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6 服事情

 あれから一年ほど経ち、わたしも歩けるようになった。お父さんやお母さんの前では主にハイハイをしている。歩くとしてもゆっくりだけど、ふたりがいないときは身体強化の魔法を使ってスタスタ歩いているよ。その方が楽だもんね。


 あちこち行くようになってわかったのは、わたしたちが住んでいるのはリビングとキッチン、トイレの他に寝室と両親それぞれの部屋が一つずつある家族向け集合住宅ということ。


 わたしたちが住んでいる集合住宅は、建物が四角の形に配置されていて、建物の中央には広い庭と井戸があるの。道路に面した側にある建物の一階中央には、庭に通じる通路が造られていて、住人はその通路を通って出入りしているよ。


 わたしたちが住んでいるトュールーガの街は魔物が住む魔の森に近くて、魔物が街に攻めて来た場合に備えて家に魔物が入り込みづらいようにこんな造りになっているんだって。


 トュールーガの街自体は高い壁に囲まれていて、レッドホーンブル(赤いツノを持った大きな牛の魔物)の突進にも耐える厚みと強度があるんだとか。


 魔の森は広大で、その全容はわかっていないんだって。魔物は当然多いし、魔植物も多い。魔素が濃い影響か、普通の植物も成長が早いそうだよ。おかげで家の材料や燃料となる木材や薬の原料となる薬草にも困らないし、木の実や果物、きのこも豊富に採れる。


 そして、魔物が多いということは、魔物を狩る冒険者も多い。そのため、冒険者相手の商売が盛んなのがトュールーガの特徴なの。だから、王都から離れた辺境の街とは言っても、とても栄えているよ。それにトュールーガは壁に囲まれているとは言ってもその敷地は広くて、街の規模としては大きな部類に入るみたい。


 それで、家の中のことだけど。どこを探しても本が見つからなかった。信じられない。本がなくちゃ文字の勉強ができないし、本から知識を得ることができないじゃない!


 紙とペンがあればシルフたちが文字を教えてくれるかもしれないけれど、わたしはまだ一歳になったばかり。文字が書けたら怪しいよねぇ………。だから、家の中で文字の練習をすることは諦めたよ。


 ちなみに、わたしの家は一階にあって玄関から庭を望むことができる。


 わたしは扉が開けっ放しの玄関までハイハイして行き、玄関にペタンと座って庭を眺めた。


 四角い庭の端で、一心に剣の素振りをする女性が見える。剣は木刀ではなく真剣で、鈍く銀色に輝く両手剣を両手で握り、汗をかいているけれど息は乱れてはいない。その動きはなめらかで、とても綺麗。


「メリッサさん、精が出ますね」


 お母さんから少し離れた場所から、同じ集合住宅に住むアナさんが声をかけた。


 アナさんはふっくらとした体型で、特別美人というわけではないけれど、人を惹きつける柔らかい雰囲気を漂わせている。いつも茶色い髪を後ろで結び、優しげな表情を浮かべている奥さんだよ。


 お母さんはアナさんに気づくと素振りをやめて、剣を鞘に納めた。


「ふぅーっ。アナさん、こんにちは。いい天気ですね」


 お母さんは腰に下げていた手ぬぐいで顔の汗を拭って笑った。清々しい、いい笑顔だと思う。


「ええ、本当に。洗濯物が早く乾いて助かります」


 アナさんが庭の一角に視線を向けたので、わたしもそちらを見た。


 庭の一角には共同の物干し台があって、たくさんの洗濯物が風にはためいていた。干してある洗濯物の色は地味な茶色が多くて、綺麗な色は一つもない。どうしてかな?


『布を染める技術はあるが、多くの染料と染める技術が必要になるせいで綺麗な色の服は高額になるようだ。だから、一般庶民は綺麗な高級品ではなく、汚れが目立たない地味な色の服を選ぶ。わかったか』


 へえ、そうなんですね。わかりました、ライザール様。


 わたしの隣にいるライザール様が教えてくれたのでお礼を言った。


 シルフたちはわたしの頭や肩にくっついているよ。


 他の精霊たちは楽しそうに庭を飛び回っていて、キャッキャとはしゃぎながら陽の光を浴びている。


 シルフたち精霊は色とりどりの服を着ていて、ずっと綺麗な色を見て育ったから、お母さんたちが地味な色しか身に着けないのが不思議だったんだよね。


 シルフたちは、それぞれの属性の色を身に着けているの。鮮やかな青や赤だったり、薄い緑や、青と赤が混じった色………紫色の服を着ている子もいる。単色の子もいれば、濃淡がグラデーションになった軽やかな服を着ている子もいて。見ているだけで楽しい。


 そういえば。服そのものがとっても高くて、庶民は中古品を買うのが普通なんだっけ。新品を買うときも、できるだけ長く使える物を選ぶのが当たり前なんだったかな。


 うちはお父さんが冒険者ギルドのギルド職員として頑張ってくれているけど、冒険者として現役だった頃より収入は減っているんだって。


 だから食べることには困らないけど、節約のために服は色の地味な安い物を選んでいるんだろうなぁ。

 





 

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