ー1章ー 4話 「キングオブ赤ちゃん」
荷馬車が小屋の前で止まり、誰かが男と話をしている声が聞こえてくる。
一体こんな森の奥に、何の用事で来たのか。
男の知り合いなのだろうか?
あまり良い趣味ではないが、僕は聞き耳を立てることにした。
「これはこれは! オルセア様ではありませんか!」
僕を拾ってくれた男はオルセアという名前らしい。
どうやら敵意がある感じではなさそうだ。
口ぶりからして、オルセアはそれなりに名の知れた人物なのだろうと分かる。
「済まないな、ボルン。今後もちょくちょくお願いする事になるが……よろしく頼む!」
どうやらオルセアは、ボルンという男と知り合いのようだった。
不安は払拭できたが、ボルンという人物は何者なのだろうか?
こんな時、体を自由に動かせたら様子が分かるのに……。
今のところ頭と手足を動かせる程度……これは筋トレが必要だ!
一日も早く寝返りを打てるようにならなければ、ハイハイなど夢のまた夢。
自由を手にするために、赤ちゃんはこんな苦悩をしていたのか……。
僕は寝返りのための筋トレをしながら会話を聞いていた。
話からするとこうだ。
オルセアは何らかの理由で街に行けないらしい。
そこで行商人であるボルンに定期的に来てもらい、必要な物を買ったり作物などを売ったりするため、取引をしているみたいだ。
街に行けない理由は気になるが、ボルンという男が僕たちの生活に必要な存在なのは分かった。
その後二人は街の様子や商売の調子などを話していたが、これといった情報は得られなかった。
しかし、この赤ちゃんというのは不便極まりない。
話すこともできなければ、歩くことさえできない。
僕が転生者だからそう思うのだろうけれど、これがいつまで続くのか……打開策はとにかく筋トレだ!
他の子は無邪気に「あ~あ~」言ってみたり、バタバタしているだけだけど、僕は違う。
何せ現代の知識があるからね!
筋肉と呼べるものは皆無だが、とにかく体を動かし、横に転がるイメージで手足に力を入れる。
反動の力も使ってみると良いかもしれない。
左右に少しずつ転がる力が加われば、寝返りという第一ステップはクリア出来るだろう。
傍から見れば、それはもがいている様に見えるかもしれない。
だが、その一見無駄とも滑稽とも言える行為が実った時、人間としての階段を一段登ったという事になるのではないだろうか?
そしてそれは、隣でバタバタしている赤ちゃんたちに差をつけ、果てしない人間活動獲得レースに勝利する最短の道であると確信しているのだ!
さぁ、やってみせるぞ!
この寝転がっているだけの世界に別れを告げ、初めて寝返りが打てた赤ちゃんの中の赤ちゃん……キングオブ赤ちゃんになってみせるのだ!
僕はとにかく動いた。
だが、隣のガルド君が手足で攻撃してくる。
痛い……痛いって!
それでも負ける訳にはいかない。
僕も負けじと手足を動かし続けた。
体が左右に揺れ出した……良いぞ、その調子だ!
諦める事なく動いていたその時、遂に体が真横になった。
そしてパタンと、うつ伏せの姿勢になる。
よし、成功だ!
遂に寝返りをやってみせたぞ!
どうだ、見たか!この見事なまでの寝返りを!
だが……ここからどうすれば良いんだ?
……何か少し息苦しいぞ?
手足を必死に動かしてみるが、何も変わらない。
……ダメだこれは。
動けない……オルセアさん、助けて……。




