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マジックライフ・イン・ユートピア  作者: マシュウ


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新しい日常

 地図上で見れば日本。


 それ以上でもそれ以下でもない感想が出るが、実際の内部状況は自分たちが知っているものとは大きくかけ離れている。


 かつて建物が存在した場所はモンスターが闊歩するダンジョンか廃墟になっていて、有名なランドマークには強力なモンスターがポップする、魔境となっている。


 人の住む場所はそんな場所から離れた各都道府県の主要な駅を中心とした市街地である。


 かつての昔ながらな日本とも言い難い、魔改造された日本に俺たちは生きている。


 海岸線から向こう岸を観測しようとしたり、天体を観察しようとしが、それぞれ謎の蜃気楼によって塞がれたらしい。


 ロマンス溢れる天文学に詳しい人曰く、『天体は不規則に動いて、夜間で本来目印になるはずの星々は、寧ろ我々を惑わす魔の光となった。』らしい。


 そんな中、俺たちは今まで何度も遠征を行い、各都道府県の特別なランドマークにおける開放線をおこなって来た。


 一度解放戦を行い勝利すると、各都道府県の主要な駅に『新幹線』と呼んでいる、見た目は蒸気機関車が通る様になる。


 各都道府県内のファストトラベルは自由だが、県を跨ぐ移動の場合は駅から各行先に向かう必要がある。


 それでもかなりかつての日本にある『新幹線』よりも早い移動にはなっていて、各駅約十分ほどだ。


 そんなこんなで早2年、諸事情により西に向かって現在解放された都道府県は1都1府20県、次に開放予定の件は『大阪府』、になる。


 そんな『裏日本』と誰が言い始めたのか、そんなネーミングセンスのかけらもないこの世界を俺たちはゆっくりただが、確実に攻略を進めて来た。


 そして俺は今、次の解放戦がある予定の天下の台所といわれた大阪にいる。


その中でもダンジョンといわれた場所、とある材料が必要な為、梅田駅の地下構造のコピーにいた。


 だが、様相はかつてな日本の地下とはかなり変わっている。


 コンクリートの代わりに石を、鉄筋は減って石柱が中心となり、苔や小さな蔓性植物が生い茂る建物と成り果てた。


 生成されるダンジョンを何度か測量を行った奴らがいるらしいのだが、広さ的にいえば当時の梅田駅そのままらしい。


 このダンジョンの外はさらに様変わりしている。


 地上では、かつて大阪のど真ん中だったビルの森は、比喩的な表現ではなく、植物に覆われ、ビル一つ一つが一本の巨木の様な風貌になっている。


 


 このダンジョンは柱が多く、部屋、もしくは通路は狭く入り組んでいる。


 剣を振り回すのに適した場所とは言いづらい。


「はっ!」


 それでも息を吐き出しながら目の前に立つ、テカテカと黒光する身体と鋭い顎を持ち、複数の腕を器用に使って槍を二刀流する、自分が選択したレベル代の推定レベル60後半程の蟻人間『ワーリックソルジャー』に剣戟を繰り出した。


 この世界の仕組みによって半自動で繰り出されるアタックスキルはその動きを『ソードスラッシュ』という、低SPにて繰り出すことのできる攻撃として出力された。


 攻撃の全体一割程の時点にてスキル判定が下された攻撃は、自分が通常時に剣を振るよりも素早く空間を移動した。


 目の前の敵である『ワーリックソルジャー』は体を逸らしたが、右側2本の腕を切断することに成功した。


 しかし、当然のように空中に放り出された片方の槍を左側の空いた手でキャッチすると、再びこちらに向かって攻撃を始めた。


 だが、先手を打って近づいておいたこちらに、長い槍の先端は当たるはずもなく、再び『ソードスラッシュ』にてもう反対の腕を切り落とし、最後に『水平斬り』という味気ない名前のアタックスキルにて、首を切り落とした。


 ゲームならここで終わりだろうが、まだ身体と腕は分離されても動いていた。


 クネクネとグロテスクに動く物体を、そろそろ見慣れて来た俺は細かく剣で刻んだ。


 2、3度切られて遂に動かなくなった物体と、最後にこちらを見て顎を動かす頭部に剣を突き刺して動かなくなったのを確認して、遂に最後の一体の討伐が完了した。


 後ろを振り返って、十匹ほど倒した敵を見つめた後、ドロップ品が無いか素早く漁った。


 一応、敵の槍と幾つかの換金用アイテム、そして目的だった自己強化用のアイテムなどを回収して、死の匂いに釣られて他のモンスターがやってくる前にその場を後にした。


 『梅田ダンジョン』と比喩ではなく本当の意味でそう呼ばれるようになった場所から、ステータス画面より、探索終了を選択する。


 目の前に現れた自分専用のワープゲートを通り抜け、比較的安全地帯であるダンジョン外へと出た。


 空にはとても大きな黄色い月が浮かんで、明かりのない廃墟となったビルの隙間から雲ひとつない綺麗な夜空が見えた。


 どうやら時間は調節した通り完璧なようだ。


 月の明かりと、ステータス画面のアイテムボックスから出した松明の光で足元を照らし、完璧な安全地帯へと俺は戻ることにした。


 道中は特にこれと言った危険はなく、出て来たモンスターもこの世界のルールであるレベル差によって、勝手に逃げていく為、足元に気をつけて転ばないようにするだけでよかった。


 とは言っても気をつけるべき足元も、殆どが隆起のない土を主体とする硬い地面のため、何もないところで転ぶ様な人ではない限り、転ぶ様なこともない。


 およそ元の大阪の梅田駅周りでは見ない様な生い茂る木々の葉から、月明かりが差し込み、あたりを幻想的な空間に仕立て上げていた。


 そんな中、索敵スキルによるマップ探知に、白色でレアモンスターを示すエフェクトがかかった。


 すぐさま、発見度を下げるローブを羽織り、足跡などを消す魔法を自身にかけてその方向へ向かった。


 茂みから顔を出して見てみると、そこには立派なツノが生えた白い鹿がいた。


 噂によるとツノと骨は粉末状にすると幸運値を上がり、肉は内蔵含めて絶品らしく、市場では出回ると相当な金額がしたレアモノだ。


 慎重に、長く鋭い針でスキルで見える急所に差し込んだ。


 鹿は即死し、倒れ込む前に素早くアイテム化してアイテムボックスに死体ごと取り込んだ。


 元の世界ではできない芸当に自身で感動しつつも、取り敢えずは暫くの間贅沢ができると、既に新しい装備品などを揃えることを考えながら、再び帰路についた。


 安全地帯を示す教会を越えると腰につけていた剣は自動的に解除されて、ステータス欄の装備欄にに入らだけの状態となった。


 そうして、ようやく肩の力を抜いて腕を回しながら歩いていると、向かい側から一度会えば忘れる事のない、インパクトの強くうるさい知り合いがやって来た。



「よぉ!カズゥヤメーン!今日も今日とてもレベリングアンド素材集めぇーい!?」



 わざとらしく体をクネクネと左右に振って気持ち悪く歩くその男は、こちらに手を振りながらやって来た。


「今日も今日とてやかましいな、まぁ、ボチボチと言ったところだがマスターは?」


「オゥ!質問の先読みは反則やでぇ!まぁ、無事で何よりやけどな、異常はあらへんだ?」



 かつては太り気味だった男だが、多大なる戦闘とストレスとでガタイが良くなったテンションの高いこの男は、異世界となった、とある自治体のリーダーである。


 具体的に言えばとある施設兼ギルドを運営している人物になる。


 彼は、俺含め、皆から『リーダー』や『マスター』、『大家さん』と勝手に言われている。


 また、攻略組などからは『赤い災害』などと呼ばれている。


 そんな大仰とは言わずとも身振り手振りで一人劇場を繰り広げる彼は、正しく創作物などで良く見かける関西人らしい関西人だ。


 まぁ、彼曰く、ほぼ関東弁になってしまったらしいが、それでも関西弁が抜け切ってないことは、話し合っているとよくわかる。



「……まぁ、危険な異常は無かったよ」


「その言い方からして良いことあったみたいだやねぇ」



 こう見えても意外と感の良いこの男はそう言いながら、くしゃっと顔を崩して笑った。



「あんまり大声で言うなよ?」


「わぁってまさぁ、今日はもう締るん?」


「そうだな、次の境界開放戦までにもう一レベルは上げときたいからな」



 いつ死ぬとも知れないこの世界で、1%でも生き残ることができる確率を上げておく、レベリングをしておくのは損はない。


「まぁだ若いんだから無茶はすなや?なんかあったら俺やなくても、アパートの大人に相談しぃや?」


「俺の父親か?あんたは?はぁ、急にまともな事……言うのはいつもの事か、死な無い程度にはするよ、そっちは見回り?」


「いぇい!ベイビ!深夜テンションだからちょっと頭を冷やすついでにな」



 彼はよく、安全圏から外に出て、迷った人や死にかけの人、もしくは死んでしまった人を回収したりしているらしい。


 一応、そういう事を行う組織は『政府』と呼ばれる現在の『裏日本』内の全体自治組織が作ったのだが、前線に近いところはモンスターも強い為、頻繁には彼らもくることはできない。


 その為、彼は一人でそのようなことを行っているらしい。


 そういうことも含めて、ある程度の尊敬を込めて『マスター』等と呼ばれている節もある。



「だとしたら頭から湖に突っ込んだほうが早いんじゃないか?」



 だが、そんな事は関係ない俺はバッサリとそう言い切ると、それを聞いたマスターは悪役のような『はっはっはっはっはー!』と言った笑い声をあげながら、暗闇へと消えていった。


 あの人は自身でも言っていたが、基本ボケに回ってツッコミ待ち人間なのだがら、多少雑に扱うぐらいがちょうど良いのだ。

 

 とは言え、今の数分程度の会話でも疲れを覚えた俺は、なるべく早く家に戻ろうと踵を返したのだが、また別の厄介な人に捕まった。



「君!またこんなに遅くまで!暗い中で狙われたらどうするの!」



 この世界に来てからの長い付き合いのあるユウカだ。


 この世界のルールや物事など、様々なことを年が恐らく近いこともあり一緒に知っていったのだが、チームを好む彼女と、一人が楽な自分とで方向性の違いにより別々に行動することが多くなったのだが、



「俺の命狙っても出るものは無いよ」


「そういう話じゃない!全く!私はあなたを心配して!!」



 有難くも、こんな俺をいまだに心配してくれているらしい。


 多分手遅れかも知れないが、なんとか綻びそうになる顔に対して、平静を装い会話を続けようとした。



「ユウカさん、こんな人に構うのは時間の無駄じゃ無いですか?」



 しかし実力もさながら、かなりの美貌を持つ彼女に対し不敬なことを働く輩がいる為か、彼女の所属しているギルドから派遣された御付きの人が、客観的に見ればと言えば正しいとされるであろう意見をのたまわった。



「ごめんなさい、すぐに終わらせるのでちょっと待っててくれますか?」



 流石に他愛もない話で、夜も遅いのに二人の足止めをさせる訳にもいかないと思った俺は、さっさと話を切り上げようとした。



「お付きの人もそう言ってんだし、それに、夜ももう遅いんだ、注意ならまた今度ちゃんと膝を揃えて聞くから、今日は勘弁してくれ」



 俺はそう言って、お付きの人に目配せした。


 男はムッとしたが、彼のいう通りですと言って、彼女を諭した。


 流石に彼女もそう思ったのか、ステータス画面を開いて時間を確認した。



「君は、どんどん言いくるめの仕方がソウヤさんに近くなってきたね」


「あのすっとぼけマスターに?それは無いだろ」



 かなり心外だったが、彼女の話題を逸らすことに成功した。



「ほらそういう所……って、いい加減マスターじゃなくて、『アマミチさん』って呼べないの?」



 更に注意を逸らすため、多少悪い気がしたがお付きの男も巻き込むことにした。


 おそらくこの性格からして……。


「あの人は雑に扱うぐらいが丁度だと思うんだが……」


「癪ですが、ユウカさん、私もそう思います」



 やっぱりこういう事に反応してくれる良い人だった。



「ふ、2人共……」



 今まで何度も見て来た、何も言えなくなって困ったように目頭を抑える彼女に、気付かれないよう、抜き足差し足で横を通り過ぎようとしたが、思いっきり足を踏まれてしまった。


「勝手に行かない!全く、君はいい加減一人で行動するのは辞めないと」


「マスターだって一人で行動してるだろ?」


「あの人は大人だし、強いから……!」



 少し胸の中で、もやっとした感情が出て来たが、正直これ以上の会話は今日は辛いため、強行手段に出ることにした。



「ふーん……あっデーモンさんだ」


「「えっ!?」」



 二人が同時に振り向いた瞬間、俺は少し遠回りになるが人混みの多い居酒屋街道へと素早く足を踏み入れた。



「あっ!ちょっと!話がまだ……!」


「悪い!今度は本当にちゃんと聞くから!」



 徐々に小さくなる彼女の声を聞きながら、何度も道を曲がって跡をつけられていないことを確認すると、今日はもう限界なのでマップから自宅を選択して、一人の時は非推奨とされているファストトラベルを行った。


 ファストトラベル用のワープゲートが開くと素早くそこに体を入れて振り返った。


 誰も一緒について来ていないことを確認できると、ようやく一息つくことができた。


 アイテムボックスから出すべきものを出して、(主に自宅の鍵や財布など)すぐさまシャワーを浴びて風呂に入り、冷蔵庫もどきに入れていたチャーハンを、レンジもどきに突っ込んでタイマーをセットした。


 その間に出来るのは素人が撮った、この世界に巻き込まれた、あまり聞かない芸能人が出るテレビ番組を付けるか、元から喋りが上手い素人のそこそこ面白いラジオを聴く準備をするかのどちらかだった。


 いつもはどちらも着けることはないが、今日はラジオを聴くことにした。


 およそ令和の時代には似つかわしく無い生活様式だが、今となってはこれが1日の締めになる数少ない娯楽のうちの一つだ。


 ラジオの向こうから聞こえてくる意味のない情報を音として流しながら、温めが終わったことを告げる音が大きく部屋に流れた。


 苦痛に思えて来たラジオの電源を切ると、レンジもどきから中途半端に温められたチャーハンを取り出した。


 スプーンで真ん中が少し冷たい部分が均一になるように混ぜると、ぬるくなったチャーハンを口に運んだ。


 ご飯を食べ終わって、時計を見るといつもより少し遅れて9時23分を指していた。


 食器を片付けて歯を磨いて、最後に水をいっぱい飲むとベッドに入りアイマスクをして眠りに入る。


 これがこの世界になってからの、俺の新しい日常だ。


 明日は手に入れたレア素材を換金して、贅沢に外食をしようか。


 何を食べようかと考えているうちに、俺の意識は心地よく温かな闇の中はと沈んでいくのだった。

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