ー3章ー 30話 「平和の裏側で進むもの」
魔王復活までの期限は着実に進んでいる。
剣の練習に復帰したとはいえ、どちらかといえば魔力コントロールに時間を費やしている。
これはメルフェリアさんの助言なのだが、最悪の場合もう一度封印をする選択肢もあるという事らしい。
考えてみれば魔王は無限治癒とも言える能力を備えている。
消耗戦に引き込まれればその選択肢は確かに現実的とも言える。
オルセアがかつてやった封印は、高度な魔力コントロールがあってこそ成せる技なのだとか。
魔力コントロールはそれ以外にも、戦闘において魔力の温存や、ダメージコントロールにも直結しているので、練度を高めておく事は前衛の僕にも必須らしい。
確かにゴブリンと戦った時に剣へ魔力を込めたけど、必死だった事もありコントロールをしていたかと言われればちょっと自信がない。
メルフェリアさんいわく、魔力の枯渇は戦いにおいて死を意味するという。
思うように動けなくなり、攻撃が当たったとしても致命的なダメージは与えられず、それまで追い詰めていたとしても、主導権を奪われ最悪の場合、命を落とすという事だ。
そんな状況をみんなはかつての魔物の大進行で、嫌というほど見てきたらしい。
魔法職ではないからという理由で蔑ろにしてきた者は、すべからくその様な末路を辿ったという話だ。
なので僕たち四人の子供は、特性云々に限らず魔力コントロールを日々行っているのだ。
オルセアや勇者パーティでさえ倒せなかった相手と対峙するには、せめてそのくらいの事ができなければ同じ土俵にすら立てない。
僕らはみんな魔王の脅威が迫っているのを知っている。
本当ならもっと子供らしく居れたら良いのだが……誰一人そういった考えにはなっていなかった。
この分厚く、高い壁を乗り越えなければ、この穏やかな日々が終わるのを分かっているからだ。
僕らは今できる事を穏やかな環境の中、只々真剣に取り組んでいた。
「おーい、アレン!少し休憩にしよう!」
瞑想をしていたが、今後の事をあれこれと考えてしまって、ただ目を閉じていただけだった僕に、オルセアが声を掛けてきた。
……まぁそんな日もあるよね。
僕はみんなに声を掛け、いつもの広場でティータイムにする事にした。
今日は最近森で見つけたラズベリーを使った紅茶、ラズベリーティーだ。
酸味とラズベリーの香りが紅茶によく合う爽やかな味。
紅茶のお供は、ボルンの奥さんのお店で売っていた焼き菓子。
「新しい馬小屋や車庫を作ってくれたお礼だよ」と、少し前に頂いた焼き菓子だ。
空が高くなり始め、秋のような気候が深まってきたこの頃。
少し寒さを感じさせる風に吹かれながら、みんなの話し声が優しく村を包み込んでいた。
――同時期のとある場所。
魔王が封印されている人里離れた頑強な岩に覆われたその地に、異形なる魔物が進化を遂げていた。
魔王を名乗るには程遠い存在ではあるが、封印されながらも魔王ヴァルザドが密かに生み出してきた魔物同士が争い、魔王種として進化を遂げていた。
……いずれ訪れる魔王復活時、更なる脅威となる手駒として。
「……ククク。人間どもよ……せいぜい平和という甘い蜜に溺れているがいい……」
それは数年後、絶望という形でアレンたちに襲い掛かるのであった。




