3 ライザール様の飼い主
ライザール様の予想とは違い、ライザール様を自分の飼い猫だと言う人が現れた。それも連日!
ライザール様はわたしの側を離れないので、お母さんがわたしを抱っこして居間に移動し、そこでライザール様の飼い主候補の人たちに会うことになった。
飼い主候補の人たちは、ライザール様に向けて猫撫声を出して感心を引こうとしたり、触ろうとしたり。オモチャや餌を持ってくる人もいた。
ライザール様がとびきり綺麗な猫だからか、ライザール様を飼いたいという人は沢山いたよ。
最初の頃のライザール様は、そんな人たちに感心を示さず。触ろうとする彼らから逃げ回っていた。ところが、そのうち、乱暴にライザール様を捕まえようとする人が現れ、とうとうライザール様は威嚇の声を上げて毛を逆立てた。それからは、どんな優しそうな人が来ようとも、ライザール様はシャーシャー言い続けた。
そこでお父さんも飼い主を探すのはやめて、家で飼うことに決めてくれた。やったね!
『なにが、やったね!だ。俺が何日の間、訪問者相手に我慢していたと思っているんだ!俺は神獣だぞ。偉いんだぞ!』
あ、そうですよね。嫌な思いをさせてごめんなさい。辛かったですよね………。
『フンッ。離れた場所で見たり話しかけてくるだけならまだしも、俺を触ろうとしたり追いかけてきたり………まったく。とんでもない奴が多かったぞ!特に、あの目つきの悪い男とギャンギャンうるさいガキはしつこかったな』
うん。ライザール様、お疲れ様でした。
わたしがそう言うと、ライザール様は『精霊たち、ルルアーナを任せた!』と叫んで窓から外へ出ていった。
これまでわたしの傍を離れることなくピッタリ寄り添ってくれていたのに。ストレスが溜まっていたんだなぁ。
『そうだね〜。ライザール様、森のあるほうへ走って行ったよ』
シルフがふよふよと寄ってきて、ある方向を指さした。
森?なにかあるの?
『この街の西側には魔物が多く住む森があって、そこから魔物たちの悲鳴やら叫び声やら聞こえてくるから、ライザール様が暴れているんだと思う』
あらら。それは、魔物は災難だね。
『うん。まあ、魔物は魔素から次々生まれてくるから大丈夫だよ。それより、人間は魔物の素材を使うでしょ。ルルアーナもいる?』
う〜ん。首も座っていないこの身体じゃ、もらっても素材を活用できないよね。まだしゃべれないから、お父さんたちに渡すこともできないし、あっても困るかな。
『じゃあさ、空間収納の魔法を使ってしまっておけばいいよ。大きくなったら、使えるようになるでしょ』
空間収納の魔法?それなに?
『異空間に物をしまっておく魔法だよ。どこでも出し入れできる、大きな倉庫みたいなものかな。しかも、空間収納の魔法で作り出した空間は時間が止まっているから、中に入れた物が腐ることはないよ』
それはすごい!その魔法の使い方を教えて。
『いいよ。ルルアーナは、自分の身体の中に魔力があるのはわかる?魔力はルルアーナの身体の中心から生まれて、全身を巡っているよ』
魔力ね………。身体の中心ってどこだろう?おヘソのあたりかな?集中してみると、なんだか温かい気がした。そして、その温かいモノに気がついてみると、おヘソの奥から全身に温かいモノが巡っていることに気がついた。
『そうそう。それが魔力。次に、手のひらに魔力を集めて。その魔力の奥に、広い空間が広がっているのをイメージして。そうそう。ちょっと試すから、そのまま維持してね』
う………。
わたしの右手の手のひらには、魔力が薄く広がっている。そこへ向けて、シルフはテーブルにあった木のスプーンを投げた。
あっ、と思った時には、スプーンは右手に当たることなく消えた。
『うまくいったね』
『ルルアーナはすごい子ね〜。意識して使う初めての魔法が空間収納だなんて、本当にすごいわ。これなら、ライザール様が倒した魔物を収納できるわね。みんなで飛ばすから、全部受け止めてね』
ん?どういう意味だろう?ウンディーネは、なにを言っているの?
とわたしが疑問に思ったのも束の間。目の前に魔物が現れた。鹿のような大きな身体に、捻くれた角と牙を持つ凶悪な顔の姿は、一目で魔物とわかった。
「ひゅっ」
変な声が出た。
魔物はわたしの右手が作り出している空間収納に吸い込まれた。
それから、ウサギ型やリス型のような小型の魔物から、オオカミ型やクマ型、巨大なヘビ型などの様々な魔物が現れては消えて行った。
わたしが空間収納の魔法を維持していないと、次々と現れる魔物はわたしを押し潰すことになる。ただでさえ恐ろしい見た目をしているのに、その魔物が目の前に迫って来る恐怖に耐えながら魔法を維持しないといけない。わたしは、そんなプレッシャーに押し潰されそうになりながら空間収納の魔法を発動し続けた。
ライザール様はよっぽどストレスが溜まっていたらしく、初めの頃は一匹づつ現れていた魔物は次第に複数の魔物が現れるようになった。
あまりに大量の魔物を見続けて、恐怖が麻痺していく。
最後の魔物が消えたとき、わたしはすっかり疲れ切っていた。あまりに疲れすぎて、お腹が空いているのも忘れて深い眠りについた。




