ー1章ー 3話 「名前の贈り物」
夕日がオレンジ色の光を窓辺に差し込んだ頃、僕は目を覚ました。
周りの赤ちゃんたちは先に起きていて、互いのほっぺを掴んだり、足をバタバタさせたりして遊んでいる。
時折「あ~あ~」と声を出して、何かを話そうとしているようだった。
大きな声で自分という存在を表現しているのだろう。
――僕も、かつてはこうやって成長していったのかもしれない。
ふと現代のことを思い出していたが、もう戻ることはできない。
……いや、戻りたいとは思わないけれど。
その時、外から「カンカンッ」と金属のような音が聞こえた。
きっと男が何かの作業をしているのだろう。
小屋の中は、生活に必要なものがほとんどない。
家具や食器、衣服らしきものも見当たらない。
きっとここを“安住の地”にしようとしているのだろう。
一体、彼の身に何があったのか――考えてみても分かりはしないが、
赤ちゃんを四人も抱えて生きていくのは、きっと大変なことだ。
それにしても、「僕を孫にする」と言っていたけれど、家族はいないのだろうか。
それに、この三人の赤ちゃん……彼の孫なのだろうか。
言葉を話せない今の僕には、確かめる術がない。
こういうことは詮索しない方がいい――そう分かっていても、考えてしまう。
そんなことを思っていると、男が小屋に何かを運び入れてきた。
窓辺に置かれていた物を片付け、持ってきた創作物をそこに設置する。
――一体、何が始まるのだろう。
長方形の台のようなそれに藁を敷き詰め、どこから手に入れてきたのか分からない毛皮をその上に広げた。
満足そうに笑みを浮かべた男は、僕を抱き上げ、そこに寝かせる。
他の赤ちゃんたちも同様に並べられ、上から毛布を掛けられた。
ベビーベッドの完成だ。
……これは実に快適な寝心地!
現代の布団やベッドに比べると、少し雑な作りではある。
けれど、僕たちのために愛情を込めて作ってくれたと思うと、胸が熱くなった。
「……ありがとうございます」と、心の中で呟いた。
その後、男は僕たちの顔をじっと見つめ、腕を組む。
まだ何か足りないものがあるのだろうか。
暫く考え込んだ後、僕を見据えてこう言った。
「君の名前は――アレンだ!」
僕の名前が決まった瞬間だった。
恐らく、ずっと考えてくれていたのだろう。どんな名前が良いのかを。
正直、言葉にならない感動があった。
普通は自分の名前が決められる瞬間なんて、遭遇しないのだから。
アレン――この世界での僕の名前。
「……ありがとうございます。」
他の三人にもまだ名前を付けていなかったらしく、男は腕組みをしたり唸ったり、ウロウロしてはしゃがみ込んだりを繰り返していた。
結果、男の子はガルド。女の子はリシアとルナと名付けられた。
疲れきった男は、僕たちに牛乳を飲ませたあと、簡単な食事を取り、そのまま藁の上で布団も掛けずに眠ってしまった。
僕たちもつられるように、静かに目を閉じる。
翌朝。
目を覚ますと窓が開いていて、外の音が聞こえてきた。
鳥の囀りや、木々が風に揺れ葉が擦れ合う音が心地よく耳に届く。
まだ起き上がることができない僕は、音からいろいろな情報を拾った。
耕すような音、土や草の匂い――恐らく畑を作っているのだろう。
転生した日に抱きかかえられた時に見た景色から、周囲が何もない森であることは分かっていた。
つまり、自給自足で生活していくということらしい。
その第一歩が、畑作りなのだろう。
どこからともなく現れた牛の鳴き声も聞こえる。
少しずつ、暮らしが形を成していくのが感じ取れた。
その時、荷馬車の音が近づいてきた。
音は小屋のあたりでピタリと止まる。
――こんな人気のない森の奥に、一体誰が来たのか。
少し不安になり、僕は聞き耳を立てることにした。
何事もなければいいのだけれど……。




