ー3章ー 19話 「恐怖を断ち切る一閃」
初めて対峙する魔物……ゴブリン。
このゴブリンは進化した魔物だとオルセアは言っていた。
つまり、最弱ではないということだ!
その最弱の魔物自体が何かは知らないが、少なくともこのゴブリンが居た場所の中では最強ということになる。
いきなり進化個体と遭遇するとは思わなかったが、これが成長してしまうと魔王と呼ばれる存在になってしまう。
最弱の中の最強……しかしその殺気は本物だ。
一瞬でも隙を見せたら襲いかかってくるだろう。
僕はゴブリンと対峙しながら作戦を立てていた。
オルセアは任せろと言ったが、明らかにゴブリンは僕を狙っている。
2対1の戦いで相手が2人なら、弱い方を先に片付けるのはごく普通の作戦だ。
オルセアほどの達人であれば問題ない相手だろうが、僕という存在が足手まといになるのは明らか。
そして何より、ゴブリンは僕が弱いと思っている。
手足の震えを必死に押し込めているが、心臓の鼓動までは抑えきれない。
その緊張感は間違いなくゴブリンに伝わっているはずだ。
しかし何でよりにも寄って人型の魔物なんだ?
見た目こそ人間のそれとは違うにしても、動きはまるで人間と同じ。
その見た目が僕を動揺させているのかもしれない。
そしてヤツは僕を一撃で仕留められると思っている。
口元が少しニヤけているのがいい証拠だ!
……だが、その慢心を逆手に取らせてもらう。
ゴブリンは右手に斧、左手に盾を持っている……つまり軸足は左だ。
そこを封じれば僕の勝ち。
問題は人型であるゴブリンを斬れるのかということだ。
かつて侍だった過去はないし、イノシシを倒すのだって未だに命を奪うという行為に手が震えている。
魔物だとは分かっているが、人間と対峙しているように思えてならない。
でも、きっとこの先人型の魔物なんていくらでも遭遇するのだろう。
これを乗り越えなければ……このゴブリンを倒さなければ、魔王なんて倒せない!
……やるしかない。
そう思った次の瞬間、ゴブリンは勢いよく斧を振り上げ僕の方へ向かって来た!
僕はずっとイメージしていた鉄球の付いた足枷をゴブリンの左足首に錬成。
光と共に足枷がゴブリンの足首にガッチリと嵌められた。
何も気が付かず走っていたゴブリンは、急な足の重さに対応が出来ず、前のめりに体制を崩した!
僕は構えていた剣に魔力を込め、ゴブリン目掛けて上から剣を振り下ろす。
「うおおぉぉぉぉ!!」
やらなければ殺られる……それだけしか感情がなかった。
善悪がどうとか相手が人型だからとか、理屈っぽいものは完全に消えていた。
ただ生きたい……それだけだった。
剣はゴブリンの肩から斜めに切り裂き、脇腹辺りを抜けた。
魔力を込めていたせいなのか、斬ったという感触は一切なく剣をただ振り下ろしただけという感じだった。
そして精神的に一番心配していたゴブリンの断末魔の叫びのような悲痛な声も一切なく、そのまま絶命したようだ。
と、次の瞬間。
僕の剣、元い石刃が光の粒となって消え行くゴブリンを吸収し始めた!
……これは一体何が起こっているんだ!?
戦いの後で放心状態の僕は、その不思議な光景をただ見つめていた。




