ー4章ー 4話 「剣聖の系譜――無影と天断」
オルセアの秘奥義、天断。
およそ人間の成せる技とは思えない剣技だった。
対象に切先すら触れていないどころか、対象との距離があるにも関わらず切り伏せてしまっている。
「よく見ておけ」と言われたが、目で追うなんてこと事態がほぼ不可能だ。
あまりの速さにじっくりと観察している暇なんて全くなかった。
ただ辛うじて見えたのは、剣から繰り出された真空波のような……例えが合っているかは分からないが、そんな何かがいくつか放たれ、木を斬ったという事だ。
正直、相対していたら何もできずに終わっていたであろう事は容易に想像できる。
「剣聖」と呼ばれていた由縁は恐らくこれの事なのだろう。
政治的思惑がなければ、この称号は間違いなく誉れあるものとなったはずだ。
それに一体どれだけの研鑽を積めばこんな人間離れをした技を扱えるというんだ?
しかもそれを僕に継承すると言っていたが……そんな事が可能なのだろうか?
もはや疑問符ばかりで思考が追いつかない。
困惑する僕を察したのか、オルセアは優しい笑みを浮かべながら肩をポンと叩いた。
「驚かせてしまったな。まぁいきなりこれをやるのは無理だ。だからこの天断の前段階を、まずは教える」
……ちょっとホッとした。
いきなり剣から何かを出せと言われても、何も出る気がしない。
そもそもどう動いていたのかさえ見えなかったのだから。
この技は前段階の先にある技という事らしいが、その前段階なら僕にできるとオルセアは踏んでいるという事なのだろう。
「前段階の技は、神速剣、無影だ」
そう言ってオルセアは再び剣を構えた。
次の瞬間、オルセアは地面を力強く蹴り、木に向かって物凄いスピードで間合いを詰めていく。
そして腰元から振り抜かれた剣は残像を残しながら木を斬り裂いた。
もはや剣の影さえ映らなかった……正に無影。
剣は空気を斬り裂いているのに、音さえしない。
音が鳴ったのは木が倒れる時……全てが終わった事を告げる静かな一撃だ。
これって剣から何かが出ていないだけで、それ以外は何も違いがないように思うのだが。
驚き過ぎて言葉が浮かんでこないが、これを習得できなければ魔王と対峙する事さえ無理だという事は理解した。
「無影の習得にはかなり時間が掛かるから、今から始めるのが良いと判断したんだ」
実際に見たから分かるが、そんな簡単に習得できる代物ではないのは僕でも分かる。
だから今からこれをマスターさせようという事なのか。
「普段の稽古の後は、この無影を習得する為に費やしなさい」
そう言ってオルセアは無影を習得するための心構えや、練習方法を丁寧に教えてくれた。
目に焼き付いた二つの技……無影と天断。
剣を極めた男が、その技を僕に託そうとしてくれている。
その思いを無駄にしないように、僕は静かにこの技と向き合う覚悟を決めた。




