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ー3章ー 6話 「種が花咲く時」

翌朝。

昨日までのどこまでも澄み切っていた青空から一変、勇者セリオンの死を嘆くかの様に雲が覆い、どしゃ降りの雨が降り注いでいた。


オルセアも今日は家畜に餌を与える程度の作業しかできず、久しぶりに家でのんびりと寛いでいる。

僕らも外に出られないのでガルドは筋トレ、僕とリシア、ルナは瞑想して精神力を鍛えていた。


オルセアは僕が採取して作っておいたハーブティーを満喫し、穏やかな表情を浮かべて窓の外を眺めている。


そんな緩やかな時が流れる村に、来訪者が現れた。


「コンコンッ」と家のドアをノックする音に、ハーブティーを楽しむオルセアの手が止まった。

持っていたカップをテーブルにそっと置き、ドアへと向かう。


僕は目を閉じ、瞑想を続けるふりをしながら暗闇の中、耳を澄まして様子を伺った。


「ガチャッ」とドアが開き、風が雨に濡れた草木や土の香りを部屋に招き入れる。

それと同時に女性の声が聞こえてきた。


「師匠。リゼル・クロイス、戻った」


……何とも独特な空気感。

礼節を重んじるメルフェリアさんやローデンさんとは明らかに違う再会の挨拶。

尊敬はしているのだろうが……随分とフランク!

あまりの変化球に思わず目を開けてしまった。


ドアの方へ目をやると、そこに居たのはずぶ濡れになったコートを着た、少女と思わせるほど幼く見える女性だった。


勇者パーティの一員だった人が少女って事は有り得ないだろうが。


「雨の中大変だったな。まぁ上がれ」とオルセアはリゼルさんを部屋の中へと招き入れる。

僕は瞑想のふりを止め、二人に温かいハーブティーを入れてあげた。


……この人がヒーラーさんなのか。


背丈は僕よりも大きいけど、一般的な成人女性の身長からすると小さい。

見た目で判断してはいけないが、メルフェリアさんやローデンさんの様に、会った瞬間に只者ではないという感じが伝わってこない。


本当に凄い人なのだろけど。


オルセアはルナを呼び、リゼルさんに挨拶させた。


「ルナの師匠になる人だ。しっかり教えてもらいなさい」


リゼルさんはルナをまじまじと観察し、オルセアに「水の入ったコップをちょうだい」とお願いした。

オルセアは何も言わず水の入ったコップを持ってきてそれを手渡す。


一体何をするんだ?


リゼルさんはポケットから取り出した何かの種をコップに入れ、「魔法で癒して」とルナに言った。

以前やった萎れた花を蘇らせるヤツだとすぐに分かった……のだが。


ルナの魔法は緑色の光を放ちながら、コップの中の種に注がれているが、小さな芽が顔を出した所で限界をむかえた。


ルナはこの数年、魔力量を高めるために毎日頑張っている。

だけど結果は芽が少し出ただけだった。


悔しがるルナに「6歳にしては上出来」と呟いたリゼルさんは、ルナの全身を撫で初めた。


……何をしているんだ?


理解不能な行動の後、「これが見本」とコップの中の種に魔法をかける……すると、一瞬にして種から花が咲いた!

まるで手品を見ているかのような驚きを覚えた。


やはり只者ではなかった。


「さぁ、やってみて」とルナに再度チャレンジを促すリゼルさん。

よほど悔しかったのだろう……ルナの眼差しは本気だった。


コップに手をかざし、ルナの魔法が種に注がれていく。


すると先程とは明らかに光の輝きが違っていた。

上手くは言えないが、強くて優しい光だ。


そしてゆっくりではあるが、種から芽が生え、それはスクスクと成長していく。

そして遂に種から花が咲いた!


……何が起こったんだ!?


リゼルさんはルナの全身を撫で回しただけ。

それだけでこんなに魔法の威力が変わるものなのか?


全くもって理解が追いつかない。

勇者パーティ、恐るべし!

流石は世界を救った一人なだけはある。


一番驚いているのはルナ本人だろう。

最初だって手を抜いていたなんてことはなかったはず。

それが全身を撫で回されただけでこんなにも魔法の威力が変わってしまったのだ。


リゼルさんは「魔力の流れを整えた。もう少し調整が必要」と言っていた。

傍で見ていたリシアが「私も撫でて!」とリゼルさんに懇願した。


リゼルさんはあまり表情を変えない人だったが、何だか嬉しそうだった。


こうして残された最後の勇者パーティの一人、リゼルさんが加わり、村が一段と賑やかになった。


オルセアの心も少しは晴れてくれると良いのだが。


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