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ー序章ー 0話 【地獄の終わり、転生のはじまり】

この世は地獄。

誰が言ったのかは知らないが、実に的を射た言葉だと思う。


朝は早く起き、味がするのかも分からない朝食を慌ただしく口に詰め込む。


待っているのは通勤ラッシュ。

閉じ込められた車内で、見知らぬ人間に押し潰されながら運ばれていく。


会社に着けば、上司の怒号が飛び交い、同僚は愚痴ばかり。

出世争いという名の椅子取りゲームに強制参加させられ、脱落した者は窓際で魂を削られていく。


学歴だの経歴だの、誰が決めたか分からないレールの上を歩かされ、辿り着く先は結局、地獄。


僕もその一人だった。

ご多分に漏れず、窓際に追いやられた口だ。


勝ち組と呼ばれる連中は、定時に帰って夜の街へと消えていくのだろう。

一方の僕は残業を命じられ、暗いオフィスで果てしないデータ入力に追われる。


何のために働くのか。

何のために生きるのか。


その答えを考える力すら、もはや残っていなかった。


会社を出たのは夜の十時。

社内に残っていたのは僕と警備員だけだ。


「毎日遅くまで大変だねぇ。若いからって無理しちゃいけないよ」


田舎から出てきた僕に唯一、人間らしい言葉を掛けてくれる人だった。


「いえ、仕事なんで……。いつもありがとうございます!」


田舎に帰ろうかな――。

そんな考えが脳裏をかすめながら、駅へと歩く。


この時間帯の電車は最悪だ。

人が多く、酔っ払いの酒臭さが充満し、息をするだけで気が滅入る。


信号待ちをしていると、工事現場に資材を搬入する大型トラックがバックしてきた。


「トラック通りまーす! 道を空けてください!」


誘導員が笛を吹き、人々を下がらせる。


僕は先頭でそれを眺めていた。

夜遅くまで働いているのは僕だけじゃない。

トラックの運転手だって、きっと大変なんだろう。

窓から漏れるタバコの匂いが、違う世界の人間を覗き見ているような気分にさせた。


――違う世界に行けたらいいのにな。


そんなことを思った直後だった。

「バチンッ!」という甲高い音。

積み荷の鉄骨が傾き、こちらに崩れ落ちてくる。


逃げようとするが、背後は人の壁で動けない。

視界がスローモーションになり、悲鳴と怒号が混ざり合う。


鈍い衝撃…全身を貫く激痛。

そして、闇。


――あれから、どれほどの時が経ったのだろう。


瞼の奥に光を感じる。

暖かな空間に浮かんでいるような、不思議な感覚。


目を開けると、そこは何もない、輝きに満ちた場所だった。

僕はすぐに理解した。


……死んだのだ、と。


あの人生は何だったのか。

冗談のような地獄の日々。


唯一の心残りは、楽しみにしていたMMORPGのキャラメイクしか終えられなかったことぐらいか。


すると、ただ漂うだけの空間に声が響いた。


「目覚めましたね……あなたはこれより異世界にて生まれ変わっていただきます」


女性の、優しい声色だった。


「現世では大変でしたね。転生先では、あなたを守る者のもとへ送ります。平和な世界で学び、力を蓄えてください」


力を蓄える……?

質問しようとするが声が出ない。

心で呟く事しかできないようだ。


「あなたには現世の記憶と、錬成の力を授けます。それをどう使うかは、新たな人生で見出してください」


錬成……。

そういえば、やりかけたゲームでは錬成士を選んでいた。

俺自身がそのキャラになれるのか? 

それなら面白そうだ。


「うふふ……心が弾んでいるのが分かりますよ。最後に一言――」


女神の声が、ひときわ鮮明になる。


「自分の国をお作りなさい」


国を作る……?


「人は時に強欲です。それに抗えるだけの力と富、絆と名声が、あなたに訪れんことを」


その言葉を最後に、声は消え、意識も闇に沈んでいった。


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