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2 神獣ライザール

 ゼノグレア様?ライザール様より偉い………人?


『人ではない。ゼノグレア様は神だ』


 わおっ。神様!じゃあ、じゃあ、ライザール様も神様ですか?


『俺はゼノグレア様に仕える神獣だ』


 そう言って、ライザール様はベッドの上で横を向いているわたしにも見えるよう、少し後ろへ下がってくれた。


 そこにいたのは、とびきり美しい黒猫だった。ツヤツヤとした毛の長さは短く、すらりと伸びた手足と身体と小さな頭のバランスが美しい。長い尻尾がユラユラ揺れていて、わたしを警戒しながら見つめてくる金色の瞳は星のように輝いている。それから………。


 てしっ。


『もうやめろ!聞いているこちらが恥ずかしい!』


 ふわあっ。頬に押し付けられた肉球が柔らかくて気持ちいい!


『!』


 ライザール様がすっと前足を引いて、肉球が遠ざかってしまった。残念。匂いを嗅ぎたかったのに。


『………』


 あれ?ライザール様が身を引いて、さらに遠ざかってしまった。なんで?


『お前………恐ろしい奴だな!』


 ライザール様が目をカッと見開いて言った。


 そのとき、部屋の扉が開いて誰かが入って来た。あ、この軽やかな足音はお母さんだね。お父さんは身体が大きいから、もっと重々しい音がするんだよ。


「あら。ルルアーナ、もうお友達ができたのね。ふふふ。笑ってるわ。いい子ね」


 お母さんがベッドの横に立ち、わたしの顔を覗き込んできた。


 お母さんは銀色の髪をショートカットにしていて、切れ長の青い目が印象的な美人さん。産後二日目だと言うのに、わたしをベッドに寝かせて家事をしに行っていたの。日焼けしたその腕には、畳んだ服を持っている。


『俺はルルアーナの友達などではない!ゼノグレア様より遣わされた目付役だ!』


 ライザール様の声が頭の中に響いてきたけれど、いまのわたしには、それよりも大事なことがある。ご飯だ!


「あう〜」


 なんとか短い両手を振って、お母さんに呼びかける。まだこの口は言葉を喋れないので、必死にあうあう声を出した。


 さっきからお腹が空いていたんだよ。空腹を我慢するのも限界なの。せっかくお母さんが来てくれた機会を逃せない!


「あら。ルルアーナ、どうしたの?お腹が空いたの?」


 そう!


「ふふっ。その表情、まるで私の言うことをわかってるみたい。って、そんなわけないわよね。さあ、ご飯よ」


 ライザール様が場所を開けると、お母さんが持っていた服を近くのテーブルに置いてベッドの上に乗ってきた。そしてベッドの上に座り、わたしを抱き寄せてくれた。


 わーい。ご飯だ!んくんくっ。


 ………ご飯を済ませたあと、お母さんはわたしを縦抱きにして背中をトントンしてゲップをさせた後、オムツを替えてくれた。


 お母さんは新米お母さんだけど、子守りのアルバイト経験があるらしく、わたしに触れる手つきは危なげなくない。安心して身を任せられる。


 あぁ〜。お腹が満たされて眠くなってきた。


 そうしてわたしは、幸せな気持ちのまま眠りについた。


 目が覚めると、(いか)つい男が顔をデレデレに崩してわたしの顔を覗き込んでいた。灰色の髪を短く刈り上げ、緑色の目をした男性。わたしのお父さんだ。


 仕事から帰って来たばかりなのか、大きなガッシリした身体にピッタリした黒いスーツを着ている。


 いまは冒険者ギルドでギルド職員をしているそうだけど、その筋肉はまだ落ちてはいない。カッコいい。


『それ、本気か?こんな強面な筋肉男のどこがいいんだ』


 ライザールにツッコまれたけど気にしない。わたしのお父さんはカッコいい。


「可愛いなぁ。なあメリッサ。ルルアーナが俺を見て笑ってるぞ」


「そうね。ルルアーナはダグが怖くないのね」


 お父さんが怖いわけがないよ。身体が大きくて、ビシッと黒服を着こなして、服の上からでも筋肉ムキムキなのがわかって、厳つい顔はデレデレに崩れている。………うん。優しそう。


『お前のその感想はおかしいぞ!普通は、あんなゴツい奴を怖がるもんだぞ!』


 わたしの枕元にいたライザール様の声が頭の中に響いてきた。


「にゃあ~!」


 興奮し過ぎたのか、猫の声が漏れている。可愛い。


「この猫は?」


 お父さんがライザール様を見て言った。


 お父さんが手を伸ばすと、ライザール様は大人しく頭を撫でられるままにしている。羨ましい。わたしもライザール様に触りたい。


「気づいたら寝室にいたの。ルルアーナの側を離れないのよ。いい子だし、飼ってもいいかしら?」


 お母さんはお父さんとライザール様の様子を微笑ましそうに見ている。お母さんはライザール様を触らなくていいのかな?


『この女は、お前が寝ている間に俺を触っていたぞ』


 え、それはズルい!


「こんなに人に慣れているなら、誰かの飼い猫かもしれないぞ。飼い主を探してみて、見つからなかったら飼うというのはどうだ?」


 今度はライザール様の背中を撫でながらお父さんが言う。


「そうね。それでいいわ」


「じゃあ、明日、冒険者ギルドで飼い主探しの張り紙を出してもらうよ」


『フンッ、無駄なことを。この俺様の主はゼノグレア様だけだ。人間の飼い主なんかが見つかるわけがない』


 そうですけど、ライザール様はとびきり綺麗な猫だから。欲しいという人が現れるかもしれませんよ。そうしたらどうするんですか?


『そんなもの、追い返すだけだ。俺はお前の目付役だからな。お前の側を離れるわけにはいかん』


 ありがとうございます。


『なぜ礼を言う?』


 ライザール様が傍にいてくださるのが嬉しくて。


『フンッ』




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