ー1章ー 10話 「プランの崩壊と、王都の不穏」
完全に想定外だった。
練習のつもりだったのに、まさか“立ててしまう”とは――。
周囲と歩調を合わせていた努力が、一瞬で水の泡だ。
オルセアは目を輝かせ、孫の成長ぶりに感動している。
他の子はまだハイハイができた喜びを楽しんでいる段階なのに……。
違う…違うんだ、オルセアさん!と思わず口を動かしてしまった。
しかし、きちんとした言葉にはならなかった……が!
「じーじー」という言語変換になって、部屋に声が響いた。
一瞬の静寂が場を支配する。
オルセアは僕を凝視したまま、次の言葉を選んでいるかのようだった。
願わくば今の声は、“孫の成長に感極まったあまりの幻聴”と認識してくれ……!
「……あぁ、じーじだよ……!」
ダメだ……完全に僕のプランは崩れ去った。
初のつかまり立ちをしながら「じーじー」と言う衝撃は、簡単に打ち消せるものではなかったか。
みんな、済まないね...僕は少し先に進む事にするよ。
喜びに打ちひしがれるオルセア、落胆に肩を落とす僕。
これは自然の摂理に逆らった罰と言えるだろう。
ま、クヨクヨしても仕方がない。
僕は気持ちを切り替え、今後の事について考える事にした。
翌朝、外が騒がしいので窓から覗いてみると、元いた小屋がいとも簡単にバリバリと音を立て壊されていた。
あまりに容易く解体された様子から、限界はとうに超えていたのだの分かった。
何事もなく本当に良かった。
そしてその跡地には、どこからともなく現れた牛の小屋として生まれ変わるらしい。
牛も野ざらしじゃ可哀想だしね。
しかし大工さんたちは、長いことここに居るけど大丈夫なのか?
いくらオルセアに恩があるにしたって、生業として成立しなくなるんじゃないだろうか。
少し心配にはなったが、大人同士で決めている事だから気にしないでおこう。
そんな様子を見ていたお昼頃、大きな鷹が家の傍に設けられた止まり木に止まった。
足には小さな筒が付けられ、何か手紙の様な物を運んで来たようだ。
オルセアは筒から中身を取り出し、内容を確認した。
するとオルセアの顔色が一変。
大工さんを全員呼び寄せ、話し始めた。
「王都の確かな筋からの情報だ……王政が、中流階級以下の国民を“王都から排除”しようとしているらしい」
国民の排除……!?なぜそんな事を!
王様がそんな判断をする国なんてあるのか?
僕は驚いたが、その言葉だけではなんの事か分からなかったので、続きを聞いてみる事にした。
すると、こういう事らしい。
グランゼル王国という国がこの近くにあり、大工さんたちはそこに住んでいる人らしい。
その王国の王様、グランゼル・ドラクマという人は別称、「強欲王」と呼ばれているみたいだ。
近年王国は国防の為という大義の元、税負担を上げ国民に課したと言う。
しかし税率が高いため、収められない国民が急増したらしい。
そこで国が定めた個人年収の上限に満たない中流階級以下の国民を、王都から追放するという暴挙を水面下で画策しているという事だった。
それなら大工さんたちは一体どうなっちゃうんだ!?
このままだと、住む所がなくなってしまうじゃないか!
僕は立つことがままならない足を踏ん張りながら、話の行方を見守った。




