ー1章ー 7話 「声帯強化、そして混沌」
思わず声を出してしまったが、それは言葉ではなく泣き声として変換された。
普通に話ができる赤ちゃんなど、存在してはいけない。
きっとそういう制限が設けられているのだろう。
僕の泣き声はそれなりに大きかったようで、寝ていた三人の赤ちゃんたちがビックリして一斉に泣き出してしまった。
小屋の中が泣き声に支配されていく。
ご近所さんは居ないから迷惑になる事はないだろうけど、さすがにマズいと思い僕は泣くのを止めた。
オルセアは慌てて三人の元へ向かい、抱っこしてみたり、あやしたりしながら機嫌を直してもらうのに必死だ。
その姿を見て、とても申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさい……」と言えたら楽なのだが。
何とか落ち着きを取り戻し、泣き疲れたのか三人は寝てしまった。
僕もベッドに寝かされ、毛布を掛けられた。
「怪我がなくて良かった。冒険は床が直ってからな!」
優しい声色で僕に話し掛けるオルセア。
僕は色々な事を知っているだけに、少し焦り過ぎたのかもしれない。
今後は周りの赤ちゃんたちに歩調を合わせた方がよさそうだ。
こうして今日も静かな夜が訪れる。
翌朝、新鮮な朝日が部屋を照らし出す。
澄んだ空気は、都会にいた頃には味わえなかった極上の安らぎだ。
鳥の羽ばたく音が、小屋の入り口辺りで静かになる。
オルセアはそれに気がつき外へ出たが、直ぐに戻ってきた。
手元には小さな紙。
その紙を広げ読んでいるようだった。
暫くすると納得したのか、オルセアは外へ出ていった。
「モー」という鳴き声から察するに、牛乳を搾っているのだろう。
パタッと隣で音がしたので、横を見てみるとガルド君が遂に寝返りを成功させたようだ!
完全にうつ伏せになっている。
助けてあげたいが、僕の力ではどうにもならない。
きっと息苦しい思いをしている…経験者の僕にはハッキリと分かる。
だが、今オルセアは牛と格闘中だ。
戻るにはもう少し時間が掛かるだろう。
頑張れ、ガルド君!
僕は彼を応援しようとしたが……必要なさそうだ。
だって、ケラケラ笑ってるんだもん。
寝返りができて嬉しいのか、初のうつ伏せが面白くてツボに入ったのかは分からないが、とにかくガルド君は楽しそうに笑っている。
となりの女子から蹴りとパンチを浴びせられながら……。
オルセアは牛乳を僕たちに飲ませてくれる。
搾りたての牛乳はいつ飲んでも最高だ!
お礼を言おうと試みるが、相変わらず「あ~あ~」言うだけ。
進歩がないなぁ。
声を出していかないと、会話するというスキルは身につかないのだろうか?
もしそうなら、今後は無意味に声を出していった方が良いな。
だが、進化の歩調は合わせていかなければならない。
仮に話せるようになっていたとしても、三人が追いついて来るまでは、隠しておかなければ。
その日から僕は、怪しまれない程度に声を出す事にした。
声を出していると時折みんなも真似をしてくる。
お陰でオルセアは、「赤ちゃん同士で話しているみたいだ」と喜んでくれた。
そんな日々を過ごしていると、女の子二人も寝返りができるようになっていた。
相変わらずガルド君はうつ伏せがお気に入りのようで、一度うつ伏せになったらオルセアが気づくまでずっと楽しんでいる。
動ける事の喜びは、寝返りだけではないのだよ!
と、突っ込みたい気持ちを堪えながら彼らの進化を見守る事にした。
それから数日、僕は相変らずの発声練習をしていると、遂にあの声が頭に響いてきた。
「声帯強化により、基本言語能力が解放されました」
やった……遂に話せる所まできたんだ!
とは言っても最初から流暢には話せないだろうけど。
それでも人間らしくなってきている喜びは何とも言い難いものがある。
さぁ、君たちも頑張ってくれ!
心の中で呟きながら、となりの様子を見てみると……ガルド君と、となりの女の子がうつ伏せになってケラケラと笑っていた。
……君たちは一体、何をしているんだ?




