ー3章ー 20話 「初陣の余波」
手に握っている石刃が、倒したゴブリンを吸収している。
イノシシの時にはそんな事は起こらなかったのに。
ゴブリンは光の粒子となり、まるで石刃を求めているかのように吸い込まれていく。
石刃は吸収した事により少し軽くなった気がした。
更に驚いたのは、見た目は変わらないのだが、刃がより鋭くなり、魔力を込めていないのに光を纏い始めたのだ。
その光景を僕は放心状態のまま見つめていた。
ゴブリンは倒した……だが、人と変わらない形状の異形な存在を斬り倒した事が、まるで人間を亡きものにしてしまったような感覚にさせた。
魔物だという事は理解しているが、その出来事を直ぐさま受け入れられる心の余裕がないのだと感じていた。
「……おい、アレン!大丈夫か!?」
オルセアの心配そうな声が耳に響く。
僕はコクリと頷いたが、声は発せられなかった。
震えながら硬く握った石刃をオルセアが何とか外してくれた。
初陣というものはこういうものなのだろうか?
幸い相手はゴブリン1匹だったが、これが複数いたら僕の心はどうなっていたのだろう。
……暫くは森に来ない方が良いかな。
僕はオルセアに抱き抱えられ森を後にした。
翌朝、鳥の囀りと窓から差し込む朝日で眠りから目覚めた。
家の中はいつもと変わらず平和そのものだ。
あれから僕は夕飯を食べることもなく、疲れ果てて寝てしまったらしい。
ゆっくり寝たお陰だろうか……昨日よりも心が落ち着いている。
光景は目に焼き付いているが手足の震えも治まり、今は冷静に物事を考えられる。
進化する魔物……今回はゴブリンだったが、この先対峙する魔物の中には人型の相手もいるだろう。
人と同じ動き、表情、思考……しかし魔物である事には変わりない。
野放しにすれば躊躇いのない魔物に、世界は蹂躙される。
現代では一応大人と呼ばれる年齢ではあったが、命のやり取りなんてものとは程遠い世界で生きていた。
昨日と同じ場面に出くわしたら、今のガルドたちは受け入れるだけの心の余裕があるのだろうか?
……恐らく難しいだろう。
いずれその時がやってくるのは間違いないが、その時期はもう少し後であるべきだと思う。
大人の心を持った僕でさえ、このザマなのだから。
ならば僕にできる事は、彼らが出来るだけそのような状況に陥らないように前線で対処するしかない。
有難いことに、斬りつけた時の生々しい感触は一切なかった。
それは石刃の性能のお陰なのだろう。
相手が魔物であっても命を奪う行為は、やはり気持ちの良いものではない。
しかしその罪悪感を多少でも軽減してくれているのがせめてもの救いだ。
暫くは心の整理と休養が必要だが、覚悟だけは決まった。
まさか6歳にしてこのような事態になるとは夢にも思っていなかったが、この世界の現実からは逃れられない。
心が壊れず早い段階で受け入れられたのは良かったのかもしれない。
僕は天井の木目をぼんやりと見つめながら、そんな事を考えていた。




