ー4章ー2話 「選ばれなかった人々の行き先」
4年という歳月は僕らの成長もさる事ながら、この森にも変化をもたらしていた。
崩れ掛けの馬小屋から始まった森での生活も、オルセアの村を作るという発言から徐々に人々が集まってきた。
それは望んでこの地へ移住してきた訳ではないにしろ、安心して暮らしたいと願う人々の希望が形になったのだと思う。
最近移住してきた人の話によると、グランゼル王国の悪政が遂に始まったと言う。
その理由は魔物の再侵攻に備えた軍備増強らしい。
グランゼル王国は近隣諸国と比較しても、吐出した軍事力を誇る。
それでも尚、軍備増強を測る意図は何なのかが、明確には示されていないそうだ。
一部で囁かれているのは、隣国であるベルムランド王国への侵攻ではないかと言われているらしい。
長年ベルムランド王国領内にある鉱物資源を狙っているグランゼル王国は、以前ベルムランド侵攻を決行したが失敗。
その後魔物の大侵攻が始まり、戦力を削がれていった経緯がある。
執念深いグランゼル王国国王、グランゼル・ドラクマは次に訪れる魔物の侵攻を利用し、戦力を極力温存してベルムランド王国へ再侵攻するのではないかと言われているらしい。
今のグランゼル王国の戦力に欠けているのは、何と言っても英雄の存在だ。
オルセアと勇者パーティを失ったグランゼル王国は、新たにその存在を見出す為に徴兵制度を強化したのだとか。
それが今回の増税に関する真の狙いらしい。
普通に聞けば何の関係もなさそうだが、重い税を課し徴兵制度と絡める。
要するに、兵士になれば税の免除を受けられるという仕組みだ。
暮らしは守れるが、兵士にならなければならないという、何とも脅しなような政策を打ち出したのだ。
内容からして中流階級以下の人々は納税が困難になるであろう事は目に見えている。
つまり選択肢など初めから用意されていないのだ。
どうしても兵士になりたくない人はそれでも納税するか、或いはグランゼル王国を捨てるかという選択を迫られる。
恐らくグランゼル国王は、後者を選ぶ人間は少ないと思っていたのだろう。
だが、それは完全に裏目に出ていると僕は思う。
こうした背景からグランゼル王国の人々は移住をしてきているというわけだ。
数年前はその全容が分からなかったが、こうして詳細が明らかになってくると、国民はかなり追い詰められていたのだという事がハッキリと分かる。
そしてこの村は……いや、もはや街と言っても差し支えないくらいに人口が増えている。
ここで暮らす人々の数は1000を超え、今も日々増え続けているのだ。
それはグランゼル王国という、人の尊厳や暮らしを踏み躙るような事でも、政策として平気で行われる構造に嫌気が刺した人々の意思表示だ。
恐らく僕が思うに、グランゼル王国は中流階級以下の国民が兵士にならないのであれば、要らないと考えているのではないかと思う。
その証拠にこの数年間、移住者の誰一人傷ついていた人はいなかったし、グランゼル兵に追われたなどと言う事は聞いていない。
1000を超える人々が国から居なくなっているのに何もそういった兆しがないのは、人々を見限っているからではないだろうか?
最終的にベルムランド王国を落とせれば、そこに住む人々を強制的に兵士とする事だって可能になるだろう。
疲弊するのを待ち、今ある軍事力で叩く……恐らくそんな事を考えているのではないだろうか。
一方僕たちの街はこの数年の間に門や壁、住居や商業施設がどんどんと拡張していっている。
以前から考えていた自警団の組織も、ローデンさんたち勇者パーティのメンバーが協力してくれたお陰で、街の人々の中からやってくれる人を募って最近ようやく形になった。
まだ100人程度の組織ではあるが、街の警備、救護支援、個人を特定する識別魔法など、外部からの防衛に力を入れている。
最近ではアステルド連合国から行商人の人達も来るようになったので、閉鎖的だった森も活気に満ちている。
「……さて、剣の練習をするか」
今日も穏やかに時が流れる。
鳥の囀り、人々の笑い声、草木の葉音……。
この平和を守れるかは僕たちにかかっている。
そんな事を考えなくても良い日が、一日も早く訪れる事を願っている。




