ー2章ー 9話 「初めての“美味い”」
遂に味のある食事にありつけるところまできた。
三歳にして何かの修行をさせられているかのような、煩悩を抑制する食事の日々。
考えてみればオルセアは男だし、戦場に赴いていたということを考慮すれば、料理ができない事は理解できる。
だが味付けなしというのは極端過ぎる。
現状を見てみても、女性はリシアとルナだけ。
純粋無垢な三歳の女児に料理スキルを要求するのは無理がある。
僕は現代で一人暮らしをしていた際、自炊を心掛けていたので多少なりとは知識がある。
つまり、今この森で料理スキルを持ち合わせているのは僕だけ。
何とかこの地に料理文化を根付かせなければ、明日はないだろう。
これは天より与えられた使命と言っても過言ではない。
まずはシンプルでも、肉に塩、胡椒で味付けする事から覚えてもらわなくては!
僕は生肉に味付けしたものの中から、比較的小さな肉をオルセアに渡した。
「オルじい、これ試しに焼いてみて」
僕が塩、胡椒を生肉に振っていたのをオルセアは見ていたが、反応が薄い。
孫がいる以上、オルセアにも奥さんが居たはずだ。
奥さんが料理をしなかったのか?
その可能性はあるが、それは極めて低いだろう。
流石に子育てをされているだろうから、子供に食事を与えない事は考えにくい 。
……まさか、味付けなしで育てたなんて事はないだろうな……?
考えたくはないが、この反応……有り得るな!
少々首を傾げながらオルセアは肉を焼き始めた。
火に炙られ、香ばしい香りが辺りに漂い始める。
イノシシ肉を食べるのは初めてだが、かなり食欲をそそる香りだ!
暫くして肉が焼き上がり、二人で試食する事にした。
焼き加減は申し分ない……滴る肉汁が僕の胃袋を刺激する。
そして焼きあがったソレを口に運び、パクリ。
「美味い!」と、二人の声がシンクロした。
普段食事で美味いなんて言葉を発したことのなかったオルセアが反射的に言い放った。
これはつまり、味がないのが普通と思っていた可能性があるということだ。
僕は真相を確かめるべく、オルセアに聞いてみた。
「オルじいは、何で味付けしないの?」
答えはやはり………だった。
語りはしなかったが、それに輪を掛けて戦場へ赴く事が多かったのだろう。
それであれば尚更そうなるのは何となく理解できた。
「アレンは料理のセンスも抜群だな!じいが作るよりも美味いぞ!」
塩、胡椒しかしていない極めてシンプルな料理を大絶賛してくれた。
相当ご満悦のようで、僕にもっと作るようにせがんでくる。
まるで初めて何かを知った子供の様に。
そうこうしていると焼いた肉の香りに誘われ、大工さんたちや、ガルドたちも姿を見せた。
それから僕たちは花に群がるミツバチのように、シンプルな味付けの肉を堪能したのだった。




