5 精霊のおしゃべり
それにしても、いくら出産の身体への負担が軽かったとは言っても、お母さんは動き過ぎじゃないかな?………それとも、あれは普通なの?
お母さんは畳んだ服を棚にしまうと、わたしに授乳してオムツを綺麗にすると、わたしを寝かしつけてくれた。
目覚めると、お母さんはいなかった。
………うん。薄々わかっていたけど。お母さんは、わたしにあんまり興味がないんだね。だって、最低限のお世話以外はわたしを放置なんだもん。
おかげで、わたしは精霊たちやライザール様と過ごせるからいいけど。普通の赤ん坊のお世話はこれじゃだめだと思う。ね?
『そうね。メリッサはほとんどの時間をダグのために使ってるから、ルルアーナは放置されてると思うわ』
ウンディーネがそう言うと、ノームが相槌を打った。
『ウンディーネの言う通りだ。家事なら、ルルアーナが傍にいてもできるはずだ。なぜそうしない?』
『さあな。ヒト族の子育てはよく知らねーけど、普通は赤ん坊から目を離さないようずっと一緒にいるもんじゃねえの?』
サラマンダーも会話に参加した。
『ダグは仕事が忙しいし、メリッサが放置気味だとすると、ぼくらがルルアーナのお世話を頑張らないとね!』
シルフも会話に混じり、わいわいと話し始めた。
精霊は、それこそ数え切れないほど沢山いるけど、はっきりとした会話ができるのは他の子より一回り大きな四人の精霊だけ。シルフ、ウンディーネ、サラマンダー、ノームの四人だよ。
この四人はわたしの手のひらに乗れるほどの大きさで、それぞれ髪の色が違う。シルフは薄い水色の髪をしていて、ウンディーネははっきりした濃い青、サラマンダーは燃えるような赤、ノームは柔らかな土色。
小さな子たちも、それぞれ髪色が違って可愛い。
『フンッ。うるさい奴らだ』
ライザール様はわたしの枕元に丸くなりながら文句を言っている。
まあ、そうは言っても、あちこちを飛び回っている精霊は、ベッドから動けないわたしの代わりに色んなものを見て、色んな話を聞いてきてくれる。だから、わたしは部屋の外の様子を知ることができるんだよね。
お母さんは、わたしの世話をしていない時は家事をして過ごしているらしいよ。買い物に行って料理をしたり、掃除したり、洗濯したり、縫い物をしたり………。あとは、剣の素振りもしているらしいね。
って。主婦が剣の素振りをするのは普通なのかな?
『そんなわけあるかっ』
違うの?サラマンダー。
『メリッサは、冒険者に戻るために身体を鍛えてるんだ。そんな母親はなかなかいないぞ。ルルアーナ、強い母親でよかったな!』
『ばっか!サラマンダー、そんなのいいわけないだろ。生まれたばかり娘より強くなることを優先するなんて、そんな母親はまともじゃない。メリッサは我儘な女だよ』
『そうね、シルフ。メリッサは、母親としての自分より女としての自分を優先しているわね。これは良くないわよ。ダグは、この現状をどこまで把握しているのかしら?』
『ダグは、なんにもわかってねえだろうな。ルルアーナはパッと見は問題ねえように見えるし、メリッサはうまく問題を隠してるからな』
よくわからないけど、お母さんはお父さんに隠し事をしてるってこと?
『確かにお前たちの言う通りだが、メリッサはルルアーナの世話を怠っているわけではない。あれで最低限のことはしているし、メリッサがいない時間はルルアーナの自由時間だ。メリッサに見られたくないこともできる。今の状況は、ルルアーナにとって有利に働くのではないか』
わたしの疑問に精霊たちが答えることはなく、自分たちの会話に集中している。
『ノームったら、なんにもわかってないのね』
『なにがだ』
『人間の赤ん坊には、親の愛情が必要なのよ。世話をするだけなら、他人だっていいんだから』
『そういうものか』
『そうよ。愛情不足でルルアーナの人格が歪む可能性だってあるんだから』
『そんなにか?!』
『けどまぁ、ルルアーナの場合は母親の愛情がなくなって問題ねえだろ。俺たちがついてるんだからさ』
『ところで………ルルアーナはそろそろ寝返りがうてそうだよね。そしたら次は首が座って、座れるようになって、ハイハイして、歩くんだよね?家の外に出られるのはいつ頃かな?』
『いやね。シルフったら。普通、ヒト族の赤ん坊が立てるようになるのは一歳ぐらいになってからよ。いくらルルアーナが身体強化を使っても、歩けるようになるのは身体が成長する一歳頃になるわね』
『ええっ?!』
『そんなにおせーの?!』
『生まれてすぐ飛び回れる精霊とは違うんだから、気長に待つしかないわね』
『はぁー。ヒト族とは難義な生き物だな』
『そうよ。だから、私たちがしっかりルルアーナを守っていくの。わかった?』
『わかった!』
『任せとけ』
『承知した』
ふふふ。こんなに気にかけてもらってありがたいなぁ。




