ー1章ー 8話 「英雄の住む小屋」
翌朝、オルセアは抜けてしまった床の修理に取り掛かった。
そもそも家、ではなく小屋であるこの建物。
人が住む事を想定していない作りな為、痛みは激しくいつ倒壊しても不思議ではない。
しかしこの小屋がなくなってしまえば、僕たちは野宿を余儀なくされてしまう。
僕が大人だったら手伝ってあげられたのだが。
床のみならず壁も隙間が空いていて、そこから風が部屋を吹き抜けている。
つまり、根本的にどうにかしなければならないという事だ。
とはいえ作業ができるのはオルセアのみ……応急処置が関の山だろう。
すると、荷馬車の音が遠くから近づいてくるのが分かった。
ボルンが商売にやってきたのだろうか。
そう思って窓から様子を伺っていると、ボルンは五人の男たちを連れて来ていた。
一体何事だ?
荷馬車は小屋の辺りで止まり、連れてきた男たちが小屋の周りを調べ始めた。
なるほど、この人たちは大工さんだな?
僕の予想はこうだ。
森に来た初日、元々小屋があるのは分かっていたオルセアだったが、想像以上に痛みが激しかった。
だからボルンが初めてここに来た時、大工さんに依頼できないかを相談していたと。
そういう事……だと思う。
「オルセア様……この小屋はもう限界です。我々で新しい、ちゃんとした家をお作りしますよ」
声から察するに大工さんの一人だろう。
素人の僕でも分かる……この小屋はもう無理だと。
何とか持ちこたえている感が否めない。
そんな小屋で僕たちが大人になるまで耐えられるはずもない。
ここはオルセアの英断に掛かっている。
さぁ、決断の時です!オルセアさん!
「……仕方ない、分かった。そうしよう」
よし、良くぞ決断してくれた!
これで安心して赤ちゃん活動に専念できるというものだ。
僕だけならまだしも、他の子たちも寝返りの段階まで到達している。
更に進化して、ハイハイができるようになったら、この小屋はもう耐えきれないだろう。
後は大工さんの腕次第と言ったところか。
「では、泊まり込みで早速始めますね。これは国を守ってくれたお礼みたいなもんです……剣聖様からお代は頂けません」
「おいおい…剣聖はよしてくれ。その肩書きは伏せているんだ」
うんうん、泊まり込みで家を建ててくれるなんて、本当に素晴らしい大工さんたちだ!
……って、今聞き捨てならない事を言っていたな。
国を守った剣聖!?
え、オルセアさんって実はとんでもなく凄い人なのか……?
何で国を守った英雄とも言える人が、こんな森の中で暮らす事になったの!?
普通に考えれば、高待遇で国から領地を与えられたり……そうで無かったとしても、国が手放そうとはしないくらいの存在でしょ!?
しかもこんなに人から慕われているのに……。
僕は英雄の孫になった事の驚きよりも、剣聖と呼ばれた英雄オルセアが、なぜこのような人里離れた森の中で暮らす事になったのかが、心に引っ掛かって仕方なかった。
一体何があったのだろう。
その答えは、僕が話をする事ができたとしても、一人前の大人になるまでは話してくれないだろう。
あの不思議な空間で聞こえた女の人が言ってた「平和な世界で学び、力を蓄えなさい」って……オルセアの過去と何か関係があるのかな。
力を蓄えるって、いつか敵が現れるって事だよね……。
それが国なのか、魔物なのかは分からない。
いずれにしても、他の子たちは知らずに育つだろう。
それならせめて事実を知ってしまった僕が、オルセアの枷にならないように……子供だけでも自分くらい守れるように強くならなくちゃ!
陽の光が柔らかく暖かい、とある日の昼下がり……僕は一人の人間として、心に誓った。




