなわち、世界を管理するための「最新の合言葉」が、一秒間に数億回という速度で流動する光の文字列となって展開された。

 「……来るわ。……予測演算プレディクション、展開! 十万分の一秒後の暗号鍵を特定……次、さらにその一億分の一秒後……! 思考を加速させて……追いついてみせる!」

 ゼロの脳内では、因果の糸が火花を散らしながら高速回転していた。彼女が導き出した「今の正解」は、即座に思念波としてエドワードへと飛ばされる。

 「フォッ……! 何という速さじゃ! ……だが、ワシの重力魔法に遅れはないわ!!」

 エドワードが吼えた。彼は杖を鍵の真上に固定し、空間そのものを極小の範囲で「圧縮」し始めた。

 鍵の内部、死に絶えていた古代の魔導回路を、重力によって強引に歪め、引き剥がし、新たなバイパスを形成する。それは、血管を一本ずつ手作業で繋ぎ変えるような精密作業。エドワードの額からは滝のような汗が流れ、強大な魔力の負荷によって彼の周囲の床がミシミシと沈み込んでいった。

 「……道は作ったぞ、梱包師殿! あやつに『自分は自分だ』と言わせ続けろ!!」

 「了解……ッ!」

 タムが動いた。

 彼は右腕を鍵に密着させ、全身の神経をその一点に集中させた。

 【概念梱包:多層偽装マルチ・レイヤー・ラベル】。

 ゼロから送られてくる膨大な暗号鍵の断片を、タムは一瞬で「概念のテープ」へとパッキングしていく。

 シュッ、シュシュッ、と空気が焦げるような音が鳴り響く。

 タムは、お父様のシステムが鍵の正当性を確認しに来るその刹那、ゼロが導き出した「今の正解」をラベルとして鍵の表面に貼り付け、認証が通った瞬間にそれを剥がし、次の一瞬にまた新しいラベルを貼り替える。

 指先の皮膚が摩擦と熱で焼け、黒い紋様が脈打つたびに、タムの脳裏にはお父様の冷徹な意識が流れ込んでくる。

 (……不備だ……不要だ……ゴミだ……)

 頭を割るような拒絶の声。それをタムは「うるさい、これは預かり物だ!」と、意志の力でパッキングし、押し潰した。

 三人の力が、鍵という一点において「三位一体」の旋風を巻き起こす。

 ゼロの「予言データ」を、エドワードが「回路ハード」へと流し、タムが「偽装ソフト」として固定する。

 

 パシィィィィィィン!!

 鍵の表面に刻まれていた煤けた模様が、一気に白銀の輝きを取り戻した。

 お父様のセキュリティ網が、この鍵を「正規のメンテナンス・ツール」であると誤認し、プロトコルが数千年前の、まだ脆弱だった「旧世代仕様」へと強制的にダウングレード(引き下げ)されていく。

 「……繋がった……っ! お父様の……システムの深層へ……!!」

 ゼロが叫んだ。

 要塞のメインモニターに、お父様がひた隠しにしてきた、世界の裏側の「フォルダ」が次々と展開されていく。そこには、現実世界の座標、そして今まさに構築されようとしている「巨大な施設」の設計図が映し出されていた。


 「……ああ、……ああっ!!」

 ゼロが、絶叫に近い声を上げた。

 ハッキングによって強制開示されたホログラム・ディスプレイが、工作室の狭い空間を埋め尽くすように膨れ上がる。

 三人の凄まじい連携によって、最新のセキュリティが旧世代の「管理者モード」へ引きずり下ろされた結果、そこにはお父様が隠し続けてきた世界の「裏側の配線図」が、赤裸々に描き出されていた。

 タムの右腕から火花が散り、エドワードの杖が魔力の過負荷で白熱し、折れる寸前の悲鳴を上げる。

 その光の渦の中心に映し出されたのは、異世界の美しい山々でも、タムの知る都会のビル群でもなかった。

 「……これ、は……」

 カイトが聖剣を握る手を震わせ、モニターを凝視する。

 そこにあったのは、異世界と現実世界の「隙間」――次元の裂け目を強引に広げて建設された、惑星規模の巨大な**『次元中継配送センター(ハブ・ステーション)』**の姿だった。

 それは、巨大な漏斗ろうとのような形をした鋼鉄の構造体だ。

 上部からは異世界の山河が「情報の塊」として吸い込まれ、中心部で圧縮・梱包され、そして下部から、タムの住む日本という「配送先」へ向けて、無数の光の筋となって射出されている。

 「……お父様は、この異世界の命をすべて『材料』にして、タムの世界を上書きしようとしているのね。……この巨大なセンターが完成した時、二つの世界は一つの『完璧な管理倉庫』としてパッキング(融合)される……」

 ゼロの震える指先が、その巨大施設の中核を指し示した。

 そこには、お父様の現在の居所を示す**「配送主室メイン・コンソール」**の座標が、鮮血のような赤色で点滅していた。

 「……お父様のパッキングは、もうすぐ最終段階に入るわ。……そうなれば、もう誰も、お父様の『配送計画』を止めることはできない」

 室内の温度が、数度下がったような錯覚に陥る。

 圧倒的な規模の侵略。神の如き効率性。

 だが、タムは焼け焦げた右腕をゆっくりと下ろし、その座標を、決して忘れぬよう瞳に焼き付けた。

 「……十分です。……配送員は、指定の時間に一秒でも遅れたら失格ですから」

 タムはふらつく足取りで「黒い鍵」――今や銀色の脈動を繰り返す、お父様のシステムへの唯一の『通行証』を抱え上げた。

 エドワードが荒い息を吐きながら、誇らしげに髭を整える。

 「フォッ……。……ゴミ捨て場で拾ったガラクタが、まさか神の喉元を突く刃になるとはな。……お主の言う通り、これは最高の『バール』じゃわい」

 リナが、セレスと共鳴する白銀の拳をカチリと鳴らす。

 アルウェンが、精霊の導きをその矢に宿す。

 

 「……全員、パッキングの準備はいいですか」

 タムが仲間たちを見回す。その瞳には、かつてないほどの静かな怒りと、それ以上の「使命感」が満ちていた。

 「お父様という巨大なシステムに、異議を申し立てに行きましょう。……あんな冷たいセンターに、僕たちの世界を納品させるわけにはいかない」

 レガシー・ガーディアンが、次元の深淵へ向けて重厚なエンジン音を響かせる。

 手に入れたのは、反撃の鍵。

 暴いたのは、敵の本拠地。


 「不要在庫」とされた一行が、自らを世界への「特急便」へと再定義し、巨大な中継センターへと牙を剥く。

 決戦へのカウントダウンが、今、始まった。

第112話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

「消せないなら上書きし、繋がらないならラベルを貼り替える」。

タムたちの泥臭くも鮮やかな逆転劇によって、ついに敵の本拠地『次元中継配送センター』の姿が暴かれました。異世界の命を材料にして現実世界を梱包し直すという、お父様のあまりにも効率的で、あまりにも残酷な計画。

しかし、一行の手には、かつてお父様が捨てた「過去」が握られています。

捨てられた者たちの想いと、型落ちの道具。それらが組み合わさった時、最新のシステムさえ予期せぬ「エラー」が生まれるのです。


一行はついに、世界の命運を分ける巨大なコンソールへと舵を切ります。

次回、第113話。

『特急便、あるいは防衛ラインの突破』。

お父様の物流網を逆走し、一行は中継センターへの強行突入を試みます。

加速する物語、そして次々に現れるお父様の「検品官ガーディアン」たちとの死闘。


お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ