8 溜まっていく魔物素材を手放す方法
ネイサンたちを見送って、わたしはよちよち歩きの演技をしながら家の中へと入った。ハイハイは膝が痛くなるんだよね。玄関は開けっ放しだから、外から見えないところまで来てスタスタ歩きに切り替えたよ。
寝室に戻ると、床に敷かれた毛布の上にペタンと座った。赤ちゃんの柔らかなお尻はペタンと座っても痛くないの。凄いよね~。
わたしがしみじみしていると、ライザール様がやって来てわたしの前に座った。
『ルルアーナ。俺は魔石が欲しい。出してくれ』
はーい。わかりました。えーと、これでいいですか?
わたしは空間収納に手を入れて、ひとつの魔石を取り出した。成長したわたしの手のひらに収まる程度の魔石で、キラキラと輝いている。
『ああ、それでいい』
ライザール様は毛布の上に伏せて魔石を両手で押さえ、あぐあぐ言いながら魔石をかじり始めた。
あー。ライザール様、可愛いなぁ。
わたしがもうひとつ小ぶりな魔石をもう一つ空間収納から取り出すと、ライザール様は見開き、尻尾をゆらゆら左右に揺らした。
『おいルルアーナ。そうほいほい魔石を出していいのか?そろそろ残り少ないんじゃないのか?』
あ、サラマンダーは知ってたんだ。そうなの。残りの魔石は、小さいのが三個だけなの。
『なんだと?!』
ライザール様がガバリと身体を起こし、わたしの手のひらの魔石を飲み込むと『すぐ狩りに行ってくる!』と言って消えてしまった。
『まったく。ライザール様はせっかちだよなあ。狩りなら、夜にやればいいのに。こんな明るいうちに狩りなんかして、人目についたらどうすんだ?って話だよなあ』
『そうね。普段のライザール様は小さいけれど、狩りの時は大きいから目立つのよね』
わたしは見たことがないけど、ライザール様は身体のサイズを変えられるんだって。普段の小さいサイズでも戦えるけど、大きい方が早く魔物を狩れるらしい。それで、普段の狩りでは大きくなっているそうだよ。
『ふう。精霊たちに伝達を終えたぞ。ライザール様が倒した魔物は瞬時にこちらへ送られてくる。ルルアーナ、収納を頼むぞ』
うん。わかってるよ、ノーム。
返事をして空間収納の入り口を開けた直後、部屋の中にホーンラビットが現れた。冬に備えて毛が茶色から白に生え変わっていて綺麗。毛皮は傷もなく綺麗な状態だから、売ればそれなりの値段になると思うよ。
空中に現れたホーンラビットは床に落ちる前にシルフが掴み、わたしが開けた空間収納の入り口に向けて放り投げてきた。
シルフの小さな身体のどこに自分の身体より大きなホーンラビットを放り投げる力が秘められているのかと言うと、魔法を使っているからできることなんだって。
それは、次々に現れる魔物を投げてくる他の精霊たちも同じだよ。
シルフたちより小さな精霊も、他の小さな精霊と協力しながら魔物を投げてくる。すごいなあ。
送られてきた魔物は、ホーンラビットの他はウルフやボア。あとは、部屋にギリギリ入るディアだった。
ゴブリンは魔石が小さいし、魔石以外に使える素材がないという理由で送られて来ないよ。
精霊たちが送ってくる魔物は、魔石はライザール様のごはんになるけど、毛皮や肉と言った素材はすべてわたしの空間収納にしまってあるの。せっかくの素材を捨ててしまうのももったいないし、なんと、わたしの空間収納は時間停止の上その容量がとっても大きいの。そうとなれば、素材をとっておくしかないでしょう!
でも、どうやって魔物の素材を活用するかが問題なんだよね。自分で魔物を解体することはできないし、皮やツノなんかの素材を加工することもできない。ということは、わたしが持っていても仕方ないから売るしかない。
ただ、売ると言っても問題はあるわけで………。
魔物の素材を売ると考えて、すぐに思い浮かぶのは冒険者ギルドだよね。だけど、冒険者じゃないのに魔物の素材の買取や解体をお願いするのはおかしな話だと思うから、冒険者登録をして素材を持ち込むべきだと思うの。
それか………あ、商人と親しくなって直接素材を買い取ってもらうという方法もあるよね。
大店だったら魔物を丸ごと(魔石はないけど)買い取っても解体して加工して売りに出すことができるんじゃないかな?だめかな?
………はぁ。不審に思われずに大量の魔物の素材を売る方法があればいいけど、わたしひとりじゃどう動いたって怪しまれるよ。
誰か力のある人や組織に後ろ盾になってもらう?それとも、わたし自身が力をつけて簡単には手出しできない立場になる?
………どっちも嫌だな。
できれば、わたしは一箇所に落ち着いて穏やかな暮らしがしたいの。お父さんやお母さんみたいな冒険者じゃなくてね。
でも、う〜ん。魔物はライザール様が魔石目的で定期的に狩ってくるから、魔物の素材は定期的に買い取ってもらわないと困るよ。
………やっぱり、冒険者になって魔物の素材を買い取ってもらうしかないか。
『なんだ。ルルアーナは冒険者になりたいのか。それなら、俺が戦い方を教えてやろう』
え?
ふと見ると、わたしの前にライザール様が座ってわたしを見つめていた。考えごとをしていてライザール様が帰ってきたことに気づかなかったよ。
『これまでは積極的に魔法の使い方を教えてこなかったが、ルルアーナがその気なら教えてやろう』




