ー1章ー 9話 「つかまり立ちの壁を越えて」
剣聖という事実を知った日から、僕はさらに筋トレに没頭していた。
そう、つかまり立ちをいち早く取得するためにだ。
この世界に転生してから数ヶ月。
周りの子たちもハイハイを覚え、もはや小屋から脱走しかねない勢いがある。
小屋の床は大工さんが修理してくれたおかげで、今は安全性を保っていた。
そのため僕たちが起きたあとは、オルセアが床に降ろしてくれ、全員でハイハイをするという無法地帯になるのだ。
新しい家も間もなく完成という話を耳にした。
これでこの小屋暮らしともお別れである。
今思えば少し名残惜しい気持ちにもなるのだが、安全で快適な暮らしは幼い僕たちにとって必要不可欠だ。
オルセアは毎日畑仕事に精を出している。
何を栽培しているのかまでは分からないが、時折ボルンが買い取っているのを窓から見かけた。
ベッドに寝ていた頃はガルド君が壁になっていたせいで、女の子二人の姿はほぼ見ていなかった。
だが、ハイハイをするようになり、ようやくその姿を見ることができた。
ガルド君になぜか暴力的なのがリシア。
おっとりした感じでゆっくりハイハイをするのが、ルナ。
違いを見出すのに丸一日かかったが、今では見分けがつく。
女の子二人と絡む機会はあるが、二人ともとても優しい。
ガルド君のように暴行を加えられることは、今のところない。
僕は自分の小さな手でも掴みやすいベッドの足を利用して、つかまり立ちの練習に日々励んでいた。
疲れるとすぐ寝落ちしてしまう赤ちゃん仕様を何とかしてほしいのだが、どうしようもない。
その練習の甲斐あってか、僕のハイハイは他の三人を凌駕するスピードを出せるようになっていた。
これはもう、つかまり立ちが成功する日も近いだろう。
だが、あくまで成長速度は足並みを揃えるつもりだ。
まだ三人はハイハイに少し慣れてきた程度。
僕はもうじきつかまり立ちができるところまで来ている。
おまけにまだ披露はしていないが、言葉もちょっとだけ話せる。
僕はみんなを観察しながら、成長の調整をしているのだ。
そんな日々を送っていると、遂に新しい家が完成した。
思わず喜んで「やったー!」と言ってしまったが、言葉にならず「んあ~!」となる。
まぁ、そんなもんだよね。
オルセアは満面の笑みで小屋にやってきて、僕たち四人を抱えて新居へ向かった。
何もないガランとした部屋だったが、木の香りが心地よい、とても綺麗な家だった。
赤ちゃんたちは浮かれ気分でハイハイをしている。
きっと嬉しいと思っているのだろう。
僕もハイハイをして壁に辿り着く。
掴まるものはないが、壁の角を何とか掴んで立ち上がる練習を再開した……はずだった。
足に力が入るのを感じ、まさかのつかまり立ちに成功した。
え、嘘でしょ……?
すると例の声が頭に響く。
「歩行開始、準備段階クリア」
立てたのは嬉しいけど、予定よりも少し早い。
ここはなかったことにしておこう。
……だが、現実はそう甘くはなかった。
「アレン……! 遂に立てるようになったんだなっ!?」
不覚にも、オルセアに見つかってしまった。




