ー1章ー 5話 「赤ちゃん修行は過酷です」
苦しい……うつ伏せってこんなに苦しかったか!?
寝返りを成功させたのは良かったが、その後のことを考えていなかった。
頑張りすぎて体力がない……どうしたものか。
腕に力を入れてみるが、力が入っているのかどうか、まるで分からない。
足ならどうだろうか?
お尻が辛うじて上がりはしたが、何の解決にもならない。
こういう時、赤ちゃんなら泣いて助けを呼ぶのだろうが……泣き方が分からない。
万事休すだ!
横を見てみると、先ほどまでバタバタしていたガルド君はすっかり夢の中。
彼が起きていたとしても助けにはならないのだが……。
何とかならないか色々試してみるが、お尻を少し上げると息がしやすくなるくらいで、元の体勢には戻れなかった。
相変わらずオルセアは外に居る。
赤ちゃんから目を離してはいけません!と言いたいが、自給自足の生活ではそうもいかないよね。
足の踏ん張りは長く続かず、ペタっと再びうつ伏せに戻る。
苦しいのでお尻を上げ、何度もそれを繰り返した。
まるで尺取虫のように。
すると奇跡が起こった。
どちらかは分からないが、女の子が泣き出したのだ。
――偉い!
どっちかは分からないけど、君は僕を救ってくれた命の恩人だ!いつかお礼をさせてもらう事にするよ。
泣き声に気づいたオルセアは小屋に戻り、泣いている子を抱き上げ、あやし始めた。
どうやらオルセアを呼ぶために泣いただけらしい。
それでも、この状況を打破するには十分だ!
僕はここぞとばかりにモゾモゾと動き続ける。
どうかな……気づいたよね?
それなりに激しく動いたので、さすがにオルセアも気がついた。
「おまっ!?……寝返りを打ったのか?」
オルセアは女の子をベッドに戻し、慌てて僕の方へ駆け寄った。
驚きながらも僕を抱き起こし、元の体勢に戻してくれた。
苦しくなくなった……ありがとう、オルセアさん!
僕は体力を使い果たし、牛乳を飲まずに眠ってしまった。
翌日から僕はひたすら筋トレに打ち込んだ。どうやら寝返りはまだ早かったらしい。
ハイハイの前に、うつ伏せから仰向けに戻る術を身に付ける必要がある。
赤ちゃんって過酷だったんだな。
コロコロしているだけでチヤホヤされて羨ましかったけど、実際になってみるとそんな生易しいものではない。
ガルド君みたいにバタバタしながら筋肉をつけていくのが正解なのだろうが、僕は違う!
もっと激しく、それでいて効率的に筋肉へ負荷をかけていく。
そうすればより早い段階で、うつ伏せから仰向けに戻るだけの筋力を手にできるはずだ!
僕はなりふり構わず今動かせる箇所を、とにかく動かした。
大人みたいな体力はまだないので、疲れると直ぐに寝落ちしてしまう。
この寝落ちモードのお陰で、効率はかなり悪い。
しかし文句を言っても始まらない。
やるべき事は動いて動いて、動きまくるだけだ!
とにかく激しく……激しく……。
するとガチャッと扉が開き、オルセアが僕を凝視し始めた。
「お……おい、病気……じゃないよな……?」
……変な誤解を与えてしまった。




